【2022年・上半期ベストアルバム】

【2022年・上半期ベストアルバム】

 

・2022年上半期に発表されたアルバム(上半期に聴き逃したもの含む)の個人的ベスト20選(順位なし)です。

 

・評価基準はこちらです。

 

http://closedeyevisuals.hatenablog.com/entry/2014/12/30/012322

 

個人的に特に「肌に合う」「繰り返し興味深く聴き込める」ものを優先して選んでいます。

個人的に相性が良くなくあまり頻繁に接することはできないと判断した場合は、圧倒的にクオリティが高く誰もが認める名盤と思われるものであっても順位が低めになることがあります。「作品の凄さ(のうち個人的に把握できたもの)」×「個人的相性」の多寡から選ばれた作品のリストと考えてくださると幸いです。

 

・これはあくまで自分の考えなのですが、他の誰かに見せるべく公開するベスト記事では、あまり多くの作品を挙げるべきではないと思っています。自分がそういう記事を読む場合、30枚も50枚も(具体的な記述なしで)「順不同」で並べられてもどれに注目すればいいのか迷いますし、たとえ順位付けされていたとしても、そんなに多くの枚数に手を出すのも面倒ですから、せいぜい上位5~10枚くらいにしか目が留まりません。

(この場合でいえば「11~30位はそんなに面白くないんだな」と思ってしまうことさえあり得ます。)

 

たとえば一年に500枚くらい聴き通した上で「出色の作品30枚でその年を総括する」のならそれでもいいのですが、「自分はこんなに聴いている」という主張をしたいのならともかく、「どうしても聴いてほしい傑作をお知らせする」お薦め目的で書くならば、思い切って絞り込んだ少数精鋭を提示するほうが、読む側に伝わり印象に残りやすくなると思うのです。

 

以下の20作は、そういう意図のもとで選ばれた傑作です。選ぶ方によっては「ベスト1」になる可能性も高いものばかりですし、機会があればぜひ聴いてみられることをお勧めいたします。もちろんここに入っていない傑作も多数存在します。他の方のベスト記事とあわせて参考にして頂けると幸いです。

 

・いずれの作品も10回以上聴き通しています。

 

 

 

[上半期20](アルファベット音順)

 

 

Angelique KidjoIbrahim MaaloufQueen of Sheba

 

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 アンジェリーク・キジョーはベナン共和国(西アフリカ、公用語はフランス語)を代表するシンガー/ソングライター、イブラヒム・マーロフはレバノン出身でパリ育ちのトランペッター。本作の基本的な音楽性は、ユッスー・ンドゥールセネガル出身)あたりにも通じる西アフリカならではの超絶アフロポップなのだが、そこにイブラヒムの特殊仕様トランペット(アラブ音階の微分音を扱えるように開発されたとのこと)が非常に良い味を加えている。アルバムのコンセプトである『シバの女王』の国について、その所在地はエチオピア(東アフリカ)と南アラビアの二説あり、両地域は深い繋がりがあるようで、これはアンジェリークとイブラヒムの関係性になぞらえたものでもあるのだろう。

 という蘊蓄を並べるとなにやら難しい作品に見えるかもしれないが、音楽それ自体は非常に聴きやすい。例えば1曲目「Ahan」は5拍子、6曲目「Ife」は7拍子だが、各パートのアクセントのずらし方がとにかく格好良く、個性的な作り込みとわかりやすい勢いに何も考えず浸れてしまう。アフロポップならではのたくましくまろやかな鳴り(その最たるものがアンジェリークのボーカル)は絶品、完璧な身体能力をそのまま音にしたようなリズムアンサンブルもたまらない。その上で、メロディもコードも美しい捻りに満ちている。ほどよいスパイスの効いた特濃ミルクのような音楽で、コクがあるのに喉越し滑らかで全然しつこくない。ロック的な感覚でも楽しめる傑作である。

 

 

 

Boris:W

 

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 梅雨の時期によく合う天上のドローンロック。シューゲイザーというかアンビエントに接近した作風で、音像は雲の動きのように気長で掴みどころがないように見えるが、各曲の展開はよく整理されており、歌ものとしても優れた仕上がりになっている。

 本作を聴いていて特に印象的に思えるのがBorisの“ドローンぢから”である。これは特に「Drowning by Numbers」に顕著なのだが、セッション参加したTOKIEのベースはファンク的にキレが良く休符の処理も鋭いのに、Borisの3人が靄のように漂い続けているからか、聴き手を“踊らせる”類のノリは全く出ていない(これはプロデューサーのシュガー吉永によるBuffalo Daughterと比べてみるとわかりやすい)。そして、本作においてはそれが正解だという説得力にも溢れているのである。こうした特性は他の作品でも常に示されているが、先述のような歌もの構成と組み合わさった形で楽しめるものは多くないし、“上空にいるからこその明るさと空気の薄さ”みたいな音像(これはCAN『Future Days』の光化学スモッグ感などに通じるものでもあるかも)は、そうした配合を活かす舞台として至適なものに感じられる。所在のわからない異物感に微妙にイライラさせられながら深く落ち着くような居心地がたまらない傑作である。

 

 

 

Brad Mehldau:Jacob's Ladder

 

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現代ジャズシーンを代表するピアニストの最新作。自身をこの世界に導いたプログレッシヴロックを主題としたアルバムで、2020年4月から2021年1月にかけてリモートで制作が行われた。

本作では、これまでのカバー作品同様、原曲のフレーズを引用しつつ大幅な再構築がなされているのだが、その解釈が本当に素晴らしい。例えばGentle Giant「Cogs in Cogs」は、このバンドが隠し味としてきたアフロポリリズムバロック音楽の要素を抽出し組曲化する創意が見事だし、Rush「Tom Sawyer」は原曲の7拍子を7×7+6拍子に拡張しつつ冴えたソロを乗せる構成が美しい。アルバムの流れも完璧で、主題がキリスト教の音楽としても、ジャズ〜プログレ〜メタルの繋がりを解き明かしてみせる音楽批評としても、超一級の完成度を示す傑作だと思う。マーク・ジュリアナのドラムスもニール・パートやビル・ブルーフォードの強化版という趣で最高。ネタ扱いでなく評価されるべき優れた作品である。 

 

 

 

caroline:caroline

 

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 Gastr del Solとタージ・マハル旅行団を近年のロンドン周辺シーンの感覚で統合発展したような音楽で、印象的なメインリフと後景で変化し続ける豊かなレイヤーの絡みが素晴らしい。この手の音楽性に慣れていない人でも抵抗なく聴きはじめられるだろうキャッチーさと、時間を忘れてのめり込めるアンビエント〜ドローン感覚が見事に両立されていて、ずっと快適に聴き流せてしまえるし、その上でつい思い出して聴きたくなる。末永く付き合っていけるだろう極上のアルバム。

 

 

 

DIR EN GREYPhalaris

 

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こちらの記事で詳説した。これほど暗く複雑に渦巻いているのに聴きやすい音楽は滅多にないし、バンドのそういう持ち味が徹底的に強化されることで初めて可能になったアルバムなのだと思う。

 

 

 

The Ephemeron Loop:Psychonautic Escapism

 

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 シューゲイザーやダークアンビエントethereal、ノイズやグラインドコアブレイクコアやダブテクノのようなクラブミュージック方面から地下水脈を辿って様々なサブジャンルに至る音楽性の豊かさ、膨大で無節操な折衷性みたいなことが第一印象としてはわかりやすく、過剰で荒削りというふうに見えるのも尤もなのだが、そのようなイメージに反してソングライティングは非常に優れており、そういう構築/統合的な在り方こそが得難い持ち味になっているアルバムなのだと思う。8曲80分の長尺を意外なくらい負担なく聴き通せてしまえる理由はそのあたりにもあるのでは。

 自分の得意分野に絡めていうと、5曲目「Trench Through Pink Death」は不協和音デスメタルをインダストリアルブラックメタル経由で上記のサブジャンル群に接続したような大曲で、展開構成の見事さもあわせ、メタル側の歴史からみても特筆すべき優れた楽曲だと思う。エクストリームなものがいける人は全員聴いてみてほしい傑作である。

 

 

 

 

藤井風:Love All Serve All

 

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 こちらこちらで詳説した。正直言ってサウンドプロダクションはもっと良くできたのではないかとも思うのだが、作編曲や演奏は文句なしに見事。一見普通な顔をしていながら実はかなりイレギュラーな構造の(だからこそ“見た目は普通”なことが重要な効果を生んでいる)音楽だ、ということに気付けたのは上の記事ふたつを書くにあたり繰り返し聴かざるを得なかったからで、そういう外的な要請にさらされた結果まんまと好きにさせられてしまう、というのも良い経験になったと思う。化けていく過程を捉えたような作品だが、その上で全体の流れまとまりもとてもいい。非常に優れたアルバムである。

 それにしても、リラックスした聴き心地の良さと異常なテクニカルさをこれほど完璧に両立するボーカルは滅多にない。超絶的な技術とそれに溺れない人柄のなせる業なのだろう。

 

 

 

High Castle Teleorkestra:The Egg That Never Opened

 

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 このバンドの音楽性を一言でいうならば、フランク・ザッパのビッグバンド寄り作品とThe Beach Boysを混ぜて東欧あたりのフォーク/トラッドを注入し、変則的なリズムトリックとメタルリフを大量に加えたら、Mr. Bungleを人当たりよくした感じの美しい化け物が生まれた、というところだろう。High Castle TeleorkestraはTim Smolens(Estradasphere、I.S.S.)とChris Bogen(Doc Booger)の2名により結成された遠隔レコーディングバンドで、他のメンバーは、元EstradasphereのDave MurrayとTimb Harris、元Mr. BungleのBar Mckinnon、そしてFarmers MarketのリーダーであるStian Carstensen。いずれも(非常にニッチな)界隈では知る人ぞ知る名人ばかり。本作もそちら方面のプログレッシヴロックやジャズロックに連なる音楽性なのだが、上記のような作り込みの奥行きが段違いに凄い上に、歌ものとしてのポップさも素晴らしい。どの曲も印象的なリードメロディで埋め尽くされていることに加え、The Beach Boysの薫り高いハーモニーを完全に消化し発展させた多声アレンジがとにかく魅力的。「Diagnosing Johnny」はそれこそThe Beach Boysの名曲群に勝るとも劣らない出来栄えだし、「The Days of Blue Jeans Were Gone」の異常なリズム構成(基本的には4拍子と思われるのだがアクセントのずらし方がイレギュラーすぎる)など、バッキングを聴き込む楽しみにも溢れている。その上で、7拍子のキメがBPM300から加速する「Mutual Hazard」など、異常な馬力を軽快に聴かせる場面も多い。メンバーの関連バンドを知っている状態でたまたま検索で発見する以外に知る方法がないのが難点だが、高度で複雑なわりに音楽的な敷居は低く、この手のスタイルに馴染みのない人も惹き込む訴求力に満ちていると思う。最近のblack midiが好きな方には特におすすめ。ぜひ聴いてみてほしい。

 

 

 

Manuel Linhares:Suspenso

 

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 ポルトガル出身のシンガー/ソングライターなのだが、ブラジル音楽の精髄(MPBやミナスものなど様々)を集めたような音楽性で、その上で確かにブラジル出身ではこうならないだろうという捻りが効いている。弾き語りでも問題なく惹き込める楽曲骨格の強さはマルコス・ヴァーリあたりにも通じるし、それをビッグバンド化したアレンジの見事さは、ジャズや南米音楽の大作曲家たちに勝るとも劣らない。アントニオ・ロウレイロがプロデュースで関わった作品は傑作が多すぎるが、本作はその中でも屈指の出来栄えなのではないかと思われる。アルバムとしての構成も完璧。7月16日現在でBandcamp購入者が25人しかいない(2月頭に自分が買った時は一桁台だった)のが信じられない、歴史的名盤扱いされてもいいくらい素晴らしい作品である。

 

 

 

Messa:Close

 

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 Messaはイタリア出身のバンドで、2016年の1stフルと2018年の2ndフルではドローン/アンビエント成分も含むフォーク寄りの楽曲が多かった。この2022年3rdフルではプレ・フューネラルドゥーム的なエッジを加え、60年代ジャズ的な音進行や鳴りも取り込んだ上で、Opethあたりに通じるメロディアスな長尺展開を描くスタイルに変化している。エピックメタルとゴシックメタルの美味しいところを抽出融合した音楽性は、Death SSとTribulationを自然に融合したような仕上がりで、Chelsea WolfeとPink Floydを足したらこうなるのではないかというメロウなパートも素晴らしい。暗く潤っていながらも悲壮感や絶望感に溺れすぎない雰囲気が絶品だし、うるさいロックに慣れていない人でも抵抗なくハマれるのではないだろうか。今年のメタルを代表する傑作の一つだと思う。

 

 

 

Meshuggah:Immutable

 

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 6年ぶりのリリースとなった9thフル。Meshuggahの音楽性はこんな感じの長尺4拍子擬似ポリリズム(言葉本来の意味での「ポリリズム」ではない)+不協和音で、そこの部分は1998年3rd『Chaosphere』から変わらず引き継がれているのだが、その上で楽曲全体の構成や時間感覚をどうするかはアルバムごとに少なからず変化してきている。具体的には、2008年6th『obZen』から16小節周期のリフが増え(例えば「Lethargica」は開幕の0〜36秒が1周期)、その長周期化傾向は2012年7th『Koloss』と2016年8th『The Violent Sleep of Reason』でさらに発展。特に8thフルは、数種類のリフの反復ではなく、曲の場面によってフレーズ構成がどんどん変わっていく(従って他作品に比べ格段に覚えにくい)交響曲的な構成になっており、その上で全編印象的に仕上げられていて聴くぶんにはあまり問題ないのが凄いのではあるが、バンドの方向性としては少なからず迷走している印象もあった。創設メンバーの一人で長くリーダー的存在と目されてきたFredrik Thordendalの関与が7thフルから一気に減り、8thフル以降はリードギターでしか参加していない(その後のツアーでも代役を立てていた)理由はこうした音楽性の変化にもあったのではないだろうか。路線としてはある意味行くところまで行った後の展開として、最新9thフルがどうなるかということに注目が集まっていたのである(上記のような理解はほとんどされていなかっただろうけれども)。

 そうして発表された9thフルは、7thフル以降の長周期化傾向を完璧に洗練された形に整理・再構築したものになっている。例えば、冒頭を飾る「Broken Cog」のイントロリフの拍構成は以下の通りである。

〈7+15〉×8+〈7+9〉=192=〈3×4〉×16 (単位は16分音符というか3連符)

3連符の4 拍子系16小節に綺麗に収まるこの構成は、最初はスネアドラムが入っていないこともあって〈7+15〉のパーツを把握するのは容易で、繰り返し聴いていくうちにこのパーツの長さ感覚がインストールされる。スネアが入ってからもそれが引き継がれるため、回転径の異なる複数の歯車が絡む様子を、(少なくとも過去作に比べれば格段に)容易に楽しみ理解できるようになっているのである。本作の収録曲は全編こんな感じによく解きほぐされており、その上で特有の不協和音遣いは過去最大に刷新されている。これは、7thフルの頃から作曲のメインを担当するようになってきたMarten(今回は13曲中8曲、他はDick単体またはDickとTomasの共作)によるところが大きいのだろうし、コンセプトを引き継ぎつつある意味では別のバンドに変貌したことをよく示しているのではないかと思う。

 自分はMeshuggahを20年前から聴き続けているが、個人的にはこの変化は十分アリである。13曲66分という尺(1時間越えは初めて)はちょっと長めで、1〜2曲削った方が構成が締まってより良かった気もするけれども、程よく間伸びした時間の流れは先述の長周期リフ構成によく合っているし(このバンドならではのアンビエントな居心地が明確なフレーズ展開のもとでうまく示されている)、その上で、2005年5th『Catch 33』から本格駆使されてきた8弦ギターサウンドの集大成と言えるプロダクションも素晴らしい。もちろん演奏は常に最高。過去作同様、数十年単位で無限に繰り返し聴き続けられるアルバムになっていると思う。

 

 

 

MWWB:The Harvest

 

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こちらで詳説した。ゴシックロック〜ゴシックメタルリバイバルとしての文脈面でもオリジナリティの面でも素晴らしいアルバムで、重心の低いマッシヴなハードロックサウンドを介してシューゲイザーにも繋がっている(そちら方面のファンにも歓迎されている)のも興味深い。傑作だと思う。

 

 

 

OMSB:ALONE

 

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 リリックも良いのだが、それ以上に曲や演奏(ラップ&ビートの出音)に惹かれる。個人的に、ヒップホップを聴いていると「格好良いんだけどリフ(ループするフレーズ)の強さは実はそうでもないのでは」というか(これはラップを映えさせるために必要な“一歩引いたアレンジ”でもあることはわかっているんだけれども)、「曲の良さ」の具合をヒップホップ的な水準に合わせて強引に納得していることもあるのではないか、と思ってしまうことも少なからずあるのだが(そこは一般的なポップミュージックと価値観というか快感原則が異なるのだということはわかる)、本作は文句なしに曲もリフも良く、そういう余計な配慮抜きで楽しめる(今年リリースのアルバムではbilly woods『Aethiopes』なども同様の感銘を与えてくれた)。アルバム全体の構成も素晴らしく、気分の浮き沈みが大きすぎないなだらかな流れまとまりもあってか、何度でも繰り返し聴きたくなってしまう。サブスク配信だけにせずロスレスのDL販売もしてほしいものである。

 

 

 

大石晴子:脈光

 

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こちらで詳説した。独特な時間の流れ方が素晴らしい音楽で、歌詞を読みながら聴くと曲展開や演奏の特殊な妙味が引き立ち、それらの表現力に焦点を合わせやすくなる。その意味で、変則的な形をしてはいるが優れたポップミュージックであり、世代を問わず多くの人に訴求する作品になっているのではないかと思う。最後の「発音」にはキリンジアンモナイトの歌」やマイルス・ディヴィス「In a silent way」あたりに通じるゆったりした時間の流れがあり(こういう居心地が曲ごとに異なるのに、それらが並ぶことでアルバム全体としての輪郭が綺麗に整うのがまた面白いところだと思う)、個人的には特に惹かれる。広く聴かれるべき傑作である。

 

 

 

The Smile:A Light for Attracting Attention

 

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 国内盤CDのライナーノーツを担当した。バンドの成り立ちや参加ミュージシャンの豊かな人脈はできればそちらを参照いただくとして、作品の持ち味としては、どうしても引き合いに出されてしまうRadioheadと比べ、あらゆる面において良い意味で“だだ漏れ”になっている音楽だと思う。アルバムコンセプトとかシーンにおける戦略・見られ方みたいな対策をほとんど打つ必要がない“よくわからない新規バンドのデビュー作”という立場を謳歌できているからか、快活な勢い(「You Will Never Work in Television Again」など)も底意地の悪い尖り方(冒頭を飾る「The Same」の冷たく陰険な雰囲気など)もかつてなくストレートに滲み出ているし、そういう気分は収録曲のバリエーションの豊かさに反映され、雑多で収拾がつかないようでいて不思議とまとまりの良いアルバム構成に繋がっている。昨今のシーンにおける立ち位置という点では、ジャズやクラシックの優れたプレイヤーによるラージアンサンブルに巧みな編集を施した音響構築がとにかく見事で、安価な機材で良いサウンドを作れる現代においても金をかけなければ実現できない類のプロダクション、という意味でも意義深い作品だと思う。変則的な構造をしていることもあって解釈や位置付けの難しい音楽だが、そこに取り組む価値はあるし、そんな小賢しいことを考えなくても深く楽しめる傑作である。

 

 

 

SukeraSono:【終末百合音声】イルミラージュ・ソーダ〜終わる世界と夏の夢〜【CV:奥野香耶

 

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 「冗談抜きで日本のアンビエントエレクトロニカで一番良いです」「英国には『Everywhere at the End of Time』があり、日本には『イルミラージュ・ソーダ』がある」というこれ以上あるか級の絶賛を見てDLsiteで購入。実際その通りの素晴らしい作品である。声の表現も音の鳴らし方も基本的にはASMRの流儀に則ったものなのだが、それらの絡みで4次元的な時間・空間感覚を鮮明に描き出すサウンドアートが凄すぎる。日常の何気ない会話の裏で不穏に鳴り響く極小のドローンまたはグリッチ、効果的に差し込まれる無音処理など、音響構築は緻密の極みで、イヤホン/ヘッドホンをつけて静かなところで聴かなければ仕掛けの1%も見えないし、繰り返し聴いて細部を把握するほどに手応えが増していく。声の表現力もそうしたサウンドに勝るとも劣らないくらい素晴らしく、一言一言の音色の描き分け、そこから嫌味なく醸し出される複雑なニュアンスの描写も、長い無言を至適な間として保たせる語りのペースもたまらない。それらを活かす脚本も見事で、序盤のほのぼのとした雰囲気を踏まえつつ安直に済ませない展開がおそろしい。『少女終末旅行』や『十三機兵防衛圏』などが好きな方は(少し趣は異なるが)ぜひ聴いてみてほしい。

 なお、上記DLsite掲載のトラックリストはDLデータとは異なっていて、実際は、1〜7が本編「記録音声」、8〜13がMerzbowを爽やかにしたようなハーシュ/グリッチノイズ、14〜16が特典音声となっている。本編(旋律や和声を伴う楽曲としても楽しめる音楽的なつくりなので、「ボイスドラマみたいなのは苦手なんだよな」という方でも大丈夫)とノイズパートを併せて聴くことでより深く味わえるようになるし、それぞれ単体でどれほど繰り返し聴いても飽きない。「知る人ぞ知る名作」で済まされるのは勿体ない、稀代の傑作である。

 

 

 

Trauma Bond:Winter's Light

 

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 完璧に整ったパワーバイオレンスにグラインドコア的な瞬発力を加え、Neurosisにも通じるマッシヴな大河グルーヴにダブテクノを混ぜてアンビエントへ接続した上で、普通なら50分を超えるだろう全体の尺を20分余に圧縮したようなアルバム。この「圧縮」というのがキモで、全くダレずに聴き通せるのにどこか腑に落ちない印象がつきまとい、それでいて出音は異常に良いのでつい繰り返し聴き通させられてしまう。これは、ハードコアならではの短距離走反復構成とアンビエント/ドローン的な気の長さとがシームレスに併置されている上で、後者の展開がフレーズの特性的にも記憶に残りにくい(それはアンビエントを成功させるために必要な条件でもあるだろう)、というのが大きいように思われる。以上のような“フレーズの立ち方の違い”や異なる時間感覚を、例えばMeshuggahのように一体化させるのではなく、そのまま並べて各々のグラデーションを表現するということ、そしてそれを約20分の短い尺の中でやり逃げ的に達成してしまっている、ということには是非もあるだろうが、Bandcamp掲載の公式説明によればEPでなくアルバム扱いとのことなので、これは自覚的な構成なのだろう。グラインドコアパートの高速BPMに耳というか体感速度が慣らされることでアンビエントパートの茫漠とした時間の流れを適切なペースで吟味できない、という状態に強制的に仕向けられるようなつくりの(従って、うまく吟味するためにはトラック単位で抜き出して聴き込んでみる方がいいのかもしれない)特殊なアルバムだが、それだけに興味は尽きず、現時点で30回以上聴き通してしまっている。ハードコアとノイズを併置するこの手のエクストリームメタル作品は近年だいぶ増えてきた印象があり、直近でもCandyやKnollが素晴らしいアルバムを出していたが、演奏や不協和音のタイプもあわせ、個人的にはこのTrauma Bondの方が気に入っている。今後の活動も楽しみな傑作である。

