プログレッシヴ・アンダーグラウンド・メタルのめくるめく世界【初期デスメタル篇】(解説部分更新中)

こちらの記事
の詳説です。

参考資料はこちら:
(英語インタビューなどは抄訳付き)


【初期デスメタル

DEATH
MORBID ANGEL
CARCASS
PESTILENCE
NOCTURNUS
XYSMA
CARBONIZED
diSEMBOWELMENT
SEPTICFLESH
PAN.THY.MONIUM
DEMILICH
CRYPTOPSY

(解説を書いたものについては名前を太字にしています。)


DEATH(アメリカ)

Individual Thought Patterns-Reissue

Individual Thought Patterns-Reissue


(4th『Human』フル音源プレイリスト)'91

(5th『Individual Thought Patterns』フル音源プレイリスト)'93

(6th『Symbolic』フル音源プレイリスト)'95

デスメタルというジャンルの草分けにして「テクニカル(プログレッシヴ)・デスメタル」の立役者。天才Chuck Shuldiner(2001年没)の実質ワンマンプロジェクトで、数多くの名プレイヤーを世に知らしめる広告塔の役目も果たしました。達人を集め育成する“梁山泊”の主催者であり、その意味ではMiles DavisFrank Zappaなどに通じるものがあります。

DEATHのファン層は大きく二つに分かれます。初期('84年デモ『Death by Metal』〜'88年2nd『Leprosy』)の“初期デスメタル”路線と、後期('91年4th『Human』〜'98年最終作7th『The Sound of Perseverance』)の“テクニカルデスメタル”路線。そのどちらか一方を愛好し、もう一方にはそれほどのめり込めない、という人がかなりいるようです。

初期のファンはスラッシュメタル〜初期デスメタルのコアな愛好者が多く、後期の作品を「凄く上手いのは認めるけどピンとこない」と評すことが多いです。一方、後期のファンは、初期の作品を「勢いは凄いけどグチャドロでよくわからない」と感じることが多いようです。初期の作品では“なりふりかまわず突っ走る”勢いが前面に出ているのですが、「達人を集めて高品質の作品をつくる」プロジェクト志向が固まった3rd〜4th以降では、高度で整った(ある種サーカス的な)技術が前面に出ています。そのため、初期のファンは後期に対し「技術は凄いけどストレートな勢いという点ではちょっと…」と感じ、逆に後期のファンは、達人の極上の演奏表現力を求めているために、初期の未洗練な荒々しさに有り難みを見出せない、ということなのではないかと思います。

また、このように好みが分かれる背景には、作編曲における音進行の違いも関係しているのではないかと思われます。初期の「SLAYERやPOSSESSEDを少しだけNWOBHM寄りにした」感じの“正統派”デスメタル路線に対し、後期では、独特の浮遊感をもつフレーズをコード付けせずに並べた、他の何かと比較しにくい渋みをもつ音遣いが多用されています。こうした音遣いは伝統的なヘヴィメタルの感覚から少し離れたもので、後期DEATHの作品そのものに繰り返し慣れ親しまないと巧く嚙み分けることができません。また、後期のみに慣れ親しんだファンからしてみれば、初期の“正統派”寄りの音遣いはやはり嚙み分けにくいもので、高度な技術に惹かれて(メタル一般はあまり聴かないのにこのバンドだけを)聴いている場合は特に、ピンとこずに聴き流してしまう。ということなのだと思われます。

しかし、以上のように大きな変遷を遂げたように見えるDEATHの音楽も、音遣いの核の部分に関しては一貫しています。後期の作品で剥き出しになった独特の音遣いは(Chuck本人のギターソロにおいては)実は1stで既に披露されていて、作品を経るほどに定着し深化していきました。DEATHの音楽活動は、様々な伝統的ヘヴィメタルスラッシュメタルから獲得した滋養を独自のやり方で(リフ・リード両方の)単線のフレーズに落とし込もうとする試みでもあったのだと言えます。こうした意味で、ChuckのフレージングセンスはDISCHARGEやCELTIC FROSTなどと並ぶ“滋味深い灰汁”(複雑な奥行きを持つモノトーンの音遣い)であり、聴き込み吟味する価値の高いものなのです。実際、こうした感覚を学んだ上で独自の高度な音楽を作りあげてしまったバンドも存在します。(MARTYRなど。)先に述べた「達人の見本市」としての役割だけでなく、音楽そのものの味わいの面でも、DEATHの功績は大きいのではないかと思います。

上に挙げた3枚のアルバムは、ここで述べたような「達人の見本市」としての性格や「独特のフレーズ感覚」がわかりやすく示された時期の作品であり、「テクニカル・デスメタル」「プログレッシヴ・デスメタル」のシーンにおいて最も重要な作品群でもあります。それ以前は「過激なだけで見るべき所がない」「こんなの音楽じゃない」と言われていたデスメタルというジャンルが、実は音楽的に非常に高度で奥深いものなのだ、ということを知らしめるきっかけにもなったもので(一般的な意味での「デスメタル」とは異なるスタイルではあるのですが)、シーンへの貢献度の大きさは測り知れません。

その第一弾となった4th『Human』には、CYNICの中心人物2人(Paul Masvidal・Sean Reinert)と超絶フレットレスベーシストのSteve DiGiorgio(SADUSほか)が参加しています。Chuckを含む全てのパートが驚異的な演奏技術を発揮しており、シーンの優れたミュージシャンに大きな衝撃を与えました。なかでも特筆すべきはSeanのドラムスでしょう。超高速のフレーズを余裕でこなしつつ繊細な表現力まで生み出してしまうスタイルは当時の常識を超えたもので、Gene HoglaneやFlo Mounier(CRYPTOPSY)のような超一流にも絶大な影響を与えました。(「シンバルの使い方に圧倒された」と言う人が多いようです。)Paulの方はあまり目立った活躍の場を与えられませんでしたが(ソロはChuckの方が多い)、それでも要所で凄まじい技術を示しており、フルアルバム発表前だったCYNICの名をシーンに轟かせるきっかけを得たのでした。また、作編曲の面でも、「Lack of Comprehension」のイントロやインスト曲「Cosmic Sea」で独特の高度な世界を描き、MESHUGGAHの2ndなどに影響を与えています。(MESHUGGAHの2ndのブックレットで言及あり。)

続く5thはDEATHの作品中最も有名な一枚でしょう。MTVの人気ワルノリアニメ『Beavis & Butt-head』で主人公からこき下ろされる対象に起用され(この作品は何でもこき下ろすので“悪い意味での”悪意はないはずです)、最大手メタル雑誌「Kerrang!」でも非常に高い評価を得たことで、DEATHの名前と優れた音楽性が広く認知されることになりました。本作のラインナップはChuckに加えSteve DiGiorgio(ベース)・Gene Hoglane(ドラムス)・Andy LaRocque(ギター)。奇数拍子を美しくアレンジするリズム構成はRUSHをよりテクニカルに強化したような仕上がりで、ドラムス・ベースの信じ難いくらい素晴らしいアンサンブルもあって、この系統の音楽における一つの頂点を示しています。鋭く滑らかなリズムギター・サウンドも絶品。演奏表現力の深さ豊かさでは本作がベストだと思います。

6thアルバムでは、前2作での“剥き出し”な単旋律に改めて多彩なコード付けをしようという試みがなされており、しかもそれが見事に成功しています。ChuckとGene Hoglane以外のメンバーは無名の若手に交代していて、前作までの達人たちに比べるとさすがに見劣りしてしまいますが、それでも十分優れた技術をもって作品世界の構築に貢献しています。このアルバムの楽曲はどれも“歌モノ”としてよく解きほぐされた構造を持っていて、変拍子が控えめなこともあり聴きやすくなっています。作編曲の面で一つの頂点を示した作品ですし、独特の音遣い感覚を理解するための素材としても取っ付きやすいものでもあります。初めて聴くのであればこの6thが一番無難なのではないかと思います。

このような変遷を遂げたDEATHの作品群に“ブレた”感じがないのは、作品そのものの出来がどれも良いというのもありますが、Chuckが素晴らしいプレイヤーだったことも大きいのではないかと思います。上で述べたような個性的な音遣いを滑らかに表現するギターはもちろん、ボーカルが本当に素晴らしい。強靭な発声と豊かで個性的な声質、そして、どんなに音楽的に成熟しても“日和った”感じが全く現れない、気迫に満ちた歌い回し。こうしたボーカル・ギターはともに「一音聴けばその人とわかる」もので、偉大な“オリジナル”として多くのミュージシャンに影響を与えています。達人を贅沢に従えながらそれに見劣りすることがなかったのも、強力な個性を持つChuckの“格”のなせるわざだったのではないかと思います。
DEATHの遺した7枚のアルバムは全て音楽史に残るべき名作です。このシーンの流れを追う意味でもとても重要な作品群なので、ぜひ聴いてみることをおすすめします。



MORBID ANGEL(アメリカ)

Altars of Madness (Bonus Dvd) (Reis)

Altars of Madness (Bonus Dvd) (Reis)


(1st『Alters of Madness』フル音源)'89

(5th『Formulas Fatal to The Flesh』フル音源)'98



CARCASS(イギリス)

