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プログレッシヴ・アンダーグラウンド・メタルのめくるめく世界【テクニカル・スラッシュメタル篇】(解説部分更新中)

こちらの記事
の詳説です。

参考資料はこちら:
(英語インタビューなどは抄訳付き)


【テクニカル・スラッシュメタル

Ron Jarzombek関連(WATCHTOWERSPASTIC INK〜solo〜BLOTTED SCIENCE
CORONER
BLIND ILLUSION
PSYCHOTIC WALTZ
TOXIK
HOLY TERROR
REALM
DYOXEN
PARIAH
DEATHROW
MEKONG DELTA
ANACRUSIS
SACRIFICE
OVERTHROW
THOUGHT INDUSTRY
DECISION D
NEVERMORE
VEKTOR

(解説を書いたものについては名前を太字にしています。)

ここでいう「テクニカル」は「プログレッシヴ」とほぼ同義です。演奏はもちろん、作編曲においても、優れた技術を(ひけらかし感なく)必要十分に使いこなせているものだけを挙げています。



Ron Jarzombek関連(アメリカ)
WATCHTOWERSPASTIC INK〜solo〜BLOTTED SCIENCE

Control & Resistance

Control & Resistance


(WATCHTOWER『Control & Resistance』フル音源)'89

あらゆるジャンルにおいて屈指の奇才を誇る超絶ギタリスト。常軌を逸した技術を“音楽的に”聴かせる作品群を発表し、ヘヴィ・メタル・シーンにおける演奏表現の概念を変えました。(一般的なメタルには影響を及ぼしていませんが、テクニカルなメタルにおける技術水準を大きく引き上げることに貢献しています。)「伝統的なメタルを殆ど通過していないメタルミュージシャン」の先駆けでもあり、そういう意味では(ノルウェー・シーン以降のブラックメタルなどと共に)90年代以前・以降における「メタルという言葉の意味の変化」を導いたキーパーソンの一人でもあります。

本稿で扱っているバンドは、音楽の成り立ちにおいて大きく2種類に分けることができます。
一つは「伝統的なメタルがその持ち味を活かしつつ進化したもの」。ATHEISTやBLIND ILLUSION、ドゥーム〜ストーナー寄りのバンドがその好例で、70年代後半の英国ロックや80年代初頭のNWOBHMの味わいを濃厚に受け継ぎつつ個性的な音楽を生み出しています。
そしてもう一つが、「伝統的なメタルをバックグラウンドに持たないミュージシャンがたまたまメタルをやっているもの」です。スラッシュ以降のメタルにおける“表現志向”もしくは“音響的快感”に惹きつけられた結果このジャンルを選んでいる人達がそれで、伝統的メタルの味わいやその継承にはあまり興味を持ちません。従来のメタルにはなかった様々な要素を自在に持ち込み、それをメタルならではの硬く分厚いサウンドを用いて表現してしまう。そうした人達の働きにより、メタルと呼ばれる音楽において表現される要素や技術の水準は大きく拡張されました。本稿で扱っているバンドの多くはこちらに属するもので、様々なやり方で「メタルの伝統を無視してサウンドの旨みだけを自分の音楽に取り込んでしまう」ことにより、メタルという言葉が指し示す範囲を広げていったのでした。テクニカルスラッシュ〜プログレデスのシーン、初期デスメタルシーン、初期ブラックメタルシーン(特にノルウェー)、ゴシックメタルのシーンなど、80年代末から90年代頭にかけては世界各地でこうした動きが起こり、「伝統的なメタル要素に縛られない」「しかしメタルサウンドの良さは見事に活かす」個性的な傑作を数えきれないくらい沢山生み出していきます。Ron Jarzombekはそうした流れにおけるパイオニアの一人であり、歴史的にも重要な人物だと言えるのです。

Ron Jarzombekのような異常な技術者がこのシーンに参入してきた背景には、まず、'80年代中頃における「メタルとフュージョンの接近」が大きく関係していると思われます。
Yngwie Malmsteenが'84年に1stアルバムを発表して(厳密に言えば前年のSTEELERおよびALCATRAZZへの客演で)メタルシーン全体に絶大な衝撃を与えると、それに影響を受けたテクニカルなソロ・ギタリストが沢山現れました。そうしたギタリスト(特にShrapnelレーベル所属者)は、早弾きの技巧を主張するために「メタル寄りの音色でフュージョン寄りのスタイルを演奏する作品を発表」したり、パワーメタルのバンドに加入して「歌モノメタルのソロパートで自分の技術を誇示する」ことが多く(RACER Xや初期VICIOUS RUMORSが好例)、技術の誇示にこだわるあまり音楽性をないがしろにする作品が多かったという問題はありますが、メタルとフュージョンが互いのシーンを意識する一つのきっかけを作りました。
Shrapnelレーベルの創設者Mark Varneyが企画したAllan HoldsworthとFrank Gambaleの共演などは、(それぞれ「フュージョン」「メタル」シーン本流からは外れた人ではあるのですが)そうした風潮を象徴するものだったと思います。

こうしたことに加えて、ほぼ同時期に勃興してきたスラッシュメタルが大きな役目を果たしました。
スラッシュメタルにおいては、なりふり構わぬ勢いを重視するパンク〜ハードコアの姿勢が、メタルならではの几帳面な技術志向と融合しています。技術と勢いの両方を大事にする気風があり、実際にそれを成功させている作品も多いのです。こうしたものに接することで沢山のテクニカルなミュージシャンが感化され、持ち前の卓越した技術をアツいハートの表現のための“道具”として用いるようになりました。
また、このように“勢い”“攻撃性”を表現することをためらわないスラッシュメタルにおいては、フュージョンなどでは表現上の必然性を得られず“ひけらかし”になってしまいがちだった「高度なテクニック」や「複雑な楽理」が説得力を得やすくなり(複雑な和音が醸し出す異常な雰囲気も“あるべきもの”として許容されうる)、技術と精神を直結させやすい環境が生まれました。
(こうした環境は、デスメタル以降のアンダーグラウンドなメタル全般にも引き継がれています。)
MEGADETHの1st('85年)などはその好例で、音楽的な興味深さと異常なテンションの高さ、そしてそれらを綻びなく表現するための圧倒的な演奏力が見事に並び立っています。
WATCHTOWER('82年結成、1stは'85年)もそうした流れを作ったバンドの一つであり、'87年に加入したRon Jarzombekが全面的に関わって生まれた2nd『Control And Resistance』は(タイトルからしてそのものという感じですね)、以上に述べたような「技術と精神の直結」「高度な楽理の説得力ある活用」を理想的なかたちで実現させた作品なのです。ロックというジャンル全体における歴史的名盤であり、作編曲と演奏の両面において稀有の高みにある大傑作と言えます。

『Control And Resistance』の音楽性を一言で表すなら「RUSH+BRECKER BROTHERSスラッシュメタル化したもの」でしょうか。RUSHの音遣い感覚がJohn ColtraneMichael Breckerラインの複雑なコードワークによって強化されているのですが、フュージョン一般にありがちな“教科書通りの”“自分の頭で考えない”つまらなさはなく、完全に独自のかたちに仕上げられています。また、RUSHの“キャッチーな変拍子”を数段入り組ませたようなリズムアレンジも、その構成は美しく洗練されており、無駄にこねくり回した感はありません。
(よく「曲としての体をなしていない」「ぶっ壊れてる」と言われますが、ちゃんと聴き込んで構成をつかめば、〈テーマの提示〜発展〉〈滑らかな複合拍子を乗りこなすソロのフレーズ〉など、全ての曲が必要十分に磨き上げられているのがわかるはずです。)
5曲目「Control And Resistance」イントロ(27秒〜)の滑らかな13拍子(複合拍子としてみるのではなく13カウントで数えきる方がしっくりくる)や、基本的には7拍子で突き進む4曲目「The Fall of Reason」の間奏における44拍子(こちらは〈6×4+5×4〉とみるとしっくりくる:ギターソロだけでなく全てのパートが素晴らしい)など、奇怪で興味深く、しかも親しみやすいアイデアがどの曲にも詰まっています。はじめは訳がわからなくても、聴き込むことでどんどん楽しめるようになるのです。