 

 

 

Voivod:Synchro Anarchy

 

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活動40周年を飾る15thフル。Voivodはメタルとハードコアの歴史において最も重要なバンドの一つで、プログレッシヴロックとパンクを黎明期のスラッシュメタルに融合した唯一無二の音楽性は、“不協和音メタル”“Sci-Fiメタル”と呼ばれる系譜の祖となった。本作は、その土台を築いた天才ギタリストPiggyの没後、2008年に加入したChewy(Daniel Mongrain)込みでの3枚目のアルバムで、前任者の味を引き継ぎつつ新たな次元を切り拓く驚異的な創意が示されている。4thフル『Dimension Hatross』や5thフル『Nothingface』あたりの入り組んだ変拍子を滑らかに発展したリズム構成、不穏な安らぎに満ちたコード進行、ロックに限らず史上屈指といえるバンドアンサンブル、それらを美味しく聴かせる極上のサウンドプロダクションなど、全ての要素が素晴らしい。Piggy在籍時の持ち味を引き継ぎつつ実は過去になかったアイデアも満載で、「Synchro Anarchy」の初期Cynic的ソロや「The World Today」のToxik風ソロなど関連ジャンルの歴史に敬意を示し未来につなぐ仕掛けがたまらないし、「Quest for Nothing」中盤のファンキーなカッティングギターなど、メタルという音楽形式の可能性をさらに切り拓くアイデアも見事。自分はこのバンドのアルバムを全て聴いているが、本作が最高傑作だと思う。ディスク2収録の2018年ライヴも超絶。広く聴かれるべき極上の逸品である。

 

 

 

Whatever The Weather:Whatever The Weather

 

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 氷室の穏やかな空気に包まれるような極上のアンビエントIDM音響(Aphex Twinの『Selected Ambient Works』シリーズから底意地の悪い不穏さを取り除いた感じ)。梅雨のじめじめした暑さに対する清涼剤として大変お世話になった。こういう納涼サウンドはありそうでなかなかないものだし、これからの季節はさらにありがたみを増していくのではないかと思われる。お気に入りバンド3選にCirca Survive・toeハイスイノナサ(いずれもポストハードコア〜マスロック方面の名グループ)を挙げ、本名?のLoraine James名義で『Reflection』というUKガラージIDMの傑作をものにしているだけあって、アンビエントな曲調でも一つ一つのフレーズは印象的で、聴き流しても聴き込んでも楽しい。この手の音楽領域への入門編としても素晴らしいアルバムだと思う。

 

 

 

250:PPONG

 

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 250の日本語読みはイオゴン。ポンチャック(チープなリズムボックスの上で様々な曲を歌い繋いでいく韓国の大衆音楽で、日本で言うなら演歌カセットテープをディスコ化したような感じだろうか)のルーツである「ポン」を探求し、そこから懐かしくも新しいダンス音楽を生み出す新進プロデューサーとのことで、本作がデビューアルバムとなる。そうしたバックグラウンドからそのまま連想される類のオールドスクールな音色も確かに多いのだが、その上で本作はとにかく音がいい。引っ掛かりと鮮度を高次元で両立する音響は現代の欧米のポップミュージックに引けを取らないものだし、そうしたプロダクションにより、暴れ回るアナログシンセの鳴り(これはハードロックの弾きまくりギターソロに通じるものでもあるだろう)をはじめとした演奏(韓国歌謡界の名プレイヤー揃い)が最高の形で映えている。日本では、ポンチャックというとその紹介者である電気グルーヴのイメージが強いと思われるが、そこに通じるユーモラスな佇まいを備えながらもシリアスな情感にも満ちており、それらを仏頂面(アルバムジャケットの感じ)で不可分に接続するような雰囲気は、本作のかけがえのない妙味になっている。どの曲も非常によくできているし、アルバム全体の流れまとまりも素晴らしい。即効性と味わい深さを兼ね備えた傑作である。

 

 

 

【紐付けツイートINDEX 2022】

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随時更新中。

長文連続ツイートのアタマに飛ぶリンク集です。

 

2014年版

 

 

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寄稿など一覧

 https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1273934771811307522?s=21

 

 

 

《ライヴレポート》

 

5/12:ももいろクローバーZ @ フェスティバルホール

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1524752468898639872?s=21&t=K7K2dypRVshMrp7VMDJTAg

 

5/16:Thundercat @ The Garden Hall

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1526169691420360705?s=21&t=qD7ruNyzyYGctHOufc3Ugg

 

6/26:FESTIVAL FRUEZINHO(Sam Gendel & Sam Wilkes・坂本慎太郎・Bruno Pernadas・cero)@ 立川ステージガーデン

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1540924544604844032?s=21&t=utgHRghC_tSAPlzKDGhe3A

 

6/28:優河 @ 東京キネマ倶楽部

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1541724275958489088?s=21&t=KYlp6T1wpCfYiuVzNwtSRw

 

6/30:三浦大知 @ 東京国際フォーラム ホールA

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1542435706093846529?s=21&t=KYlp6T1wpCfYiuVzNwtSRw

 

7/10:BUCK-TICK @ KT Zepp Yokohama

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1546052088064798720?s=21&t=NYUbW3tQLIYoAMSt8v_Tvw

 

7/27:COALTAR OF THE DEEPERSBoris・COLLAPSE @ 吉祥寺 CLUB SEATA

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1552225104230490112?s=21&t=9canv6WYSVrzTK4OpI4cJg

 

8/14:DOWNLOAD JAPAN 2022 @ 幕張メッセ ホール1-3

Dream TheaterBullet For My ValentineMastodon・Steel PantherSoulfly・At The Gates・Code Orange・The Halo Effect)

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1558611628626968577?s=21&t=xA-VONENyt6dTSLvwoqOTQ

 

8/18:Måneskin @ 豊洲PIT

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1560235415957045249?s=21&t=gSXfKeJ09pi5cWhk1RvtVg

 

8/20:Summer Sonic 2022

(The Linda Lindas・Beabadoobee・Rina Sawayama・Bridear・Raise A Suilen・Måneskin・King Gnu・The 1975・KIRINJI)

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1560807193062313985?s=21&t=UwB_txjLL6jNb-3nrs7fiA

AREA DIP 2022 in Midnight Sonic

(Phum Viphurit・SIRUP・Se So Neon

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1560977832586932226?s=21&t=UwB_txjLL6jNb-3nrs7fiA

 

9/3:堂本剛 @ 平安神宮

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1566000088891424768?s=46&t=HKEZaeXn9k5vlCaS5n_1OA

 

9/4:橋の下世界音楽祭 @ 千石公園

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1566273786546356224?s=46&t=HKEZaeXn9k5vlCaS5n_1OA

 

9/18:氣志團万博 @ 袖ヶ浦海浜公園

聖飢魔IIHYDEDOPING PANDAももいろクローバーZ氣志團・GEZAN・岡崎体育私立恵比寿中学

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1571335778588065792?s=46&t=HKEZaeXn9k5vlCaS5n_1OA

 

9/21:Little Simz @ KANDA SQUARE HALL

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1572514353567657984?s=46&t=HKEZaeXn9k5vlCaS5n_1OA

 

 

《その他》

 

The Weeknd『Dawn FM』

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1479470861883420674?s=21

 

宇多田ヒカル『BADモード』

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1483513261605924864?s=21

 

Hikaru Utada Live Sessions from Air Studios

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1483770517652111364?s=21

 

Zeal & Ardor『Zeal & Ardor』

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1491814482091585536?s=21

 

NMIXX「O.O」についての記事、そこに絡む「転調」「ビートスイッチ」の話など

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1497826901079257091?s=21

 

Sasami『Squeeze』

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1497958294329376774?s=21

 

Metallica『St. Anger』再考

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1503368805288116225?s=21

 

森山直太朗『素晴らしい世界』

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1504469501370585088?s=21

 

中村佳穂『NIA』

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1506548932713025542?s=21

 

Dream Widow『Dream Widow』

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1507281009578221571?s=21

 

Soul Glo『Diaspora Problems』

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1507790159110373377?s=21

 

Meshuggah『Immutable』

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1509568272777506816?s=21

 

大石晴子『脈光』

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1520763856918048769?s=21&t=iiDBe02u4bA7MUOVkGSowA

 

MWWB『The Harvest』

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1523300119931920386?s=21&t=8kf93kGW43ffJDV-bdCZnA

 

DIR EN GREYDUM SPIRO SPERO

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1531289895226200065?s=21&t=5wI3LnwEBSW5pZrXjbRU-Q

 

音楽と歌詞の話

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1537982767887433729?s=21&t=KYlp6T1wpCfYiuVzNwtSRw

 

black midi『Hellfire』

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1547599634243399680?s=21&t=ECUbY_hb5qRW109Ra0JzgA

 

明日の叙景『アイランド』

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1552579637989228544?s=21&t=dsbSMqw58FrwS_Ev0wiSIA

 

Chat Pile『God's Country』

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1557319851974471680?s=21&t=CTYlnOM7lXe3Yn-X7RgGZw

 

BRIAN ENO AMBIENT KYOTO

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1565960917480886272?s=46&t=HKEZaeXn9k5vlCaS5n_1OA

 

 

 

【2021年・下半期ベストアルバム】

【2021年・下半期ベストアルバム】

 

・2021年下半期に発表されたアルバム(上半期に聴き逃したもの含む)の個人的ベスト20(順位なし)です。

 

・評価基準はこちらです。

 

closedeyevisuals.hatenablog.com

 

個人的に特に「肌に合う」「繰り返し興味深く聴き込める」ものを優先して選んでいます。

個人的に相性が良くなくあまり頻繁に接することはできないと判断した場合は、圧倒的にクオリティが高く誰もが認める名盤と思われるものであっても順位が低めになることがあります。「作品の凄さ(のうち個人的に把握できたもの)」×「個人的相性」の多寡から選ばれた作品のリストと考えてくださると幸いです。

 

・これはあくまで自分の考えなのですが、他の誰かに見せるべく公開するベスト記事では、あまり多くの作品を挙げるべきではないと思っています。自分がそういう記事を読む場合、30枚も50枚も(具体的な記述なしで)「順不同」で並べられてもどれに注目すればいいのか迷いますし、たとえ順位付けされていたとしても、そんなに多くの枚数に手を出すのも面倒ですから、せいぜい上位5~10枚くらいにしか目が留まりません。

(この場合でいえば「11~30位はそんなに面白くないんだな」と思ってしまうことさえあり得ます。)

 

たとえば一年に500枚くらい聴き通した上で「出色の作品30枚でその年を総括する」のならそれでもいいのですが、「自分はこんなに聴いている」という主張をしたいのならともかく、「どうしても聴いてほしい傑作をお知らせする」お薦め目的で書くならば、思い切って絞り込んだ少数精鋭を提示するほうが、読む側に伝わり印象に残りやすくなると思うのです。

 

以下の20枚は、そういう意図のもとで選ばれた傑作です。選ぶ方によっては「ベスト1」になる可能性も高いものばかりですし、機会があればぜひ聴いてみられることをお勧めいたします。もちろんここに入っていない傑作も多数存在します。他の方のベスト記事とあわせて参考にして頂けると幸いです。

 

・いずれのアルバムもデータ(CD以上の音質)購入のうえ10回以上聴き通しています。

 

 

 

[下半期best20](アルファベット音順)

 

 

Anna YamadaMONOKURO

 

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 「アナログシンセ弾き語り」と言われるとPhew(新譜『New Decade』が素晴らしかった)のような不穏でつかみどころのないものが連想されるかもしれないが、本作は印象的な歌ものばかりで非常に聴きやすい。どの曲も変則的ながら極めて印象的なポップソングになっていて、それこそ“全曲シングルカット可能”な訴求力があり、その上でアルバム全体としての流れまとまりも完璧。青葉市子や寺尾紗穂に通じる(その上でしっかり独自の味がある)ボーカルも、『Zero Set』やLiaisons Dangereusesのようなコニー・プランク仕事(またはSOFT BALLET)に通じる音響も、淡白さと艶やかさの両立具合が素晴らしいというほかない。泣き疲れた後の凪を不愛想に潤してくれるような聴き心地は唯一無二で、多くの人にとっての大事な“人生の友”になりうる一枚なのではないかと思う。各種ストリーミングサービスやBandcampにないからか全然話題になっていないのが勿体なさすぎる大傑作。少しでも興味を持たれた方はぜひ。

 

2nd Album "MONOKURO" | annayamada.net

 

 

 

Arooj Aftab:Vulture Prince

 

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 最初に聴いた時点では「まあ良いけどそこまでピンとこないかな」くらいの感想しか得られないけれども、なんとなく5回ほど聴き通しているうちに、イントロが流れた時点で「これは名盤だろ」としか思えなくなるようなアルバムがある。本作はその最たるもので、各曲のゆったりした時間感覚と、それらがすべて集まることで生まれるロングスパンの居心地、その足並みの揃い方が本当に素晴らしい。Aroojの声にはゆったりこびりつくような肌触りがあって、過去作でアンビエント寄りの作品を志向していたからこそ可能になったのだろうこの歌唱表現はこのアルバムの核になっているし、それを控えめに彩る種々の楽器も絶妙なはたらきをしている。哀嘆に暮れつつ日々のささやかな仕合せを嚙みしめるような気分も実に得難く、涙がゆっくり地面に沁み込んでいくような聴き心地は接するほどにかけがえのないものになっていく。グラミー賞ノミネートも当然の傑作だと思う。

 

リリース当初はサブスクでも聴けたが、現在はBandcampのみの配信になっている模様

Vulture Prince | Arooj Aftab (bandcamp.com)

 

 

 

betcover!!:時間

 

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 レイトショーの行き帰りにとてもよく聴いた。驚異的に素晴らしい配信ライヴを観るとやはり生の表現力が神髄なんだろうなとも思うけれども、このスタジオアルバムにも(というか「にこそ」)本当に特別な気分が捉えられていると思う。冒頭の「幽霊」はPink Floyd影響源一覧には挙げられていないけれども)系譜の英国ロック歌謡として至高の一曲だと思うのだが、そこからKing Kruleを連想する人も多く(それも確かによくわかる)、世代やバックグラウンドによって異なるものを想起しつつ深く惹かれるこういう様子をみると、確かに時間を超える訴求力を勝ち得ている傑作なのだなと感じる。最高の“夜の音楽”だと思う。

 

 

 

cali≠gari:15

 

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 cali≠gariについては過去の年間ベスト記事ZINEでいろいろ書いてきたが、それは主に「深く惹かれる一方で、自分にはうまく飲み下せないタイプの澱があり、それがどんな質のものなのか理解したい」という動機からくるものだったように思う。そういう葛藤を本作ではあまり感じずにいられるのは、まずなによりも音が良いというのが大きい。ライヴではPA~音響の出来が基本的に悪く(たまにものすごく良くなるがアベレージは低い)、過去作もドンシャリ気味のサウンドが各パートの良さを十二分に伝えきってはいなかったように思うのだが、本作はそういうドンシャリ傾向を維持しつつ完璧に素晴らしい仕上がりになっていると感じる。変則的なラインを美味しく掘り下げ続ける超絶ベースが極めて良好に捉えられているだけでなく、複雑に作り込まれたシンセまわりも一音一音が鮮明に映えていて、ボーカルはもちろんギターもほどよいバランスに収まっている。このバンドの音楽性に自分が感じる異物感というのは、音進行感覚の面でメタルやブルース寄りの育ちでパンクやニューウェーブ的なごつごつした飛躍に馴染みきれていないという個人的資質が少なからず関係していると思うのだが、本作ではその両サイドを後者寄りに繋ぐcali≠gariの持ち味が極上のサウンドによりノーストレスで伝わってくるためか、こうした異物感をむしろ積極的に楽しむことができてしまう。「コロナ環境でフロアが騒げないのに暴れ曲ばかり集めてしまった」と言いつつしっかり緩急の配慮もなされている曲順構成も素晴らしい。cali≠gariの作品はいずれも異なる味わいに仕上げられているのでこれが最高傑作と断言するのは難しいが、自分にとっては間違いなく最も肌に合うアルバムである。

 

 

 

Cynic:Ascension Codes

 

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こちらの記事で書き忘れたので補足しておくと、ベースギターでなくシンセベース(打ち込みではなくプロ奏者の生演奏)を全面的に駆使したほとんど初めてのメタル作品であり、それだからこそ可能になるアンサンブル表現を最高の条件(クオリティ、そしてバンドのネームバリュー)で達成したアルバムともいえる。『The Portal Tapes』の方向性をあるべき姿で(しかも2021年だからこそ可能になる音楽観と音響で)実現した一枚であり、歴史的名盤1stフルに勝るとも劣らない傑作なのではないかとも思う。

 

 

 

Devin Townsend:The Puzzle

 

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 過去作とは大きく異なる居心地に最初は戸惑わされたものの、それがジム・オルーク『The Visitor』やヴァン・ダイク・パークス『Song Cycle』に通じるもの(個人的には水木しげる作品の淡々とした無人地獄散歩が連想される)という視点が得られたあとは一気に手応えが増し、『The Puzzle』というタイトルにも納得しつつ深く没入できるようになった。こういう「特殊な在り方(雰囲気やロジックなど)」とそれを「(親切に説明しないとしても)明確に提示する、または気付くきっかけを与えている」のを兼ね備えたものこそが傑出した作品なのだとも思うし、本作の場合は自分はたまたま一周目で手応えが得られたものの、それを掴むためには試行錯誤が必要であり(聴く側の理解力や気分・体調などによって“観測者の条件”が変わることもあって)、だからこそ繰り返し聴くことは重要なのだとも思う。何年経っても新鮮に聴けるだろう素晴らしいアルバム。

 

 

 

Dream Unending:Tide Turns Eternal

 

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詳しくはこちらの記事を参照。アンダーグラウンド領域で培われ陰湿なテーマの表現(個人的にはそれも大事なものだと思うが)ばかりに用いられてきた音楽スタイルを、そうしたテーマや気風と切り離さず、それだからこそ可能になる類の深みある前向きな雰囲気に昇華してしまえているのが本当に素晴らしいと思う。特に最終曲の最後の5分ほどは、この遅く重たい音楽だからこそ可能になる“勇気”の表現としてたまらないものがある。「終わらない夢」ではなく「夢は終わらない」というニュアンスを見事な説得力をもって示す傑作である。

 

 

 

ENDRECHERI:GO TO FUNK

 

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 こちらの全曲解説でも書いたように、圧倒的にクオリティの高いファンクをやりながらも伝統的なスタイルを尊重しすぎてその枠内に留まっていた過去作とは一転、そうしたセオリーを押さえつつ作編曲の面でも音響・演奏感覚の面でも完全にオリジナルな境地へ到達している。これを実質的に2名(堂本剛とGakushi)だけで作ったのは凄すぎるが、その2名の卓越したリズム処理能力が高純度で噛み合うからこそ可能になるグルーヴ表現を聴くと、この制作体制だからこそ可能になった作品なのだという納得も得られる。ビートミュージックの歴史に輝くべき傑作アルバムだし、聴かず嫌いの人はぜひ聴いてみてほしいものである。

 

 

 

Injury Reserve:By The Time I Get to Phoenix

 

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 エレクトロニック・ミュージック一般に対する耳を啓いてくれたという意味において、個人史的にきわめて重要な一枚になったアルバムである。音楽スタイル的にはエクスペリメンタルなヒップホップの極みという感じで、Shellacをサンプリングするなどトラックは音響的にもリズム型的にも複雑怪奇なのだが、その一つ一つのパートの響きの干渉が実に見事で、よくわからない種類の美味に浸らされているような気分を味わえてしまう。この“音響アンサンブル”に慣れたことで多くの電子音楽の聴き方(の勘所)が具体的に掴めるようになったし、ヒップホップはトラックのメインリフ(ドラムやベースではなく)にまず注目しそこを通してラップを聴くようにすれば旨みの芯にアクセスしやすくなるということもやっとわかった。全体の構成としては「Postpostpartum」から「Knees」の繋ぎが何度聴いても「わからなくはないけどちょっと唐突では?」と感じてしまうなど納得しきれない部分も多いのだが、そういう飛躍こそが重要なタイプの作品だとも思えるし、驚異的な滋味深さと納得のしきれなさが相まってつい何十回も聴き返してしまうアルバムになっている。深い葛藤を滲ませるエモという趣の叙情も好ましい。これとDos Monos『Larderello』を聴き込んだ9月は自分の音楽的経験においてとても重要な時期になったと思う。

 

 

 

Jana Rush:Painful Enlightenment

 

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 ジューク/フットワークをフリー音楽(ジャズやデレク・ベイリーみたいなの)化したようなトラックの驚異的な興味深さはともかくとして、2曲目と4曲目で繰り返される喘ぎ声が個人的には邪魔なものと感じられて(そこまで嬉しい類の音声ではないというのを差し引いた上でも、性的に刺激させられずに落ち着いて聴き込みたいというスタンスにおいて)引っ掛かる、その上で聴き込むというのが続いていたのだが、そうしているうちに、その喘ぎ声を意識し過ぎず、かといって目を背けるのでもなく聴く、というのが大事だということがよくわかってきた。それは、喘ぎ声サンプルを無視するとその周辺帯域を意識から外してしまい他パートの聴き取りも不十分になってしまうからというのもあるし、この音楽そのものの在り方として、性欲を対象化しつつ無機質なものとして扱いきることもできないさまを示しているから、というのもあるのだろう。複雑なニュアンスを饒舌に示す音色(乾きつつ潤うような高速ハイハットの鳴りなど)と難解な楽曲構造の取り合わせも見事で、よくわからないまま惹きつけられ何度も聴いてしまうし、そうやっているうちに曖昧な情感が曖昧なまま鮮明になっていく。稀有の体験、というか付き合い方ができるアルバムだと思う。

 

 

 

Katerina L'dokovaMova Dreva

 

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 アントニオ・ロウレイロ全面参加、ということでブラジル(ミナス)音楽やジャズ方面の視点で見られることが多そうではあるけれども、それらに隣接しつつ確かに異なる領域を切り拓いているように思う。ロウレイロのドラムスとピアノは確かに見事だが、他メンバーも同等以上に素晴らしく(個人的にはベースというかコントラバスの歌伴に唸らされる)、Van Der Graaf GeneratorSlapp Happy的な雰囲気にも深く惹かれる。派手ではないがどこまでも滋味深い、できたての乳製品のような音楽。気兼ねなく何度でも聴き込めてしまう傑作である。

 

これほどの作品なのにBandcampでは自分を入れて4人しか買っていないのをみると、知られるきっかけというのは本当に重要で難しいものだなと思う。

 

 

 

KIRINJI:crepuscular

 