Necroticism ? Descanting The Insalubrious

Necroticism ? Descanting The Insalubrious


(2nd『Symphonies of Sickness』フル音源)'89

(3rd『Necroticism - Descanting The Insalubrious』フル音源)'91

(4th『Heartwork』フル音源)'93

初期デスメタルを代表する名バンド。作編曲と演奏の両方で卓越した個性を発揮し、多くのバンドに絶大な影響を与えました。発表した作品の多くは歴史的名盤で、そこから幾つものジャンルが生まれています。'90年代以降のアンダーグラウンド・ロックシーンをみるにあたって最も重要なバンドの一つです。

CARCASSの音楽は、イギリス〜ヨーロッパにおけるメタルとハードコアのクロスオーバーです。 70年代のハードロックから80年代のNWOBHMに至るメタルの流れ、そしてDISCHARGEに端を発しクラストコアやスピードコアを経てグラインドコアにつながるハードコアの流れ。当時のシーンではこうした2つの流れが互いに影響を及ぼしあっていて、両方のシーンに属するミュージシャンも多数存在していました。CARCASSの音楽性を主導するギタリストBill Steerはその筆頭です。メタル寄りのバックグラウンドを持ちつつハードコアにも慣れ親しんでいたBillは、CARCASSを結成した'87年には初期のNAPALM DEATHグラインドコアを代表するバンド)にも参加し('89年まで在籍)、歴史的名盤である1st(後半)と2ndの製作に深く関わっています。また、ベース・リードボーカルのJeff WalkerとドラムスのKen Owenはハードコア出身で、その上でメタルも分け隔てなく楽しめる嗜好の持ち主でした。こうしたメンバーが集まり、メタル・ハードコアそれぞれの豊かな要素を無節操に組み合わせることで、それまでにはなかった強力な音楽的雑種が生まれます。CARCASSの活動は、「アクティブな音楽マニアが伝統を全く新しいかたちで活かそうとする」試みの歴史と言えるのです。

こうしたことに加え、CARCASSは、このバンドにしかない音楽要素を2つ持っています。一つはBill Steerによる音遣いの“暗黒浮遊感”。そしてもう一つは、Ken Owenを土台とした個性的に“弾け飛ぶ”アンサンブルの質感です。

まずBillの音遣い。これはNAPALM DEATHの1st・2ndにも言えることなのですが、Billの作るフレーズには、それまでのメタルやハードコアにはない(少なくとも前面に出てはいない)不思議な浮遊感があります。DISCHARGEやクラストコア(AMEBIXやDOOM(イギリス)など)のシンプルながら妙にねじ曲がったフレーズを、NWOBHM的なフレーズ〜コード感覚で肉付けしたらこうなる、ということなのでしょうか。CARCASSにおけるそれは初期NAPALM DEATHのものより幾分メロディアスで、安易な“泣き”に陥らない(“解決”しない)感覚を保ちつつ表情豊かに動き回る音進行になっているためか、独特の暗黒浮遊感が大きく増幅されています。CARCASSの作編曲スタイルはアルバム単位で大きく変化していきましたが、こうした音遣い感覚はその全てにおいて維持されていて、他では聴けない薫り高い魅力を持ち続けているのです。

そしてアンサンブルの質感です。ギター・ベースまわりの「欧州ハードコア特有の“水気を含んでぶよぶよ膨れる”質感が、メタル的な締まった量感と組み合わされることで生まれる、“マッシヴなアタック感”」も個性的ですが、それ以上にKen Owenの図太くヨレるドラムスが凄いのです。速いフレーズの一つ一つを全力で叩き切ろうとする無謀なスタイルで、リズムが崩れることを気にせず突っ込む様子は、後のテクニカルなデスメタル・ドラマーからすれば「効率の悪い叩き方に終始するただのヘタクソ」としか思えないでしょう。しかし、この独特のヨレ方とそこから生まれるスリリングな起伏は他では聴けないもので、ギター・ベースの“マッシヴなアタック感”を何倍にも増幅しつつ、バンドサウンドに豊かな表情を付け加えています。このようなアンサンブルはそれ自体が唯一無二の魅力を持っていて、同時代以降の他のバンドに絶大な影響を与えました。CARCASSの作品においては、それまでのメタルやハードコアには存在しなかった(両者を組み合わせて生まれた)興味深いリズムアイデアが多数編み出されており、それらの全てがこの特徴的なアンサンブルによって形にされています。その結果、音遣いだけでなく、リズム〜グルーヴの面でも他では聴けない魅力が生まれているのです。

CARCASSは、以上のような魅力を保ちながら全ての作品で異なるスタイルを提示し、世界各地のシーンに絶大な影響を与えました。それぞれの作品が新たなジャンルを生み、各々のシーンのオリジネイターとしての評価を得ています。そうしたシーンからの新たな広がりまで考えれば、CARCASSが直接・間接的に及ぼした影響は甚大です。アンダーグラウンドな世界に留まらず、ポップスの音作りなどにも参照されている部分があるのです。
(「Isobel」のリミックスを部分的に依頼したBjörkが代表的ですが、低音の扱い方を極端なかたちで洗練させていったデスメタルというジャンルの影響力(SLIPKNOTや種々の“ラウドロック”を経由したもの)までみれば、CARCASSの作品に端を発するアイデアは測り知れない広がりをみせていると言えます。)

まず重要なのが1stデモ『Flesh Ripping Sonic
Torment』('87年発表:現在は1stアルバムの再発盤に収録)です。
NAPALM DEATHに通じるグラインドコアパートを含む一方、ミドルテンポ寄りの“腰だめに走る”爆走パートも絡める作風で、後者の特徴的な演奏感覚は(AUTOPSYとともに)北欧の初期デスメタルに絶大な影響を与えました。
(特に「Regurgitation of Giblets」や「Malignant Defecation」、「Pungent Excruciation」などのブラストビートでないところ。)
NIHILIST(ENTOMBEDの前身)やNIRVANA 2002といったスウェーデンを代表するバンドはこうした演奏感覚をほぼそのまま受け継ぎ、その上で独自の解釈を加え、「デス&ロール」と言われる魅力的なスタイルを生み出しました。

また、その次に発表された2ndデモ『Symphonies of Sickness』('88年発表:2ndフルアルバムの雛形)では、グラインドコア寄りの短い曲が多かった1stデモと比べ長めの曲が増えていて、遅めのテンポでじっくり聞かせるパートではドゥーミーな感覚も生まれています。
XYSMAやDISGRACEといったフィンランドのバンドは、こうした演奏感覚に大胆に初期パンク〜ロックンロールの要素を加えたり、当地特有のドゥーミーな感覚を加えて重苦しい雰囲気を強化してしまうなど、やはり独特で興味深いかたちに発展させています。
(『1990』というコンピレーションアルバムで聴けるDISGRACEのデモ2枚はCARCASS影響下デスメタルの大傑作で、ある意味本家を超える圧倒的な作品です。)

以上に続いて発表された1stアルバム『Reek of Putrifaction』は、同時期に録音されたNAPALM DEATHの2nd『From Enslavement to Obliteration』の影響もあってか、1stデモよりもグラインドコアの“痙攣的に地面に張り付く”高速パートが増えています。強烈にこもったサウンドプロダクションは(一般的な感覚から言えば)劣悪で、ミキシングの失敗もあってバランスを欠いたものになってしまっているのですが、そうした音作りは音楽全体の暴力的なアングラ感を増強していて、高速で痙攣する演奏とあいまって凄まじい勢いを生み出しています。こうした要素はアルバムの過激なコンセプト(死体写真のコラージュと医学用語を多用した歌詞:メンバーの多くはベジタリアンで、そうした立場からの攻撃的な意思表明)と強力な相乗効果を発揮し、多くのレコード店から取り扱いを拒否される一方で、一定の層に熱狂的に受け入れられました。「ゴアグラインド」と呼ばれるジャンルはCARCASSのこの1stフルアルバムの路線を強く意識したもので、上記のようなアルバムアートワークと歌詞のコンセプトをそのまま受け継いだバンドをいまだに量産し続けています。
(ある意味DISCHARGEとD-Beatバンドの関係に通じるものがあります。)

翌年('89年)に発表された2ndアルバム『Symphonies of Sickness』では、先に述べた2ndデモと同じく長めの構築的な展開が増えていて、NWOBHM〜欧州クサレメタル的なメロディアスなフレーズがやや遅めのパートを絡めてじっくり披露されています。いわゆる“正統派”デスメタルに接近した作風で、本作から5thアルバムまでのプロデュースを担当するColin Richardsonの貢献によって、深いアングラ感とそれなりの聴きやすさがうまく両立された仕上がりになっています。“初期デスメタル”的にはこのアルバムが最高傑作で、北欧のシーンだけでなく世界中の同時期のバンドに多大な影響を与えています。このあたりからリズムパターンが多様になり、Ken Owenの個性的なドラム・グルーヴが素晴らしく映えるようになっていきます。