そして、このバンドの売りはやはり楽器隊の演奏でしょう。それこそBRECKER BROTHERSCHICK COREA ELEKTRIC BANDなどと比べても何の遜色もありません。異常に巧いプレイヤーが多数存在するフュージョンシーンの超一流にも引けを取らない技術&個性があります。例えば、CYNICのメンバーなどは、DEATH『Human』のブックレットにおけるスペシャル・サンクス・リスト「インスピレーションの源」欄で、Vinnie Colaiuta(世界最高のテクニカルドラマー)、Allan Holdsworth(ギター)、Jimmy Johnson(ベース)、Zappaバンドの経験者、Chick Coreaと共演したプレイヤーなどと共に「WATCHTOWERの楽器陣」を挙げています。RonだけでなくDoug Keyser(ベース)もRick Colauca(ドラムス)も超絶的な達人で、周囲からの認知度も高かったわけです。前座に起用したことのあるDREAM THEATER(初期)が「They are sick!」(彼らはヤバ過ぎる!)と言った逸話もありますし、シーンに与えた影響は測り知れません。
一方、こうした楽器隊に比べると、ボーカルはケチをつけられることが多いです。パワーメタル〜スピードメタル系統のハイトーン・スタイルで、得意でない高音域を少し無理して頑張っている感じが出ているため、「完全無欠に巧い楽器隊に比べ物足りない、他に良いのはいくらでもいるだろう」と指摘されることが多いのです。しかし、これはこれで良い味を出しています。楽器隊の異様なテンションの高さ、そしてRon Jarzombekの音楽が醸し出す“陽気な神経質さ”には、こういう“いっぱいいっぱい”感のあるボーカルがよく合うのです。しかもこのAlan Tecchioには、そういう“無理してる”感を不思議な落ち着きをもって表現できる妙な雰囲気があります。このボーカルがあってこそのこの名盤。個人的にはそう思います。

WATCHTOWERはこの後'90年に活動停止。Ronが「練習のし過ぎで指を故障した」ことが一つの原因になったようです。その後は散発的にライヴをこなしているようですが、2015年の時点では公式の情報が殆どなく、活動しているのかどうかすらわからない状況です。
ただ、Ron Jarzombekは他のバンド・プロジェクトでも同様の音楽的方向性を追求しており、あまり多くはありませんが、非常に内容の濃い作品を発表しています。

(SPASTIC INKの2nd『Ink Compatible』フル音源)'04

(SPASTIC INKの1st『Ink Complete』より「A Wild Hare」)

(BLOTTED SCIENCEの1st『The Machinations of Dementia』フル音源)'07

兄である超絶ドラマーBobby Jarzombek(メタル・シーン最強ドラマーの一人)とPete Perez(BobbyのRIOTにおける同僚で物凄く巧いベーシスト)によるバンドSPASTIC INKや、Alex Webster(CANNIBAL CORPSEのベーシストで技術には定評がある)とテクニカルドラマー(なかなか定まらない)によるインスト・プログレッシヴ・デスメタルバンドBLOTTED SCIENCE、そしてソロプロジェクトなど。こうした活動では、“Zappa+フュージョン”“暗黒ディズニー”といった感じのブチ切れたユーモア感覚が前面に出ていて、先に述べたような“陽気な神経質さ”に一層磨きがかかっています。
なかでも、上に挙げた「A Wild Hare」などは、Ronの異様な魅力がとてもよく出た作品だと思います。ディズニー映画『バンビ』のアニメーションに演奏をつけた“ミッキーマウシング”(動作の一つ一つにフレーズをつけて音と動きをシンクロさせる演出)の怪作。「大袈裟なモーションで突然殴りかかり、皮一枚で寸止めしてみせる」ような外連味あふれる悪ふざけ感は唯一無二です。

Ron Jarzombekの音楽はなんだかんだ言ってそれなりに敷居が高いですし、独特の暴力的なユーモア感覚も好き嫌いが分かれると思います。しかし、「技術と精神の直結」という点では文句なしに優れたものですし、いわゆるフュージョンの多くが達成できなかった「高度な楽理の説得力ある活用」の稀な成功例でもあります。無責任におすすめすることはできませんが、何かの機会があったら聴いてみるのもいいのではないかと思います。



CORONER(スイス)

グリン

グリン


(3rd『No More Color』フル音源)'89

(5th『Grin』フル音源)'93

スイスが誇る世界最高のトリオ。著しく優れた演奏表現力と高度な音楽性を両立し、数々の個性的な傑作を残しました。“後期”の作品は発表当時あまり評価されず、歴史に埋もれる形になっていますが、このジャンルから生まれたあらゆる作品の中でもトップクラスに位置する深みを持っています。今こそ再評価されなければならないバンドです。

CORONERの音楽性は他の何かに容易になぞらえることのできないものなのですが、その成り立ちをある程度具体的に分析することはできます。

〈1〉MERCYFUL FATECELTIC FROSTのリフから学んだフレーズ(ルート進行)感覚
〈2〉クラシック音楽の楽理を援用した滑らかなコードワーク
〈3〉LED ZEPPELINBLACK SABBATHTHE BEATLESTHE DOORSなどを経由して獲得した(希釈・変容された)ブルース感覚
〈4〉DAFKRAFTWERK、Einstürzende Neubautenのような(ドイツの)エレクトリック・ボディ・ミュージックを通して学んだ時間感覚・響きの処理能力

CORONERの音楽では、以上の要素が高度に複合され、独自のかたちで熟成されることにより、他に類を見ない深い味わいが生まれています。
たとえば、CELTIC FROSTから間接的に獲得したハードコアの“ルート進行”感。そして、70年代ハードロックや80年代ジャーマンロック(ニューウェーブ〜エレクトリック・ボディ・ミュージック)の音遣い感覚。こうしたものは単体では生硬い印象をもたらすことが多いのですが、それらがクラシック音楽的なフレーズ・コード感覚により肉付けされることで、複雑な味わいをうまく溶かし込んだ滑らかな音進行を生み出します。CORONERの残した5枚のフルアルバムでは、それぞれ異なるスタイルが志向されている一方で、こうした独自の音進行の開発に取り組んでいる点では一貫しているため、その質や傾向をつかんでしまえば、全ての作品に興味深く聴き浸ることができます。(作品を重ねるに従って〈3〉や〈4〉の要素が現れてくる。)圧倒的に素晴らしい演奏表現力もあいまって、理屈抜きの生理的快感と深い精神的手応えを得ることができるのです。

CORONERの作品は一聴の価値がある傑作ばかりですが、個人的には上記の2枚を特におすすめします。
3rd『No More Color』('89年発表)はバンドの最高傑作と言われることの多い一枚です。1st・2ndで多用されていたクラシカルなコードアレンジを控えめにし、装飾の少ない優れたリフを連発するスタイルに徹した作品で、CELTIC FROSTをクラシカルにしたような“豊かなモノトーン”感が素晴らしい。(その点DEATHの5thなどに通じる感じがあります。)異常に手数が多いのに“無駄撃ち”している印象がないリフは強力なものばかりで、それを余裕でこなしきるアンサンブルは驚異的です。CELTIC FROSTのTom G.を意識しながらも独自の形に仕上がっている“吐き捨て”ボーカルも格好良く、クールに燃え上がる音楽性に合っています。各曲の出来もアルバムの構成も完璧。「テクニカル・スラッシュメタル」の枠では最高位に位置するアルバムの一つでしょう。
そして、それ以上におすすめしたいのが、フルアルバムとしては現時点の最終作である5th『Grin』('93年発表)です。この作品では上記の〈1〉〜〈4〉が見事なバランスで配合され(前作4thの路線を推し進めた感じ)、他に類を見ない蠱惑的な音遣いが生まれています。加えて、演奏もサウンドプロダクションも最高レベルの仕上がり。Conny Plankばりの極上の音作りにより“小気味よく張り付く”タッチが強調されたドラムスなどは特に好ましく、スネアドラムやバスドラムの一打一打が堪らない手応えを感じさせてくれます。これはギターやベースにも言えることで、どのパートに注目しても理屈抜きの生理的快感を与えてくれるのです。RUSH的な複合拍子を巧みに活かしたリズム構成も効果的で、適度な集中状態を自然に引き出す“効き目”を生んでいます。アルバムとしての構成も完璧。全ての要素がこの上なく素晴らしい作品で、個人的には、似たような雰囲気を持つTOOLの諸作よりも更に優れていると思います。MESHUGGAHやCYNICの代表作と比べても一歩も引けを取らない大傑作であり、今こそ再評価されなければならない作品なのです。

このような傑作群を残したCORONERが解散した理由としては、所属レーベルのサポート不足に加え、変遷を続ける音楽性が一般の理解を越えた所に行ってしまったと自覚した、ということが大きいようです。
(ドラムスMarquis Markyのインタビュー(2011.12.21)http://m.thrashhead.com/coroner-marky.htmlに詳しいです。CORONERおよび自身の音楽活動(ハウスのユニットKnallKidsやAPOLLYON SUNほか)、スイスのメタルシーンの成り立ちなど、非常に読み応えのある内容です。全て訳し起こしてもいいくらいなのですが、長くなりすぎるのでそれは控えます。)
『Grin』の発表後、CORONERは実質的に解散していたようで、活動を続けさせようとするレーベルの動きに反発。契約問題をクリアするために制作したコンピレーションアルバム『Coroner』('95:新曲・旧曲のリミックスなど収録の優れた内容)の発表後、それに伴うツアーを消化し、'96年に公式に活動停止することになったのでした。