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 「これが年間ベストに入ってないのは単に聴いてないからだろ」と(暴論だとはわかってはいるけれども)言ってしまいたくなるような“わかりやすい傑作”はやはりあって、KIRINJIの本作などはその最たるものではないかと思う。バンド期最後のアルバムとなった前作『cherish』に勝るとも劣らない(方向性が異なるためどちらが上とは言えない)傑作で、ここ数年の圧倒的な仕事ぶりをみていると、間違いなく日本を代表するソングライターだと思うし、全盛期のSteely Dan(『Aja』『Gaucho』)をも上回っているのではないかという気もしてくる。堀込高樹は過去作もあわせてみるとわりと曲調が限られるタイプの作曲家で、本作も『BUOYANCY』や『For Beautiful Human Life』収録曲に似たものが多いのだが、そういう得意パターンを扱うにあたってのコード感覚や音響アイデアのような“搭載するエンジン”がここ数年で大幅に更新され、それにつれて手癖的なメロディ遣いも微細に変化、結果として安定感と新しさが絶妙に両立されているように思われる。頻出する南米音楽的な和声感覚も、もともとのルーツだったのだろう70年代フュージョンAORThe Beach Boys的なものから現代ジャズ~ミナス音楽的なものへ変化、その上で独自の個性も深化。一人体制での1stフルとなる本作では、今の日本の音楽シーンを代表する若手プレイヤーが多数参加している(そして、そこと堀込との接続役をベースの千ヶ崎学が見事に担っている)こともあって、こうした傾向が顕著に表れていると感じる。こういう様子をみると「こんな凄いのを作ってしまって次は大丈夫なのか」みたいな心配はもうしなくていいんだなと思える。掛け値なしの傑作である。

 

 

 

Little Simz:Sometime I Might Be Introvert

 

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 おそらく今年最も絶賛されたアルバムであり、音楽的なクオリティや人脈(Saultで名を馳せたInfloのプロデュース仕事など)の面でも、社会的なテーマ表現の面でも(そういう切り口がわかりやすく見えているという意味においても)、ケンドリック・ラマ―の『To Pimp a Butterfly』(2015)に並ぶポジションを勝ち得た作品なのではないかと思う。個人的には、UK周辺のビートミュージックを総覧するようなトラックの見事さはもちろん、マーヴィン・ゲイ『What`s going on』やフィリーソウルに連なるブラックミュージック・オーケストラの一つの到達点としても興味深いし、ハファエル・マルチニとベネズエラ・シンフォニック・オーケストラによる歴史的名作『Suite Onirica』のような南米ラージアンサンブルと並べて聴けるようなところにも惹かれる。みんなが聴いていようがいまいが良いものは良いし、自分にとってそういう意味で大事ならそう認めるほうが好ましい。リリック(国内盤の対訳がありがたい)も参照しつつ時間をかけて聴き込んでいきたい素晴らしいアルバム。

 

 

 

Moor Mother:Black Encyclopedia of the Air

 

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 Injury ReserveとDos Monosで(ともにどちらかといえばヘヴィロック的な音響感覚を備えていたためか)ヒップホップやエレクトロニック・ミュージック一般に対する“音響的聴き方”を啓かれたことは、同時期に出たこのアルバムに接するにあたってとても良い準備運動になったと思う。過去作に比べ格段にコンパクトに整理された本作では、Moor Motherがこれまで取り組んできたフリージャズ(所属バンドであるIrreversible Entanglementsでも)や電子音楽の語彙が魅力的に混淆され、アンダーグラウンドなブラックミュージックの領域だからこそ生まれる2020年代プログレッシヴロック、という趣の音楽が呑み込みやすく提示されている。それはJamire Williamsにも言えることだし(Bauhausと『Lizard』~『Islands』期のKing Crimsonが現代ジャズ経由で混ざっているような感じが味わい深い)、そこから重要レーベルInternational Anthemの存在を知ることができたのも良かった。こういう尖鋭的な音楽の流れは自分が専門的に追っているジャンルでなければうまく出会うことは難しく(単発の作品を知るだけならともかく文脈的に的確に受け取るという点で:無節操なディグではこういうところをなんとかしにくい)、だからこそつまみ聴きで知ったかぶりをしないように気を付けたいけれども、それはそれとして、無理のない範囲で接し理解を深めていきたいものである。

 

 

 

Nair Mirabrat:Juntos Ahora

 

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 アフロポップに通じるポリリズミックなアンサンブルと南米的な揺れや和声感覚を融合したウルグアイ音楽“カンドンベ”が、現代のジャズやミナス音楽(プロデュースはアントニオ・ロウレイロ)のフィルターを通して洗練された形で提示された作品、というと何やら難しそうに聞こえるが、確かに構造は複雑であるもののきわめて聴きやすく、繰り返し接するほどに“スニーカーを履き慣れる”ように気兼ねなくノレるようになっていく。エレクトロ要素のある部分はジョー・ザヴィヌル『di・a・lects』の系譜的にも聴けるなど、何も考えずに聴いても面倒なことを考えながら聴いてもすごく楽しい一枚。34分という短めの尺も各曲の濃さを考えればちょうどいい。英米の音楽しか聴かないような人にこそ触れてみてほしい傑作である。

 

 

 

折坂悠太:心理

 

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本作や関連して行われたライヴについてはこちらこちらでいろいろ書いたが、一言でいうならば、折坂悠太本人がリリース前日に言った「10年後、20年後、30年後にですね、結局あのアルバムが一番よかったんじゃないか、というような作品に、自分の中でなるんじゃないかと思います」という話がこの作品の居心地や在り方を最も的確に表しているのではないかと感じる。The Bandやディアンジェロの名作にも勝るとも劣らない耐聴性と馴染み深さのあるアルバム。多くの人にとっての人生の友になりうる傑作だと思う。

 

 

 

笹久保伸:CHICHIBU

 

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 サム・ゲンデル、モニカ・サルマーゾ、アントニオ・ロウレイロジョアナ・ケイロス、marucoporoporo、フレデリコ・エリオドロ、という現代ジャズ~ブラジル(特にミナス周辺)~日本アンダーグラウンドの美味しいところを網羅するようなゲスト陣がまず目を惹くが、リーダーである笹久保伸のギターはそれ以上に素晴らしい。19分弱にわたる冒頭「Cielo People」では文字通り時間を忘れさせられるし、それとは対照的にコンパクトな他5曲も、異なる時間感覚を描きながらも一つのアルバムのなかで違和感なく共存している。6月頭にCD/LPでリリースされたもののサブスク配信は12月まで見送られたこともあってあまり聴かれていなかったようだが、これも「年間ベストに入ってないのは単に聴いてないからだろ」と(暴論だとはわかってはいるけれども)言ってしまいたくなるような傑作である。少しでも興味を持たれた方はこの機会にぜひ。

 

 

 

Silk Sonic:An Evening with Silk Sonic

 

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 本記事に挙げた中では最も「聴けばわかる」「説明はいらない」傑作だろう。60年代後半~70年代のソウルミュージックをオマージュしているようで当時は有り得なかった仕掛けが多数施された音楽で(変則的な曲展開や独特のこもった音響など)、伝承的ではあるが懐古的では全くない。緻密に構築されているのにとことんリラックスしている居心地も極上で、異なるタイプの厳選された名曲のみが並ぶ31分の構成はポップミュージック史上トップクラスと思える完璧さ。この洗練はブルーノ・マーズディレクションの賜物なのだろうが、それが「タイトなスーツ」よりも「オーバーサイズのストリートファッション」という感じの身軽なゆったり感につながっているのは、アンダーソン・パークのパーソナリティや演奏表現力によるところが非常に大きいと思う。売れるのが当然の内容だし、売れているから自分には合わないだろうと思うタイプの人も聴いて損はないはず。最高の音楽である。

 

詳しくはこちら。合う合わないについては、ポップさ云々というよりも、ブルース的な音進行に対する経験値の多寡が少なからず関わってくるのではないかという気もする。

 

 

 

 

Space Afrika:Honest Labour

 

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 このアルバムジャケットに好感を持った方は全員聴いてみてほしい。最初の一音から深く惹き込まれるだろうし、その感覚は最後まで失われることがないはずである。個人的なことを言うと、アンビエントな音楽は、室内ではじっくり浸れても歩きながらだと展開が遅すぎて煩わしくなる場合の方が多いのだが、Space Afrikaの本作は雑踏や喧噪の海中で耳を包む被膜のように機能する感じがあり、むしろ屋外のほうがしっくりきさえする。その点、このアートワークをそのまま具現化してくれているような印象があるし、シチュエーションを問わず非常にお世話になった。抽象的な曲調が(音楽スタイル的には各々のトラックで異なるかたちを示しながらも)延々続いたのち、最後の曲でわかりやすい歌ものになって“そろそろですよ”と示してくれる構成も好ましい。RAの年間ベスト1位に選ばれるのも当然。本当に特別な雰囲気と訴求力を兼ね備えた傑作だと思う。

 

 

 

Tirzah:Colourgrade

 

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 本作は自分が今年出会ったなかで最も“素敵な謎に満ちた”音楽である。描きかけのスケッチを投げ出して並べたような展開が続くのに「これでいいんだ」と言わんばかりの妙な確信が伴い、アルバム全体としてみれば確かに美しい輪郭をなしている。ソランジュの名作/奇作『When I Get Home』に通じる(出身ジャンル的にはこれと比較するのが一番オーソドックスで妥当でもある)一方で、Young Marble Giants(『rockin'on』2022年1月号掲載の再発盤レビューでもTirzahの名前を挙げた)やSOFT BALLETなどを想起させる要素もあるし、その上で総体としては無二のオリジナリティを確立している。こういうベスト記事を書いた後は一区切りついた気分になって聴かなくなってしまう作品も(自分に限らず)多いと思うが、今回はそうやって済ませないアルバムが大部分で、本作はその中で最も“気になり続ける”一枚であるように感じる。音楽を聴くということの醍醐味はそういうところこそにあるのだと思うし、その意味で今年は本当に充実した一年だった。それを引き継ぎつつ、来年以降も様々な方面を探し聴き込み続けていきたいと思う次第である。

 

 

 

2021年下半期・メタル周辺ベストアルバム

【2021年下半期・メタル周辺ベストアルバム】

 

 

前回の記事作成時には聴いていなかった上半期リリース作品も含む

 

上半期の記事はこちら

 

closedeyevisuals.hatenablog.com

 

 

 

 

Dream Unending:Tide Turns Eternal

 

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 Justin De Tore(Innumerable Forms、Devil‘s Dareなど)とDerrick Vella(Tomb Mold、Outer Heaven)によるドゥームデスバンドの1stフルアルバム。Justinはドラムスとボーカル、Derrickはギターとベースを担当し、二人はこのバンドの音楽性を“Dream Doom”と形容している。

 2010年代に活発になり注目を集めるようになった初期デスメタルリバイバルは、バンド数の多さや豊かな音楽的広がりもあって外からは掴み所なく見えるかもしれないが、大勢としては幾つかの流行のもとかなり明確な傾向を生んでいる。Morbid AngelやImmolationに代表されるリチュアル系、Bolt Throwerの影響下にあるハードコア寄りのもの、Incantationのような重く速いタイプのドゥーミーなブルータルデスメタル、といった元々多かった系統に加え、ここ数年はDemilichに代表されるフィンランドものやdiSEMBOWELMENTのようなフューネラルドゥーム寄りスタイルの再評価が進み、Gorgutsに連なる不協和音デスメタルの系譜も広く知られるようになってきた。そうした流れがある程度固まってきたところに現れたのが90年代頭の英国初期ドゥームデスを参照するバンド群で、欧州ゴシックロックとエクストリームメタルの融合をいち早く成し遂げた初期のParadise Lost、My Dying Bride、Anathema(Peaceville Three:Peacevilleレーベルの代表格3組)がメタルから離れる前の作品群からインスピレーションを受けつつ、それら先達にはないバックグラウンドのもとで新たな境地を切り拓いている。こうした方向性はゴシックメタル周辺(先述の3バンドの直接的な系譜)においては途切れず引き継がれてきたものだが、それが先述のような初期デスメタルリバイバルの流れで実践され素晴らしい成果をあげることで脚光を浴び、異なる文脈においても知られる機会を得ることになった。Kayo Dot(こちらはシーンの流行を意識したのではなく前身バンドmaudlin of the Wellの25周年を踏まえた原点回帰という意味合いが強い)やWorm、そしてDream Unendingが今年の11月に相次いで傑作を発表したことで、この手のスタイルが一気に注目度を増し、新たな潮流を生みつつメタル語りの再考(これまで見過ごされがちだったニューウェーブ~ゴシックロックからの影響の吟味など)をも促していくのだと思われる。

 以上を踏まえて、Dream Unendingの音楽性を一言でいうならば、ブラックメタルの領域でAlcestやDeafheavenが成し遂げたジャンル外との接続のドゥームデス版ということになるだろう。AnathemaやEsoteric、Ahabといったゴシックデス~フューネラルドゥームの系譜を引き継ぎつつ、The CureCocteau Twins、デニス・ウィルソン(The Beach Boysの結成メンバーでブライアンの弟)、Pink Floydからも大きな影響を受け、それらの要素を分け隔てなく融合。タイトルトラックの中盤に挿入されるナレーション(スタートレックシリーズなどに出演したリチャード・ポーが担当)の候補にはThe Blue Nileのポール・ブキャナンが挙がっていたという話もあるように、演奏や音響の手法は伝統的なメタルの価値観に留まるものではなく、90~10年代に至る様々な領域の感覚を消化した上で新たな境地を開拓している。その上で素晴らしいのが、Autopsyやフィンランドの初期デスメタルなどが培い磨き上げてきたドゥームデスの形式がしっかり継承されているということと、それでいて表現されているものは極めて前向きだということである。アンダーグラウンドのマナーを尊重し血肉化(マニアからもtrueと認められるレベルで体現)しつつ、在り方や雰囲気表現の質は一線を画し、深淵を知った上で俯かない、かといって安易に能天気になるのでもない、地に足のついた厳しい優しさを示す。これは先掲のAlcestやDeafheavenにも成し得なかったことで、「セルアウトだ」「ハイプだ」みたいな批判を受けずにPitchforkの“今週の新譜6選”に選ばれるなどメタル外からも注目を集めている在り方は、Dream Unendingというバンド名および“Dream Doom”という自称ジャンル名に実によく合っている。シンプルなようでいて奥が深い作編曲(全てのフレーズが印象的で、最小限の積み重ねで特殊なコード感を生むアレンジも素晴らしい)も、慎重で逞しい演奏(スネアのほどよい深さやギターの艶やかさなど全ての鳴りが極上、“間”のコントロールもたまらない)も、真似のしやすさと代替不可能性を絶妙に兼ね備えており、新たなスタイルを定義しつつ越えられない金字塔たりうる「名盤」の条件を満たしている。伝統と革新を両立することで初めて可能になる類の大傑作。2021年を代表するメタルアルバムである。

 

インタビュー

The Soul is a Wave: A Conversation with Dream Unending (Interview) (invisibleoranges.com)

Full Album Stream & Interview: DREAM UNENDING Tide Turns Eternal - Decibel Magazine

Dream Unending Build Their Own Worlds Through Gorgeous Doom Metal - SPIN

 

 

 

Devin Townsend:The Puzzle

 

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 2年ぶりのスタジオフルアルバム(同時リリースの『Snuggles』と併せこの名義では9th・10th)。8thアルバム『Empath』は自身のメタル寄り路線およびプログレッシヴロックの歴史全体を総括するような傑作だったが、本作はそれをある程度引き継ぎつつ大きく趣向を変えた内容になっている。

 デヴィン・タウンゼンドの音楽は、フランク・ザッパスティーヴ・ヴァイ~テクニカルデスメタルの流れにある超絶技巧アンサンブルと、アンビエントニューエイジ的な音響および時間感覚を、その配合比率を変えながらミュージカル的なノリ(外連味あるプレゼンテーションの姿勢や音進行感覚など)のもと融け合わせる感じのもので、時にどちらか一方に極端に振り切ったりもしながら、それぞれ趣の異なる個性的な作品を多数生み出してきた。本作はそうした経歴を振り返ってみても類例のない仕上がりで、過去に取り組んできた様々なスタイルが新技(「Albert Hall」冒頭のプリミティヴブラックメタル的なトレモロリフなど)を織り交ぜつつ薄暗がりの中で忙しなくコラージュされていく。全てのフレーズが印象的なのに一々記憶に留めるのは容易でなく、今どこにいるのかもよくわからなくなりながらも不思議な落ち着きが得られ、仄暗い安らぎに浸っているうちにいつの間にか終点に着いている...という独特の音楽体験は、メタルというよりはヴァン・ダイク・パークス『Song Cycle』やジム・オルーク『The Visitor』に通じ、このような歴史的名盤群にひけをとらない特別な居心地を作り上げているし、そう考えると、メタルシーンでキャリアを築きつつその伝統的な価値観・音楽観では手に負えないイレギュラーな存在とみなされがちだったデヴィンの音楽全体をうまく読み込む糸口が得られるような気もしてくる。『The Puzzle』というタイトルのとおり、よくわからないながらも何度でも聴きたくなり、どれほど聴いても飽きず、繰り返し接するほどに旨みの芯のようなものが鮮明になってくる。個人的にはデヴィン関連作の中で最も惹かれるアルバム。メタル周辺音楽の歴史においても唯一無二の境地に達した大傑作だと思う。

 同時リリースの『Snuggles』はメタル/ロック色ゼロ、得意技の一つであるリッチな多重コーラスをLaraajiやSigur Rôsに通じる壮大な音響と絡めた感じのアンビエントニューエイジ路線なのだが、過去の同系統の作品群に比べ絶妙に渋みが増しており、それでいて各曲のフレーズは明確に印象的。こちらも今のこの人にしか作れない類の素晴らしい作品である。Dream Unendingなどと違い容易に真似できる対象ではない(つまりフォロワーが生まれにくくシーンの形成には直接繋がらない)タイプの存在感がさらに増し、良くも悪くも孤高のポジションを一層固めてしまっているけれども、30余年に渡るキャリアを経てなお全盛期を更新するような近年の活動は本当に素晴らしく、その勢いはこれからも続いていくのではないかと思われる。メタル外でいえばジェイコブ・コリアーなどにも勝るとも劣らない超絶的な才能だし、広く注目されてほしいものである。

 

 

 

King Woman:Celestial Blues

 

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 シューゲイザーバンドWhirrのボーカリストとして音楽活動を始めたKristina Esfandiariが携わる複数のソロプロジェクトのうち、特にヘヴィロックに焦点を当てたバンドの2ndフルアルバム。基本的にはドゥームメタル寄りの歌ものスタイルで、The Gatheringあたりに連なるゴシックメタル、Neurosisにも通じるスラッジ~ポストメタル的な要素などが、磨き抜かれたシンプルなフレーズ構成のもとで滑らかに統合されている。表現の主軸となっているのは、カリスマ派キリスト教の両親に育てられたなかで植え付けられたトラウマとの葛藤で(このインタビューなど参照)、そうしたテーマがミルトン『失楽園』的なメタファーを通して真摯に描かれている。これと関連することとして素晴らしいのが激しく繊細な演奏表現力。優れたリフを土台に丁寧に噛み合うアンサンブルはロックサウンドとして超一級、そこにのるKristinaの“囁きながら絶叫する”感じのボーカルも唯一無二の個性と力加減を示している。必要十分に練り込まれたアルバムの構成も完璧で、厳しくも柔らかい包容力が漂っていることもあってか、シリアスな雰囲気に貫かれているのに何度でも聴きたくなってしまう。どの曲も本当によくできているし、このテーマとこの音楽性でなければ実現不可能だった最高のハードロックアルバムなのではないかと思う。各所で高い評価を得ているのも当然。一見地味なようでいて稀有の魅力に満ちた傑作である。

 

 

 

Ad Nauseam:Imperative Imperceptible Impulse

 

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 イタリア出身。本作は5年ぶりのリリースとなる2ndフルアルバムで、ストラヴィンスキーやペンデレツキのような現代音楽寄り作曲家、アンダーグラウンドメタルの名バンド群、その他多岐に渡る影響を消化した上で、GorgutsやUlcerateを参照しつつその先の世界を切り拓くような高度な音楽性が構築されている。なにより驚異的なのは音響で、スティーヴ・アルビニを崇拝し理想の環境を作り上げるために自前のスタジオを建てたという蓄積のもと、イコライザーやコンプレッサーを殆ど使わない録音作業を膨大な時間をかけて完遂したという。爆音と膨大な手数を伴うデスメタルスタイルでそうした手法を成功させるというのはとても信じ難い(つまり演奏技術からして常軌を逸するレベルで凄いという)ことだが、本作の異様な音の良さを聴くと確かに納得させられるものがある。同様の音楽性を志向するミュージシャンの間では既に高い評価を得つつある(インタビューで名前が挙がることが既に少なくない)し、稀有の傑作としての定評がこれから固まっていくのではないかと思われる。

 

 

 

Anatomia:Corporeal Torment

 

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 日本のデスメタル周辺シーンを80年代末の黎明期から牽引するTakashi Tanaka(ドラムス・ボーカル)とJun Tonosaki(ギター・ベース)からなるバンド(2002年結成)、アルバムとしては4年ぶりとなる4thフル。一口にドゥームデス(英語圏ではDeath Doom表記が一般的な模様)と言っても様々なスタイルがあり、Autopsy、Incantation、Cianide、英国の初期ゴシックメタル、オーストラリアもの(diSEMBOWELMENTやMournful Congregation)、フィンランドもの(Rippikouluのようなハードコア寄りのものから、ThergothonやUnholyのようなフューネラルドゥームの始祖など)、KhanateからSunn O)))あたりに至るスラッジ~ドローンドゥームの系譜、MitochondrionやAntediluvianのような暗黒ブルータルデスメタルなど、音像は似ていても作編曲や雰囲気表現の質は一括りにできない豊かな広がりがあるのだが、Anatomiaはそのいずれにも与さない驚異的な個性を確立。Autopsyやフューネラルドゥーム的なものに隣接しつつ、Cold Meat Industryレーベルに代表されるダークアンビエントの音響/時間感覚を独自に消化したようなサウンドのもと、代替不可能な深い旨みを作り上げている。古今東西デスメタルのエッセンスをシンプルな単音フレーズに落とし込んだようなリフも独自のコード感も素晴らしく、長尺の展開を心地よく聴かせきる構成力および演奏表現力も極めて見事。最後を飾る「Mortem」の21分弱の長さが全く苦に感じられない緩急コントロールおよびペース配分の具現化力はこの世界でも屈指の凄さである。今年はDream UnendingやWorm、Cerebral RotやMortiferumなど、ドゥームデスの傑作が多数発表されたが、Anatomiaの本作はその中でも最高のひとつと言っていいだろう。どうしてもニッチでマニアックな印象が伴うスタイルだが、語り口は完璧に洗練されていて非常に浸りやすい。広く聴かれてほしいバンドである。

 

 

 

Antediluvian:The Divine Punishment

 

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 アルバムとしては8年ぶりのリリースとなった4thフル。Mitochondrionなどと並びカオティックなブルータルデスメタルの代表格だったバンドだが、本作ではそのルーツであるIncantation的なスタイルに回帰しつつ曲構成は格段に多彩に。VonやBlasphemyのような1st wave Black Metalに通じるリフを織り交ぜつつ、The Beatles「Revolution 9」(オーソドックスなロックンロール曲「Revolution」ではなくテープコラージュによる現代音楽的な長尺曲のほう)やPopol Vuhなどを経由してAmon Düülに至るような混沌が、「アルバム全体で1曲」的な緻密な構成のもと提示されている。2010年代までのエクストリームメタルの歴史を踏まえた上で初めて可能になった豊かな音楽性は、プログメタル云々でない言葉本来の意味での“プログレッシヴロック”を体現しているように思われる。Deathspell Omegaに通じる儀式的な装いがある一方で、上品にまとめようという気取りは一切なく、だからこそ野卑だが俗っぽくない佇まいになっているのも凄い。メタル領域からしか生まれ得ない(それでいてメタルの枠には留まらない)類の傑作。初期Coilのようなインダストリアルの気高く猥雑な雰囲気が好きな方にもお薦めである。