3rdアルバム『Necroticism - Descanting The Insalubrious』('91年発表)では、スウェーデンの初期デスメタルバンドCARNAGEに所属していたギタリストMichael Amott(後にARCH ENEMYやSPIRITUAL BEGGARSを結成)が加入。前作までの「低域で蠢くドロドロしたデスメタル」スタイルから一転、複雑にひねられたリフ構成とメロディアスなリードギターを前面に押し出した“メジャー”な作りになっています。このあたりからバンドのNWOBHM〜正統派ヘヴィメタル志向が強まっていたようで(「本作はKING DIAMONDの名盤『Abigail』『Them』を意識したものだ」という発言があります)、個性的なリードフレーズと独特の“暗黒浮遊感”溢れるコードワークの魅力はここにきて一気に花開くことになりました。こうした音遣いは他では聴けない高度な個性を確立していて、「プログレデス」的な観点でも楽しめる素晴らしい仕上がりになっています。本稿的には最もおすすめできる作品です。

続く4th『Heartwork』('93年発表)はCARCASSの作品中最も有名な一枚でしょう。いわゆる「メロディックデスメタル」の始祖として扱われることもある名盤で、前作における正統派ヘヴィメタル志向が徹底的に洗練されたかたちで提示されています。前作においては(Billの個性的な音遣い感覚の上で)微妙に浮き気味だったMichaelのストレートなメロディ進行がわりとしっくり収まるようなアレンジが出来ていて、その上で初期作品に連なる独特の暗黒浮遊感もしっかり受け継がれているのです。
('90年代中期以降の(初期デスメタルとは質の異なる)「メロディックデスメタル」とは、Michaelのギターフレーズだけみれば共通する部分が確かにあるのですが(アルバムラストの「Death Certificate」とARCH ENEMYの3rd『BURNING BRIDGES』1曲目とでは同じフレーズが使われています)、そうした「メロデス」におけるわかりやすくワンパターンな“泣き”の進行と、本作の(グラインドコア要素もある)複雑な音進行は別物で、同じ文脈で語られることが多いものの、やはり分けてみるべきなのではないかと思います。)
本作は、これまでのCARCASS作品が持つ個性的な旨みを損なわずに聴きやすく整理することに成功した作品で、ジャンルを問わず最も広い層にアピールする一枚なのではないかと思います。6曲目「This Mortal Coil」イントロの〈7+8+7+10(=32=8×4)〉フレーズなど、すっきり流れていく展開の中でヒネリを効かせる箇所も多く、聴き込む楽しさもしっかり備わっています。ここまでの4作の中では最も入りやすい一枚なのではないかと思います。

4thアルバムの発売後、Michael Amottの脱退・Carlo Regadasの加入を経て、CARCASSは北米での発売元であるColumbiaレコードと契約を締結。その上で新作の録音を行ったのですが、Columbiaは完成したアルバムのリリースを拒否。バンドとレコード会社の関係は次第に悪化し、新作が発売されない状況に耐えられなくなったBillはバンドを脱退してしまいます。これにより活動を継続できなくなったCARCASSはColumbiaからの契約を破棄され、Earacheレーベルに戻った後に5thアルバム『Swansong』を発表('96年)。一度解散することになりました。
この5thアルバムでは前作までのNWOBHM〜'70年代ハードロック志向がさらに推し進められていて、その上でこのバンド特有のひねられたアレンジや演奏感覚もしっかり発揮されており、CARCASSに先んじて「グラインドロック」路線に転換したENTOMBEDやXYSMAなどとはまた異なる仕上がりになっています。このバンドの作品の中では“刺さる”力が若干弱いものの、非常に興味深く聴き込める内容で、他のアルバムを一通り聴いた上で手を出す価値は充分あります。

こうして一度は解散したCARCASSですが、'07年には再結成してライヴ活動を開始。Ken Owenは'99年に患った脳出血のため本格的に参加することができませんでしたが、後任に優れたドラマーを加入させ、'13年には傑作6th『Surgical Steel』で見事な復活を遂げました。
(日本のメタル雑誌『Burrn!』の年間ベストアルバムを獲得するなど、作品だけでなくバンドとしても一気に評価されるようになった感があります。)
本作では「4th・5thアルバムの中間」と言える路線が圧倒的な勢いをもって追求されており、HOLY TERRORのような超一流のスピードメタルにも勝るとも劣らない素晴らしい内容になっています。だいぶNWOBHM色の強まった音遣いは4th以前のものとは一見毛色が異なりますが、独特の浮遊感あるヒネリは健在で、Bill Steerにしか出せない固有の感覚はより味わい深く熟成されています。過去作からは少し離れた作風なのでここから入るのは微妙な気もしますが、作品単体でみれば最も入門に適した一枚なのではないかと思います。

以上のように、CARCASSの音楽は70〜80年代の「ハードロック〜ヘヴィメタル」「ハードコア〜グラインドコア」全般の素晴らしいハイブリッドで、それを他にない音遣い感覚と個性的な演奏感覚により独自の高みに引き上げてしまったものなのだと言えます。その影響は絶大で、たとえば昨今のアメリカのハードコアが北欧の初期デスメタルシーンから多大な影響を受けていることを考えても(初期ENTOMBEDや初期DISMEMBERをそのままなぞったようなBLACK BREATHの諸作などが好例)、直接・間接的に及ぼした影響には測り知れないものがあります。こうした流れを俯瞰するにあたっては最も重要なバンドの一つですし、このシーンが生み出した最高の音楽成果の一つとして理屈抜きに楽しめるものでもあります。ぜひ(入りやすい所から)聴いてみることをおすすめします。



PESTILENCE(オランダ)

Doctrine

Doctrine


(2nd『Consuming Impulse』フル音源)'89

(5th『Resurrection Macabre』フル音源)'09

(6th『Doctrine』フル音源)'11

初期デスメタルを代表する実力者にして、「プログレッシヴ・デスメタル」のオリジネイターの一つでもある名バンド。ジャズ〜フュージョン方面の高度な音遣い&演奏技術を巧みに取り込んだ音楽性により、後の「プログレデス」「テクニカルデスメタル」バンドの多くに大きな影響を与えました。現役「プログレデス」バンドの中では最も興味深い音楽性をもつものの一つです。

PESTILENCEは、実質的にはPatrick Mameli(ギター・ボーカル)のワンマンバンドです。「議論を好まず、自分のヴィジョンをほぼそのまま形にしてくれることを望む」
(こちらのインタビュー:http://www.radiometal.com/en/article/pestilence-patrick-mameli-makes-no-compromise,130568ではっきり表明されています)
Patrickの意向に従い、達人メンバーが統制の取れた超絶技巧を発揮する。こうした体制はやはりなかなか維持が難しいようで、アルバムごとにラインナップは大きく変化します。
(ギターのPatrick Uterwijkのみ例外的にウマが合うらしく、活動期間のほぼ全期に渡って在籍しています。)上に挙げた3枚の作品でもメンバーは殆ど入れ替わっていますが、音遣いや演奏(卓越したリードギターやボーカルなど)の醸し出す印象には共通するものがあり、他では聴けない「PESTILENCEの音楽」としての存在感をしっかり維持しています。この点DEATHに通じるところもあり、しかもそれに勝るとも劣らない(総合的には上回っているかもしれない)実力を持っているバンドなのです。

PESTILENCEの作品から“入門編”として何枚か選ぶなら、上に挙げた3作品が良いのではないかと思います。

2nd『Consuming Impulse』('89年発表)は全ての「初期デスメタル」作品の中でも屈指の大傑作で、「初期DEATHやPOSSESSEDなどに影響を受けつつ独自のものを作ろうとした」
試みが最高の結実をみせた作品です。DEATHやPOSSESSEDの個性的なリフ構成がさらに彫りの深く高度なものに鍛えあげられており、その上でジャズ〜近現代クラシック的なコード付けがうまくキマっています。
(MORBID ANGELと似た方向性の音遣いで、POSSESSEDをベースに発展するとこうなる、という好例にも思えます。そういう意味で、POSSESSEDの“いろんなものを盛り込む器”としての凄さが実感される良い例です。)
後にASPHYXに参加するボーカルMartin van Drunen(最も優れたデスメタル・ボーカリストの一人)による“暴れ回る泣き声”も素晴らしく、高度な音楽性と荒々しい勢いとが見事に両立されています。アルバムとしての構成も申し分なく良く、全ての面において突き抜けた作品になっています。デスメタルに興味のある方は必ず聴かなければならない傑作です。

5th『Resurrection Macabre』('09年発表:'94年に解散し'08年に再結成した後の第一作)も素晴らしい作品です。Tony Choy(ベース:ATHEIST / ex.CYNIC)とPeter Wildoer(ドラムス:DARKANE / ex.James LaBrie)というシーン最高レベルの達人を雇ったブルデス寄りプログレデスの傑作で、前作『Spheres』(4th・'93年発表)の煮え切らない仕上がりを反省し、複雑な音進行をストレートな展開で畳み掛けるとても“聴きやすく興味深い”仕上がりになっています。
(『Spheres』に関しては、上のインタビューで「ATHEISTやCYNICの“ジャズを導入したスタイル”についていくために、自分達は後からそれを聴き始めた」「シンセギターの用法を誤り、ソフトすぎる音を作ってしまった」と言っていますが、Allan Holdsworth寄りフュージョンのコードワークが巧みに活かされた傑作であり、聴き込む価値のある個性的な作品と言えます。)
2人のゲストに全く引けを取らないPatrickのリードギターはもちろん、Chuck Shuldinerの影響を独自に消化した奇妙なボーカルも良いもので、エキセントリックな味わいをとても洗練された語り口で示してくれる良いアルバムになっています。「はじめに聴く一枚」としてはこれがベストなのではないかと思います。