その後は、ギター(作曲面の柱)のTommyは「New Sound Studio」(スイス最大のスタジオの一つ)の経営とプロデュース業、ベース・ボーカルのRonは会社勤め、ドラムスのMarquis(歌詞やコンセプト面の柱)はアートコレクターの手伝いなど現代美術寄りのアシスタント業をして生活しており、KREATORに参加したTommyはともかく、RonとMarquisは楽器の演奏から完全に離れていたようです。ただ、その間もTommyは時折CORONERの再活動を(公式には否定しつつ)呼びかけていたようで、Marquisの「再び自分の手でドラムスをやってみようと思うまでには、4年ほどの時間を要した」という逡巡なども経て、'10年のHellfest(フランスの大規模メタル・フェスティバル)で遂にライヴでの復帰を表明。翌年のHellfest出演を皮切りに、当初は「ライヴを少しやるだけ、アルバムは(本業や家庭との兼ね合いで時間がとれないから)作れない」という合意のもと散発的なツアーを繰り返していました。しかし、「ライヴを繰り返しているうちにやる気になった」ことから活動を本格化させ、「再びアルバムを制作する」という意思を固めることに。そこで当初の考えを譲らなかったMarquisは残念ながら脱退してしまいましたが('14年の2月末)、後任のドラマーを加入させ、活動を続けているようです。順調にいけば'15年には新作が発表されるとのこと。どんな内容になるか予測できないぶん不安もありますが、とても期待できる話でもあります。

CORONERは本稿で扱うものの中で最も優れたバンドの一つです。心技体を完璧に並立する音楽性は全ての面で耳を悦ばせてくれます。過去作品が少し入手しづらいのが残念ですが、上に挙げた2枚(特に5th)だけでもなんとか聴いてみて頂きたいものです。



BLIND ILLUSION(アメリカ)

The Sane Asylum

The Sane Asylum


(1st『The Sane Asylum』フル音源)'88

ヘヴィ・メタルの歴史が生み出した究極の珍味。ATHEISTと並ぶNWOBHM型メタルの最高進化形であり、“アメリカ人による欧州音楽の再解釈”という点でも興味深いバンドです。バカテクトリオとして名を馳せるPRIMUSのメンバーが2人も在籍していたことから「PRIMUSの前身バンド」とみなされることが多いようですが、実質的にはMark Biedermann(ギター・ボーカル・ベース)のソロプロジェクト。Markの奇妙なセンスと卓越した演奏表現力が全面的に活かされ、替えのきかない不思議な個性を生み出しています。

1st『The Sane Asylum』の音楽性を一言で表すなら「微妙にスラッシュがかった超強力な特殊NWOBHM」というところでしょうか。NWOBHMの“歌謡曲”的な音遣いを濃厚に残しつつ、METALLICA『Master of Puppets』やVOIVOD『Killing Technology』にみられるような暗黒浮遊感を漂わせる。(“宵闇の薄靄の中で星が瞬きはじめる”イメージ。)MANILLA ROADのようなエピック・メタルに通じる“シケシケ”感(欧州モノには出せないタイプの湿り気)を伴う叙情的な音遣いを押し出しながらも、その背後には常に複雑な滋味が広がっています。表面的な印象は地味ですが、聴けば聴くほど味が増し、他では得られない旨みに酔わされていくのです。コクのある音遣いなのに(NWOBHM系統にありがちな)“クサすぎる”“胸焼けする”感じがなく、もたれずいくらでも聴けてしまう。こうしたバランスの良さは奇跡的で、慣れることさえできれば一生の友にもなりうる一枚です。

このような音遣いがどこから来たのか分析するのは難しいです。1stのブックレットには各曲の作曲年が表記されているのですが、それによると、中には'78年や'79年に作られたものもあるようです。これはNWOBHMのシーンが形成されはじめる時期で、IRON MAIDENの1stデモ('78年末録音)とも前後するあたり。ここから察するに、Mark BiedermannはNWOBHMのフォロワーというよりは同期の古株で、スラッシュメタルシーンに属しながらもその流行に縛られなかった、ある意味“遅咲きのオリジネイター”だったのではないかと思います。欧州ロックや様々なアメリカ音楽の要素を貪欲に取り込み、10年近くもの歳月をかけて培った複雑な音楽性を、スラッシュメタルのシーンが一通り出来上がった'88年当時の感覚を用いてアレンジする。その結果、このように個性的な音楽が出来てしまった。ということなのかもしれません。

以上のような音楽性は単体ではやや取っ付きにくいものなのですが、非常にうまい演奏がわかりやすい刺激を与えてくれるので、それに惹きつけられながら無理なく聴き込んでいくことができます。ギターやベースはもちろんドラムスも素晴らしく、スラッシュメタル的なスピード感と“いかにもロックな”重たいドタバタ感を両立するタッチは、アンサンブル全体に好ましい引っ掛かりを生み出しています。くぐもり気味ながら妙な奥行きのある音作りも、良い意味での“風通しの悪さ”を作り出し、バンドサウンドの手応えを増しているように思います。

各曲のメンバー構成・発表年は以下のとおりです。

1「The Sane Asylum」('87)×Les
2「Blood Shower」('85)
3「Vengeance Is Mine」('86)
4「Death Noise」('78)+Larry
5「Kamakazi」('79)
6「Smash The Crystal」('85)+Larry
7「Vicious Visions」('86)+Larry
8「Metamorphosis of A Monster」('86)×Les

Larryのギターは8曲中3曲(4・6・7曲目)、Lesのベースは8曲中6曲(2〜7曲目)で、1・8曲目などはドラムス(Mike Miner)以外の全パートをMark Biedermannが担当しています。それを聴くと、Markがどれだけ優れた技術と表現力を持っているのかわかります。ボーカルの声質は多少好みが分かれるようですが、優れた響きと個性的な音色により、強力なバンドサウンドの“顔”を見事に務めあげています。真摯で湿り気のある雰囲気が真面目くさった息苦しいものにならないのは、このどこか滑稽な歌い回しによるところが大きいのではないかと思います。
(強烈な勢いと妙な親しみやすさを同時に感じさせるキャラクタは、ATHEISTのKelly ShaeferやVOIVODのSnakeにも通じます。)

BLIND ILLUSIONの音楽においては、以上のような様々な要素が複雑に絡み合い、全体として絶妙なバランスを獲得しています。この1stアルバムは発表当時には十分な認知を得られず、翌年('89年)にはバンドの活動自体が凍結してしまったこともあって、実質的に“時代の闇に埋もれた”存在になってしまっているのですが、上に述べたような素晴らしい完成度のために一部のマニアの間で細々と語り継がれ、最高レベルの“カルトな名盤”として名を残し続けています。繰り返し聴き込むことにより他では得られない旨みが得られる極上の珍味ですし、“アメリカ産の音楽にしか出せない類の湿り気”を独特のゴシック感覚をもって表現し得たという点では、MANILLA ROADやBLOOD FARMERSにも通じる“欧州音楽の再解釈”の成功例でもあります。もっと広く聴かれてほしい大傑作です。

なお、BLIND ILLUSIONは'09年に活動を再開。Mark Biedermannのソロプロジェクトとして2015年現在も存続しているようです。'10年には2ndアルバム『Demon Master』をデジタルリリースし、1stのエッセンスを引き継ぎつつストーナーロック化したような味わい深い内容で健在を示してくれました。
(最大手データベースサイトMetal Archivesでは酷評されていますが、スラッシュメタルでないというだけで大変優れた作品だと思います。)
NWOBHM的なコクがJimi HendrixTHE BEACH BOYSに通じるモード感覚で強化された音遣いは、XYSMAやKORPSE(グラインドロック)、SPIRITUAL BEGGARS(英国寄りストーナーロック)のファンなどにもアピールするのではないかと思います。iTunesなどで買うことができるので、1stを気に入った方はこちらも聴いてみることをおすすめします。



PSYCHOTIC WALTZ(アメリカ)

A Social Grace/...

A Social Grace/...