 

 

 

Berried Alive:Mixgrape

 

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 一言でいえば、デスコアやハイパーポップを通過したPrimusが初期ビリー・アイリッシュと融合したような音である。Djent以降の技術水準からみても異常にうま過ぎるギターは全編でとんでもないフレーズを滑らかに弾きまくるのだが、余計なソロは一つもなく、変則的なリフの数々がコンパクトに洗練されたポップソングの構成要素として不可欠に機能している。演奏的な意味での身体能力が高すぎるためどうしても元気な印象が生まれてしまう一方で、ボーカルのトーンは極めてシリアスで、そうした兼ね合いが総体として絶妙なバランスを生んでいるのも面白い。アートワークや曲名(buried alive=生き埋めを果物のberryでもじったユニット名や、それをふまえてgrave digger=墓堀り人をgrape diggerとするなど)に溢れるおふざけ感はLimp Bizkitあたりにも通じるし、その上で現代メタル・ポップミュージック双方の境界を楽しくクレイジーに押し広げようとする音楽なのだろう。技術と節度が高度に両立されることで初めて可能になる驚異的な作品である。

 

 

 

CaÏna:Take Me Away from All This Death

 

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 英国の一人ブラックメタルユニットによる9枚目のフルアルバム。ブラックメタル~ノイズ~インダストリアルを網羅する(一人で全パートを担当するこの手のユニットではわりとありがちな)方向性のもとで優れた構成力を示していた過去作の路線をある程度引き継ぎつつ、本作では80年代ゴシックロックの要素を一気に増量。Depeche ModeThe Cureを土台にしつつ独自の味わいを出したような歌もの、1st wave Black Metal寄りの獰猛なブラックメタル、Septicfleshあたりにも通じる地中海的な神秘表現など、各曲のスタイルは明確に描き分けられているが、その配置の仕方が絶妙で、アルバム全体を通して描かれる流れや輪郭は実に美しい。ノイジーにこもっているようでいて緻密に作り込まれたプリミティヴ音響も一つ一つのリフの個性的な冴えも素晴らしく、少しくらい凄いことをやっても没個性とみられがちなこの系譜において頭ひとつもふたつも抜けた出来になっているように思う。Darkthroneの名作『Transilvanian Hunger』をもじったと思われる「Castlevanian Hunger」(Castlevaniaは高難度で知られる名作アクションゲーム『悪魔城ドラキュラ』の英語名)において欧州ハードコアからゴシックロック経由で2nd wave Black Metalに至る諸々のスタイルを見事に融合してみせるなど、ユーモア感覚と気迫が自然に並び立っているようなところも興味深い。構造的強度と念のこもり方の両面において優れた傑作である。

 

 

 

Cynic:Ascension Codes

 

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 7年ぶりのリリースとなった4thフル。過去作で重要な役割を担ってきたこのジャンルを代表する達人、ショーン・レイナート(ドラムス、2015年に脱退)とショーン・マローン(ベース)が2020年に相次いで亡くなり、バンドとしての活動が危ぶまれていた中で発表されたアルバムで、ファンからの期待(ハードル設定)は非常に高くなっていたのだが、蓋を開けてみれば概ね満足されているというか、基本的には絶賛と共に迎え入れられているように思われる。そもそもCynicは2006年の復活以降は実質的にポール・マスヴィダル(ギター・ボーカル)のリーダーバンドで、ポール特有のメロウかつシリアスな音進行感覚を各プレイヤー特有のフレージング(1993年の歴史的名盤1stフルにもあった、まどろっこしく蠢くようなギターリフや、既存のメタルやジャズロックの枠を大きく超えた創造的なドラムアレンジ)によりCynic的に料理する活動を続けてきた。3rdフル(2014年)発表時のインタビューでTame Impalaやカエターノ・ヴェローゾを好んで聴いていたという発言があるように、ポールの音楽志向はメタルやプログレッシヴロックよりもインディロック寄りで、それをメタルファンにも納得しやすい形に整理したのが2008年の歴史的名盤2ndフルだったのである。そうした経歴を踏まえてみると、本作4thフルは上記のような持ち味を見事に発展させ過去最高の形でまとめ上げた傑作だといえる。9つのソングと9つの短いインタールード(数個の主題による変奏と思われる)からなる構成は、冒頭の「The Winged Ones」と真ん中の9トラック目「DNA Activation Template」で同一展開(一見5拍子に思われるが全部4拍子)を持ってくるなど、アルバム全体のまとまりが緻密に考え抜かれており、それが各曲のやや歪な展開と絶妙なバランスを生んでいる。ポール特有の音進行も実に良い感じで、柔らかくもどこまでも沈んでいくような展開(2010年のEP『Re-Traced』などに顕著、繰り返し接しているとしんどくなるので個人的には惹かれつつも苦手だった)が絶望一辺倒でない前向きなまとめ方をされているのが好ましい。2017年からドラムスを担当しているマット・リンチの演奏も素晴らしく、レイナートとは異なるタイプの変則的なフレーズ構成とメタルコア以降のグルーヴ感覚をもってこのバンドの質感を現代的にアップグレードしてくれていると思う。個人的には2ndフル以降では最も好きな(というか“中毒”症状なしで習慣性を導いてくれると納得できる)アルバム。インディロック方面とメタルの融合の尖端部としても評価されるべき傑作である。

 

 

 

Deafheaven:Infinite Granite

 

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 インディロック方面のメジャーな音楽メディア(Pitchforkなど)での評価も固まり、“メタルをあまり聴かない音楽ファンからの知名度が最も高いメタルバンド”的なポジションが確立された上で、「今回のアルバムは自分達にとってのRadiohead『Kid A』になる」という発言とともにリリースされた5thフル。ブラックメタル的な絶叫やブラストビートは殆ど無くなってはいるもののメタリックな質感はわりとそのまま保たれている(ドラムスまわりなどの音作りにはメタル出身ならではの肌感覚が根差している)一方で、音進行や雰囲気表現は確かにメタル的なところを逸脱しており、快感原則はある程度引き継いでいて見た目はあまり変わらないが考え方は大きく入れ替わっているという印象の、解釈するのが意外と難しい仕上がりになっている。

歴史的名盤となった2013年の2ndフル『Sunbather』がメタル内からもそこまで問題なく受け入れられた理由の一つには、雰囲気表現はともかくとして演奏感覚はブラックメタルの刹那的な勢いをそのまま高品質で体現しているというのがあり、絶叫ボーカルや崩壊気味に突っ走るドラムスがジャンル文化的な表現の記名性においても越境的な個性の提示においてもうまく機能していた面もあったと思われる。これは脱メタル路線の落ち着いたアンサンブル表現においては足を引っ張りうるもので、本作を聴く前はそこをどうクリアするかが心配だったのだが、蓋を開けてみれば全く問題なくうまく活きており、絶叫をほぼ完全に排したメロディアスな歌唱表現は個性もあって見事だし、ドラムスは爪先立ちのスリリングなタッチを残しつつ抜群の安定感を示している。その点において、メタル的な身体感覚を引き継ぎつつ巧みに衣替えしてみせたと思える作品なのだが、そういう「今まで通りメタル的な立ち位置からも聴けるじゃないか」的な感覚で接すると楽曲の方は「良いけどあまりピンとこない」となってしまう、という状態が個人的には長く続いていた。フレーズ構築や楽曲構成などはメタルだと思わずに聴いてみたほうが手応えが増すし、意外と過去作の延長線上で聴けてしまえるのが解釈の障害になるタイプの作品なのではないかと思う。

本作に関しては、メタルを殆ど聴かないシューゲイザー方面の方が書いたこの素晴らしいレビューのように、メタルの基準や傾向から離れて聴いてみるほうがうまく読み込めるように思う。たとえば中盤のハイライト「Lament for Wasps」はBoards of Canadaマニュエル・ゲッチング『E2-E4』、King Kruleなどを聴く感覚で接した方がしっくりくるし、朝焼けの直前を捉えた感じの雰囲気はMassive Attack『Protection』あたりにこそ通じるものがある。メンバーが各々のお気に入り音源について語ったBandcamp掲載の記事で挙げられた名前は大部分がメタル外のアーティストだったし、メタルのフォームや美学との接点を保ちつつ内部構造は大胆に組み換えてみせたのが本作だとみるべきなのかもしれない。そう考えてみると、最終曲「Mombasa」終盤のThin Lizzy的な展開はこのような微妙なポジションをよく表しているようにも思われる。リリース前の注目度が非常に高く、あらかじめ問題作とみなされるような運命を背負っておきながら、事前に予想されたのとは全く異なる角度から微妙な違和感を呼び起こしたアルバム。予備知識や先入観なしで接すれば何も気にせず楽しめる素晴らしい代物だし、様々なジャンルの音楽ファンに聴いてみてほしい、それぞれの立ち位置からの感想を教えてほしい作品である。

 

 

 

Fetid Zombie:Transmutations

 

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 アンダーグラウンドメタルの領域で著名なカバーアート画家Mark Riddickのソロプロジェクト、活動14年目の7thフル。正統派ヘヴィメタルからデスメタルに至る豊かな知見を様々に組み合わせ、アルバムごとに異なる配合のエクストリームメタル(初期デスメタル寄り)を生み出してきたが、本作ではその試みが過去最高のバランスで結実。80年代後半の神秘的なパワーメタルをスウェーデンプログレッシヴな初期デスメタルと混ぜた感じの音楽性は、初期の聖飢魔ⅡやCrimson Gloryを後期Carbonized経由でCrypt of Kerberosと融合したような趣があり、エピックメタルとコズミックデスメタルを接続する批評的表現としても、理屈抜きに浸れる味わい深いロックサウンドとしても、素晴らしい成果を示している。それぞれ異なる表情に描き分けられた6つの収録曲は全てが名曲級の出来で、アルバム全体の流れまとまりも非常に良い。4名の客演ギタリストが弾きまくる極上のソロ(いずれも過不足なく練り込まれた美旋律)群は、メロディアスなものが好きな音楽ファンすべてに強力にアピールするのではないかと思う。タイプは微妙に異なるがFirst FragmentやKhemmisなどと並ぶ80年代メタルリバイバルの系譜、その最高の成果としても知られてほしい傑作である。

 これは自分のアンテナの張り方が足りない(気付くタイミングが遅かった)のも大きい気もするが、今年は一人多重録音のエクストリームメタル作品に興味深いものが特に多かったように思う。Fire-Toolz やDungeon Serpentは大きな注目を集めていたし、Sallow Moth・Care Neir・Gonemageをはじめとする多数の一人バンドで興味深い作品を連発するGarry Brents、その他にもSugar WoundsやAlchemy of Fleshなど、小回りのきく個人単位で豊かな/越境的な音楽を作り続けているミュージシャンがメタル周辺の領域にも実はかなり多いということがわかってきた。昨年の年間ベスト記事で取り上げたRebel Wizardもその好例で、そことも隣接するブラックメタルの領域では、BurzumやThornsといったノルウェーシーンの先達による“一人ブラックメタル”の制作姿勢(これはメタル領域におけるベッドルームミュージックの代表例と言っていいだろう)が脈々と引き継がれ、EsoctrilihumやMare Cognitum、Spectral Loreなどが近年も傑作を連発している。また、規格外の巨大な存在感があるため逆に意識されづらくなっている印象もあるが、そもそもデヴィン・タウンゼンドはこうした一人制作アーティストの嚆矢であり代表格なのだとも言える。各楽器の専門家を集めたバンド編成による人力演奏が美徳とされるジャンルでは、こうしたプロジェクト形式はどうしても見過ごされがちなものだけれども、シーンの広がりやその成果を適切に把握するためには無視することはできない。そうした傾向はこれからさらに増していくのではないかと思われる。

 

 

 

Fire-Toolz:Eternal Home

 

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 Angel Marcloidの一人多重録音ユニットによる、Bandcamp上にあるものとしては6枚目のフルアルバム。フランク・ザッパやmats/morganに通じる複雑かつポップなジャズロックフュージョンがプログメタルやブラックメタル経由でIDMと接続しているような音楽で、そうした緻密な楽曲構造が80年代的な音響イメージとハイパーポップ以降のビート感覚で彩られている。4部からなる全78分のアルバム構成は完璧で、一見過剰にも思えるボリュームに反し口当たりはとても軽やか。何度でも気軽にリピートできてしまうし、そうさせるための配慮や推敲が徹底的になされた作品なのだと思う。

本作に関する感想を見るとその多くがvaporwaveとの関連を指摘しているが、“@fire₋toolz vaporwave”でツイッター検索してみると、本作をvaporwaveと絡めて語るツイート(自分に対するリプライや引用RTでない、エゴサーチで発見したのだろう相手)に対し「vaporwaveに影響を与えたジャンルやムーブメントから影響を受けてはいるが、自分の音楽はvaporwaveではない」「80年代の音楽が好きであれば似通ったものになるわけで、こういう言い方にあてこすりの意図はないけれども、混同しないでくれると助かる」というリプライを繰り返したり、「vaporwaveはEDMの一種だと思うけど、最近は“EDMでないエレクトロニック・ミュージック”がvaporwaveの定義となってきている感がある。みんなはどう思う?」というvaporwave関連のプロデューサー/プロモーターに対し「どこが?フューチャーファンクとサウンドがちょっとだけ似ている点を除けば共通点なんてないのでは」「通じる点もあるかもしれないけどそれは極小、出自にはパンク精神があるvaporwaveはEDM領域からは外れるものだと思う」という議論を投げかけたりしている様子がどんどん出てくる。こういうやり取りには、vaporwave扱いされることに辟易している一方で思い入れがないわけでもない、丁寧で誠実な理解をしようと心がけている姿勢や性格が滲み出ているように思う。実際、昨年6月に公開されたBandcampにある好きな音源特集でtelepathテレパシー能力者の『アマテラス』を挙げているなど、そちら方面の影響を受けているのは間違いないのだが、その上でそうした要素をFire-Toolz名義の作品に反映するのは注意深く避けているのだろう。様々な音楽ジャンルを探究して得たエッセンスを自在に混淆しつつ注意深くコントロールを利かせる、貪欲にはなるが無節操にはならない誠実さのようなものが常にあって、それだからこそ可能になる深く精緻なジャンル/スタイル理解が土台になっている音楽なのだと思われる。同記事のExivious『Liminal』(Cynic人脈のメンバーによるフュージョン寄りプログメタルの傑作)の項ではRushやDream Theater経由でジャズ近傍のプログメタルにのめり込んでいった経緯が語られており、それと本作収録曲の影響源解説記事を読み込めば、ブラックメタル的なもの(Deafheavenなどは直接のインスピレーション源ではないとのこと)とエモ(MineralやAppleseed Castなど)の接続、そういう印象が一際強い「I Am A Cloud」はクリストファー・クロス「Angry Young Men」が土台になっているということ、DeftonesIDM、Kayo Dotからの影響といった諸々のヒントが得られ、表面をなぞるだけでは到底思い至らなかった複雑な構造に感嘆させられつつ納得することができる。こうした在り方は、“インターネット発の音楽”以降の越境的なディグ姿勢と、それ以前の世代から脈々と受け継がれる厳密なジャンル意識/知識を見事に両立しており、2020年代でなければ生まれない(そしておそらくこれ以降の世代からはどんどん生まれにくくなる)類のものなのではないかと思われる。弾幕シューティングゲームのBGMとしても聴けるところなども興味深い。メタルシーンの中から生まれた音楽ではないが、その内外を様々な領域と接続してみせている点においても非常に重要な作品。メタルファンにもそうでない音楽のファンにもぜひ聴いてみてほしい傑作である。

 

 

 

Frontierer:Oxidized

 

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 大きな注目を浴びた2018年の前作『Unloved』に続く3rdフル。過去作では歪なところが残っていた曲展開を完璧に洗練、演奏の迫力はさらに数段ブーストした圧倒的な作品で、荒れ狂いすぎるアーミング&ハーモニクスリフを美しく活かしきる仕上がりは革命的と言っていいのでは。Car BombやCode Orangeの先にある音楽で、ブレイクダウンにこだわるメタルコア/マスコアやIDMから出発することで初めて可能になる新しさに満ち溢れている。今年発表されたものの中ではおそらく最もテンションが高い(ということがわかりやすく伝わってくる)音源の一つであり、“電子ドラッグ” “digital torture by dying computer”みたいな呆れ気味の絶賛をされているのも無理もないという感じ。「Death /」のアーミング3連発などは来るとわかっていても爆笑してしまう勢いがある。曲順構成も申し分なく良く非常に完成度の高いアルバムで、これがName Your Price投げ銭、無料DLもOK)で入手できてしまうのは申し訳なく思える。メタルやハードコアに限らず電子音楽などのファンにもお薦めである。

 

 

 

Leprous:Aphelion

 

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 アルバムとしては2年ぶりのリリースとなる7thフル。前作6thはビリー・アイリッシュとデヴィン・タウンゼンドの間にある感じの音楽性で、Portisheadとプログメタルを掛け合わせたような路線をもって現代ポップスの音響基準とメタルサウンドを自然に両立させる試みが素晴らしい達成を示していたが、本作ではそこからさらに前進。Dead Can DanceディアンジェロをSon Luxのような現代ジャズ寄りポップス経由で融合、Dream Theater『Awake』からdjentに至るプログメタルの流儀で具現化したような凄まじい仕上がりになっている。このバンドの強みはやはり圧倒的にうまいボーカルで、この“歌”が絶対的な看板になれるために長尺のソロパートを入れる必要がないというのは音楽性の変化に大きく影響してきたのではないかと思われる。「Have You Ever」のネオソウル的アンサンブル(均一BPMの流れのもとつんのめる)はメタル(アクセントの強弱をあまりつけずメカニカルに整いがち)ではいまだに例外的、そこにクラシック音楽的(伸縮BPMを駆使してゆらぐ)ボーカルが乗るアンサンブルは、少なくともこのジャンルでは革新的と言っていいのではないかと思われる。前作の陰鬱な内省感覚を引き継ぎつつエンターテインメント志向も程よく示す雰囲気も良い感じ。現代メタルの尖端をメジャー寄りのところから切り拓く傑作である。

 

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Lingua Ignota:Sinner Get Ready

 

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 4枚目のフルアルバム。2019年の前作『Caligula』は、正規の教育を受けてきたクラシック音楽方面の楽曲構造をノイズ~パワーエレクトロニクスブラックメタルといったエクストリームミュージックの語彙で彩った驚異的な作品で、それまでの人生やエクストリームミュージックシーンで被ってきた凄惨な家庭内暴力や虐待に立ち向かう歌詞表現もあわせ、メタルや電子音楽の領域を越えて大きな注目を集めることとなった。それに続く本作『Sinner Get Ready』では、このインタビューにもあるように、『Caligula』を同一路線で上回るものを作れという要求に対する反骨心もあってか大きな方向転換がなされている。楽曲的には18世紀以降のクラシック音楽というよりもそれ以前の古楽や欧州民俗音楽に通じる仄暗い色合いが増し、電子音響や打楽器は完全に排されアコースティック楽器(ピアノやバンジョー、マウンテンダルシマーなど)が主体となっているのだが、だからといって静謐で落ち着いた感じになりきったわけではなく、プリペアド処理を施した楽器に強烈なエコーをかけたサウンドはむしろプリミティブな響きを増し、前作では表現できなかった類の強烈な激しさを生んでいる。Roadburnの姿勢にも通じる(実際関わりは深い)“ヘヴィさの更新”を成し遂げた傑作であり、背景事情を知らない相手にも強く訴えかける力を持った音楽なのではないかと思う。

 本作が発表されてから4ヶ月経った12月10日に、Lingua Ignota本人のSNSアカウントにおいて、Daughters(アメリカのノイズロック~ハードコアシーンを代表する重要バンド)のボーカリストであるAlexis Marshallより2019年7月から2021年6月にわたって精神的・性的虐待を受け、2020年の12月には自宅地下室で自殺を試みるほど追い詰められていた、という経緯を示す声明出された(冒頭に要約があるが全編では38,000 wordsに及ぶ長さ:他にも多数いるらしいAlexisの被害者を助けるため)。本当に痛ましい話で、これを前提として接するのは少なからず辛い音楽ではあるのだが、こうしたことを踏まえて立ち上がる力にも満ちた素晴らしい作品だし、できるかぎり広く聴かれてほしいものである。

 

 

 

Plebeian Grandstand:Rien ne suffit

 

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 5年半ぶりのリリースとなった4thフルアルバム。Deathspell Omegaのようなブラックメタルの影響下にあるカオティックなハードコアを追求していた前作までとは一転、野太くのたうちまわる電子音響を全面的にフィーチャーした仕上がりになっており、Frontiererなどとはまた毛色の異なる革新的な音像を示している。不協和音エクストリームメタルの系譜にある音進行感覚をさらに数段推し進めたようなリフ展開は数回聴いた程度では正直あまりピンとくるものではないのだが、繰り返し接するほどにそれに対応する回路が築き上げられ、未知の領域に立ち入るための準備を着実に整えさせられていくような手応えがある。実力のわりに知名度がなさすぎるバンドだったが、Stereogumの年間ベストメタルアルバム1位に選ばれるなど、ここにきて一気に注目度が増している感も。今後の展開が非常に楽しみになる傑作である。

 

 

 

Seputus:Phantom Indigo

 

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 Seputusは3人全員がPyrrhonのメンバーだが(そちらのリーダーと目されるDylan DiLellaのみ不在)、テクニカルデスメタル形式を土台にしながらもPyrrhonとは大きく異なる音楽性を志向している。神経学者オリバー・サックスの著書『Hallucinations』(邦題:見てしまう人びと 幻覚の脳科学)を主題に5年かけて構築されたという本作2ndフルは、Gorguts『Colored Sands』あたりの不協和音デスメタルDeftones経由でNeurosisに繋げたような音楽性で、何回聴いてもぼやけた印象が残る(“焦点が合わない具合”が安定して保たれる感じの)特殊な音響構築のもと、驚異的に優れた作編曲と演奏表現で走り抜ける作品になっている。この手のスタイルにしては不思議な明るさが嫌味なく伴う音楽性は代替不可能な魅力に満ちており、“不協和音デスメタル”の系譜のもと新たな世界を切り拓く姿勢が素晴らしい。音楽構造・雰囲気表現の両面においてこの領域をさらに拡張する傑作である。

 

 

 

Succumb:XXI

 

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 4年ぶりのリリースとなった2ndフル。個人的には2021年のリフ大賞アルバムである。おおまかに言えばPortalとConvergeを足して割らずしかもキャッチーにしたような音楽性のデスメタリック/ブラッケンドハードコアなのだが、トリッキーかつ印象的な名フレーズの数々を何層も折り重ねて変則的な展開を作っていく作編曲が本当に見事で、繰り返し聴くほどに新たな旨みが滲み出ていく(スピーカーで繰り返し聴いた上でイヤホンで聴くと、それまで思っていたよりも5倍くらい緻密なアレンジがなされていることがわかり唸らされる)。それを具現化する演奏も全パート素晴らしく、Pan SonicAutechre、LowやP-Funk周辺からも影響を受けたという豊かな演奏表現がグラインドコア的な勢いのもとで余裕をもって表現されるさまは、どれだけしつこく聴き込んでも飽きさせられることがない。以上のような楽曲およびアンサンブルの魅力をふまえた上で特に耳を惹くCheri Musrasrikのボーカルも格好良すぎで、柔らかく強靭ながなり声はサウンド全体の顔として最高の仕事をしているのではないかと思う。あえて言えば最終曲の終盤がMorbid Angelオマージュになっているのが微妙にひっかかるのだが(個人的にもMorbid Angelは大好きだし、ルーツ提示~ジャンル論的にも必要な構成だったのではないかとは思うのだが、このバンドなら更に凄いオリジナル展開で勝負できただろうと思わされてしまうだけに)、まあそれは些細な話だろう。自分が今年50回以上聴き通した唯一のアルバムであり、作編曲・演奏・音作り全ての面において完璧と言っていい傑作。お薦めである。