この次に発表された6th『Doctrine』('11年発表)は、上の2枚に比べるとややとっつきにくい仕上がりなのですが、このバンドならではの音遣いとアブノーマルな雰囲気がさらに高度に完成されていて、個人的には最も面白く聴ける作品になっていると思います。Ibanezの8弦ギターを導入し、それについて「MESHUGGAHはこれをリズム楽器として用いているが、自分達はコードワークの可能性を拡張するものとして用いている」と語った発言が示すように、最新の機材によって、他では聴けない個性的な音遣いが一層興味深いものに鍛え上げられているのです。復帰したPatrick Uterwijkをはじめとする「オランダ人のみで構成されたため意思の疎通がしやすくなった」バンドのアンサンブルも見事なもので、前作に勝るとも劣らない演奏表現力が発揮されています。独特の抑えた力加減が少々とっつきづらく感じられることもあるかもしれませんが、ぜひ聴いてみてほしい傑作です。

上のインタビューにもあるように、Patrick Mameliは「影響を受けるのがイヤだから他の音楽は(youtubeでプレイヤーを探すなどの場合を除いて)聴かない」と言い張り、音楽的なルーツや構成成分を自分から明かしてくれることは殆どありません。従って、この個性的な音楽性がどうやって生まれたものなのか具体的に分析するのは難しいです。しかし、そんなことをしなくても楽しめる“わかりやすい個性”に満ちた音楽ですし、その上で興味をかきたてられ、“読み解く”楽しみを味わせてくれるものでもあります。「プログレデス」シーンの流れを追うにあたっても、単純に優れた音楽としても、触れる価値の高いバンドだと思います。ぜひ聴いてみることをおすすめします。



NOCTURNUS(アメリカ)

The Key

The Key


(1st『The Key』フル音源)'90



XYSMAフィンランド

Yeah/First & Magical

Yeah/First & Magical


(1st『Yeah』フル音源)'91

(2nd『First & Magical』フル音源)'93

(5th『Girl on The Beach』フル音源プレイリスト)'98

'88年結成。フィンランドで最初にグラインドコアを演奏したと言われるバンドです。個性的な音楽性で当地のシーンを先導しただけでなく、スウェーデンストックホルム)のバンドと親交を結ぶことにより、両国の地下シーン間の交流を取り持つ役目を果たしました。(ENTOMBEDなどと仲が良かったようです。)

XYSMAは、結成当初はNAPALM DEATHやCARCASSの影響下にある直線的なグラインドコア / ゴアグラインドを演奏していましたが(バンド名もその流れを汲んでいます)、活動を続けるうちに70年代のハードロックや60年代のロック・ポップスなどの要素を大胆に取り入れるようになりました。'89年から'90年に発表された3枚のEPでそうした傾向が少しずつ表れ、'90年発表の1stアルバム『Yeah』で一気に爆発。CARCASS的な“正統派デスメタル”の音遣いと70年代ハードロック的な爽やかな音遣いを巧みに混ぜてしまい、それをやはりCARCASS的なグラインド・デスメタルの演奏感覚で表現する、というスタイルを完成させています。ボーカルはもちろんゴア寄りのデスヴォイスなのですが、明るく爽やかな音進行をしている場面でもそうした歌い回しが浮きません。奇妙な味わいを自然に聴かせてしまうバランス感覚は驚異的で、幅広く豊かな音楽要素をすっきりまとめあげる作編曲のうまさもあって、アルバムの仕上がりは極めて良好なものになっています。こうした路線をさらに推し進めた2nd『First & Magical』も同様の傑作で、荒々しい勢いと爽やかな落ち着きを両立した雰囲気は唯一無二。ともに(知名度は極めて低いですが)90年代の地下音楽シーンを代表すべき名盤と言えます。

このようにして生まれた独特のスタイルは「グラインドロック」「デス&ロール」と呼ばれ、同郷フィンランドのバンド(DISGRACE・CONVULSE・LUBRICANT・PAKENIほか)やENTOMBED(スウェーデン)、KORPSE(イギリス)やCSSO(日本)など、狭い範囲ではありますが、同時代のバンドに大きな影響を与えています。こうしたバンドはXYSMAと同様の音楽的変遷を辿り、「グラインドコアデスメタルで培ったグルーヴ感覚」を保ちつつ「70年代のハードロックや初期パンクの豊かな音遣い」を独自のやり方で作編曲に活かす活動をしていきました。当時XYSMAが与えた衝撃の大きさが窺い知れます。

XYSMAがこのような音楽的変遷を遂げることができた背景には、フィンランドという「“本場”でない」環境が大きく関わっていると思われます。
“本場”であるイギリスやアメリカでは、CARCASSのようなグラインドコアデスメタルは、70年代型のハードロックや80年代から連なる伝統的ヘヴィ・メタルとはかなり離れたところに区分され、交流をもつことはほぼありません。また、CARCASS自身がいかにそういうハードロック的なバックグラウンドを持っていたとしても、所属するシーンの“常識”や“水準”をある程度は意識してしまうので、そうしたシーンのイメージから一気に離れることは難しいでしょう。
しかし、そういう“本場”の常識とかイメージを持ち得ない「“本場”でない環境」においては、様々なジャンルがもとの文脈(シーンの関連性・時間軸など)から切り離され、並行するものとして受容されます。先に挙げたようなハードロックとデスメタルも、言ってみれば両方とも同じように自分から遠いものなわけですから、その二つを自分の中で“交流”させてしまうのも、そう難しくはないわけです。こうした話は、メタルに限らずありとあらゆるジャンルにおいて成り立ちます。そして、そういう立場にあったからこそ生まれた“オリジナル”も、実際数多く存在するのです。

たとえば、(メタルとは全く関係ない話で申し訳ないのですが)日本が世界に誇るテクノポップ・バンドYMOは、細野晴臣のブルースロック〜トロピカリズム、坂本龍一のフランス近代和声〜フュージョン的楽理、高橋幸宏ニューウェーブ〜ヨーロピアンポップスという異なる(「本場」ではシーン間に繋がりの薄い)要素を巧く組み合わせることにより、欧州にもない高度な音楽を生み出しました。これは、「本場」に憧れを抱いてそこから学びながらも、そのシーンの文脈に思い入れがなかったりよく知らなかったりする、という立場だからこそ可能になることなのです。
XYSMAの音楽も、そういう「“本場”でないことの強み」が見事に活かされたものなのだと言うことができます。本場のシーンの文脈を良い意味で無視することができ、しかも本場のシーンにない要素を加えることができる。こうした音楽的“交流”は「グラインドコアとハードロックの融合」に留まりません。ハードロックはおろか、メタルの世界では殆ど参照されることのない60年代以前のポップス(いわゆるオールディーズ)の要素も取り込んでしまい、それをパンク〜ハードコア的な音遣い感覚と組み合わせて新たなものを作り出しています。様々な音楽的越境が実践されていて、しかもそれらが素晴らしい成果を挙げているのです。

XYSMAの音楽は、先に述べたような「グラインドロック」「デス&ロール」路線を経て、「ストーナーロック」と言われるようなものに変化していきました。グラインドコア的な要素を表に残しつつ他の雑多な要素も前面に押し出し始めた3rd『Deluxe』('94年発表)では、ボーカルこそゴア寄りデスヴォイスのままですが、7 ZUMA 7のような強力なストーナーロックに通じるレトロ&サイケ感覚が出てきています。(PINK FLOYDやGONGというよりは「SPEED, GLUE & SHINKI寄りのジャーマン・ロック」的な個性的なもの。)そして、以降の4th『Lotto』('96年発表)・EP『Singles』('97年発表)・5th『Girl on The Beach』('98年発表)では、ボーカルはFrank SinatraElvis Presleyのような低音クルーナータイプに変化し、世界的にみても類のないタイプの素晴らしい歌モノハードロックを追求するようになります。初期パンク〜ハードコアの無骨な音進行をBEACH BOYSやJimi Hendrixのモード感覚で巧みに肉付けしたような音遣いは、結果的にSLINTなどのプレ・ポストロックバンドに通じる味わいを持ちながら、見事に独自のものに仕上がっているのです。これはEXTOLなどと並べて評価されるべき素晴らしい音楽的達成で、作品の完成度の高さもあわせて広く認知されるべきだと思います。しかし、もともと極めてニッチなシーン(アンダーグラウンドデスメタルシーン)で活動を始め、一般的に知られていない状態で激しい音楽的変遷を続けてきたこともあって、こうした傑作の数々はメタルシーンの中からも外からも殆ど注目されていません。ストーナーロックやハードコア、ポストロックのファンなどにも驚きを持って迎えられうる内容ですので、なんとか再評価を期待したいところです。