(2nd『Into The Everflow』フル音源)'90

'86年に結成('85年より活動していたASLANから改名)し、'97年に一度解散。その後'10年に再結成し、現在も活動を継続しているようです。
シーン的には「テクニカル・スラッシュメタル」ではなく「プログレッシヴ・メタル」の創成期に属するバンドなのですが(QUEENSRYCHE(前身は'81結成)やFATES WARNING(前身は'82結成)などの方が近い)、
演奏スタイルや本稿の構成の問題から、ここに区分しています。
DREAM THEATERと共演したことなどで知られているほかは殆ど無名のバンド。しかし、そうしたことが信じられないくらい素晴らしい作品を残しています。アメリカの地下シーンが生み出した音楽としては、あらゆるジャンルにおいて最も素晴らしいもののうちの一つです。

PSYCHOTIC WALTZの音楽はアメリカン・ゴシックの精髄です。欧州のゴシカルな音楽に影響を受け、音楽構造や雰囲気を真似しながらも、それらをアメリカからしか生まれない独自のかたちに変えてしまう。
NWOBHMを“エピック・メタル”に変容させたMANILLA ROADや、中〜後期BLACK SABBATHJimi Hendrixのモード感覚などを混ぜて独自のかたちに発展させたBLOOD FARMERS、同じくBLACK SABBATHの初期スタイルを暗黒フォークやハードコアの要素を通して再構成してしまったSLEEPなど。“アメリカ人による欧州音楽の再解釈”は、欧州からは生まれない“土臭い薫り”をもつ神秘的な作品を生んできました。PSYCHOTIC WALTZの作品はその系統に位置付けられるものであり、その中でも最高レベルの達成と言えるものなのです。

本稿で扱うバンドの中で最も近い音楽性を持っているのはMAUDLIN OF THE WELLでしょう。(人脈的な繋がりはおそらくありませんし、直接影響関係があるかもわかりませんが。)あそこで展開されている“風通しの良い暗黒浮遊感”が、ジャズ的な“尖った感じ”を減らして欧州メタル的なまろやかさを増したような感じで表現されているのです。作編曲も演奏も抜群に素晴らしく(演奏技術はMAUDLIN OF THE WELLより遥かに上でしょう)、この「テクニカル・スラッシュメタル」の項で扱っている他のバンドと比べても全く遜色ありません。なにより特徴的なのが卓越したボーカルで、独特の“アウト感”に満ちた極めて個性的な歌メロを滑らかに歌いこなすスタイルは、他の音楽では殆ど聴けないものです。
(歌メロは、それだけ抜き出して見ればそこまで異常なものではないのかもしれませんが、バッキングとのぶつかり / はずし具合が独特で(均等に・特定のコンセプトのもとで“はずして”いるのかもしれない)、奇妙な美学をもって音楽全体の顔になっています。CONFESSORの歌メロを合理的に整え表情豊かにしたような感じと言っていいかもしれません。)
このボーカルアレンジを受け継いだバンドは殆ど存在しませんが、後のテクニカル・メタルシーンで名を馳せたSPIRAL ARCHITECTなどは、ボーカルの声質まで含めてこのスタイルをほぼそのまま借用しています。聴き比べると面白いです。

上に挙げた2nd『Into The Everflow』はバンドの代表作で、必要十分に整った曲の良さとアルバム全体の“成り立ち”の美しさもあって、最も聴きやすい一枚と言うことができます。これは本当に驚異的な作品で、唯一無二の個性を非常にわかりやすく提示できているという点でも極めて魅力的なアルバムです。これほどのものを生み出したバンドが無名のままでいるという現状もあわせて、思わず溜息が出てしまうような傑作。中古なら捨て値で手に入るので(そちらの方がDL販売より安いことも多い)、見つけたらぜひ手にとってみて頂きたいと願います。

本稿で扱っているバンドとの関係を言えば、先に挙げたMAUDLIN OF THE WELLは音楽性の面で共通点が多いですし、SPIRAL ARCHITECTは非常に大きな影響を受けていると思われます。ATROXの4thなどにもPSYCHOTIC WALTZ的な要素が感じられますが、こちらはおそらくSPIRAL ARCHITECTから間接的に学んだものなのでしょう。そのあたりの比較をするにあたっても興味深いバンドです。



TOXIK(アメリカ)

Think This

Think This


(1st『World Circus』フル音源)'87

(2nd『Think This』フル音源)'89

'84年結成(TOKYOから改名)、'92年に一度解散。スタイル的にはスピード・メタルの一種と言えますが、著しく高度な技術と音楽性は比すべきものがありません。本稿で扱うバンドの中では最高レベルの実力者で、極めて優れた作品を残しながら十分な知名度を得られていない不遇のバンドでもあります。

TOXIKの音楽性を一言で表すのは非常に難しいです。音遣いの印象をまとめると「QUEENSRYCHEの2nd『Rage for Order』をジャズの楽理を用いて強化したら近現代クラシックに近づいた」という感じなのですが、特定のバンド・アーティストではっきり「似てる!」と言えるものは殆ど存在しません。
中心人物である超絶ギタリストJosh Christian(メタルの歴史の中でも最も優れたプレイヤーの一人)のインタビューでは
「音楽一家に育ち、ジャズ・クラシックからロックまであらゆる音に接して育った。両親はYESやKING CRIMSON、MAHAVISHNU ORCHESTRAなどにのめり込んでいた」
リードギターの面ではVan HalenとUli Jon Rothが最大の影響源で、Richie BlackmoreやUKでのAllan HoldsworthKING CRIMSONでのAdrian Belew、Yngwie Malmsteenなどにも影響を受けた」
「'80年にMOTORHEADを聴いたとき全てが変わった」
という発言があり
これを読んだ上で聴いてみると、確かにMAHAVISHNU ORCHESTRAやYES(ストラヴィンスキーバルトークなどの近現代クラシックに通じる和声感覚がある)をVan HalenやUli Jon Rothのような“ブルースがかったクラシカルな音遣い感覚”で料理したらこうなる気もするのですが(Uliは「Yngwieの影響源」として語られるようなクラシカルなフレーズを身上としていますが、Jimi Hendrixからも絶大な影響を受けています)、「こうした諸々の要素をそのまま足せばTOXIKの個性的な音楽が生まれる」と言うことはできません。上に挙げたものだけでなく、同時代を生きた様々な音楽を貪欲に取り込み、そこから得たエッセンスを土台にして“一から自分の手で”優れた個性を確立してしまった、ということなのでしょう。

楽器陣は全てのパートが超強力。Ron Jarzombekの項でも述べたような「技術と勢いの両方を大事にする気風」が見事に実践され、「凄まじい技術を用いてなりふり構わぬ勢いを生み出し、しかも“ひけらかし感”がなく全てが興味深い」最高の音楽が生み出されています。
達人揃いの楽器陣に比べるとボーカルは完璧とは言えませんが(1stは裏声寄りミックスヴォイス、2ndはGeoff Tate(ex. QUEENSRYCHE)的な地声寄りミックスヴォイスという感じの中途半端な“ハイトーン”スタイル)、かなりしっかりした発声によりまろやかな質感を加えつつ、勢いのある歌い回しで凄まじいテンションを生み出すことができていて、アンサンブルの足を引っ張るようなことはありません。この手のスタイルにおいては良い方なのではないかと思います。

本活動期間中に発表された2枚のアルバムはともに大傑作。ストレートなスピードメタルの1st、入り組んだリズム構造の上で複雑な和声感覚を表現する“プログレッシヴな”2nd、という感じでややスタイルが異なりますが、このどちらを上とするかは好みの問題でしょう。
(個人的には2ndを推します。テクニカルスラッシュ〜プログレデスの歴史においても最高レベルの傑作だと思います。)
複雑ながら非常にわかりやすく“刺さる”音遣いは他では聴けない魅力に溢れています。ぜひ触れてみることをおすすめします。

TOXIKは現在再結成して活動を継続しています。今年(2015年)新譜を発表する予定とのこと。とても楽しみです。



HOLY TERROR(アメリカ)

Terror & Submission / Mind Wars

Terror & Submission / Mind Wars


(2nd『Mind Wars』フル音源)'88

元AGENT STEELのギタリストKurt Kilfeltが結成した超絶テクニカル・スピード・メタルバンドです。AGENT STEELの名曲「Back to Reign」を倍速で滑らかにこなしてしまう「Debt of Pain」(歌詞も異なる)など、演奏力は凄いの一言ですが、そこに“ひけらかし”感は一切ありません。音進行は実に個性的で、NWOBHMの音遣い(というかパワーコード(Ⅰ・Ⅴの2和音)感覚)をベースに自然な“アウト”フレーズを聴かせるリードギターなど、他では聴けない極上の珍味に満ちています。
このバンドの看板は何と言ってもKurtのギター(リード・リズム両方)ですが、ボーカルKeith Deen(2012年没)の存在感も同じくらい強力です。Ronnie James Dio(ex.DIO, RAINBOW, BLACK SABBATH)を逞しくしたような発声で滅茶苦茶に暴れる歌い回しは、品のある安定感と荒々しい勢いを最高のかたちで両立しています。シーンを代表する個性派として、聴く価値は極めて高いです。