 

 

 

Vildhjarta:måsstaden under vatten

 

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 2013年発表のEPから実に8年ぶりのリリースとなった2ndフルアルバム。2011年の1stフル『Måsstaden』はMeshuggah影響下のジャンルdjentにおいて特に暗く抽象的な路線を開拓した傑作で、メンバーによる造語“thall”と併せ一つのスタイルを確立した金字塔的名盤となっている。本作2ndフルではその路線がさらに過剰に強化され、全17曲80分の長さに拡張。Meshuggah特有のアンビエント感覚をデスコア寄りの獰猛なグルーヴ表現とともに堪能させられるような構成は、基本的には4拍子でシンバルの刻みにさえ注目していれば容易にノリ続けてしまえる一方で、一つ一つのリフの形を具体的に覚えるのは難しく、常に印象的だが区別がつきにくい、似たかたちの木々が並ぶ迷いの森の奥で彷徨うような居心地に繋がっている(これはアートワーク面でもこのバンドのモチーフになっている)。聴き続けていてふと曲番を見たときに「えっまだこのあたりなの?」となるが、それが必ずしも悪いことにはならない、意義のある表現力を生んでしまうのは、こういう音楽性のこのような構成の作品でなければ成し得ないことなのではないだろうか。Meshuggahでいえば『Catch 33』に通じる、それを数段抽象的かつ卑近にした感じのトータルアルバム。稀有の傑作だと思う。

 

 

 

Whitechapel:Kin

 

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 2年ぶりのリリースとなる8thフルアルバム。デスコアの代表格として注目を浴びつつ、そのジャンル的定型から積極的に逸脱する試みを繰り返してきたバンドであり、本作ではそれが見事な結実を示している。まず凄いのはPhil Bozemanの歌唱表現力で、分厚く獰猛な歪み声だけみても一流のフロントマンと言えるのに、メロディアスな歌唱(いわゆるクリーン)でも多彩なトーンコントロールや力加減の描き分けをすることができ(というかむしろクリーンの方が上手く、その手の選任シンガーを上回る訴求力がある)、それらを全く違和感なく切り替えて聴かせてしまうことができる。作編曲もその歌唱表現力を十全に活かすかたちに仕上がっており、デスコア的疾走パートとカントリー~アメリカーナ的しっとりパートが頻繁に入れ替わるのにその繋ぎ目が不自然に思える箇所は全くない。90年代スウェーデンメロディックデスメタルに通じる冷たく仄暗い叙情が艶やかに漂うのも魅力的で、北欧のバンドにとっての欧州フォークと本作におけるカントリー的展開(アメリカのエピックメタルにもよく出てくる音進行)は各々のルーツとして似た意義を持っているんだろうなと納得させてくれたりもする。PanteraやLamb of Godなどに通じる存在感をもつこういうバンドが出てくるのをみると、今のメタルも本当に面白いし、サブジャンル的な聴かず嫌いをせずに広く探究していかなければならないなと実感させられる。メタルコアとかデスコアなんてチャラいだけの音楽だと思っているような人こそ聴くべき傑作である。

 

 

【2021年・年間ベストアルバム記事リンク集】(随時更新)

【2021年・年間ベストアルバム記事リンク集】(随時更新)

 

各媒体から発表された2020年「年間ベストアルバム」記事のリンク集です。

(英語メディアの場合は元記事でなく日本語の説明付きで整理してあるものを選ぶようにしました)

備忘録としてまとめさせていただきます。

 


なお、海外の《音楽雑誌・サイト》に関しては、集計サイト

Album of The Year

https://www.albumoftheyear.org/ratings/6-highest-rated/2021/1

が概ね網羅してくれています。

英語に抵抗がない方はこちらも読むことをお勧めします。

 

Rate Your Music

https://rateyourmusic.com/charts/

も参考になります。

 


 参考:ディグの仕方などについて

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1424670189606424581?s=21



音楽メディア

(Web掲載分のリンク)

 

Uncut(75)

https://amass.jp/152741/

 

Rough Trade(100)

https://amass.jp/152882/

 

Mojo(75)

https://amass.jp/152886/

 

Decibel(40)

https://amass.jp/152976/

 

Revolver(25)

https://amass.jp/153168/


BBC Radio 6 Music(10+α)

https://amass.jp/153208/


Prog(20)

 https://amass.jp/153221/

 

NPR(50)

https://amass.jp/153323/


Rolling Stone

総合(50)

https://rollingstonejapan.com/articles/detail/36910

メタル(10)

https://rollingstonejapan.com/articles/detail/36999

吉田豪が選ぶ2021年の年間ベストソング

https://rollingstonejapan.com/articles/detail/37025

川谷絵音が振り返る2021年の音楽シーン

https://rollingstonejapan.com/articles/detail/37029


NY Times

総合

https://www.nytimes.com/2021/12/02/arts/music/best-pop-albums.html

ジャズ(10)

https://amass.jp/153409/


TIME

K-POP

https://time.com/6126709/best-kpop-2021/


Stereogum

総合(50)

https://www.stereogum.com/2169206/the-50-best-albums-of-2021/lists/year-in-review/2021-in-review/

メタル(10)

https://www.stereogum.com/2170010/the-10-best-metal-albums-of-2021/lists/year-in-review/2021-in-review/


POP MATTERS

メタル(20)

https://www.popmatters.com/best-metal-albums-of-2021


Pitchfork

アルバム(50)

https://amass.jp/153485/

ソング(100)

https://pitchfork.com/features/lists-and-guides/best-songs-2021/

読者投票

https://pitchfork.com/features/lists-and-guides/2021-readers-poll-results/

過小評価されているもの

https://pitchfork.com/features/lists-and-guides/best-underrated-albums-2021/

ロック(31)

https://pitchfork.com/features/lists-and-guides/best-rock-albums-2021/

エレクトロニックミュージック

https://pitchfork.com/features/lists-and-guides/best-electronic-music-2021/

プログレッシヴ・ポップミュージック

https://pitchfork.com/features/lists-and-guides/best-progressive-pop-music-2021/


The Wire(50)

https://amass.jp/153507/


NME(50)

原文

https://www.nme.com/big-reads/nme-best-albums-of-the-year-2021-3114833

日本語訳(公式)

https://nme-jp.com/blogs/110989/


The Guardian

ジャズ(10)

https://amass.jp/153853/

グローバルミュージック(10)

https://amass.jp/153978/


Spin(30)

https://www.spin.com/2021/12/best-albums-of-2021/


Consequence

メタル・ハードロック(30)

https://consequence.net/2021/12/top-metal-hard-rock-albums-2021/


Metal Hammer

デスメタル(10)

https://amass.jp/153534/

プログメタル(10)

https://amass.jp/153714/


Kerrang!(50)

https://amass.jp/153615/


Loudwire(45)

https://loudwire.com/best-rock-metal-albums-2021/


The Quietus

総合(100)

https://thequietus.com/articles/30903-the-quietus-top-100-albums-of-2021-norman-records

メタル(20)

https://thequietus.com/articles/30918-best-heavy-metal-albums-of-2021


Last Rites(25)

https://yourlastrites.com/2021/12/10/best-of-2021-last-rites-combined-staff-top-25/


Brooklyn Vegan

パンク(50)

https://amass.jp/153713/


BAZAAR

K-POP(15)

https://www.harpersbazaar.com/culture/art-books-music/g38502902/top-15-k-pop-albums-of-2021/


WFUV

Staff Picks

https://wfuv.org/content/best-2021-staff-picks


RA

https://ra.co/features/3950


Mixmag Japan

https://www.mixmag.jp/news/mixmag-japan-picks-the-50-best-albums-of-2021.html


IGN Japan

https://jp.ign.com/game-music/56850/feature/20218


THE GLOW

Japanese Albums(26)

https://www.theglow.jp/features/the-best-japanese-albums-of-2021


beehype

81ヶ国81枚

https://beehy.pe/best-albums-of-2021/


Gorilla vs. Bears

https://www.gorillavsbear.net/gorilla-vs-bears-albums-of-2021/


THE SIGN MAGAZINE

http://thesignmagazine.com/features/50-best-albums-of-2021/


Mikiki

2021年 年間洋楽ベストソング(25)

https://mikiki.tokyo.jp/articles/-/30637

タワーレコードスタッフが選ぶ2021年マイベストレコード

https://mikiki.tokyo.jp/articles/-/30695

bounceの選ぶ2021年の100枚・前編

https://mikiki.tokyo.jp/articles/-/30696

bounceの選ぶ2021年の100枚・後編

https://mikiki.tokyo.jp/articles/-/30697

bounceライター陣の選ぶ2021年の〈+1〉枚

https://twitter.com/mikiki_tokyo_jp/status/1477833346545864710?s=21


リアルサウンド

音楽ゲーム楽曲」10選とシーンの変遷

https://realsound.jp/tech/2021/12/post-937338.html

糸田屯が選ぶ、2021年ゲーム音楽配信リリース作品10選

https://realsound.jp/tech/2021/12/post-935833.html


TURN

ベストアルバム(25)

http://turntokyo.com/features/the-25-best-albums-of-2021/

韓国インディー(10)

http://turntokyo.com/features/korean-indie-music5/

リイシュー(10)

http://turntokyo.com/features/serirs-bptf2021best/

個人的ベストトラック

http://turntokyo.com/features/best-tracks-of-2021/


TOKION

https://tokion.jp/2021/12/30/the-best-music-2021/


柳樂光隆Jazz The New Chapter

https://note.com/elis_ragina/n/n9e74ce06e7be


ANTENNA

https://antenna-mag.com/post-56953/


ARBAN

https://www.arban-mag.com/article/73397


AVYSS

Vol.1

https://avyss-magazine.com/2021/12/28/32537/

Vol.2

https://avyss-magazine.com/2021/12/28/32594/

Vol.3

https://avyss-magazine.com/2021/12/28/32648/


musit

https://musit.net/music/disc-review/15998/


PRKS9

NEW TIDE

https://prks9.com/interview.php?id=101


Latina

https://twitter.com/latinacojp/status/1476461534750855169?s=21


only in dreams

https://www.onlyindreams.com/interview/2021best/


ORM

https://ormtokyo.com/special-feature/best-albums-of-2021/


RIFF CULT

ブルータルデスメタル(9)

https://riffcult.online/2021/12/15/brutaldeathmetal-2021-top-albums/

ブラッケンド・デスコア(5)

https://riffcult.online/2021/12/19/blackend-deathcore-2021/

プログレッシヴ/テクニカル・デスメタル(15)

https://riffcult.online/2021/12/25/progressive-technical-death-metal-2021/

ゴアグラインド(9)

https://riffcult.online/2021/12/26/goregrind-best-albums-of-2021/

メタルコア 前編(100-50)

https://riffcult.online/2021/12/27/top-metalcore-albums-100-01/

メタルコア 後編(49-1)

https://riffcult.online/2021/12/29/2021-metalcore-top100-2/


Sleep like a pillow

Best Shoegaze Singles

https://www.sleep-like-a-pillow.com/best-shoegaze-singles-2021/

Best Shoegaze Albums

https://www.sleep-like-a-pillow.com/best-shoegaze-albums-2021/


CRJA FUKUOKA

https://note.com/crjafukuoka/n/n8d27bbc4df1d


UNCANNY

https://uncannyzine.com/posts/69288


Monchicon!

http://monchicon.jugem.jp/?eid=2364


令和アニソン大賞

https://www.anisong-taisho.jp/reiwa03/


アイドル楽曲大賞

https://twitter.com/ima_staff/status/1476180609135673347?s=21


SAUDE! SAUDADE…

2021年ブラジルディスク大賞

https://www.j-wave.co.jp/blog/saude/2021/12/_2021.html


FRENCHBLOOM.NET

https://www.frenchbloom.net/music/6516/


MELODIC FRONTIER

http://melodicfrontier.com/2021/12/31/best-of-2021/


BLUE NOTE CLUB

藤本史昭

https://bluenote-club.com/diary/340656?wid=67719

後藤雅洋

https://bluenote-club.com/diary/340614?wid=67719

原田和典

https://bluenote-club.com/diary/340657?wid=67719

原雅明

https://bluenote-club.com/diary/340615?wid=67716

柳樂光隆

https://bluenote-club.com/diary/340737?wid=67716


Bandcamp

Bodies in Motion

https://daily.bandcamp.com/best-of-2021/best-of-2021-bodies-in-motion

Psychedelic Visions

https://daily.bandcamp.com/best-of-2021/best-of-2021-psychedelic-visions

Working Together

https://daily.bandcamp.com/best-of-2021/best-of-2021-working-together

Future History

https://daily.bandcamp.com/best-of-2021/best-of-2021-future-history

Essential Releases(25)

https://daily.bandcamp.com/best-of-2021/best-of-2021-the-years-essential-releases

Club Music

https://daily.bandcamp.com/best-of-2021/the-best-club-music-of-2021

Metal

https://daily.bandcamp.com/best-of-2021/the-best-metal-albums-of-2021

Hip Hop

https://daily.bandcamp.com/best-of-2021/the-best-hip-hop-albums-of-2021

Beat Tapes

https://daily.bandcamp.com/best-of-2021/the-best-beat-tapes-of-2021

The Acid Test

https://daily.bandcamp.com/best-of-2021/the-acid-tests-best-albums-of-2021

Dance 12'' singles

https://daily.bandcamp.com/best-of-2021/the-best-dance-12-singles-of-2021

Soul

https://daily.bandcamp.com/best-of-2021/the-best-soul-of-2021

Reissues

https://daily.bandcamp.com/best-of-2021/the-best-reissues-of-2021

Experimental Music

https://daily.bandcamp.com/best-of-2021/the-best-experimental-music-of-2021

Contemporary Classical

https://daily.bandcamp.com/best-of-2021/the-best-contemporary-classical-of-2021

Ambient Music

https://daily.bandcamp.com/best-of-2021/the-best-ambient-music-of-2021

Electronic Music

https://daily.bandcamp.com/best-of-2021/the-best-electronic-music-of-2021

Jazz

https://daily.bandcamp.com/best-of-2021/the-best-jazz-of-2021

Bandcamp Daily Staffers on Their Favorite Albums of 2021

https://daily.bandcamp.com/best-of-2021/bandcamp-daily-staffers-on-their-favorite-albums-of-2021

Punk

https://daily.bandcamp.com/best-of-2021/the-best-punk-of-2021


 

 《レーベル、レコード店


ディスクユニオン

いますぐ聴いてほしいオールジャンル2021

https://diskunion.net/portal/ct/news/article/1/102088

ディスクユニオン ラテン・ブラジル・ワールドが選ぶ年間ベスト大賞2021

https://diskunion.net/latin/ct/news/article/1/102830


TOWER RECORDS

https://tower.jp/article/feature_item/2021/12/08/0101


Jet Set Records

https://www.jetsetrecords.net/feature/755


LOS APSON?

https://www.losapson.net/chart2021/


HOLIDAY! RECORDS

国内インディーズバンド(10)

https://note.com/holiday_records/n/ne3430c0664ec


カケハシ・レコード

https://kakereco.com/magazine/?p=55569


ワールド・ディスク

http://worlddisque.blog42.fc2.com/blog-entry-3939.html


梵天レコード

https://tranquilized-magazine.com/2021/12/31/best-albums-2021/


Guitar Records

https://www.guitarrecords.jp/product-group/373


International Anthem

https://twitter.com/intlanthem/status/1467203767414059014?s=21


 


個人サイト・ブログなど

基本的には説明文付きのもののみ

発表日順


ツイッターで発表されたもののまとめ

https://togetter.com/li/1807841


tt

ベスト(10/23)

https://twitter.com/tt51970410/status/1451908220792950788?s=21

Spotifyプレイリストまとめ(12/29)

https://note.com/tanaka3195/n/n4dc64ae77271


大阪愚記史。

非メタル(11/27)

https://ameblo.jp/osakameta/entry-12712479757.html

(12/2)

https://ameblo.jp/osakameta/entry-12714689595.html


沢田太陽(12/2〜12)

https://note.com/themainstream/n/nbe8a1a57f7ad

https://note.com/themainstream/n/n26a8d3bdbc67

https://note.com/themainstream/n/nd12777884623

https://note.com/themainstream/n/nc6f087dbf7c3

https://note.com/themainstream/n/n4fa263c80590


Running for Music(12/5)

http://tpokjazz.blog.fc2.com/blog-entry-142.html


Takimoto(12/5)

https://twitter.com/tkmttkmt/status/1467258139510980609?s=21


mososo(12/8)

https://note.com/2020willblessus/n/n1d561e790f20


Y(12/10)

https://note.com/y_music_lover/n/n1f4826391f32


ロココ(12/10)

https://note.com/rococo655/n/n1b7ade22bb7d


ファラ(12/10)

https://note.com/sikeimusic/n/n27d475980840


hashimotosan(12/10)

https://note.com/hashimotosan122/n/n2a9c8396a51f


徹子(12/11)

https://note.com/kuroyanagi_89/n/n9a746d29cd1e


わゎわゎ(12/11・12)

https://note.com/4wa_music/n/nc98407b72d10

https://note.com/4wa_music/n/nc94c0b5770ae


ROY

EP(12/11)

https://note.com/roy1999/n/nac9d52851675

アルバム(12/12)

https://note.com/roy1999/n/nb5d98da96269


小寺諒既踏峰)(12/11)

https://note.com/maakeetaa/n/ndc1d6f46d8b7


うま

新譜(12/12)

https://note.com/yuuum02/n/n6f4bcc5dfe2f

個人的振り返りと旧譜50選

https://note.com/yuuum02/n/nc98090c6f33e


Zipperspy(12/12)

https://note.com/zipperspy/n/ne55c01fb3330


legazpionmusic(12/12)

https://legazpionmusic.hatenablog.com/entry/2021/12/12/051112


むじかほ新館。(12/12)

https://bluecelosia.hateblo.jp/entry/2021/12/12/2021%E3%83%99%E3%82%B9%E3%83%88%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%90%E3%83%A040


畑中修介(12/12)

https://note.com/musiknonstop/n/n843bdc7e9655


とっぴんぱらりのぷう(12/13)

https://note.com/dot_harai/n/n1fbacedb6d9f


ふま君(12/13)

https://note.com/fumav3/n/n944ab945c753


ピエールの音楽論(12/14)

https://toliveistomusical.com/2021/12/14/2021albumstop30/


Take A Little Walk With Me(12/17)

https://coimk324echo.hatenablog.com/entry/2021/12/17/064755


fafnir(12/17)

https://note.com/fafnir/n/nf4d2e47d6e54


ザ・ライフ・オブ・ワタシ(12/17)

https://the-life-of-watashi.hatenablog.com/entry/2021-favorites


タカレン(12/17)

https://note.com/takarenote/n/n460ded55f11e


NICEPLAYMUSIC(12/18)

https://niceplaymusic.jp/2021/12/18/the-25-best-albums-of-2021/


suugayuuuu(12/18)

https://note.com/suugayuuuu/n/n788e657ae470


EPOCALC's GARAGE(12/18)

https://epocalcgarage.hatenablog.com/entry/2021Best


high_george(12/18)

https://note.com/high_george/n/ncd16c47ffcd5


(12/18)

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平山悠(12/19)

http://atochi.sub.jp/WEB/2021m.html


SUIGOYA(12/19)

https://12xuooo.blogspot.com/2021/12/aoty-2021.html


道草オンラインマガジンonfield[別館](12/19)

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(12/19)

https://note.com/onsen_kirai/n/n9d037e6b5752


下半期(12/19)

https://note.com/xxkado/n/ne08df2aafe46


にんじゃりGang Bang

ベストトラック(12/19)

https://note.com/cplyosuke/n/n41c5e6837b84

ベストアルバム(12/26)

https://note.com/cplyosuke/n/n388fc229424e

2021年のお気に入りGファンク(1/4)

https://note.com/cplyosuke/n/n115e4d574aef


Grumble Monster 2.0(12/20)

https://grumblemonster.com/column/bestalbums2021/


A DAY WITHOUT ME(12/21)

https://shohashi.hatenablog.com/entry/2021/12/21/010513


A4 COPYPAPER(12/21)

http://a4copypaper.blogspot.com/2021/12/2021-30.html


Ibotenic(12/21)

https://t-sin.github.io/diary/2021-12-21_best-albums-2021.html


ryoryota(12/21)

https://note.com/ryoryota_san/n/n0824cb209075


hwitのブログ(12/21)

https://hwit.hatenablog.com/entry/2021/12/21/185559


Bamuda(12/22)

https://bamudaba.tumblr.com/post/671192202928603136/los-25-25-mejores-discos-de-argentina-2021


syu_hydrangea(12/22)

https://note.com/suu_hydrangea/n/n32de630807bd


葱(ねぎ)

6/30(12/22)

https://note.com/richnoise/n/n62f2120d200d

24/30(1/1)

https://note.com/richnoise/n/nc70c421f8f21


もこみ

旧譜編(12/22)

https://note.com/mocomi/n/nb5385d902069


package_emoji(12/23)

http://package-emoji.tokyo/2021/12/23/%e3%81%a9%e3%81%86%e3%81%84%e3%81%86%e9%9f%b3%e6%a5%bd%e3%81%8c%e5%a5%bd%e3%81%8d%e3%81%8b%e3%83%bb2021%e5%b9%b4%e3%81%ae%e6%9b%b25%e9%81%b8%e3%83%bb%e3%81%8a%e3%81%be%e3%81%91/


Garciaaan(12/23)

https://garciaaan.notion.site/2021-10-2cf312c81ccf443c9b21155319c3871d


ノベルにはアイデンティティしかない

邦楽(12/23)

http://noveltootakatohe.com/2021japanesealbum50/

洋楽(12/26)

http://noveltootakatohe.com/2021oversea-albumranking/


Smith(12/23)

https://note.com/dedaumier_smith/n/ne07ce220e9a2


shumamb

コンピレーション(12/23)

https://shumamb.hatenablog.jp/entry/2021/12/23/164937

ミュージック(12/25)

https://shumamb.hatenablog.jp/entry/bestmusic-2021


ShinanoYama

下半期ベストアルバム(12/23)

https://note.com/diefun/n/n3d799552aeaa

ベストソング(12/27)

https://note.com/diefun/n/nca20d5fee571

ベストプロデューサー(12/29)

https://note.com/diefun/n/n0e8d410fb837


Yuta Sato(12/24)

https://note.com/fredelix9/n/nf913d51e6439


デンシノオト(12/24)

https://postit-foundmix2020.hatenablog.com/entry/2021/12/24/215711


makoto(12/24)

https://note.com/mkt75rnrs/n/nb1de287fcabd


tomoyuki(12/24)