XYSMAの作品に触れるのならば、コンピレーション・アルバム『Xysma』('04)と『Lotto / Girl on The Beach』('05)が良いのではないかと思います。これらはともに2枚組。前者は'89〜'90年発表のEP3枚および1st・2ndアルバムが完全収録されていて、「グラインドロック」「デス&ロール」期の作品はこれ一つで揃います。また、後者は4th・5thアルバムのカップリングで、XYSMAが音楽的に最も成熟した時期の大傑作を2枚とも堪能することができます。シーンの流れを押さえたいのなら前者、デスメタル云々関係なしに優れた作品を聴きたいのであればまず後者をおすすめします。ともに他では聴けない極上の音楽です。

このバンドに限らず、グラインドコア出身のバンドは非常に面白い音楽展開をみせることが多いです。そもそもCARCASS自体が70年代英国ロックの要素を持っているわけですから、グラインドメタルとストーナーロックはもともと近いところにあるということなのかもしれません。
(CARCASSに在籍しARCH ENEMYとSPIRITUAL BEGGARSを結成したMichael Amottの例をみても、マニア気質の優れたミュージシャンが集まるシーンだというのはあります。)
そしてその中でも、XYSMAは最も面白い変化と素晴らしい達成をしたバンドの一つなのです。こうした功績が広く認知され、それに見合った評価を得られることを、心から願う次第です。



CARBONIZEDスウェーデン

Screaming Machines

Screaming Machines


(1st『For The Security』フル音源)'91

(2nd『Disharmonization』フル音源)'93

(3rd『Screaming Machines』フル音源)'96

'88年結成。スウェーデンのシーンを代表する「プログレッシヴ」「アヴァンギャルド」なバンドで、グラインドコア寄りデスメタルにKING CRIMSON〜VOIVOD的な要素を加えて独自のスタイルを生み出すことに成功しました。残した3枚のアルバムはどれも非常に個性的で、このジャンル全体をみても屈指の傑作と言えるものばかりです。

CARBONIZEDの音楽性は「どこから来たのか」分析するのが難しい部分があります。'88年から'90年にかけて発表されたデモ『Au-To-Daf』『Promo』『No Canonization』『Recarbonization』と、その後に発表された1stフルアルバム『For The Security』以後とでは、ギタリストが交代しており(Jonas DeroucheからChristofer Johnsson('88年に結成したTHERIONの中心メンバー)へ)、デモ音源収録曲を(10曲中5曲)引き継いで作成された1stアルバムでは、その変化の継ぎ目が見えづらくなっています。たまたま似た音楽性を持つメンバーを迎え入れたのか、それとも前任者の残した素材を後任者が巧みに料理したということなのか。複雑な味わいをもつ魅力的な音楽性ということもあり、そのあたりの興味も尽きません。

その1stアルバムでは、NAPALM DEATH〜CARCASSラインの音遣いにVOIVOD(のKING CRIMSON的要素)やMORBID ANGELのような風味を加えたグラインドコア寄りデスメタルをやっており、音遣いの成り立ちの性格もあってか、どこかDISCORDANCE AXISあたりを連想させる色合いが生まれています。直線的な勢いと複雑な味わいを両立した音楽性が素晴らしく、この手のスタイルにおいても最上級の優れた仕上がりになっていると思います。このバンドの作品の中でも最も評価の高い一枚で、スウェーデンの初期デスメタルシーンを代表するカルト名盤として(オリジナル盤は)高額で取引されています。

続く2nd『Disharmonization』はいわゆる問題作で、雑多でとりとめのない構成もあってか、1stを好むファンの多くからは酷評されています。1stのプログレッシヴ・グラインドコア路線から大きく転換し、チェンバー・ロック的な展開を導入しようと試みた感じの作風で、VOIVODの『Nothingface』に欧州のゴシック感覚を加えたのはいいけれど同様の完成度は得られなかった、という趣のスカムな仕上がり。(水木しげるの作品で例えるなら、VOIVODがメジャーデビュー後、CARBONIZEDが貸本初期といったところでしょうか。)慣れないと“余計なことを考えず”没入するのが難しい出来なのですが、落ち着きなく痙攣するようなアンサンブルも興味深く(グラインドコア的な速く直線的なリズムは上手くても、遅めのテンポでじっくり間をもたせるのはまだ下手という感じ)、非常に個性的で味わい深い内容ではあります。

これとは対照的に、最終作となった3rd『Screaming Machines』は素晴らしい仕上がりになっています。2ndアルバムで実験していた諸要素が高度な音遣い感覚のもとで活かされ、独特の不穏な“間合い”を持った演奏もうまくまとまり、全体として見事な調和をみせているのです。前作から多用されるようになったKING CRIMSON的要素も、“そのまま引用”するのでない個性的な解釈が見事で、この点ではVOIVODを上回っているのではないかと思います。全曲がここでしか聴けない音楽構造と雰囲気をもっていて、“フリ”ではないナチュラルな変態としての魅力にも溢れている。「初期デスメタル」だけでなく「プログレッシヴ・デスメタル」の枠においても屈指の傑作として評価されるべきアルバムです。

以上のように、CARBONIZEDの発表したアルバムは個性的な傑作揃いで、強くおすすめできるものばかりなのですが、1stの後が大コケ扱いされていることもあり、現物の入手は極めて難しい状況にあります。'03年に再発されたロシア盤も現在は入手困難。近年のスウェーデン・シーン再評価の波に乗って、なんとか再発が進むことを望みます。



diSEMBOWELMENT(オーストラリア)

Disembowelment

Disembowelment


(『Transcendence into The Peripheral』フル音源)'93

'89年結成、'93年解散。フューネラル・ドゥームと言われるスタイルを最も早く確立したと言われるバンドで、個性的で奥深い音楽性により後続に絶大な影響を与えました。唯一のフルアルバムは「デスメタル」の枠に留まらない大傑作で、90年代に生まれた音楽としてはあらゆるジャンルにおいても屈指の達成と言えます。本稿で扱う作品の中でも最高レベルの傑作。ゴシカルな雰囲気に抵抗のない方はぜひ聴いてみてほしい一枚です。

diSEMBOWELMENTの音楽性は「THE CUREJOY DIVISIONDEAD CAN DANCEあたりに初期NAPALM DEATHの音遣い感覚を加え、アンビエントデスメタルスタイルで演奏した」感じのものです。リーダーであるRenato Gallina(全ての作詞作曲を担当)は中東音楽に深く入れ込んでおり(diSEMBOWELMENT解散後にはそうした方向性を前面に押し出したフォーク / アンビエントユニットTRIAL OF THE BOWを結成します)、そこから得た音遣い感覚が初期NAPALM DEATHのようなグラインドコアの要素と混ざり合うことにより、イギリスのゴシック・ロックに通じる暗黒浮遊感が生まれた、ということのようです。全7曲(約60分)の半分以上は10分程度の大曲ですが、緻密で巧みな構成力と卓越した演奏表現力もあって、冗長な感じは全くありません。正統派デスメタルの“ドロドロした”感じのない音遣いは、クラシック音楽というよりはそれ以前の古楽バロック以前:16世紀以前)やビザンティン音楽(ギリシャ〜地中海発祥:9〜15世紀)に通じるもので、滑らかな湿り気を伴いながらも感傷的になりすぎない、独特のバランス感覚を持っています。また、音作りはノルウェー以降のブラックメタルにおける“霧のような”トレモロ・スタイルに近く、一般的なデスメタルの“重く密な”質感がないこともあり、“肉体の重みから解放された”感じを生んでいます。こうした要素が複雑に絡み合うことにより現れる雰囲気は唯一無二の薫り高いもので、苦しみに悶える激しいパートでも“聴き手に噛みつく”悪意は殆ど感じられず、高貴で厳粛な品の良さを常に伴っているのです。

このような雰囲気や音楽性は後のバンドに絶大な影響を与えており、「フューネラル・ドゥーム」と呼ばれるスタイルの原型にもなりました。特に、ブルース的な引っ掛かりの少ない音進行と、遅いパートでも重みを感じさせない“霧のような”“肉感の薄い”音作りは、BLACK SABBATH方面から派生したドゥームメタル(ELECTRIC WIZARDやSLEEPなど)とは一線を画すもので、CANDLEMASSやUNHOLYのような北欧のバンドとあわせて、SABBATH寄りドゥームと異なる流れを生む原動力となりました。また、NILEのKarl Sandersなど、ドゥームメタルとは別方面のミュージシャンにも多くの影響を与えています。
(Karlは、'97年のインタビュー http://www.darkages.org.uk/nile.html で影響源を問われた際、Graeme Revelle(ニュージーランドの映画音楽家)・Peter GabrielGENESIS出身のあの人)に続けてdiSEMBOWELMENTとTRIAL OF THE BOWの名前を挙げています。)
本活動中('89〜'93)は十分な認知を得られなかったバンドですが、他に類を見ない大傑作を残したことにより、しっかり歴史に残り、いまだに影響力を発揮し続けているのです。

diSEMBOWELMENTの作品は、現在Relapseレーベルから出ている2枚組CD『diSEMBOWELMENT』により、デモも含めた全音源をまとめて聴くことができます。全ての収録曲が比類のない名曲で、シーンの流れを押さえるという意味でも、単純に音楽を楽しむという点でも、他では聴けない素晴らしいものばかりです。初期デスメタルの枠で言えばMORBID ANGEL『Alters of Madness』やGORGUTS『Obscura』と並ぶ大傑作ですし、現代のシーンをみても、MOURNFUL CONGREGATION('93年結成)やULCERATEのようなオーストラリア〜ニュージーランドのバンドを理解するにあたって外すことのできない存在だと考えられます。ぜひ聴いてみることをおすすめします。