上記の2nd『Mind Wars』は宗教戦争をテーマにしたコンセプト・アルバムですが、歌詞を読まなくても問題なく楽しめる大傑作です。現在流通している再発盤(2006年Blackend版以降のいずれか)では1曲目の終盤に音飛びがあるのが惜しまれますが(アナログ盤起こしのせい?)、それでも買う価値はあります。【テクニカル・スラッシュメタル】の項でも特におすすめできる1枚です。



DBC(カナダ)

Universe [Analog]

Universe [Analog]


(1st『Dead Brain Cells』フル音源:3分ほど短い模様)'87

(2nd『Universe』フル音源)'89

'85年結成(FINAL CHAPTERから'86年にDEAD BRAIN CELLSに名義変更)。ハードコアパンク影響下のスラッシュメタルとしては最も優れたバンドの一つです。本活動中は十分な認知を得ることができませんでしたが、これまでに発表した2枚のフルアルバムはともに最高級の作品で、聴き込み酔いしれる価値の高い逸品です。本稿で扱う全てのものの中でも出色の傑作なので、ここで知った方にはぜひ聴いてみていただきたいです。

DBCの音楽性は「初期VOIVOD・OBLIVEON・初期DEATHなどの間にある音遣い感覚を、スピードメタル寄りクロスオーバー・スラッシュの超絶技巧で展開する」という感じのものです。
SLAYERやハードコアパンク、RUSHやVOIVODを聴いて育った達人たちが、そうしたもののエッセンスを噛み砕いて融合し、独自の深い滋味を持った“引っ掛かり”感覚を作り出す。そしてそれを、ダイナミックで緻密なアンサンブルにより勢いよく展開する。曲の構成はわりと入り組んでいて、安易に目立つ“わかりやすいメロディ”のようなものも少ないため、一聴しただけでは地味に思える部分も多いのですが、そこには常に個性的なセンスの裏付けがあり、他の音楽にはできないやり方で聴き手のツボを深く突き続けてくれます。何度か繰り返し聴いていくと、そうしたツボの付き方に対応する“回路”が聴き手のなかに新たに開発され、他にない酔い口をもたらしてくれるようになるのです。聴けば聴くほど手応えが増していく作品の成り立ちは極上で、これほどの耐聴性(聴き込みに耐える強度)を持つものはそうありません。
ネットなどでこのバンドについての評価を調べると、極少数の絶賛と少数の「上手いがピンとこない」反応がみられるのですが(2015年10月現在)、これは〈うまく波長が合って聴き込むことができた〉人と〈聴き流して済ましてしまった〉人との違いを表しているのだと思われます。初期スラッシュメタルやハードコアパンクに慣れ親しみその“ダシ”の感覚を体でつかんでいないと即座に反応するのが難しい系統の音遣いなのですが、経験を積みそうした味わいを噛み分けるられるようになれば、この上なく豊かで深い滋味として効いてくれるようになるのです。時間をかけて何度か聴いてみてほしいタイプの音楽です。

1stフルアルバム『Dead Brain Cells』('87年発表)は、初期VOIVODがハードコアパンクやスピードメタルのエッセンスとともに複雑に煮込まれたような作品で、その点において初期DEATHの作品を拡張深化させたような味を持っています。入り組んだ曲展開を構成するフレーズは捻りが効いたものばかりですが、過剰にこねくりまわして“考えオチ”になってしまうことは一切なく、単発でも映える“形のよさ”を備えています。演奏も大変優れており、間の活かし方が素晴らしいドラムスを土台に、凄まじい勢いと安定感を両立させた極上のアンサンブルを終始みせつけてくれます。ドラムス以外のメンバーにとっては初めてのプロフェッショナルなレコーディング作業だったようですが、Randy Burns(MEGADETHの2ndやDEATHの1stなどこのジャンルの重要作を数多く担当)のプロデュースにより、録音・音質も含めとても良い仕上がりになっています。

2nd『Universe』('89年発表)は、「世界初のメタル・コンセプトアルバム(PINK FLOYD『The Wall』のような)を作ろうと試みた」作品で
(こちらのインタビューhttp://allabouttherock.co.uk/interview-with-dbckill-of-rights-guitarist-eddie-shahini/参照:ちなみに、世界初のメタル・コンセプトアルバムと言われるQUEENSRYCHE『Operation:Mindcrime』はちょうど一年前の発表)、
「全体のテーマは科学的事実に基づいていて、最後の曲のみフィクションとし、未来の人類がどうなっているか描こうとした」という歌詞の面だけでなく、各曲〜アルバム全体が優れた構成のもと豊かな表現力を発揮しています。
VOIVOD(3rd・4thあたり)〜OBLIVEON(3rdあたり)ラインの暗黒浮遊感をスピードメタル〜ハードコアパンクの感覚で料理した、という感じの音遣いはもちろん、めまぐるしく変化しながらもとっちらかった印象が全くない作編曲が素晴らしい。バンドのリーダーEddie Shahiniは「各自が大量のパートを憶えられることがわかっていたため、アルバムは極めてテクニカルな仕上がりになった。1曲のなかでどれだけ多くのリフを演奏できているかということや、バンドがこういうジャズやクラシックの要素を持ったメタルスタイルに進化していったことを、人々に見せつけたかった」と言っていますが、テクニックの顕示欲が先立ってバランスが崩れてしまっている箇所は皆無で、どの曲も複雑になりすぎない美しい仕上がりになっています。そうした作編曲をかたちにする演奏は前作以上に見事で、どんなテンポでも極上のまとまりを示してくれています。しかもこのアルバムは音質が圧倒的に素晴らしい。80年代のハードロック・ヘヴィメタル全てをみても最高レベルのプロダクションがなされていて、もともと良い各パートの出音が驚異的な艶とクリアさをもって捉えられています。全ての面において完璧といえる作品。聴いたことのない方はぜひ手に取ってみることをお勧めします。

このような傑作を続けて発表し、それについて満足もしていたDBCですが、レビューなどで好ましい反応を得つつも、レコード会社のサポート不足などもあって売り上げは芳しくなかったようで、アメリカ合衆国へのプロモーションは不十分、ヨーロッパツアーは遂に実現しないという状況に苦しんでいたようです。
'90年にはCombat Recordsのためにデモを3曲録音し、それに納得しなかった会社の指示でさらに3曲を録音。その同時期に、当時人気が出てきたフォーマットであるミュージックビデオを作るために、契約した額以上の資金をレコード会社に要求したのですが、北アメリカの経済状況が良くなくなっていたこともあり、会社は契約を解除します。その後いくつかのレコード会社と話はしたものの、どれも実を結ばず、結局'91年に解散することになるのでした。

この時に録音された6曲のデモ音源は'02年に『Unreleased』として発表されています。
('94年に亡くなったオリジナル・ギタリストGerry Ouellete(持病の血友病のために輸血した血液からHIVに感染、AIDSを発症して逝去)の追悼盤という扱い。
版元のGaly Recordsはこのアルバムを出すために作られた会社で、
その後はMARTYRなどカナダ
アンダーグラウンドメタルの実力者を多く取り扱っています。)
バンド自身は『Universe』の内容に満足していたものの、それに対する評価を鑑みた上で「もっとわかりやすく印象的なものを作った方がいいのではないか」と考えたようで、2ndで培った複雑な音遣い感覚(OBLIVEONや初期GORGUTSなどに通じる薫りもある)を引き継ぎつつリズム構成などは幾分ストレートになっています。音作りはさすがにデモという感じで前2作と比べると見劣りしますが、曲や演奏はやはり見事で、Eddie自身も「いくつかの曲はバンド史上最も優れたものだと思う。自分はこの方向性が好きだった」と言っています。聴く価値のある作品です。

'91年の解散後、バンドは長く沈黙していましたが、'03年の大晦日にDaniel Mongrain(MARTYR・VOIVOD)を迎えた4人編成で単発のライヴをしたり、'05年からはマイペースなライヴ活動を続けており、新たな録音作品を発表してはいないものの、再結成をして順調に存続しているようです。2ndの一曲目「The Genesis Explosion」は携帯電話(“cell” phone)のCMに使われたりもしたようで(オリジナルのドラムスJeffのツテで、この曲を好きな広告代理店の担当者が話をもってきて決まったとのこと)、その携帯電話の名前を冠したショウもやるなど、意外なかたちでプロモーションする機会も得られている模様。仕事の傍ら行う活動としては、本活動時よりもむしろ恵まれているのかもしれません。この調子で新しい音源を製作してくれることを期待したいです。