ゴアグラインド名盤20選

https://note.com/mgflx12/n/nc0bd927636ae


Sho SAKAI(12/25)

https://note.com/shosakai/n/n0aeaf4faf832


メタルDUNE(12/25)

https://note.com/metaldunne/n/nd4ada99d9a62


sqared-a

ソング編(12/25)

https://note.com/squared_a/n/neb5e5aa49f7d


Gyro(12/25)

https://note.com/24_98000/n/na0edfad20853


ForgeYourOwnChains(12/25)

https://forgeyourownchains.com/2021/12/25/fyoc-favorite-list-2021/


stillsato(12/26)

https://stillsato.com/2021/12/26/2021best/


ただの音楽ファンが見る音楽業界(12/26)

https://akiryo.hatenablog.com/entry/2021/12/26/183136


GROOVER(12/26)

https://groover-seo.amebaownd.com/posts/28420893/


梅雨の頃の音色(12/26)

https://an-eastern-music-blog.hatenablog.com/entry/2021/12/26/183601


パッソス(12/26)

https://note.com/passos/n/n540e3ace9d88


sgsw(12/26)

https://note.com/tba_eric/n/n8f47912a3e62


WebVANDA(12/26)

https://www.webvanda.com/2021/12/webvanda2021.html


PUBLIC IMAGE REPUBLIC

旧譜(12/26)

http://youthofeuphoria.blog65.fc2.com/blog-entry-828.html?sp

ベストソング(12/30)

http://youthofeuphoria.blog65.fc2.com/blog-entry-829.html?sp

ベストアルバム(12/31)

http://youthofeuphoria.blog65.fc2.com/blog-entry-830.html?sp


三代目齋藤飛鳥(12/27)

1-50位

https://note.com/askaryo3/n/n392cc00d75b0

51-100位

https://note.com/askaryo3/n/nb5bb6e48b06b


トトム(12/27)

https://note.com/tomo_noteikuchan/n/nb5f558371378


安田理央(12/27)

https://rioysd.hateblo.jp/entry/2021/12/27/153100


pwm(12/27)

https://note.com/pwm/n/nf989ef076e9b


Sugar(12/27)

https://note.com/sugarrrrrrrock/n/nf9f258bd594c


雑記(12/27)

https://featheredge.hatenadiary.com/entry/2021/12/27/205635


とよ

洋楽(12/27)

https://note.com/drum108/n/n08de8bd75899

邦楽(12/31)

https://note.com/drum108/n/naa9a827f209f


ぐらいんどこあせーるすまん(12/27)

http://blog.livedoor.jp/nekropunk/archives/58851308.html


Hepatic Disorder(12/27)

https://draconyan.exblog.jp/32419939/


モノガタリは終わり地続きのセカイに鳴り響く

国内(12/27)

https://necklessowl.hatenablog.com/entry/2021/12/28/000456

国外(12/31)

https://necklessowl.hatenablog.com/entry/2021/12/31/120000


偏愛音盤コレクション序説 从从从从(12/28)

http://abortedeve.blog.jp/archives/1079967368.html


ぐちょん(12/28)

https://note.com/guchon/n/nac2500a76d41


新都心(12/28)

https://note.com/shintoshin/n/n833725aa6168


ジー(12/28)

https://note.com/regista13/n/n429886749ffc


猫と僕らと。(12/28)

https://note.com/aitkgk/n/n9068e1b2b321


リホ

アルバム(12/28)

https://note.com/riholog/n/n61db5ee30599

ソング(12/29)

https://note.com/riholog/n/nbb819c6271fc


KAWAGUCHI / HONEBONE

ソング(12/28)

https://note.com/kawariver/n/nc1fcc8d24022

アルバム(12/31)

https://note.com/kawariver/n/nd5c1ba5b508d


boonzzy

20-16(12/28)

https://note.com/boonzzy/n/na0c100acc103

15-11(12/30)

https://note.com/boonzzy/n/n485031046788

10-6(12/30)

https://note.com/boonzzy/n/n2a9717a46db3

5-1(12/31)

https://note.com/boonzzy/n/n3ce9b82ea1e6


TOMC(12/29)

https://twitter.com/tstomc/status/1475972329737969674?s=21


やなたつ(12/29)

https://note.com/tubatatsu/n/n298effc43844


トベコンチヌエド(12/29)

https://tobecontinued.hatenablog.jp/entry/2021/12/29/143737


梅本周平(12/29)

https://note.com/zakuro69/n/n7c2473ba356e


のこ(12/29)

https://note.com/noko69/n/nf6ec84edb2e3


(12/29)

https://twitter.com/worried10fire/status/1476144586326446084?s=21


サム(12/29)

https://note.com/okyouth2head/n/naccaf693494e


ベチェ(12/29公開)

https://note.com/aurautakantele/n/nfd4dbc51b33e


Junineblog(12/29)

https://junineblog.com/album-of-the-year-2021/


'n'Roll Music

洋楽(12/29)

https://first-eye.com/2021/12/29/2021-best-www/


telkina shige(12/29)

https://note.com/telkina_14/n/ncf90ce259316


月の人(12/29)

https://note.com/shapemoon/n/nb02e8aac6429


ショック太郎無果汁団)(12/29)

https://note.com/shocktarou/n/ne4370eff4d19


魂のダンス(12/29)

https://tacchi0727.hatenablog.com/entry/2021/12/29/120000


異類(12/29)

アルバム

https://iruikonintan.hatenablog.com/entry/2021/12/29/203000

トラック

https://iruikonintan.hatenablog.com/entry/2021/12/30/214143


いよわ(12/29)

https://twitter.com/igusuri_please/status/1476069459001737218?s=21


π_n.(12/30)

https://paipan.hateblo.jp/entry/2021/12/30/123127


橋本(12/30)

https://note.com/hsmt_i/n/nfc55ca659bc6


戦慄とアバンチュールとジェラシー(12/30)

http://kouenspark.blog.fc2.com/blog-entry-42.html


ヨーグルトーン(12/30)

https://muimix.hatenablog.com/entry/20211230/1640833498


屋根裏(12/30)

https://note.com/fromtherooftop/n/n6f5adc5b2f14


高橋アフィ(12/30)

https://note.com/tomokuti/n/n3881a7be2c55


GoldenPhoenixRecords(12/30)

https://goldenphoenixrecords.hatenablog.com/entry/2021/12/30/104934


市原(12/30)

https://note.com/hara_kuti__/n/na398514c5b25


yukihiro671(12/30)

https://note.com/1or8/n/n80c3b2ca1ad8


Yusuke Horimoto(12/30)

https://note.com/yusukehorimoto/n/n01f84929af60


Música Terra(12/30)

https://musica-terra.com/2021/12/30/2021-best-album/


たにみやん(12/30)

https://tanimiyan.hatenablog.jp/entry/2021/12/30/201400


相変わらず僕はロックを聴き続ける(12/30)

前編

https://aikawarazurock.site/2021%e5%b9%b4%e3%83%9e%e3%82%a4%e3%83%99%e3%82%b9%e3%83%88%e3%82%a2%e3%83%ab%e3%83%90%e3%83%a0%e5%89%8d%e7%b7%a8/

後編

https://aikawarazurock.site/2021%e5%b9%b4%e3%83%9e%e3%82%a4%e3%83%99%e3%82%b9%e3%83%88%e3%82%a2%e3%83%ab%e3%83%90%e3%83%a0%e5%be%8c%e7%b7%a8/


Casanova. S(12/30)

https://note.com/novacasanova/n/nad6f3111eee6


きたはし(12/30)

https://note.com/kitapashi/n/n8175297deb28


朱莉TeenageRiot(12/30)

https://kusodekaihug2.hatenablog.com/entry/2021/12/30/212742


かんそう(12/30)

https://www.kansou-blog.jp/entry/2021/12/30/195830


1T

邦楽(12/30)

https://note.com/ongakuonomatope/n/n5bc7ec33c237

洋楽(12/31)

https://note.com/ongakuonomatope/n/nc3ddf7436ba9


フーリッシュさ いとう(12/31)

https://sekitoh.tumblr.com/post/672011046926630912/%E4%BB%8A%E5%B9%B4%E3%81%AE%E3%83%8A%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%90%E3%83%A02021


tacker_domingo(12/31)

https://note.com/tacker_domingo/n/n36edebab942e


Norichika Horie(12/31)

https://note.com/norichikahorie/n/ne2fc3e093351


放蕩(12/31)

https://note.com/whistleman/n/na3d27fabf6de


荻原梓(12/31)

https://twitter.com/az_ogi/status/1476713638962798592?s=21


キタムーン(12/31)

https://kitamoon.hatenablog.com/entry/2021/12/31/100234


illuminative waves(12/31)

https://note.com/illuminativewave/n/n8ee6c03cc3fd


タイ(12/31)

https://note.com/taiefigo/n/n9d7ce26abc88


名盤!(12/31)

https://open-g.at.webry.info/202112/article_3.html


ブンガクブ・ケイオンガクブ(12/31)

https://ystmokzk.hatenablog.jp/entry/2021/12/31/135417


Mike Portnoy(12/31)

https://twitter.com/mikeportnoy/status/1476686402104479759?s=21


長谷川白紙(12/31)

https://music.apple.com/jp/playlist/2021/pl.u-6mo4l2WCKWGA9j

https://soundcloud.com/hakushi-hasegawa/sets/2021a1?si=0d5314c9a1a44c508aa89de8f1232e40&utm_source=twitter&utm_medium=post&utm_campaign=social_sharing


鴎庵(12/31)

https://kamomelog.exblog.jp/32426406/


NO_ABO(12/31)

https://note.com/noabo/n/n3802faa0f26c


ミュージック バンク(12/31)

https://musicbank.hatenablog.com/entry/2021/12/31/163017


にせもの@えり天(12/31)

https://twitter.com/perfectnisemono/status/1476747456247660548?s=21


「Dishonour」が、かなり気まぐれに更新するかもしれないブログ。(12/31)

http://blog.livedoor.jp/dishonour/archives/52029190.html


pee-dog(12/31)

https://pee-dog.com/feature/best-albums-of-2021/


ミュージックコロン(12/31)

https://music.typepad.com/jackie/2021/12/2021_bestalbum.html


音楽と、時々ものがたり(12/31)

https://kakuyomu.jp/works/1177354054897097110/episodes/16816927859292907284


ロッキン・ライフ(12/31)

https://sinario19.com/%E3%80%8E/%e5%80%8b%e4%ba%ba%e7%9a%84%e3%81%8a%e3%81%99%e3%81%99%e3%82%81%e3%81%ae%e9%9f%b3%e6%a5%bd/2021%e5%b9%b4%e5%80%8b%e4%ba%ba%e7%9a%84%e3%83%99%e3%82%b9%e3%83%88%e3%82%bd%e3%83%b3%e3%82%b021/%E3%80%8F


シヨウ(12/31)

https://note.com/v24s_7/n/n5b87f2b0dbc5


hidemuzic(12/31)

https://note.com/hidemuzic/n/n1339694f0c8c


コレ(12/31)

https://note.com/newworld_69bt/n/nedd381045f22


Ok Camille(12/31)

ベストソング

https://www.okcamille.com/100_best_songs_2021_100_51.html

https://www.okcamille.com/100_best_songs_2021_50_21.html

https://www.okcamille.com/100_best_songs_2021_20_1.html

ベストアルバム

https://www.okcamille.com/40_best_albums_2021_40_21.html

https://www.okcamille.com/40_best_albums_2021_20_11.html

https://www.okcamille.com/40_best_albums_2021_10_1.html


サブカルチャーマガジン(12/31)

https://blog.goo.ne.jp/neverendingcult/e/fa70ef03cbd84ef5d9cceba1474e9cc4


今日聴いた音楽の感想。第二版(12/31)

https://musicalhobbymetalprog.com/archives/2021%e5%b9%b4%e3%83%99%e3%82%b9%e3%83%88%e3%82%a2%e3%83%ab%e3%83%90%e3%83%a0.html


cllctv.(12/31)

https://cllctv-jp.com/column/2021/12/31/tomohiro_mybests_2021/


岩下和了(12/31)

https://twitter.com/shinshoga/status/1476892857600741380?s=21


V-STYLE(12/31)

http://blog.livedoor.jp/vmjstyle/archives/52018943.html


EMΦkurage(12/31)

https://note.com/emo_kurage/n/n82180cd49d00


らすたゃら(12/31)

https://note.com/lasthara/n/n42a2a87856e0


なた(12/31)

https://note.com/ssvod_/n/n7093dccb408c


Kun(12/31)

https://note.com/rock_n_roll_love/n/n57553f9b1bc9


空唄旅団3 -music heroine-(12/31)

https://mk562010.blogspot.com/2021/12/2021.html


Onoonono85(12/31)

https://note.com/onoken85/n/n69a54ae810b0


しらないひと。(12/31)

https://twitter.com/siranaiyone1/status/1477158961933864967?s=21


アウトブレイク・ショウ(12/31)

https://twitter.com/outbreak_on_twi/status/1476898838434938880?s=21


naniwametal(12/31)

https://naniwamtl.exblog.jp/page/1/


evrluastngpx108(1/1)

https://note.com/evrluastingpx108/n/n2dfee08efbe2


ディスカホリックによる音楽夜話(1/1)

https://hiroshi-gong.hatenablog.com/entry/2022/01/01/000804


イルソン / ラップヲモット(1/1)

https://note.com/rapwomot/n/nefe2d4d02f59


KAWAIDA(1/1)

https://kawaidayoshitaka.com/n/n63a9e3c5c159


みちを(1/1)

https://note.com/michism/n/n9ed56d13b83d


bmq(1/1)

https://bmqisaband.wixsite.com/media/post/%E5%B9%B3%E9%87%8E%E6%B5%A9%E4%B8%80%E3%81%AE2021%E5%B9%B4%E3%83%99%E3%82%B9%E3%83%88%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%90%E3%83%A0-7-1


ばふつ(1/1)

https://twitter.com/xbaf2idolx/status/1477238469949009922?s=21


佐々木敦(1/1)

https://note.com/sasakiatsushi/n/nf0d612145a66


ボヨヨン岬(1/1)

http://blog.livedoor.jp/sakuku992/archives/52141254.html


波田ログ(1/1)

https://masaharu-hatano.hatenablog.com/entry/2022/01/01/181209


アオキシゲユキ(1/1)

https://note.com/metal_butterfly/n/n310f3491716a



選択の痕跡

ソング(1/1)

https://shogomusic.hatenablog.com/entry/2022/01/01/202330

アルバム(1/2)

https://shogomusic.hatenablog.com/entry/2022/01/02/142313


MARUNOUCHI MUZIK MAGAZINE(1/2)

http://sin23ou.heavy.jp/?p=16995


Iou

アジアンインディ(1/2)

https://note.com/vinyloureed/n/n572d729d0bcd

邦・洋(1/7)

https://note.com/vinyloureed/n/nbf4c29375af4


Nothing is difficult to…(1/2)

https://mywaymylove00.hatenablog.com/entry/2022/01/02/212256


WILCO(band)(1/3)

https://twitter.com/wilco/status/1477697641291075593?s=21


アルマの手紙(1/3)

http://dreampop402.blog.fc2.com/blog-entry-42.html


とかげ日記(1/3)

https://ameblo.jp/yoyo0616/entry-12719239682.html


hhamataa(1/3)

https://note.com/hhamataa/n/n8a5ec977ef59


オトログ(1/3)

https://otolog.hatenablog.jp/entry/2022/01/03/101858


ドラム師匠(1/3)

https://note.com/drumshisho/n/n40df613ab422


FastAnimals(1/3)

https://fastanimals.hatenablog.com/entry/2022/01/03/052344


とぼけがお(1/3)

https://min.togetter.com/DKeRqSH


egawahiroshi's blog(1/4)

https://egawahiroshi.hatenablog.com/entry/2022/01/04/000818


TECHNOLOGY POPS π3.14(1/4)

http://reryo.blog98.fc2.com/blog-entry-1143.html


karlysue(1/4)

https://note.com/karlysue/n/ncd9647b1bc02


いつものわたしを表現するブログ(1/4)

https://karonsenpai0912.hatenablog.com/entry/2022/01/04/2021%E5%B9%B4My%E3%83%99%E3%82%B9%E3%83%88%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%90%E3%83%A025%E3%80%90%E5%8E%BB%E5%B9%B4%E8%81%B4%E3%81%84%E3%81%9F%E4%B8%AD%E3%81%A7%E3%81%AD%E3%80%91


悶絶メタル(1/4)

http://mmpk584.blog.fc2.com/blog-entry-6961.html?sp


DIES IRAE(1/5)

http://blog.livedoor.jp/needled_2407/archives/52215951.html


ぬかるみ(1/5)

https://fortunefortune.hatenablog.com/entry/2022/01/05/152256


内本順一(1/6)

https://note.com/junjunpa/n/n558c63a9fa8e


teezee(1/6)

https://note.com/teezeeteezee/n/n59b9dde43b61


遠く曇ったどうにもならない夜は 心の針に思い出の溝を当てよう(1/7)

http://blog.livedoor.jp/loveless3104/archives/27686310.html


小野瀬雅生(1/7)

https://note.com/onosemasao/n/n5b1665d000fc


Culthouse(1/10)

https://note.com/culthouse/n/naeaf8659ab07


YOFUKASHI FRIEND(1/10)

https://note.com/mobningen/n/n89925887340e


K.EG

Best of Japanese Hip Hop 2021 -floor-(1/10)

https://note.com/k_eg/n/nef4ac25b77d8

Best of Japanese Hip Hop 2021 -street-(1/10)

https://note.com/k_eg/n/na9910fbac8e2


切△い(1/10)

http://todomemixtapefactory.blogspot.com/2022/01/2021100.html


えにぃもあ(1/11)

https://note.com/any_more/n/nf6b65f6da273


よろすず

30-21(1/14)

https://note.com/yorosz/n/n7374f0e19fcc

20-11(1/14)

https://note.com/yorosz/n/n8e4761d0a73e

10-1(1/15)

https://note.com/yorosz/n/n0495d1f2b377








 

不協和音エクストリームメタルのすすめ(An Introduction to Dissonant Death Metal and Others)

 

 本稿は、“Dissonant Death Metal”(不協和音デスメタル)という括りで近年広く認知されるようになってきた先鋭的なメタルの系譜およびその周辺(デスメタルに限らない)を俯瞰的にまとめたものである。こちらの記事でもふれたように、80年代末から90年代頭にかけて下地が築かれた“テクニカルスラッシュメタル”や“プログレッシヴデスメタル”などのシーンでは、定型化した以降のフュージョンなどが持て余していた高度な楽理や演奏技術に表現上の説得力を持たせた個性的な音楽が追求され、様々な形で素晴らしい成果が生み出されてきたのだが、それらを系統立てて語る言説は十分に確立されているとは言い難い。歴史的名盤であっても一般に知られていないものが殆どだし、この領域をそれなりに知る者でも、最初期のレジェンドの名前(DeathやCynic、Gorgutsなど)のみを挙げて新しいバンドの音楽性や影響関係を云々していることが非常に多い。初期デスメタル(Old School Death Metal=OSDM)リバイバルやプログデスといった系譜で括るのが適当でない領域が拡大し続けているにもかかわらず、それを語る批評の観点や表現がいつまでも更新されずにいるのは好ましいことではなく、活発に新陳代謝を繰り返すシーンの実情とその認知状況との乖離がどんどん大きくなっていってしまう。そうしたことを踏まえた上で、この記事は、上記のようなシーンの現状を把握するための見取り図を描くことを目的としている。不十分な部分も少なからずあるだろうし、これを叩き台としてさらに充実した論を構築していただけると幸いである。

 

 

 

参考記事:

 

closedeyevisuals.hatenablog.com

closedeyevisuals.hatenablog.com

closedeyevisuals.hatenablog.com

 

 

 

 

 

【まずはここから】本流を把握するための10枚

 

 

Gorguts:Obscura(1998)

 

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 このジャンルにおける最重要アルバム。ペンデレツキやショスタコーヴィチなど無調寄り近現代音楽の要素をテクニカルデスメタルの形式に落とし込んだ大傑作で、奇怪なフレーズやコード感に異常な必然性と説得力を持たせる作編曲が素晴らしい。演奏表現力もサウンドプロダクションも極上で、複雑な構造を細部まで快適に見通すことができることもあってか、デスメタル領域のみならず現代ジャズ(Dan Weissほか)など様々な方面に絶大な影響を与えている。実は1993年には殆ど完成しており(デモ音源集『...And Then Comes Lividity / Demo Anthology』で聴くことができる)、1998年の発表当時ですら時代の数歩先を行っていた(異形すぎる音楽性を歓迎しない反応がデスメタルファンの中にも多かった)このアルバムが順調にリリースされていたら音楽史はどんなふうに変わったのだろうか、と考えさせられてしまったりもする。メタルの歴史において最も魅力的な謎に満ちた作品の一つである。

 

 

 

Immolation:Close to a World Below(2000)

 

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 Immolationは初期デスメタルを代表するバンドの一つで、曲構成(特にコード進行)の抽象化傾向を先導する歴史的傑作を数多く発表してきた。本作は第2のキャリアハイとなった名盤で、後発組であるGorgutsなどの和声感覚を通過した上で独自の音楽性をさらに発展。激しさをあえて抑えたリズム構成や演奏表現も相まって、真似しようのない極上の旨みが生まれている。「不協和音デスメタル」というジャンル名で括られうるものの中では最も聴きやすいアルバムの一つだと思われるし、これを入門編とするのもいいかもしれない。

 

 

 

Today Is The Day:Sadness Will Prevail(2002)

 

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 Today Is The Dayは豊かすぎる音楽性もあってかジャンルの狭間に落ち込んでしまい十分な評価を受ける機会を逃してきたバンドである。DeathやSlayer、Morbid Angelといったスラッシュメタル~初期デスメタルを主な影響源とする一方で、MelvinsやButthole Surfers、UnsaneやThe Jesus Lizardといったハードコア寄りの越境的バンドからも多くを得ており、一言で表すのは殆ど不可能な広がりがある。本作はそうした音楽性を2時間半弱の大ボリュームに詰め込んだ代表作で、デスメタルからカオティックなハードコア経由で優美な初期ポストロックに接続するような混沌ぶりが凄まじい。アルバム全体としての構成はあまり解きほぐされておらず、その点においては欠陥の多い作品と見れなくもないのだが、その歪な形状自体が優れた表現力を生んでいる面も確かにあり、良くも悪くも唯一無二の魅力を湛えた傑作になっている。後続への影響力も絶大。メタル界最大のデータベースサイトMetal Archivesに登録を拒否されているのが信じられない重要バンドである。

 

 

 

Ulcerate:Everything Is Fire(2009)

 

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 現代の“不協和音デスメタル”を代表するバンド。ImmolationやGorguts、Today Is The Dayらの影響を消化し独自の個性を確立した作編曲は壮大な交響曲のようであり(インタビューによれば、よく比較されるDeathspell Omegaからの影響はないとのこと)、現代ジャズ方面の語法を取り込みテクニカルデスメタルの形式を発展させた演奏は超絶技巧を無駄打ちしない必然性に満ちている。本作はバンドの音楽性が最初の完成をみせた2ndフルで、以降の傑作群と並べても見劣りしない(今なお最高作の一つとされる)充実の内容になっている。作品を発表するたびに影響力が増す現代最強バンドの一つである。

 

 

 

Deathspell Omega:Paracletus(2010)

 