SEPTICFLESHギリシャ

Great Mass

Great Mass


(2nd『Esoptron』フル音源)'95

(3rd『Ophidian Wheel』フル音源)'97

(7th『Communion』フル音源)'08

(8th『The Great Mass』フル音源)'11

'90年結成。いわゆる「シンフォニック・デスメタル」「ゴシックデス」の代表格とされますが、そう呼ばれるものの中では突き抜けて高度な音楽性を持ったバンドです。80〜90年代エクストリーム・メタルの豊かな音楽的語彙が、正規の音楽教育によって培われたオーケストラ・アレンジの技法により個性的に強化される。作編曲能力も演奏表現力も圧倒的で、全ての面において極めて充実した音楽を聴かせてくれます。現在のメタルシーンにおいて最も優れたバンドのひとつです。

SEPTICFLESH('90〜'03年はSEPTIC FLESH名義、一度解散して再始動した'07年からは2単語をつなげてSEPTICFLESH名義になりました)の音楽的ルーツは、様々なインタビューでかなりはっきり示されています。
・IRON MAIDEN、MORBID ANGEL、CELTIC FROST、DEATH、PARADISE LOST
(この日本語インタビューhttp://www.hmv.co.jp/news/article/1406300071/だけでなく、どんな国での取材でも上記の5バンドを影響源の筆頭として挙げています)
・Paderewski、Stravinsky、Xenakisなどの近現代クラシックや、Elliot Goldenthal、Hans Zimmerなどの映画音楽
オーケストレーション担当のChristos Antoniouの影響源)
など。
こうしたものに加え、ギリシャ〜地中海音楽(9〜15世紀に発展したビザンティン音楽ほか、歴史的に重要な作品の宝庫)の要素も端々にみられます。
以上のような複雑な音楽的滋味が、当地特有の“歌謡”感覚・空気感(もしくは、地下室の天窓から強い陽がさしてきて光と影のコントラストができるような明暗のバランス)をもつ渋くメロディアスなかたちに整えられる。混沌とした豊かさを明晰に語りきる作編曲により、聴きやすさと奥深さが両立されているのです。

SEPTICFLESHの中心メンバーは
Sotiris Vayanas(ギター・クリーンボーカル)
Christos Antoniou(ギター)
Spiros Antoniou(ベース・リードボーカル
の3名。SpirosとChristosは実の兄弟です。
この3名がともに作曲に関与し
(Christosによれば「各人がアイデアを出し合うスタイルが絶妙なバランスで機能している」とのこと)、
その上で
・Christosがオーケストラパートのアレンジを全て担当
・曲ができたらそれをもとにSotirisが作詞
ギリシャやエジプトの神話、ラヴクラフト神話体系、夢の話など:殆どの場合「曲先」とのこと)
・アルバムジャケットなどのアートワークは全てSpirosが担当
PARADISE LOSTやNILE、MOONSPELLなど、数多くのエクストリーム・メタルバンドのそれを担当:こんな感じの作品ですhttp://photo.net/photos/SethSiroAnton
というふうにして、バンドメンバーだけであらゆる要素をまかなっていきます。そしてその全てが極めて高い品質を保っているのです。このような運営ができているという点でもとても興味深いバンドです。

SEPTICFLESHの発表した作品はその全てが他に類を見ない傑作ですが、とりあえず聴いてみるものとしては、上の4枚のうちのどれかがいいのではないかと思います。

2nd『Eσοπτρον』(英語表記では『Esoptron』(ギリシャ語で“Inner Mirror”というような意味とのこと):95年発表)は、Christosがロンドンの音楽大学に作曲を学びに行き('99年に学士・'00年に修士を取得)、ギリシャに残った2人だけで制作することになった作品です。Sotirisが作編曲と作詞の全てを手掛けた一枚で、後の壮麗なオーケストラ・アレンジとは異なる(アングラ感の強めな)仕上がりになっているのですが、それが非常にうまく機能していて、噛めば噛むほど味が出てくる素晴らしい“歌モノ”揃いのアルバムになっています。全体の流れまとまりも申し分なく、バンドの代表作と言える傑作の一つです。
これ以降は再びChristosが復帰し、大学の作曲科で学んだアレンジの技法を巧みに活かし始めます。3rd『Ophidian Wheel』('97年発表)は、そういう編曲技法と初期のアングラ感が絶妙なバランスで両立されている傑作です。IRON MAIDENのような“正統派”のスタイルを荘厳に熟成させたような音遣いも見事で、いわゆる“クサメロ”にならない渋いメロディを満喫することができます。NWOBHMゴシックメタルを混ぜて地中海風に料理したような仕上がりはありそうでないもので、その両ジャンルのファンにアピールするものなのではないかと思います。
ちなみに、1st〜4thでは、クレジットのドラムスの所に「Kostas(session)」という名前が載っていますが、実はこれ、人間ではなくドラムマシンです。予算の関係からほぼ全編に渡ってマシンが活用されているのですが、他のパートの完璧なアンサンブルにより、人力のドラムスに全く見劣りしない(というかそれ以上の)レベルで巧く活かされているのです。言われなければわからないくらい自然に使われていて、聴いていて違和感を感じる場面はありません。そういう点においても非常に興味深い作品群です。

この後バンドは6th『Sumerian Daemons』('03年)の発表直後に一度解散することになります。
その理由としては
・所属レーベルからの資金援助が不十分で、継続が難しかった
・Christosが作曲家の仕事でロンドンに行かなければならなかった
・Spirosもアートワークの仕事で多忙になっていた
ということなどが大きかったようです。こうしてSEPTIC FLESHはしばらく凍結されることになったのですが、その間もファンの「復活してくれ」という要望は鳴り止みませんでした。それに応えるかたちでバンドは'07年に復活。新しいレーベルからのサポートもあって、以前は殆どできなかった海外ツアーも頻繁に行えるようになり(Sotirisは銀行員の仕事のため長期ツアーには出られず、海外公演では代役を立てています)、メンバーの意識としてはここで初めて「バンドが始動した」ということのようです。

7th『Communion』('08年発表)はそうした流れで作られた傑作で、活動停止前では資金的な問題で使えなかったフルオーケストラが全編に渡って導入されています。Christosの入念なリサーチによって選ばれたのはFilmharmonic Orchestra of Prague
プラハのオーケストラで、映画やテレビ、ゲーム音楽などの録音に多数参加している:RHAPSODY OF FIREやDIMMU BORGIRなどシンフォニックなメタルバンドにも起用され、後者とはWackenのステージでも共演している)
で、SEPTICFLESHの作品としては群を抜いてリフ・オリエンテッドで攻撃的なスタイルに、不穏な柔らかさと奥行きを加えています。このアルバムの曲は印象的な上に聴き飽きにくいものばかりで、コンパクトに押し切る思い切りのいい構成もあって、バンドのスタイルに慣れていない人からすれば最もとっつきやすいものなのではないかと思います。入門編としてもおすすめできる一枚です。
続く8th『The Great Mass』('11年発表)と9th『Titan』('14年発表)においても同オーケストラが参加しており、複雑に洗練された作編曲を絶妙に盛り立てています。
(ロックやメタルにありがちな「オケの演奏はてきとうで“曲にそぐう歌い方をしていない”」というパターンとは一線を画します。)
どちらも大変優れた作品で、聴き込む価値は高いです。アルバム全体の流れまとまりの良さでは『Titan』、音作りと演奏の強力さでは『The Great Mass』というところでしょうか。個人的には『Titan』の音作りは「響きの美味しい所を削りすぎて色合いが乏しくなってしまっている」と感じられていまいちのめり込めないのですが(100回ほど聴き通した上での感想です)、それも好みの問題ですし、他の要素は申し分なく完璧です。聴いて損することはないと思います。

ここで触れなかったアルバムも優れた作品揃いで、メタルはおろか他のジャンルでも聴けない“混沌とした豊かさ”に触れることができるものばかりです。個性的な深みと聴きやすさを両立した極上のバンド。ぜひ聴いてみることをおすすめします。



 PAN.THY.MONIUMスウェーデン

3 Khaooohs & Kon-Fus

3 Khaooohs & Kon-Fus


(EP『Dream Ⅱ』フル音源)'91

(1st『Dawn of Dreams』フル音源)'92

(2nd『Khaooos』フル音源)'93

(3rd『Khaooohs & Kon-Fus-Ion』フル音源)'96

'90年結成、'96年解散。当時のスウェーデンにおいて最も特異な音楽性を持ったバンドの一つで、初期デスメタルシーン特有の“なんでもありの混沌とした豊かさ”を最高度に体現する作品を残しました。長尺の不可思議な展開をすっきり聴かせる作編曲とダイナミックな演奏表現力はともに圧倒的で、変なものが好きな方には即座にアピールしうる魅力があります。無名なのが勿体ない実力者集団です。