なお、傑作である2枚のフルアルバムは、日本はおろか海外のamazonなどでも廃盤状態にあり、そこから買うことは難しいのですが、Eddie Shahiniが運営するバンド自身のホームページから容易に買うことができます。
http://www.dbcuniverse.com/merchandise/merchandise.html:それぞれ送料込みで20ドル、封筒にはEddie自身のサインが付きます)
また、そこまでしなくてもiTunesApple Musicで聴けるので、そこで何度か試し聴きしてみるといいでしょう。どちらも素晴らしい傑作です。



DOOM(日本)

Complicated Mind

Complicated Mind


(1st『No More Pain』フル音源プレイリスト)'87

(EP『Killing Field』フル音源)'88

(2nd『Complicated Mind』1曲目)'88

(3rd『Incompetent…』1曲目)'89

(4th『Human Noise』フル音源プレイリスト)'91

(QUARTERGATE『Quartergate』フル音源)'92

(5th『Illegal Soul』フル音源プレイリスト)'92

日本のアンダーグラウンド・ヘヴィ・ロック・シーンを代表する実力者。70〜80年代の膨大な音楽要素を闇鍋状に掛け合わせた独特のスタイルと、著しく高度で個性的な演奏表現力により、同時代以降の日本のミュージシャンに大きな衝撃を与えました。所属したシーンや音楽的な特徴もあって“スラッシュメタル”の枠で語られることが多いですが、そうしたジャンルからの影響は実は少なく、「共通するルーツから新たなものを構築した結果たまたま似てしまった」ということのようです。スラッシュメタルの「技術と勢いの両方を大事にする気風」に倣いながら、既存の何かのコピーに終始せず、独自の個性的なものを生み出してしまう。そういった意味では【テクニカル・スラッシュメタル】の名バンドにも引けを取らない実力者。広く再評価されるべき存在です。

DOOMの音楽性は、非常に簡単に言うと
「VENOM+KING CRIMSON(第3期)+ニューウェーブ(ゴシック・ロック寄り)を超絶テクニカルなMOTORHEADが演奏している」
という感じです。

(メンバーの音楽的背景はこのページhttp://www.geocities.co.jp/Broadway/1331/doom/doom1.htmlでだいたい網羅されていますが、それに加え、
雑誌『ヘドバン』Vol.5(シンコー・ミュージック・2014年10月刊)で、リーダーの藤田タカシさんが
NWOBHMなどもチェックしてはいたが、SEX PISTOLSやDISCHARGEのようなパンクのアプローチ(音の壁)にやられた」
「“爆発”“プラス志向”を求める一方で、KILLING JOKEやBAUHAUSのようなニューウェーブの“自虐”“マイナス志向”にもやられた」
「当時の日本の、グランギニョルやグンジョーガクレヨン、灰野敬二さんや裸のラリーズリザードのモモヨさんなど、“秘めてるんだけど、爆発する”というようなもの、隠れた怖さがあるものに惹かれる。単純に威圧感があって怖いんじゃなくて、謎めいていて、何かを秘めていて、そこに食い込むと爆発する、みたいな」
という言及をされています。)

70年代のハードロック〜プログレッシヴロック、MC5やSTOOGESからMOTORHEADやハードコアに連なる荒々しいガレージロック〜パンク、JAPAN・POLICE・KILLING JOKE・BAUHAUSのような高度で個性的なニューウェーブなど。そうした要素を、「メタル版Jaco Pastorius」と呼ばれた諸田コウ氏(ベース:'99年に逝去)をはじめとする達人の演奏力により、圧倒的な“うつむき加減に爆発する勢い”をもって統合する。先述のような「VENOM+KING CRIMSONニューウェーブ」という印象はあくまで前面に出ている要素の形容で、それを肉付けする“背景”の部分では、膨大な滋養が複雑に溶け合い、他では聴けない独自の構造を形作っています。そして、その成り立ちは作品単位で様々に変化し、統一感あるイメージを保ちながらも決してワンパターンなものにはなりません。こうした奥深く得体の知れない味わいがハイパーなヘヴィ・ロックスタイルで提示される音楽性は理屈抜きに“ガツンと来る”もので、小難しいことを考えず“豊かな混沌”に浸らせてくれます。諸田氏が亡くなる前(“本活動”期)に発表された作品はいずれも圧倒的な傑作で、こうしたスタイルが比較的受け入れられるようになってきた今だからこそ聴かれるべきものばかりです。

最初のEP『Go Mad Yourself!』('86年発表)と『No More Pain』('87年発表)ではかなりストレートな疾走感が前面に出ていて、スラッシュメタルという枠で言えば最もそれに近い仕上がりになっていると思います。ボーカルの声質などもあってVENOM(〜初期BATHORY)的な印象もありますが、音進行(〈Ⅰ→Ⅰ#→Ⅰ〉なども多用)はDISCHARGEの方に近く、同じくそれをベースに複雑な進化をしたVOIVODに似た雰囲気が漂っています。(DOOMの方がニューウェーブ成分が多い感じ。)音作りはあまり良いとは言えませんが、音楽全体のアングラ感を絶妙に高めている面もありますし、慣れれば肯定的に受け入れられる要素なのではないかと思います。プリミティブ・テクニカル・スラッシュメタルの傑作とも言える2枚で、(権利関係の問題などにより長く廃盤であり続けているため)再発が待たれる作品です。
(こちらのインタビューhttp://www.metallization.jp/columns/198によれば、再発の可能性は低くないようです。)
(2015.10.15追記:12/16に2枚組(LPミックスとCDミックスの両方収録+EP&ソノシート音源)で再発されることが決定しました。)

続くEP『Killing Field』から4th『Human Noise』まではメジャーレーベルに所属していた時期の作品で、日和らない個性的な音楽性と比較的良好なプロダクションがうまく両立されています。'07年に全て再発されたこともあり、現在でもそこまで入手は難しくありません。どれか一つ聴いてみるのであれば、この中から選ぶのがよいのではないかと思います。

EP『Killing Field』('88年発表)では、これ以前の2枚における比較的直線的なリズム構成から一転し、よく“躓く”変拍子(7拍子など)が沢山導入されています。音遣いの面ではゴシック・ロック寄りニューウェーブの要素が増え、それがハードロック〜プログレッシヴロック的な整った音進行によりうまく解きほぐされ、欧州のアンダーグラウンドなメタル(例えばAT THE GATESのゴシカルな部分)にも通じる興味深い味わいが生まれています。メジャーだからといって妙な配慮をすることもない演奏の勢いも素晴らしく、5曲28分という比較的コンパクトな仕上がりではありますが、とても密度が濃く楽しめる内容になっています。
(個人的には、メジャー期の作品ではこれが一番気に入っています。)

この次に製作された2ndフルアルバム『Complicated Mind』('88年発表)は、一般的に代表作とされる傑作です。全編にわたって第3期KING CRIMSONの要素が導入されており(本稿の【ルーツ】で触れた2曲「Lament」「Fracture」の音進行が殆どそのまま骨格になっています)、個人的にはちょっと“やりすぎ”“素直すぎる”と感じてしまいますが、こうした音遣いのもつ神秘的な暗黒浮遊感がガレージ・パンク的な荒い勢いのもとで実に効果的に提示されており、こうした要素に抵抗のない人を強く惹きつける魅力を勝ち得ていると思います。リズム構成も、変拍子(7拍子や5拍子など)を多用しながらもとてもうまくまとめられたものになっており、聴き手を小難しく振り回す印象はありません。DOOMの作品では最も滑らかな構成がなされている一枚で、入門編としても聴きやすくて良いアルバムなのではないかと思います。VOIVODが好きな方などは特に必聴です。
(VOIVODと比べると、ロックンロール〜ブルース的な引っ掛かり感覚がだいぶ強めに残っています。)

2ndに引き続きアメリカで製作された3rd『Incompetent…』('89年発表)では、スタイルを絞りすぎたきらいのある前作とは対照的に、70年代のハードロックや80年代頭のニューウェーブなど、雑多な要素が様々なかたちで前面に出てきています。そのぶんアルバムとしては(ストレートで滑らかという意味での)締まった構成がなされていない感があるのですが、慣れてくればこれはこれでゆったり浸れる良いものになっています。音作り的には最も(海外の)テクニカル・スラッシュメタル一般のそれに近い仕上がりで、ガレージロック的なプロダクションが苦手な方はここから聴く方がしっくりくるかもしれません。DOOMの作品の中では最も地味な印象がある一枚ですが、非常に充実した作品です。