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 Deathspell Omegaはブラックメタルの領域における歴史的名バンドであり、日本では2004年の『Si Monvmentvm Reqvires, Circvumspice』(ハイライトとなる大曲で滝廉太郎「荒城の月」の荘厳な合唱が入る)が大きな話題を呼んだことからそのあたりのイメージを引きずっている人も多い。しかし、続く2005年の『kenose』でそれまでの定型的ブラックメタル寄り音進行(19世紀クラシック音楽に通じる素直な展開が主)に不穏な響きを加え始めたあたりから路線転換がなされていき、2010年発表の本作『Paracletus』では上記の4バンドと並べても違和感のない“不協和音デスメタル”的なスタイルが確立された。ライヴもインタビューも殆ど行わない覆面バンドなので音楽的バックグラウンドも謎な部分が多いのだが、ConvergeやThe Dillinger Escape Planをはじめとするカオティックハードコア(これは日本での通称で英語圏では一般にMetalcoreとかMathcoreといわれる)とデスメタルの間にあるような独特の質感や曲展開もあわせ、独自の非常に優れた音楽性を築き上げている。メンバー(と目されている人物)にはネオナチ疑惑があり、シーン内での批判も多く手放しで持ち上げることはできないのだが、作品の魅力や実際に及ぼしてきた影響の大きさを否定することは難しい。好んで聴くかどうかはともかく非常に重要な役割を担ってきたことは認めざるを得ないし、不協和音デスメタル的な音楽性の作品を語る際に比較対象として挙げられることが非常に多い(そしてそれは誤っていることも多い)バンドでもある。

 

DsOの影響力についてはこちらの記事が参考になる:

DIES IRAE:Deathspell Omegaに似てるバンド・アルバム集 (livedoor.jp)

 

 

 

Gorguts:Colored Sands(2013)

 

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 2005年に一度活動停止、体制を刷新した上での復活作。2010年代以降のこのシーンにおける歴史的名盤である。交響曲的な作編曲の強度は『Obscura』および次作『From Wisdom to Hate』より数段上、演奏と音響の練度も驚異的(2014年7月の来日公演でも信じられないくらい素晴らしい出音&PAを聴かせてくれた)。それに加えて重要なのがメンバーの人脈で、現在も在籍するColin Marston(KralliceやDysrhythmiaなど多数)とKevin Hufnagel(DysrhythmiaやVauraなど)、2014年に脱退するJohn Longstreth(Hate Eternal, Origin)、そして絶対的リーダーLuc Lemayという布陣は、初期デスメタルからブルータルデスメタルを経由しNYの越境的アンダーグラウンドメタルに繋がる歴史を総覧し接続するものでもある。現代の“不協和音デスメタル”を象徴する最重要アルバム。

 

 

 

Portal:Vexovoid(2013)

 

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 Portalはメタルという形式の上での抽象表現を突き詰めたようなバンドである。出発点は確かにImmolationやIncantationのような“リチュアル系”荘厳儀式デスメタルなのだが、作品を重ねるほどに唯一無二の境地を拓き続け、似たようなスタイルを選ぶことはできるが同じ味は出せないというポジションを確立してきた。慣れないと音程を聴き取るのも難しい暗黒音響もさることながら、最も個性的なところは「どうしてそんな展開をするのか何度聴いてもよくわからない」曲構成だろう。コード感的にはGorguts系の無調的なものではなく、19世紀末クラシック音楽あたりの比較的わかりやすい響きが主なのだが、フレーズの並びというか起承転結の作り方が不可解で、ある種のドラマ(およびその傾向)は確かに存在するのだが一体どこに連れていかれるのかわからない印象が付きまとう。そう考えると、例えばラヴクラフト的な荘厳&理不尽の表現(顔の見えないローブをまとう儀式的なライヴパフォーマンスもそれに通じる)としては至適なものに思え、コネクトしやすい部分も備えつつ総合的には全く手に負えないというこの按配こそが肝なのではないかという(くらいのところに留まらざるを得ない)納得感が得られる。本作は代表作として挙げられることが多い4thフルで、スタイルというか表現の方向性自体は2003年の1stフルの時点で概ね固まってはいる。どれを聴いても似たような具合によくわからない、しかし各々で描かれる気分や情景は確かに異なっている、という積み重ねも凄まじい。大きな影響力を発揮しつつ余人の追随を許さない重要バンドである。

 

 

 

Blood Incantation『Starspawn』2016

 

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 Blood Incantationは昨今の初期デスメタル(Old School Death Metal=OSDM)リバイバルにおける代表的なバンドである。1stフルである本作はTimeghoulとImmolationの美味しい所をMorbid Angel経由で混ぜ合わせたような音楽性で、不協和音をキャッチーに聴かせる作編曲の良さや、生々しいヨレや揺らぎを魅力的に聴かせる演奏および録音など、OSDMのエッセンス(特にコズミックデスメタル)を現代的に料理する巧みな仕事により2016年を代表するデスメタルアルバムとして多方面から高い評価を得た。このバンドはメンバーの兼任バンドも非常に重要で、diSEMBOWELMENT路線の昇華が見事なSpectral Voice、フィンランドデスメタルの再構築が素晴らしいBlack Curseなど、シーン最重要バンドの多くが数珠つなぎ状に連関している(その2つのバンドの要素も本作に含まれ豊かさを増している)。

2019年の2ndフルは中期DeathやMorbid Angelの要素を増しつつDemilichオマージュ(同バンドのリーダーAntti Bomanがゲスト参加)をするなど、ここ数年のOSDMリバイバルをある意味総括する内容になったが、PitchforkのBest New Music(その週の最高評価)として8.3点を獲得、年間ベストでも41位(メタルは本作のみ)にランクインしたりと、ジャンル外からも熱い注目を浴びることとなった。その理由はよくわからないのだが(1stフルの高評価を受けて「この作品を押さえておけば専門外ジャンルの地下シーンも分かってることが示せてセンス良く見える」的な枠に入れられた感もある)、それに見合った内容や文脈的価値を備えた作品ではある。こうした面においても非常に重要なバンドである。

 

 

 

Pyrrhon:What Passes for Survival(2017)

 

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 Pyrrhonは作品のクオリティ的にも人脈的にも“不協和音デスメタル”の先端部を代表するバンドである。Gorgutsにヘヴィ・ジャンク的な質感やグラインドコア流フリーミュージック的な展開(即興から構築されるアンサンブルも含まれる)を加えフォーク~アメリカーナ的な仄暗い豊穣に潜っていくような音楽性は、Swansに代表されるニューヨークならではの文化の坩堝的特質を継承するものだし、Today Is The Dayの混沌を損なわずデスメタル形式に完璧に落とし込んだような趣もある。SeputusやImperial Triumphantといった強力なバンドとの人脈的接続(または重複)も重要で、現代ジャズなどジャンル外の様々な領域に繋がる窓口にもなっている。このシーンの結節点・羅針盤としても外せないバンドである。

 

 

 

Krallice:Mass Cathexis(2020)

 

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 Kralliceは初期の“ポストブラックメタル”的な音楽性で知られるが、一時期以降はそこを脱し、地下メタルのエッセンスを巧みに掛け合わせ新たなものを生み出す活動を続けてきた。本作はその集大成とも言える傑作で、TimeghoulやNocturnusが土台を築き上げBlood Incantationが昇華させたことにより脚光を浴びるようになったコズミックデスメタル、EmperorやLimbonic Artに連なる宇宙的なシンフォニックブラックメタル、Ved Buens Ende...や一時期以降のDodheimsgardに連なる現代音楽~フリージャズ寄りのアヴァンギャルドブラックメタル、Gorgutsの系譜にある不協和音デスメタル、そしてそれら全てに大きな影響を与えたVoivodなど、様々なスタイルおよび文脈がこのバンドにしか成し得ない形で魅力的に統合されている。Colin Marston(Gorgutsのメンバーであり、近年のテクニカル系デスメタル作品の多くに関与する名エンジニアでもある)をはじめとしたメンバーの膨大な関連プロジェクトも鑑みれば、Kralliceは音楽的達成の面においても人脈の面においても現代メタル最重要グループの一つと言っても過言ではない。このシーンを掘り下げる際は必ず注目しなければならないバンドである。

 

 

 

 

 

【ルーツ】背景理解を助けてくれる20枚

 

 

Swans:Filth(1983)

 

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 ヘヴィな音楽の歴史において最も重要なバンドの一つ。ポストパンク~ノーウェーヴの無調的コード感をさらに推し進めた音進行(または反復)感覚、グラインドコアに繋がる重苦しいジャンク音響、それらに表現上の必然性を与える殺伐とした雰囲気など、同時代以降の音楽に与えた衝撃は測り知れないものがあるし、“不協和音デスメタル”周辺のバンドも間接的または直接的に大きな影響を受けている。ニューヨークの越境的な地下シーンを紐解くにあたっても外せない存在である。

 

 

 

G.I.S.M.:DETESTation(1983)

 

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 G.I.S.M.は元祖メロディック・デスメタルと言われるくらい流麗な旋律を前面に押し出した音楽性で知られるが、クラシック音楽や歌謡曲に通じるリードフレーズに対しそれを包むコード感はかなり特異で、伝統的ハードロック~ヘヴィメタルやそれに連なるメロデスよりも、和声構造の複雑なデスメタルやSwansなどに通じるところが多い。これはインダストリアル~ノイズからの影響を解きほぐし巧みにまとめ上げたことにより生まれたと思われるもので、それを初期パンク~ハードコア的な流儀のもとで提示するG.I.S.M.の音楽は、様々なヘヴィミュージックが変遷混淆し新たなスタイルを生み出していった80年代初頭における、そうしたもの全てにとっての結節点なのだと言える。世界的に神格化されているだけのことはある(Meshuggahのようなバンドも影響を受けている)歴史的名盤。

 

 

 

Metallica:Master of Puppets(1986)

 

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 本作はスラッシュメタルの代表的名盤として語られることが多いが、メタルの歴史においては交響曲的な作編曲(曲単位でもアルバム単位でも)を確立した記念碑的傑作とみる方がしっくりくる。あまり注目されないけれども重要なのが「The Thing That Should Not Be」で(MeshuggahのMarten Hagstromはこれを「生まれ変わったら書いてみたいこの1曲」に挙げている)、Morbid Angelなどに直接的に通じるコード感覚は“不協和音デスメタル”の系譜にも非常に大きな影響を与えていると思われる(それとラヴクラフト的な歌詞テーマの組み合わせも)。史上最高のメタルアルバムの一つである。

 

 

 

Voivod:Killing Technology(1987)

 

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 “不協和音メタル”という括りを考える際に真っ先に名前が挙がるバンドがVoivodだろう。King Crimsonをはじめとしたプログレッシヴロックの音進行をNWOBHM的なパワーコード感覚で肉付けした音遣いは蠱惑的な魅力に満ちており、7拍子や5拍子を効果的に使いこなすリズム構成もあわせ、本稿に挙げたバンドのほぼ全てが直接的または間接的な影響下にある。本作は独自の大曲志向が最初に確立された傑作で、宇宙的な広がりと土着的な荒々しさを両立する独特の世界観~雰囲気表現は、“Sci-Fiメタル”“コズミックデスメタル”と呼ばれるスタイルの雛型となった。アンダーグラウンドなメタルおよびハードコアの歴史において最も重要なバンドの一つである。

 

 

 

Watchtower:Control And Resistance(1989)

 

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 テクニカルなメタルの世界における金字塔的傑作。Rushに連なるプログレッシヴハードロックの変拍子構成を高速スラッシュメタルに落とし込み、フュージョン(というかジョン・コルトレーンマイケル・ブレッカーの系譜)をより複雑にしたようなコード進行と掛け合わせた音楽性で、Dream Theaterを含む同時代以降のバンドに絶大な影響を与えた。特に素晴らしいのが圧倒的な演奏表現力で、超絶技巧をひけらかし感なく必要十分に使いこなすアンサンブルは、どんな場面でも理屈抜きの生理的快感に満ちている。いわゆるマスコアとは異なるめまぐるしいビートチェンジ(13拍子や44拍子なども滑らかに駆使)はプログレッシヴデスメタルやテクニカルデスメタルの礎となり、その上で超えられない頂点として君臨し続けている。本稿に挙げた全作品の中で最も優れたアルバムの一つである。

 

詳しくはこちら

 

 

 

Toxik:Think This(1989)

 

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 スラッシュメタルというよりはスピードメタル(NWOBHMを高速化したもので音進行の傾向が異なる)の系譜にあるバンドなのだが、この2ndフルではMahavishnu Orchestra経由でストラヴィンスキーに接続するような入り組んだ音楽性に変化。複雑な構造を極上のリードギター(エディ・ヴァン・ヘイレンやウリ・ジョン・ロートをさらに流麗にした感じ)で彩る作編曲が圧巻で、何度聴いても汲み尽くしきれない妙味に満ちている。メタルの歴史全体を見渡してもトップクラスの実力があるのに一般的にはほとんど無名なのが残念。影響関係を云々するのも難しいオーパーツ的傑作である。

 

 

 

Morbid Angel:Altars of Madness(1989)

 

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 Morbid Angelはデスメタルの世界に最初に複雑なコード感覚を持ち込んだバンドの一つである。19世紀末~20世紀初頭のクラシック音楽(無調になる前あたり)の暗黒浮遊感あふれるコード感をラヴクラフト的な世界観と併せて魅力的に聴かせる作編曲が圧倒的に素晴らしく、ジャンルの立ち上げに関わった古参でありながら今も最強の一角として君臨し続けている。“不協和音デスメタル”の系譜で重要なのは中期の傑作『F』『G』(このバンドのアルバム名はアルファベット順に考案されている)あたりだが、一枚選ぶならやはり『A』だろう。最初期ならではの衝動的な勢いが既に卓越した演奏技術と絶妙に融合し、作編曲もまだ抽象的になりすぎず程よいキャッチーさに満ちている。個人的には“デスメタル”に括られるあらゆる作品の中で最も好きなアルバムの一つ。永遠の名盤である。

 

 

 

Carcass:Symphonies of Sickness(1989)

 

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 初期のCarcassはゴアグラインドの始祖として語られることが多いが、独特の暗黒浮遊感を伴う特殊なコード感覚の面でも後のエクストリームメタル全域に絶大な影響を与えている。この2ndフルは低域に密集した轟音が整理され構造の細部を見通しやすくなってきた時期の作品で、それに対応するかのように曲構成も長尺・複雑化。慣れないと音程を聴き取るのも一苦労だが、ひとたび耳が馴染めば最高級の珍味に没入することができる。グラインドコアや北欧のデスメタルを通過した音楽は多かれ少なかれCarcass的な音進行傾向を血肉化しているし、“不協和音デスメタル”の系譜を読み込むにあたっても無視できない重要なバンドだと思われる。

 

詳しくはこちら

 

 

 

Pestilence:Consuming Impulse(1989)

 

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 Pestilenceは初期デスメタルからプログレッシヴデスメタルが立ち上がっていく流れを象徴するバンドである。スラッシュメタルの速さを損なわず重く安定させたような最初期の作風に次第に特異なコード感が加わっていき、1994年の解散前から2008年の再結成以降にかけては独自の音進行感覚を完全に確立。他の何かと比較するのが無意味に思われるほど個性的な(初聴では良し悪しを評価するのも難しい)路線を開拓し続けている。本作2ndフルはデスメタルの一般的なスタイルにまだ留まっていた時期に発表した歴史的名盤で、Morbid Angelを少しジャズに寄せたような和声感覚はいわゆるプログレッシヴデスメタルにおける重要な雛型となった。聴きやすさも鑑みれば総合的にはキャリア最高作と言っていいだろう一枚。簡潔的確なプレゼンテーションの大事さを実感させてくれる傑作である。

 

 

 

Obliveon:From This Day Forward(1990)

 

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 本稿に挙げたバンドは一般的にはほぼ無名ではあるものの一定の文脈では極めて高く評価されているものも多いのだが、Obliveonはそうした領域でさえ実力や功績に見合った認知を得ていない不遇の存在である。VoivodやGorguts、Martyrなどを生んだカナダ(特にケベック)のシーンでも屈指の実力者で、作品のクオリティはそれらの傑作群にも勝るとも劣らない。本作1stは最もスラッシュメタル色の強い1枚であり、同郷の伝説的クロスオーバーハードコアバンドDBCをDestructionのような欧州スラッシュメタルに寄せた趣の傑作になっている。Voivodの音進行感覚を数段洗練し暗黒浮遊感を増したような作編曲は唯一無二の個性に満ちており、2000年代に入ってからVektorやNegative Planeといったバンド群がリバイバル的に立ち上げた“Sci-Fiメタル”“コズミックデスメタル”の潮流をより高い完成度で先取りしている感もある。それに加えて重要なのが音楽制作スタッフとしての役割で、ギターのPierre Remillardはエンジニアとしてカナダ周辺バンドの傑作の多くに関与(Cryptopsy、Gorguts、Martyr、Voivodなど)。裏方として大きな信頼と影響力を得ていることが窺える。発表した作品は全て廃盤、各種ストリーミングサービスはおろかBandcampにすら音源が上がっていない現状をみると、十分に知られるのはまだまだ先になりそうなのだが、“テクニカルスラッシュメタル”から“プログレッシヴデスメタル”を経由し“不協和音デスメタル”にも深く関与(Gorgutsの最重要2作にもエンジニアとして参加)するこのバンドが見過ごされたままでいいわけがない。注目される機会を得て適切に評価されてほしいものである。

 

詳しくはこちら

 

 

 

Atheist:Unquestionable Presence(1991)

 

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 AtheistはDeathやCynicと並ぶ“プログレッシヴデスメタル”黎明期の伝説的名バンドとして挙げられることが多いが、確かに初期デスメタルシーンに所属してはいたもののそれらとはだいぶ毛色が異なるし、現在“プログデス”として認識されるスタイルと直接的には繋がらない音楽性を確立していた。1stフル『Piece of Time』(1989)再発盤のライナーノーツでリーダーのKelly Shaeferが述べているように、成り立ちの基本は「Rush+Slayer+Mercyful Fate」という感じで、そこに様々な音楽要素を溶かし込みながらも形式面では大きく離れない出音は「モードジャズ化したNWOBHM寄りスラッシュメタルを超一流のジャズロックプレイヤーが演奏している」ような趣がある。フュージョンクラシック音楽~現代音楽に学びコード進行的な考え方から楽曲を構築する多くの“不協和音デスメタル”とは異なり、Atheistは転調(広く定着した誤用としてのビートチェンジではなく、tonal centerを変更するキーチェンジ)を繰り返す単旋律リフの積み重ねによって複雑な表情を描く傾向があり、それを支える感覚が特殊で唯一無二のものだということもあってか、同様の味わいをそのまま継承しているものは殆ど見当たらない。それは圧倒的なアンサンブルについても同様で、全パートがシーン屈指の超絶技巧を駆使して命を削るような演奏表現を繰り返すさまは、音楽史における一つの頂点をなしていると言っても過言ではない(特にSteve Flynnの神憑かったドラムスは誰にも真似できない)。以上のようなことを鑑みると、このジャンルの流れを語るにあたっては実は必要でないようにも思われるのだが、80年代までの伝統的なHard Rock / Heavy Metalがスラッシュメタルを経由して90年代以降のエクストリームメタルに繋がる系譜を体現する存在としては極めて重要だし、そこに留まらずメタル史上屈指の成果と言える作品群は広く聴かれるべき価値がある。“プログデス”云々のイメージを越えて高く評価されてほしいバンドである。

 

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Death:Human(1991)

 

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 デスメタルというジャンル全体を代表する名バンドDeathには二つの側面がある。一つは88年2ndフルまでの“初期デスメタル”路線、そしてもう一つは本作4thフル以降の“テクニカルデスメタル”“プログレッシヴデスメタル”路線である。1990年の3rdフルからチャック・シュルディナーのワンマンバンドとなったDeathは作品ごとにメンバーを入れ替えるようになり、本作では界隈を代表する超絶技巧ベーシストであるスティーヴ・ディジョルジオとCynicの2名(ギターのポール・マスヴィダル、ドラムスのショーン・レイナート)を招集。このジャンル全体をみても最も豪華な座組が出来上がることとなった。その3名も深く関与した作編曲は全編素晴らしく、繊細なニュアンスと膨大な手数を美しく両立するレイナートのドラムス(Cryptopsyのフロ・モーニエなど多くの達人を魅了した)をはじめとする歴史的名演もあわせ、後続に絶大な影響を与えている。シュルディナーは独特の和声感覚を持ってはいるもののコード弾きなどのアレンジでそれを具体的に掘り下げることはできなかった(Deathの楽曲は大部分が単旋律のリフから構築されている:その意味において“不協和音デスメタル”に括るのは不適切にも思われる)のだが、本作ではマスヴィダルの貢献もあってか、単旋律主体アレンジからくるモノトーン感とそこから醸し出されるコード感が絶妙なバランスで両立されている。ジャンルの確立を告げる(オリジネーターとしてではなく編集者的な意味での)記念碑的傑作である。

 Deathの項に関連して述べておきたいのが、本作を起点とした“プログレッシヴデスメタル”の語られ方の歪さである。この領域のファンはいわゆるプログメタル(Dream Theaterなどの系譜)を好む一方で初期デスメタルは殆ど聴いていないタイプの人も多く、新しいバンドの音楽性や影響関係を云々する際、Death(本作4th以降のみ)やCynic、AtheistやGorgutsといった“プログレッシヴデスメタル”枠の名前を挙げて良しとすることが非常に多い。しかし、例えばBlood IncantationはDeathはともかくCynicやGorgutsと比較するのは不適切、較べるならImmolationやTimeghoulの方が遥かにしっくりくるし、GorgutsのリーダーLuc Lemayが「Deathの『Scream Bloody Gore』(1987年1stフル)を聴いたとき人生が変わった」と言っていることも鑑みれば、“プログレッシヴデスメタル”以外の(綺麗に整ってはいない)デスメタルも参照しなければ適切な理解を深めることができないのは明らかである。その“プログレッシヴデスメタル”とは異なる文脈も多い“不協和音デスメタル”ではその傾向は一層強くなるだろうし、活発に新陳代謝を繰り返すシーンの実情とその認知状況との乖離をこれ以上拡大させないようにするためには、こうしたルーツの把握も踏まえた批評の更新が必要になる。本稿がその一助になれば幸いである。

 

 

 

Disharmonic Orchestra:Not to Be Undimensional Conscious(1992)

 

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 Disharmonic Orchestraはオーストリア出身のトリオバンドで、グラインドコアと初期デスメタルが不可分に接続しながら立ち上がっていくシーンの黎明期(1987年)に結成された。ギター+ベース+ドラムス+ボーカル(音程変化のない歪み声)の最小編成でOrchestraを名乗るのはどうなのかと思われるかもしれないが、このバンドはその名のとおりの素晴らしい不協和音アンサンブル構築に成功している。Napalm DeathやCarcassの系譜にある変則的なコード遣いにゴシックロック的なアウト感覚を加えた音進行は蠱惑的な魅力に満ちており、異常にうまい演奏(渋くまとまっているがAtheistやCynicに勝るとも劣らない)もあわせ代替不可能な滋味を確立。「The Return of the Living Beat」後半におけるスクラッチ+ラップの導入(90年代頭のメタルシーンでは嫌われた試み)なども全く違和感なくこなす本作の楽曲はいずれも名曲級であり、このジャンルで最も優れたアルバムの一つとさえ言える。しかしバンドはそれに見合った注目を得ることができず、今に至るまで一般的な知名度はゼロに近いまま。90年代前半のデスメタル周辺シーンにはこうしたオーパーツ的傑作が多く、マニア的な探究をする者にとっては金脈のようでとても楽しいのだが、正当な評価がなされるべきという観点からすればやはり好ましくないし、そういう状況におかれても傑作を発表し続けているこのバンドの活動も多少はやりやすくなるようサポートできたのではないかと思ってしまう。The Dillinger Escape Planのメンバーが愛聴するなどシーン内での影響力も少なくないだろうし、もう少し注目されていいバンドなのではないかと思う。