PAN.THY.MONIUMは、スウェーデンを代表するプロデューサー〜マルチプレイヤーDan Swanö(このバンドではDay DiSyaah名義・ベース)により結成された録音プロジェクトで、DanのメインバンドだったEDGE OF SANITYにはそぐわない奇妙なアイデアを試すための場だったようです。当初はライヴで再現可能なシンプルなスタイルだったのが、Robert Ivarsson(Mourning名義・リズムギター)と「BOLT THROWER『World Eater』のパクリのようなリフをジャムしていた」時から方向性が変わり、「CELTIC FROSTやHELLHAMMERのようなスラッジーなものを好む」Benny Larsson(Winter名義・ドラムス:EDGE OF SANITYでのDanの同僚)が加入して、後の複雑な音楽性が育っていったとのことです。
(2011年のDanのインタビュー
より。)
バンド全体としてはBOLT THROWERやNOCTURNUSの影響が大きかったようですが、Danが「ちょうどプログレデスメタル両方に一番のめり込んでいた時期だった」こともあり、曲想はどんどん長く複雑なものになっていきました。
3枚のフルアルバムにおいては、
「70年代プログレ〜ハードロックに中東風の音遣いを加えたような神秘的な長尺曲を、CARCASSをスラッジコア化したようなマッシヴなグルーヴで演奏する」
というような音楽が繰り広げられています。もう少し具体的に例えるなら
「アラビア風KING CRIMSONをCATHEDRALが演奏している」
ような感じでしょうか。しかしそうしたバンドよりも演奏力は格段に上で、グラインドデスメタル津波のようなグルーヴと、ドゥームメタルのどっしりした重たいグルーヴとが、滑らかに解きほぐされた美しいアンサンブルにより、汗臭くも整然と両立されています。(少し趣は異なりますが)OPETHをダイナミックにしたような感じもあり、土着的で薫り高い暗黒浮遊感が素晴らしい。ぜひ体験してみてほしい強力なバンドです。

上に挙げたインタビューにはPAN.THY.MONIUMの全作品についてDan Swanö自身の自己評価(5点満点)が掲載されています。
それによると
『…Dawn』(デモ・'90):4点
『Dream Ⅱ』(EP・'91):5点
『Dawn of Dreams」(1st・'92):3.5点
『Khaooos』(2nd・'93):2点
『Khaooos & Kon-Fus-Ion』(3rd・'96):3.7点
とのことで、大曲志向が強まったフルアルバムについては点が辛くなる傾向があるようです。しかし、一枚モノとしての完成度や演奏表現力の深さなどは後期に近づくほど増していきますし、こうした評価を気にせず聴いて頂けるのがいいと思います。
個人的には3rd『Khaooos & Kon-Fus-Ion』('96年発表)が最もわかりやすく・深く“刺さる”力を持っていると思います。2015年にLP再発されており、フィジカルメディアでは最も入手しやすい作品でもあります。
(デモ以外は過去に全てCDで発売されていますが、現在は廃盤で入手困難です。ただ、デジタルデータならば全フルアルバムをiTunesなどで購入可能です。)
1st『Dawn of Dreams』('92年発表)はもちろん、上で失敗作扱いされている2nd『Khaooos』('93年発表)も素晴らしい内容で、ハードロック〜ストーナーロック的な味わいを好む方には最もお薦めできる配合になっています。全ての作品に聴く価値があると思います。

PAN.THY.MONIUMというバンド名には「place of all evil」の意味があり、扱うテーマは「Raagoonshinnah(闇の神)とAmaraah(光の神)との戦い」だということです。ただ、ボーカルから歌詞を聴き取ることはほぼ不可能で、そもそも具体的な歌詞自体存在しないのではないかとも言われています。(メンバー自身が「歌詞に大した意味はない」と答えています。)こういう“神秘的に見せようとする”姿勢も含め、どうしてもカルトな印象がつきまとってしまうバンドなのですが、こじんまりした感じ(B級感)とか取っつきづらい雰囲気は不思議とありません。妖しくも親しみやすい、得体の知れない魅力に満ちた音楽で、複雑な成り立ちを気軽に呑み込ませてしまう妙な“聴きやすさ”があります。機会があればぜひ触れてみてほしいバンドです。



DEMILICHフィンランド

20th Adversary of Emptiness

20th Adversary of Emptiness


(『Nespithe』フル音源:39分あたりまで)'93

フィンランドの初期デスメタルを代表するカルトな強者。一般には殆ど知られていませんが、このジャンル全体を見ても屈指と言える素晴らしい作品を残しました。巡り合わせの悪さのために正当な評価を得られなかったバンドの典型であり、場合によってはシーンのオリジネイターにもなり得た不運の実力者でもあります。再評価が待たれる優れたバンドです。

DEMILICHが残した唯一のアルバム『Nespithe』('93年発表)は、「初期デスメタル」と「テクニカルデスメタル」の良いところを組み合わせたような大傑作です。既存の何かを真似せずに自分の手で“一から作り上げた”複雑な音楽性と、効率化に走らない“熱さ”に満ちた優れた演奏表現力が両立されていて、音楽的にも雰囲気表現の面でも他にない個性が生まれています。MORBID ANGELやPESTILENCEなどと比べても見劣りしない格があり、アルバムとしての構成も完璧です。
この作品の印象を一言で表すならば「VOIVOD+クトゥルー系正統派デスメタル(MORBID ANGELなど)+後期DEATH」という感じなのですが、音遣いの“ダシ”の部分は少し異なっていて、そこにVOIVOD〜KING CRIMSON的な味わいはありません。
音楽性のほぼ全てを先導するリーダーAntti Boman(ギター・ボーカル)は、全音源収録盤『20th Adversary of Emptiness』用のインタビューで
NAPALM DEATHの『Scum』('87年発表・1st)に衝撃を受けてこのジャンルに入り、BOLT THROWER・PESTILENCE・CARCASS・NAPALM DEATHなどに惚れ込んでいた
・カバーは好まない:自分は常に自分独自のものを作ろうと努めてきた(コピーは二流のやること)
と語っており、ここに挙げられているようなバンドのエッセンスを参考にしつつ自分の手で“一から作り上げる”ことにより、こうした複雑な音楽性ができてしまったということのようです。
特殊な浮遊感を漂わせながら妙な引っ掛かりを生むフレーズがあまりコード付けされずに放り出されているスタイルなのですが、BOLT THROWERやPESTILENCEを聴いてその音遣い感覚を知ることにより、このようなフレーズの“基準点”“座標軸”のようなものを感覚的に把握することができ、奇妙な作編曲を全編にわたって納得できるようになります。他にあまりない“ダシ”からなる音楽性なため、はじめは掴みづらい部分も多いのですが、上のようにして勘所を知ってしまえば、淡白にドロドロした独特の味わいに酔いしれることができるようになるのです。非常に印象的なメロディ揃いのギターソロもノンエフェクトの超低音ボーカル(リバーブ以外は一切加工していない)も素晴らしく、リードパートの存在感は強力無比。ジャズ・ロック的な機動力と“間”の表現力を両立したドラムスなど、他のパートも手練揃いで、作編曲だけでなく演奏面においても、只ならぬ強力な雰囲気を楽しむことができます。全ての点において充実した「初期デスメタル」「テクニカルデスメタル」の大傑作です。

ただ、こうした作品をモノにしたのにもかかわらず、このバンドがリアルタイムで正当に評価されることはありませんでした。数多くのレコード会社にデモ音源を送りながらも、複雑な音楽性が災いしてか、多くの場合まともな反応を得ることはできず、契約に至ったNecropolis Recordsもアメリカの弱小レーベルで、上記フルアルバムのために与えられた制作費は乏しく(6日以内に全作業をこなさざるを得なかったようです)、プロモーションも殆どなし。本活動中はアメリカはおろかヨーロッパツアーさえ組むことができず、上記フルアルバムの発表1週間後に行われたスウェーデンストックホルムでのライヴ(友人関係にあったCRYPT OF KERBEROSに招かれ、DEMIGOD・ETERNAL DARKNESS・UTUMNO・NEZGAROTHらと一夜のみのイベントを行った)を除けば、'95年の活動停止まで一度もフィンランド国外でライヴをすることはできなかったようです。
こうした巡り合わせの悪さや、「サブジャンルの間ですら相互扶助のあったシーンが、ブラックメタルやその他のクソガキどもにより分断され、あらゆることに疲れてしまい、何のインスピレーションも得られなくなってしまった」というシーンへの失望などもあってか、メンバーは『Nespithe』発売直後(2週間後あたりとのこと)から徐々に活動意欲を低下させていったようです。そこですぐに解散したわけではなく、デスメタル以外の音楽を演奏したりしていたようですが、次第にその機会も減っていき、リハーサル場所を失う頃には全くやらないようになってしまったとのこと。その後は、ベーシストがポップ・ロックプロジェクトの方に向かったのを除けば、Anttiを含む他のメンバーは(音楽的には)何もせずに暮らしていくことになったのでした。