4th『Human Noise』('91年発表)は、前作までのドラマー廣川錠一氏が脱退し、代わりにPAZZ氏(GASTUNKなどで活躍)が加入して製作された作品で、PAZZ氏のジャズ〜ハードコアパンク的な“重く締まった”タッチもあって、硬く弾け飛ぶアタック感の強い一枚になっています。
(錠一氏の“一打一打の踏み込みが比較的浅く、軽くラフな感じがある”タッチに対し、PAZZ氏は“きっちり芯を打ち抜き、手数と重さを両立する”タッチになっています。技術的にはPAZZ氏の方が上だと思いますが、諸田さんのベースサウンドが映える(響きの隙間をうまく残す)という点では、錠一氏のスタイルの方が相性が良かったのではないかと思います。)
このアルバムでは、ストレートに走るパートとフリージャズ的に暴れまわる“捻り”あるパートが交互に繰り出される展開が多く、PAZZ氏のタイトで瞬発力あるドラムスがそれを非常に滑らかに融合させています。“こもっているのが気になる”と言われる音作りも、よく聴けば細部まで非常に緻密に作り込まれたもので、隠微な潤いに満ちた独特の雰囲気を効果的に盛り立てていると思います。再びKING CRIMSON的なフレーズ遣いが前面に出てきた音進行など好みが分かれる部分もありますが、アルバム全体としての完成度はDOOMの作品中随一の仕上がりだと思います。これを代表作とみる人も多い傑作です。

DOOMは『Human Noise』発表後に再びインディーズに戻ることになり、'92年に2枚の関連作を製作しています。ひとつはBAKI(GASTUNKなど)との合体バンドQUARTERGATE唯一のアルバム『Quartergate』(1月発表)。そしてもうひとつはDOOMの5thフルアルバム『Illegal Soul』(11月発表)です。この2枚は長く廃盤になっており、中古でも高めの価格で取引されていることもあってなかなか聴かれる機会がないのですが、『Human Noise』までの作品で少し固まりつつあったスタイルを見直して一気に“化けた”作品で、既存のものの影が見えづらい強力なオリジナリティが確立されています。

『Quartergate』では、これまでの作品の多くに濃厚に漂っていたKING CRIMSON色がほぼ完全に排除され、ニューウェーブ東南アジア〜中近東寄り)と70年代ハードロックの要素を高度に統合した音遣いが展開されています。その上で、BAKI由来と思しき歌謡曲寄りフォークの要素がとてもうまく溶け合わされており、DEAD ENDやPINKといった同系統の名バンドをも上回る興味深い個性が生まれているのです。これ以前のDOOMの作品に(「過剰なKING CRIMSON色に抵抗を感じる」などの理由から)のめり込めなかった人はぜひ聴いてみてほしい傑作です。

そして、これとほぼ同時期に製作されたと思われる『Illegal Soul』は、KING CRIMSON的な音進行が再び全面的に用いられているのにも関わらず「KC色が強すぎて気になる」という感想を抱かせないものになっています。KC的な音遣いを完全に自分のものにした上で独自のやり方で活用できるようになっており、(諸田氏由来と思われるインド音楽的な要素などの)他の音楽要素が絶妙なバランスで組み合わされています。どこかLED ZEPPELIN『Presence』に通じる大陸的なおおらかさが加わっているのも好ましく(これまでの隠微な湿り気も損なわれていません)、前任者に寄せた感のある軽やかなドラム・サウンドのせいもあってか、怪しく神秘的な雰囲気と風通しの良い空間感覚が両立されています。5曲目「Those Who Race Toward Death」などはDISHARMONIC ORCHESTRAの3rd『Pleasuredome』('94年発表)に通じる味がありますし、そのようなテクニカルスラッシュ〜プログレデスの名バンドと並べても全く見劣りしない格を持った作品です。個人的にはDOOMの最高傑作だと思っています。再発は難しいようですが、なんとか実現してほしい一枚です。

この後DOOMは諸田コウ氏の休止〜脱退('94年)を経て凍結状態に入り、諸田氏が亡くなった'99年にインダストリアルメタル寄りの音楽性になった『Where Your Life Lies!?』(DOOMの従来の音遣い感覚がついに独自の個性として完成した大傑作で、CORONER『Grin』やAPOLLYON SUNが好きな方は必聴です)を発表したりするなどの動きはありましたが、長く沈黙状態にありました。しかし、'14年5月に亡くなったUNITEDの横山明裕氏への追悼イベントとして開かれたYOKO Fest The Final「ヨコちゃん逝ったよ〜全員集合!!」@川崎Club Citta('14年9月12日にオールナイト開催:40組が15分ずつ休みなく演奏し続ける)への出演を機に再結成し、翌年1月のイベントVIOLENT ATTITUDEのトリを飾るフルセット・ライヴで完全復活。諸田氏の後任として加入した古平氏も含め、素晴らしいパフォーマンスをみせてくれました。今後の活動に期待が高まります。
(ちなみに、このイベントの転換BGMではKING CRIMSONの『Red』『Lizard』『Starless And Bibleblack』がこの順でかかり、KCへの熱烈な思い入れが表明されていました。詳しくはこちらをご参照ください。

DOOMは、人脈(例えばリーダー藤田タカシ氏のJなどへのサポート)や音楽的バックグラウンドの広さなどもあって、80年代の日本のメタル・ハードコアやヴィジュアル系(外からは軽く見られがちですが素晴らしく豊かな世界です)のシーンに大きな影響を与えています。作品だけみても圧倒的に優れたものばかりですし、再結成が実現した今だからこそ再び評価されなければならないバンドです。ぜひ聴いてみることをおすすめします。



REALM(アメリカ)

Endless War

Endless War


(1st『Endless War』フル音源)'88

'85年結成、'92年解散。TOXIKとほぼ同期のバンドで(上のJosh Christianインタビューでも言及されています)、スピードメタル〜テクニカルスラッシュメタルを代表する強豪の一つです。'80年代の(NWOBHMというより正統派寄りの)メタルに'70年代のプログレッシヴ・ロックなどの要素(KING CRIMSON「One More Red Nightmare」のカバー音源あり)を加えたスタイルで強力な作品を残しました。

REALMは、アンサンブル全体の完成度という点では最も優れたメタルバンドの一つでしょう。きびきびした“トメ”と鞭打つ“ハネ”を両立したグルーヴは驚異的で、高速疾走しても全く崩壊しない安定感もあって、凄まじい“運動神経”を感じさせてくれます。(クロスオーバー〜ハードコア的な“筋肉の躍動感”ではなく、“精密機械が滑らかに駆動していく”ような質感がある。)その上ボーカルが凄まじいのです。Midnight(CRIMSON GLORY)をRonnie James Dioに寄せたようなパワフルなハイトーンが強力無比で、この系統のボーカリストの中では最強の一人と言えるでしょう。そうしたリードボーカルが圧倒的存在感を示しつつ先導するアンサンブルは高機動の一言で、理屈抜きの生理的爽快感を与えてくれます。こうした演奏の魅力に触れるだけでも一聴の価値があるバンドです。

作編曲も素晴らしく、高度で個性的な音遣いが実に興味深いのですが、その一方で、ある種の限界を感じさせる面もあります。「コード進行から全体を構成せず、フレーズの断片を並べてなんとかしようとする」(多くのリフ主導メタルで採用される)やり方で曲を作っているため、(フレーズの引き出しがあまり多くないこともあって)曲展開の広がりがどうしても制限されてしまうのです。2ndアルバムはそういう問題点が前面に出てしまった作品で、変拍子を多用したリズム構成と先述のようなストレートな機動力との食い合わせが悪いということもあり、全編興味深いのにもかかわらずどこか煮え切らない印象がつきまとう仕上がりになってしまっています。
一方、1stアルバムではそうした問題がなく、アンサンブルの特性と作編曲の性格がともにうまく活かされています。BEATLES「Eleanor Rigby」の倍速カバーも凄まじい出来映えで、このバンドの得意技が全ての面において見事にキマった傑作と言えます。

持ち味の発揮という点ではうまくいかないところもありましたが、超強力なアンサンブルに関して言えば、スピードメタル〜スラッシュメタルの一つの頂点を示すバンドです。聴いてみる価値は高いと思います。



DYOXEN(カナダ)

First Among Equals

First Among Equals


(『First Among Equals』フル音源)'89

カナダの超絶テクニカル・スラッシュメタルバンド。このジャンルの歴史においても屈指の凄い作品を残しましたが、スラッシュメタルのシーンが廃れデスメタルがトレンドになる時期('87年頃)にぶつかってしまったこともあってか、十分な認知を得られず解散してしまいました。
(解散は'90年とも'92年とも言われます。)