しかし、こうした状況は'98年頃から少しずつ変わっていくことになります。『Nespithe』を後追いで発見し、当時の常識(「テクニカルデスメタル」の現役バンドなど)との比較から新鮮な衝撃を受けた若い世代の声が増えてきたことにより、Anttiは一度失った意欲を少しずつ回復することになったのです。'02年にはテスト運転を始め、'05年〜'06年には数曲の録音とツアー(アメリカ含む)〜“1回目の最終ギグ”を、'10年には“最後の最終ギグ”を行い、その後も、かつてリハーサル場所に使っていた建物が取り壊されるということで'13年2月に行った“完全非公式のさよならリハーサル場所ギグ”など、断続的に活動を継続。そして、'14年には正式に再結成し、'15年3月にはフェスティバル出演を実現するなど、「確約はできないが(はっきりした約束はしたくない)、今後もやっていく可能性は十分ある」という考えのもと、マイペースな活動を続けているようです。

他の項で触れているBLIND ILLUSIONやCONFESSORなどもそうなのですが、アンダーグラウンドな音楽シーンにおいては、こうした“不運の実力者”が少なからず存在します。シーンの歴史全体を見渡しても屈指の大傑作を残したのに、狭いシーンの中ですら十分な認知を得られないために、誰にも知られず活動を停止していってしまう。そうしたバンドは一部のマニアの間で細々と語り継がれ、「カルトな名盤を残した実力者」としての名声を得ることはできるのですが、ニッチなジャンルの外から評価される機会を得ることは殆どありません。こういう“歴史の闇に埋もれた大傑作”はメタルに限らずどんな世界にも存在し、後の世代による発掘を待ち続けています。このような発掘はアンダーグラウンドシーンを掘り下げるにあたっての最大の楽しみと言えますが、そんな(熱意と労力の要る)作業は本来不要なものです。誰もが容易にこうした大傑作に触れられる環境こそが“あるべき”状況なのです。
「DEMILICHのような不遇のバンドが正当な評価を得るきっかけを提供する」というのは本稿の主な目的の一つです。このようなバンド達に注目して頂ける方が少しでも増えれば幸いです。

DEMILICHの音源は、その全て(リマスタ前)が彼らのホームページにアップされており、無料でダウンロードすることができます。
ぜひ聴いてみることをおすすめします。



CRYPTOPSY(カナダ)

None So Vile

None So Vile


(2nd『None So Vile』フル音源)'96

(4th『And Then You'll Beg』フル音源)'00

いわゆる「テクニカルデスメタル」「ブルータルデスメタル」を代表するバンド。そうした路線の先駆けとされるSUFFOCATIONなどを参考にしつつ、複雑な構成を超高速で演奏するスタイルを推し進め、多くのミュージシャンに大きな影響を与えました。この【初期デスメタル】の項で扱うものの中では現在の主流に最も近いバンドで、そうした意味でも、シーンの傾向が変化していくさまを体現していた存在と言えます。

「テクニカルデスメタル」「ブルータルデスメタル」は、「初期デスメタル」がより“extreme”で“brutal”なインパクトを目指し、“速く”“重たい”体感的側面を強調していくことで生まれたスタイルです。速く細かいフレーズを完璧に滑らかに同期させ、極端に低音を厚くした音作りで手応えを与える。そうした方向性は、抽象的で得体の知れない雰囲気よりもわかりやすい刺激を求めるもので、精神に訴えかけることよりも(数値で計測できるような)肉体的なインパクトを生み出すことを重視しています。例えば、CARCASSのKen Owen(ドラムス)のような“なりふりかまわず暴れる”崩れた演奏よりも、その倍の音数を完璧に整ったフォームでこなすような、ストレートに滑らかな演奏を目指す、という感じです。こうした傾向は、メタル・シーンにおけるメカニカルな意味での技術水準を大きく引き上げることに貢献しました。(特にドラムス。)しかしその一方で、先のKen Owenのようなやり方でなければ表現できない“衝動”や“切迫感”はないがしろにされ、淡白に整った“スポーティな”演奏が注目される風潮を生むことにもなったのです。
このような傾向は、「初期デスメタル」の混沌とした豊かさ(そしてブラックメタルなどにも通じる“精神に訴えかける何か”)を愛するファンからは全く歓迎されないもので、“複雑にすることそれ自体が目的になっている”ような曲作り(雰囲気表現のための素材というよりも演奏の難度のみを意識した、“運指の練習”の域を出ないような、“考えオチ”感の強いフレーズなど)もあわせ、そうしたファンから避けられる大きな理由になっています。また、その一方で、わかりやすいインパクトに欠けたり、“こもった”“rawな”音質のためにとっつきづらくなっていたりする「初期デスメタル」も、はっきりした刺激を求める「テクニカルデスメタル」「ブルータルデスメタル」のファンからは敬遠されることが多く、両者の間にはある種の溝が生まれています。
(こうした関係はジャズの世界における「モダンジャズ」と「フュージョン」の関係になぞらえられるものです。)
現在のデスメタルシーンは、このような「テクニカル」「ブルータル」寄りのバンドが大勢を占めつつ、そうしたスタイルの“味のなさ”を嫌って「初期」に回帰しようとする「初期デスメタルバイバル」のバンドが増えてきている状況にあります。一時期は前者のスタイルが持て囃され、“インパクトはあるが淡白”な作品ばかりが目立っていましたが、「初期デスメタル」の混沌とした豊かさを意識しつつ独自の路線を切り拓くバンドや、両方のスタイルをあわせて個性的な傑作を生み出すバンドも増えてきており、作品そのものの“深み”を意識する方へ揺り戻しが起きているようです。個人的にはとても良い傾向だと思います。

CRYPTOPSYは、「初期デスメタル」と「テクニカルデスメタル」「ブルータルデスメタル」の間に位置する(前者から後者を生み出していった)バンドの代表格です。フィジカルなインパクトを重視する傾向はありますが、メンタルに訴えかける姿勢もある程度は残っています。
2nd『None So Vile』('96年発表)はそうした方向性が完璧なバランスをもって結実した大傑作で、複雑ながらすっきりまとめられた作編曲も、圧倒的な技術をもって凄まじい勢いを描き出す演奏表現力も、最高の仕上がりと言っていいのではないかと思います。シーンを代表する「ハイスピード&ハードヒット」の達人ドラマーFlo Mounierだけでなく全メンバーが素晴らしく、特にボーカルLord Wormの異常なパフォーマンスは、単体ではやや淡白なところもある楽曲に良い感じに猟奇的な雰囲気を加えています。(SLAYERの『Reign in Blood』と同じような意味で)このジャンルの歴史的名盤と言える作品なのではないかと思います。
4th『And Then You'll Beg』('00年発表)は、複雑化する音楽性が明晰な語り口によってうまくまとめられたアルバムで、無味乾燥になっていない「テクニカルデスメタル」の範疇では最高位に位置すべき作品です。「デスメタルに限らず様々な音楽を聴く」「デスメタルにつきまとう悪魔崇拝とか血みどろのイメージには辟易している」というメンバーの“純粋に勢いのあるものを求める”姿勢が、デスメタルのサウンドスタイルを援用しつつ見事に発揮された作品で、密度の濃さと爽快な聴き味とが見事に両立されています。3rdから加入したボーカルMlke DiSalvoのハードコア〜グラインドコア寄りの歌い回しも好ましく、様々な意味でクリーンになってきた音楽性によく合っていると思います。聴き込む価値のある作品です。

(3rd発表前の'98年4月に行われたJon Levasseur(ギター)のインタビューhttp://www.chroniclesofchaos.com/articles.aspx?id=1-162では、そういう姿勢が表明されているほか、音楽的な影響源が具体的に示されています。
'92年の結成当時はメンバー全員がデスメタルの大ファンで、NAPALM DEATH、SUFFOCATION、CANNIBAL CORPSE、MORBID ANGEL、ENTOMBED、DISMEMBER、特にMALEVOLENT CREATIONなどに影響を受けていたようです。
(Jonは、SUFFOCATION『Effigy of The Forgotten』(1st・'91)とMALEVOLENT CREATION『Retribution』(2nd・'92)を2大ベストアルバムに挙げ、INTERNAL BLEEDINGやDYING FETUS、AUTUMN LEAVESなどの「テクニカルデスメタル」バンドがSUFFOCATIONの1stに影響を受けていないと言っているのは「信じられない」と語っています。)
また、それ以後は様々な音楽を聴くようになり、DREAM THEATERやPRIMUS、DEAD CAN DANCEのようなバンドはメンバー全員が大好きだということです。
他のインタビューも、「4thまでの作品では一切クリック・トラック(ヘッドホンから聴くメトロノームのようなもの)を使っていない」「Floが特に影響を受けたドラマーはDennis ChambersやDave Weckelsだ」ということなど、興味深い情報が満載です。一読の価値があるものが多いです。)

この4thアルバム以降、CRYPTOPSYは少々迷走することになりますが(Flo以外の全メンバーが交代したり、音楽性に賛否両論が起きたり)、個性的で強力な演奏表現力や、独特の妄念を感じさせる豊かな音楽性という点では、相変わらず他になかなかない魅力を保ち続けています。
「初期デスメタル」から「テクニカルデスメタル」「ブルータルデスメタル」が生まれていくシーンの流れをみるにあたっても良い資料になるバンドですし、その両方のファンから受け入れられる音楽性を持っているという点でも、意外と稀なポジションにある存在と言えます。一聴の価値があるバンドです。