唯一のフルアルバム『First Among Equals』('89年発表)の音楽性を一言で表すなら
「AGENT STEEL〜TOXIKに初期METALLICAやBLIND ILLUSION・RUSHなどの風味をふりかけ、クロスオーバースラッシュ寄りの(ハードコアの“跳ねる”感じを加えた)強力なアンサンブルで形にした」
という感じでしょうか。超強力なリードギターはTOXIKのJosh Christianにも見劣りしない腕前で、他のパートも技巧派揃い。ボーカルも、スピードメタル的なハイトーンとは異なる豊かな中〜低域が好ましく、アンサンブル全体の落ち着きある完成度ではTOXIKより上なのではないかと思います。
(TOXIKの良さは落ち着きに欠けた凄まじいテンションにもあるので、このあたりは好みの問題なのですが。)
作編曲の出来も素晴らしく、歌メロなどはパッとしませんが(ルート音(≒ギターリフの構成音のうち一番目立つもの)をそのままなぞるだけのヒネリのないつくり)、リフや曲展開は実に渋く味わい深い。アルバムの流れまとまりも良く、もたれず聴き続けられる仕上がりになっています。

このアルバムは現在に至るまで再発されていないようで、中古も適正価格で出会うのがかなり難しくなっています。
(私は7年ほど探し続けた上でDiscogsで買いました。送料込みで¥3400ほどでした。なお、中古で現物を見たことはありません。ディスクユニオン御茶ノ水メタル館のセールに一度出品されていたことはありますが、当日に売り切れていました。)
このジャンルのマニアでなければ現物を手に入れる必要はないでしょうが、安価で出会うことがあるならば、買っても損はない傑作だと思います。



PARIAH(イギリス)

Kindred

Kindred


(2nd『Blaze of Obscurity』フル音源)'89



DEATHROW(ドイツ)

Deception Ignored

Deception Ignored


(3rd『Deception Ignored』)'88



MEKONG DELTA(ドイツ)

The Principle Of Doubt

The Principle Of Doubt


(3rd『The Principle of Doubt』フル音源)'89



SIEGES EVEN(ドイツ)

Sense of Change

Sense of Change


(3rd『A Sense of Change』フル音源)'91



ANACRUSIS(アメリカ)

Screams And Whispers

Screams And Whispers


(4th『Screams And Whispers』フル音源)'93



SACRIFICE(カナダ)

Apocalypse Inside

Apocalypse Inside


(4th『Apocalypse Inside』フル音源)'93



OVERTHROW(カナダ)

Within Suffering (Definitive Edition)

Within Suffering (Definitive Edition)


(『Within Suffering』フル音源)'90

カナダのテクニカル・スラッシュメタルバンド。同郷の名バンドと比べると知名度は低いですが、独自の路線のもと、そうしたバンドに勝るとも劣らない傑作を残しました。

活動中に発表した作品はデモ『Bodily Domination』('89年発表)とフルアルバム『Within Suffering』('90年発表)のみで、これは後者の再発盤でまとめて聴くことができます。欧州スラッシュメタルに微妙にハードコア〜クロスオーバースラッシュを加えたようなテクニカルスラッシュメタル路線で、硬く跳ねる演奏にはどこかインダストリアルメタル的な質感も備わっています。
(中心人物Nick Sagiasの2010年インタビュー
では、バンド全体としてはジャーマン・スラッシュ(DESTRUCTION、SODOM、KREATOR、HOLY MOSES、KREATOR)、ベイエリアのバンド(POSSESSED、VIO-LENCE)、カナダのバンド(SACRIFICE、VOIVOD)、SLAYERなどの影響が大きく、Nick個人としてはインダストリアル寄り音楽(SWANS、Einstuerzende Neubauten、MINISTRYなど)の影響もある、と表明されています。)
随所に“字余り”複合拍子を仕込みながら勢いよく走り回る演奏は素晴らしく、名サイト「Thrash or Die!」などでも「超極上の作品であり、バイブルクラスのthrash album!」と評されています。
(こちらのページhttp://www.geocities.co.jp/MusicStar/4935/re.O.htmlの最下段参照)
勢いを全開にしながらも常に不思議な落ち着きが伴う“冷徹な熱さ”はカナダ特有のもので、DBCや初期OBLIVEONなどに通じる味わいもあります。抽象的で目まぐるしく変化する曲構成は(こういうスタイルに慣れていないと)はじめは戸惑わされるものかもしれませんが、慣れて勘所を掴むと素晴らしい“効き目”に酔いしれることができます。POSSESSEDやMORBID ANGELのパンク的な部分が好きな方などにもおすすめできる傑作です。

この『Within Suffering』を発表した後、中心人物であるNick(ベース・ボーカル)がPESTILENCEへの加入(『Consuming Impulse』発表後に脱退したMartinの代役)を決めたことをきっかけに、OVERTHROWは解散することになります。
(それ以前から「OBITUARYなどの遅いデスメタル志向とSLAYERやMEGADETHなどのスタイルにならう志向」「チューニングを下げるか否か」「ボーカルスタイルをスラッシュ寄りのままにするかデスメタル寄りのものに変えるか」など、音楽的方向性の違いために新曲の製作が進まなかったことも解散の原因になったようで、同様の理由から、再結成の可能性は殆どないとのことです。)

ちなみに、NickはPESTILENCEと4曲入りのデモ『Out of The Body』を録音し、デスメタル制作スタジオの名門として名を馳せたMorrisound Studioで録音された3rdアルバムにも関わる予定だったのですが、テクニカル志向から雰囲気表現志向に移りつつあった自身の音楽的方向性のもと、PESTILENCEからの脱退を決定。ちょうど当時Morrisoundで2ndアルバムの録音作業に入っていたATHEISTのベーシストTony Choyを紹介し、その結果、TonyがPESTILENCEの3rdに参加することになったようです。
(上記のインタビューでその経緯が語られています。)

OVERTHROWの音楽には一見地味なところもありますが、演奏の凄さも音楽性の興味深さも“ありそうでない”ポジションをついていて、とても味わい深く聴き込むことができます。このジャンルが好きで意識的に掘り下げていきたいという方にはぜひ聴いてみてほしいバンドです。



THOUGHT INDUSTRY(アメリカ)

Mods Carve the Pig-Assassins

Mods Carve the Pig-Assassins


(1st『Songs for Insects』フル音源プレイリスト)'92

(2nd『Mods Carve The Pig』フル音源プレイリスト)'93



DECISION D(オランダ)



(1st『Razon De La Muerte』フル音源)'92

'86年結成、'95年に一度解散。「欧州を代表するクリスチャン・メタル・バンド」と言われたこともあるようですが、ネット上には殆ど情報がなく、その真偽を調べることは困難です。

このDECISION D、殆ど無名のバンドなのですが、本稿で扱うものの中でも屈指の傑作を残した実力者集団です。後期CORONERやMORBID ANGELをスピード・メタル化したような音遣いは他の何かと比較しづらいもので、淡白な印象を保ちながらとても表情豊かに変化していきます。過剰にメロディアスにならず、それでいてモノトーンにもなりきらない。感情を揺らしすぎずに潤いを与えてくれるさじ加減が絶妙で、居心地の良さと得体の知れない深みを両立しています。また、演奏も非常に強力です。全パートが個性と技術を兼ね備えた実力者で、リーダーであるEdwin Ogenioのボーカル(HOLY TERRORのKeith DeenとSABBATのMartin Walkyierを足して強化したような感じで、テクニカルスラッシュ系のボーカリストでは群を抜いてうまい個性派です)も圧倒的に凄い。あらゆる面において他では聴けない素晴らしい珍味を提供してくれるのです。

本活動中に発表した3枚のアルバムはどれも超強力ですが、まとまりやとっつきの良さでは1st『Razon De La Muerte』がベストでしょう。あからさまに“ただならぬ”色合いを前面に出してはいませんが、CORONERやTOXIKの作品にも劣らない格をもつ傑作です。キリスト教をテーマにした歌詞も、ボーカルが淡々と演技過多な歌い回しをし続けることもあって不思議と鼻につきません。ひねりの効いたリズム構成をすっきり聴かせてしまうアレンジなども見事で、聴き込むほどに興味深く楽しめるようになります。機会があればぜひ聴いてみてほしいアルバムです。

'95年の解散後、Edwin Ogenioは牧師をやっているようですが(担当の教会があるとのこと)、'09年には自分以外の全メンバーを入れ替えてDECISION Dを再結成しているようです。「新作を製作中」というアナウンスも確認されているものの、やはり目立った情報はなく、現在何をしているかは殆ど伝わってきません。極めて優れた作品を残していながら無名のままという何とも惜しいポジションにいるバンドなので、なんとか新譜を発表していただいて、注目と再評価の機会を得てほしいものです。



NEVERMORE(アメリカ)

This Godless Endeavor

This Godless Endeavor


(6th『This Godless Endeavor』フル音源)'05



VEKTOR(アメリカ)

Outer Isolation

Outer Isolation


(2nd『Outer Isolation』フル音源)'11