 

 

 

 

Cynic:Focus(1993)

 

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 “プログレッシヴデスメタル”の頂点として君臨し続ける永遠の名盤。メンバーはジャズやプログレッシヴロックなどメタル外からの影響の方が大きく、そうした超絶技巧や楽理を活かす場としてのエクストリームメタルという意義が理想的な形で具現化されている。参照元と思われるYesやアラン・ホールズワース、世界各地の民俗音楽やアンビエントなどに通じるパーツはあるものの、全体としては完全に別物で、溶けかかった金属のスープが蠢くような不思議なグルーヴは似たものが見当たらない。デスメタルに明確な歌メロやオートチューンを導入し美しく活かすなど、本作が切り拓いた可能性は枚挙に暇がなく、その存在感はKing Crimsonの1stフルにも比肩する。作編曲も演奏も最高レベル。究極のロックアルバムの一つである。

 

 

 

 

Demilich:Nespithe(1993)

 

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 1990-1993年の本活動時は完全に無名で、マニアの間でのみカルトな名盤として語り継がれてきた本作も、ここ数年のOSDMリバイバルを経たことで史上最も重要なデスメタルアルバムの一つとみなされるようになってきた感がある。自分はAmazonレビューで本作を知り、ディスクユニオン御茶ノ水店でたまたま見つけて買ったことからその圧倒的な個性と完成度に惹き込まれるようになったわけだが、20周年記念盤掲載のAntti Boman(バンドの絶対的リーダー)インタビューなどを参考にこの記事をまとめた2015年の時点ではここまで再評価の気運が盛り上がるとは想像することもできなかった。しかし、Chthe'ilistやTomb Moldのような現行シーンの超一流バンドがDemilichのエッセンスを土台に各々の個性を開花させることによって知名度は着実に増していき、Blood Incantationの2019年2ndフルでAntti Bomanがゲストボーカルとしてフィーチャーされたことでその名声は決定的になったといえる。

本作がここまで注目されるようになったのは、アルバム全体の完成度が極めて高い(曲順構成や雰囲気的な統一感は完璧)というのもあるだろうが、素材としてそこに様々なものを付け加えやすい音楽性だからというのが最大の理由なのではないかと思われる。単旋律のリフを並べてモノトーンな広がりを生んでいく構成はAtheistやDeathにも通じるが(瞬間的に転調を繰り返しつつ足場は揺るがない感じの進行はその2者とはタイプが異なる)、そこに肉付けするコードの質によって様々に異なる表情を描くことができる“素材としての自由度”に関してはDemilichの方が格段に上で、パーツを拝借してもアレンジ次第で独自の個性へ昇華しやすい。上に名前を挙げたChthe'ilist・Tomb Mold・Blood Incantationも(他に溶けている要素が多くそれぞれ異なるからでもあるが)全く別のオリジナリティを確立しているし、そうしたシンプルで奥深い持ち味、いうなれば“異界の鰹節”的な特性が卓越しているからこそ、時を越えてここまで大きな流れを生むことができたのだろう。その上で、その特性を単体で提示する本作の抽象的表現力も後続と同等以上に素晴らしい。現行シーンの作品と併せて聴くことで双方の理解が深まる稀有の傑作である。

 

 

 

diSEMBOWELMENT:Transcendence into the Peripheral(1993)

 

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 デスメタルという音楽の可能性を最も体現する究極のアルバムの一つ。The CureJoy DivisionからDead Can Danceあたりに連なるゴシックロックと初期Napalm Deathのようなグラインドコアの暗黒浮遊感を足し合わせ、中東音楽~ビザンティン音楽~古楽を経由してアンビエントに接続したような音楽性で、フューネラルドゥームと呼ばれるジャンルの一つの雛型にもなった。7曲60分の長さを難なく聴き通させる構成力は圧巻で、アルバム全体を覆う厳粛な雰囲気や固有の時間感覚もあわせ、他では得られない特別な音楽体験を提供してくれる。これもDemilichと同じく知る人ぞ知るカルト名盤だったのだが、Blood Incantationの兼任バンドSpectral Voice(4人中3人が共通)がオマージュを捧げたこともあって知られる機会が増えてきている。現行デスメタルシーンを理解する資料としての重要度も年々高まっていくだろうし、作品それ自体の内容もこの上なく素晴らしい。未聴の方はこの機会にぜひ聴いておかれることをお勧めする。

 

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Timeghoul:Panaramic Twilight(1994)

 

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 Timeghoulは、近年熱い注目を浴びる“コズミックデスメタル”の始祖としてカルトな信奉を集めるバンドである。前身のDoom`s Lyre(1987-1991)を含め1994年の解散までに発表した作品は2つのデモ音源のみで、流通の問題もあって知る人ぞ知る存在に留まる期間が長かったのだが、その2作をまとめた音源集『1992-1994 Discography』が2012年に再発されてから一気に認知度が高まり、Blood Incantationをはじめとした現代デスメタルの代表的バンドがスタイルを援用したこともあわせ、重要バンドとしての地位がほぼ固まった感がある。この系統の先駆者としてよく知られるNocturnus(初期Morbid Angelと人脈的な繋がりがあり注目されやすかった)よりも高く評価されるようになってきた理由としては、Timeghoulの方が圧倒的に曲が良いのが大きいだろう。Nocturnusは「デスメタルシンセサイザーやSFテーマの歌詞を最も早く導入したバンドの一つ」と言われるとおり音遣いや世界観の表現は面白いのだが、リフや曲展開は比較的凡庸で、固有の味はあるものの突き抜けた説得力には欠けるという難があった。それに対しTimeghoulは全ての要素が強力で、ショスタコーヴィチストラヴィンスキーとも比較される刺激的な作編曲は、Gorguts『Obscura』以降の“不協和音デスメタル”とそのまま並べてしまえるものになっている。2ndデモである本作は音質の良さもあってそうした魅力がわかりやすく提示されている傑作で、『Obscura』の項でふれた「実は1993年には殆ど完成しており、1998年の発表当時ですら時代の数歩先を行っていたこのアルバムが順調にリリースされていたら音楽の歴史はどんなふうに変わったのだろうか」という仮定の話を実現したかのような存在感がある(こちらも発表当時は十分な知名度を得ることはできなかったのだが)。“コズミックデスメタル”についてどうこう言う際には絶対に聴いておかなければならないバンドである。

 

 

 

Meshuggah:Destroy Erase Improve(1995)

 

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 Meshuggahはメタルのリズム・和声・音響に革命を起こした最重要バンドである。パーツは変拍子だがフレーズ全体では4拍子に収まり4~8~16小節を1周期とする拍構造(その意味で「ポリリズム」は誤り)、アラン・ホールズワースなどの無調的コード遣いを発展させた高度な音進行、そうした複雑な構造が分からなくても楽しめる重く切れ味の良い音作り。こうした音楽性はDjent(ジェント)という直系ジャンルを生み大流行させたほか、現代ジャズなど他領域にも絶大な影響を与えている。デスメタルの文脈で語ることはできないが、Car Bombをはじめ“不協和音デスメタル”周辺のバンドに及ぼした影響も大きく、併せて聴き込む価値は高い。本作は以上の要素が未洗練ながら魅力的に確立された一枚で(13拍子などの変拍子も残存)、過渡期だからこその豊かさと驚異的な完成度を両立。90年代北欧ならではの薫り高い雰囲気も絶品な名盤である。

 

 

 

Ved Buens Ende...:Written in Waters(1995)

 

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 いわゆる“アヴァンギャルドブラックメタル”を代表するバンド。唯一のフルアルバムである本作は、ノルウェー以降のブラックメタルシーン(たまたまメタルを主題としているだけで音楽的には何でもありの豊かな領域)が生み出した最高の達成の一つというだけでなく、90年代のあらゆる音楽ジャンルをみても屈指の傑作である。音楽性を一言で表すのは困難で、基本軸を示す饒舌なベースの上でギターが無調寄りの複雑なコード付けを繰り返し、それらを卓越したドラムスがじっくり彩る、というアンサンブルは「現代音楽に通じるフリー寄りモードジャズ(エリック・ドルフィーあたり)をAmebixと組み合わせてブラックメタル化したもの」とか「King Crimson~Voivodとノルウェー特有の音進行感覚を混ぜ合わせて独自の暗黒浮遊感を生み出したもの」というふうに言うことはできるが、作編曲や演奏表現の底知れない豊かさはそうやって形容できるレベルを遥かに超えている。“アヴァンギャルドブラックメタル”という括りで認識されるスタイルはここで練り上げられた不協和音感覚を発展させたものが多く、メンバーのVicotnikが結成したDodheimsgardやCarl-Michael Eideが率いていたVirusなどはその代表格として未踏の境地を切り拓き続けてきた。現行の “不協和音デスメタル”周辺でもこうした“アヴァンギャルドブラックメタル”的な要素を駆使するバンドが存在することを鑑みれば、Ved Buens Ende...関連の音楽を聴いておくことはシーンの理解に少なからず役立つのではないかと思われる。

なお、こちらの記事では2007年に再解散したと書いたが、Ved Buens Ende...は2019年に再々結成し、オリジナルの3人+サポートドラマーの編成で今も活動を続けている。メンバーはいずれも驚異的な傑作を作り続けてきた才人だし、この名義でも新たなアルバムを生み出してくれることを願うばかりである。

 

 

 

The Dillinger Escape Plan:Calculating Infinity(1999)

 

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 いわゆるカオティックハードコアを代表するバンド(これは日本での通称で英語圏では一般にMetalcoreとかMathcoreといわれる)。この1stフルはジャンルのイメージを決定付けた歴史的名盤で、King CrimsonやMahavishnu Orchestraといったプログレッシヴロック~ジャズロック、CynicやMeshuggahのような“プログレッシヴデスメタル”周辺、DeadguyやDazzling Killmenに代表されるメタリックなハードコア、DeathやToday Is The Dayのようなデスメタル周辺など様々な領域のエッセンスを咀嚼し、Aphex TwinSquarepusherAutechreなどのIDM(Intelligent Dance Music)を人力で再現できてしまう驚異的な演奏表現力をもって統合した結果、複雑な和声と変拍子が目まぐるしく切り替わるのに快適に聴き通せてしまう異常な音楽が生まれている。このバンドが何より素晴らしいのはこれほどの超絶技巧を備えているのにそれに全く溺れないところで、最後の来日公演でも十全に示されていたように、20年の活動期間の全編にわたって衝動を最優先する表現を続けてきた。こうした姿勢は“不協和音デスメタル”周辺にも大きな刺激を与えており、Car Bombのような重要バンドが参考にしたことを公言するだけでなく、Deathspell OmegaやEphel Duathなどを通してジャンル外(ハードコアそのものは好まないだろう領域)にも少なからず影響を及ぼしていると思われる。“不協和音デスメタル”はメタルの中でも特に高度な作編曲が求められる音楽スタイルであり、シンプルな構造と勢い一発で突っ走る演奏のイメージが強いだろうハードコアとはあまり結び付かない印象もあるかもしれないが、作編曲もアンサンブルも超絶的に高度なバンドはハードコア方面にも多数存在し、特に2000年代に入ってからはメタル方面全域に影響を与えている。TDEPはその嚆矢となる存在であり、今なお聴き込む価値の高い名盤を多数遺した重要バンドなのである。

 

 

 

 

【その他の重要作】現行シーンを俯瞰する20枚

 

 

Martyr:Feeding the Abscess(2006)

 

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後期DeathやCynicを“プログレッシヴデスメタル”の第1世代とするならば、Martyrはそれらに直接影響を受けた第2世代の代表格であり、この系譜における史上最高のバンドの一つでもある。メンバー全員が音楽学校で正規の教育を受け、そこで得た楽理や技術を駆使しつつ衝動的な勢いや神秘的な深みの表現を追求。知識があるからこそ到達できる個性を確立した音楽性は第1世代の名作群の味を損なわず強化するもので、活動期間中に遺したフルアルバム3作とライヴアルバムはいずれもこのジャンルの歴史を代表する傑作といえる。本作3rdフルは最終作で、前作2nd(後期DeathやCynic直系の作品としてはこれ以上望めないレベルの内容)に較べると格段に入り組んだ展開を直情的に駆け抜ける音楽性は音響構築も含め完璧な仕上がり。Watchtower~Blotted Scienceを後期Emperor経由でバルトークあたりに接続し禍々しい怨念を注入したようなサウンドは、多くの定型的な“プログレッシヴデスメタル”が陥りがちなルーチンワーク的味気無さとは一線を画している。行きつくところまで行きついてしまったのでこれで解散、となるのもむべなるかなと思える驚異的な作品である。

上記のような作品自体のクオリティとは別に、Martyrはこのシーンにおける人脈的繋がりを象徴するバンドでもある。リーダーのDaniel MongrainはGorgutsの4th『From Wisdom to Hate』やCryptopsyの2004年ツアーにも参加したのち、不協和音メタルの始祖といえる名バンドVoivodに加入、絶対的リーダーだった先代Piggy(2005年に脳腫瘍のため逝去)に勝るとも劣らない素晴らしい仕事をし続けている(なお、Martyrの3rdフルにはVoivod「Brain Scan」のカバーが収録されている)。2018年発表のフルアルバム『The Wake』ではPiggyのリフ構築を換骨奪胎、個性を損なわずKing Crimson要素の呪縛から解き放つ手管が絶品だったし、2019年のモントリオール・ジャズ・フェスティヴァルでは『The Wake』収録曲をオーケストラとの共演編成にリアレンジ。ストラヴィンスキーフランク・ザッパをVoivod(同曲はホルスト「火星」を意識してもいると思われる)経由で接続するような極上の達成をしている。これを収録したライヴEP『The End of Dormancy』で示されているようにオーケストラ抜き4人編成の演奏も圧巻で、2019年1月の来日公演でも本当に素晴らしいステージをみせてくれた。また、Martyrの2ndフルおよび3rdフルに参加したドラマーPatrice Hamelinは現在はGorgutsの正メンバーを務めているし、その2作にはエンジニアとしてObliveonのPierre Remillardが全面的に関与している。以上のように、Martyrはカナダ・ケベック周辺シーンの密接な関わりを示す結節点的な存在でもあり、自身の作品群の凄さも併せれば“不協和音デスメタル”関連における最重要バンドの一つと言っても過言ではない。2012年の解散には知名度面での苦戦も少なからず関係していただろうし、今からでも注目され正当な評価を得てほしいものである。

 

 

 

Car Bomb:Centralia(2006)

 

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 Car Bombの音楽性は一言でいえば「Meshuggah+The Dillinger Escape Plan」という感じで(これはメンバー自身が公言している)、そこにDeftonesMy Bloody ValentineRadioheadAphex TwinAutechreなどを加えれば構成要素は一通り揃うとみてよさそうではある。その上で、出音はそれらから連想されるよりも数段複雑で、TDEPにスローパートを多数追加しつつ緩急の起伏(というか瞬発力表現の見せ場)を増やしたような展開構成は数回聴いた程度では楽曲の輪郭すら掴めない。こうした音楽性は一応マスコアに括られるものではあるが、Meshuggah~ジェントの系譜を通過した新世代の“プログレッシヴデスメタル”的な存在として(Car Bomb自体にデスメタルの要素は殆どないと思われるけれども)、“不協和音デスメタル”周辺のバンドにも大きな影響を与えている。本稿の冒頭で「初期デスメタルリバイバルやプログデスといった系譜で語るのが適当でない領域が拡大し続けているにもかかわらず、それを語る批評の観点や表現がいつまでも更新されずにいるのは好ましいことではなく、活発に新陳代謝を繰り返すシーンの実情とその認知状況との乖離がどんどん大きくなっていってしまう」と書いたが、その分水嶺となっているのがまさにCar Bombあたりの高度なハードコア出身バンドなのではないかと思われる。そうした点においても注目されるべき重要な存在である。

 

参考:

2019年4thフルの発表当時には長谷川白紙が感銘を受けた旨を話していたこともあり、エクストリームメタルとは別種の激しさを拡張し続ける現代ポップミュージックの文脈でも今後参照される機会が増えていく可能性はある。

 

 

 

Virus:The Black Flux(2008)

 

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 ノルウェー以降のブラックメタルシーンを代表する奇才の一人Carl-Michael Eide(通称Czral)が率いていたバンド。Carl-Michael自身が「Talking Heads+Voivodと呼ばれることが多い」というとおりのポストパンク寄りスタイルのもと、Ved Buens Ende...の複雑な和声感覚を洗練する形で掘り下げる活動を続けていた。「Virusは“avant-grade heavy rock”であり、ブラックメタルとは繋げて考えたくない(そもそも何かの一部として扱われたくない)。メタルファンにもオルタナファンにもアピールしうると考えている」というこのバンドの雰囲気表現は、アンドレイ・タルコフスキーフェデリコ・フェリーニピーター・グリーナウェイデヴィッド・リンチ達の不穏な映画から大きな影響を受けているとのことで、Ved Buens Ende...の時点ではまだ無自覚・無意識レベルに留まっていた毒性を抽出し濃縮したという印象もある。社交的に洗練された殺人的ユーモア感覚を漂わせる音楽表現は“精製された呪詛”のような趣もあり、サウンド面ではボーカルも含め歪み要素は殆どないにもかかわらず非常に怖い。本作2ndフルはCarl-Michaelが2005年にビルの4階から転落しドラムス(メタル周辺の音楽史においては史上最高のプレイヤーの一人だった)の演奏能力を失ってから初めて発表されたアルバムで、深く沈みこむように落ち着いた雰囲気のもと、卓越した作編曲能力と鬼気迫る演奏表現力(このバンドではボーカルとギターを担当)が示されている。Virusは地下メタルシーンの最深部から出発しながらメタルを逸脱していくような方向性もあってリアルタイムでは妥当な評価を得ることができなかったが、いわゆる“アヴァンギャルドブラックメタル”の音進行面での定型確立に最も貢献したバンドの一つであり、その影響力は“不協和音デスメタル”周辺にまで及んでいる。再結成を果たしたVed Buens Ende...とあわせて今からでも注目を集めてほしいものである。

 

 

 

Ephel Duath:Through My Dog`s Eyes(2009)

 

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 Ephel Duathはイタリアのブラックメタルシーン出身バンドで、ギタリストのDavide Tisoによるワンマンプロジェクト的な活動を続けていた。比較的よく知られているのが2005年にリリースされた3rdフル『Pain Necessary to Know』で、The Dillinger Escape Planモダンジャズ風にマイルドにしたような入り組んだ展開のもと、Ved Buens Ende...系列とはまた質の異なるジャズ的コード感(60年代後半のモーダル/コーダル的なものをブラックメタル的イメージでまとめた感じ:ブラックメタルの定型そのものはあまりなぞらない)を掘り下げる音楽性は、同時期に注目度を増していったDeathspell Omegaなどと並べても見劣りしない(そして明確に毛色の異なる)素晴らしい個性を確立している。このアルバムの電子音響的な要素に焦点を当てて全体を再構築したリミックスアルバム『Pain Remixes the Known』(2007)のトリップホップブレイクコア的な仕上がりはCar Bombなどにも通じるところがあるし、ブラックメタルシーン内ではある種キワモノとして知る人ぞ知る存在に留まっていたこのバンドは、今から振り返ってみれば“不協和音デスメタル”周辺の系譜にこそうまく位置づけられるのではないかとも思えてくる。とはいえそこからもさらに逸脱するのがEphel Duathの面白いところで、2009年に発表された4thフル『Through My Dog`s Eyes』では、メタル周辺領域を代表する超絶ポリリズムドラマーMarco Minnemanとの実質的なデュオ(Luciano George Lorussoのボーカルも要所で入るがインスト部分の方が多い)形態で極めて個性的なアンサンブルを構築。不穏な現代ジャズに近い音楽性はメタル系メディアでは殆ど注目されなかったが、Dan Weissのようなメタル影響下のジャズミュージシャンや、Imperial Triumphantに代表されるNYのジャズ~メタル隣接シーンに通じるものが多く、時代を先取りしていたオーパーツ的傑作として再評価すべき価値がある。Davideは現在Howling Sycamoreで“アヴァンギャルドブラックメタル+テクニカルスラッシュメタル”的な路線を開拓しており(ボーカルは元WatchtowerのJason McMaster)、それを理解するためにもEphel Duathを参照するのはとても意義深いことなのではないかと思われる。

 

 

 

Vektor:Outer Isolations(2011)

 

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 “プログレッシヴSFスラッシュメタル”としても知られるVektorは、ここ数年の“コズミックデスメタル”ブームの直接の起爆剤になったバンドだと思われる。最大の影響源の一つだというVoivod(バンドロゴのデザインは完全にVoivodを意識している)との音楽的な共通点は実はあまりなく、ギターリフやボーカルスタイルはDestructionのような欧州スラッシュメタルの系譜にあるものだし、コード感に関してもVoivodの特徴的な音進行傾向はほとんど引用しておらず、その後の世代であるObliveonやTimeghoulの方が直接的な類似点は多い。そうした音進行傾向をデスメタル以降のドラムスタイルで装飾し大曲構成にまとめ上げる音楽性は、ギター周りの軽さ重視のサウンドプロダクションは確かにスラッシュメタルではあるものの総合的にはOSDMリバイバル以降の“コズミックデスメタル”の方に近く、実際に影響を受けているバンドも多い。本作2ndフルは2009年の1stフルで注目を集めた上でその粗削りな部分を解きほぐし飛躍的な発展を成し遂げた大傑作で、新世紀の『Master of Puppets』とさえ言える素晴らしい完成度もあわせ、アンダーグラウンドシーンを越えた広い領域で高評価を獲得した。本稿に挙げたバンドは大部分が“知る人ぞ知る”ものばかりで、地下シーン内で影響を及ぼし合い音楽性を発展させてきた経緯はリアルタイムで並走するマニアでないかぎり把握しづらいのだが、Vektorはその枠を越えて知られる存在であり、後追い的に参照する際にも発見しやすいマイルストーンとして歴史に名を刻まれている。“不協和音デスメタル”方面への入門編としても優れた重要バンドである。

 

 

 

Mitochondrion:Parasignosis(2011)

 

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 Mitochondrionは2010年代以降に広く認知されるようになったカオティックなブルータルデスメタルの型を確立したバンドの一つである。暗黒宇宙を吹き荒れる大海嘯のようなデスメタルサウンドに関していえば、PortalやRites of Thy Degringoladeのような先駆者が2000年代前半の時点で概形を築き上げてはいたのだが、MitochondrionやAntediluvian(ともにカナダ出身)はそこにIncantationに代表される高速ドゥームデスメタルの分厚い重さを加え、漆黒の中に微かに星が瞬くかのような手応えのなさと足元に何かが粘りつく異様な安定感とを両立することに成功した。その聴き味はThornsやBlut Aus Nordのようなアンビエントブラックメタルに通じ、Behemothなどが90年代後半に推し進めたブラックメタルデスメタルの融合をブルータルデスメタル側から行ったような趣もある。本作2ndフルはそうした流れを象徴する記念碑的傑作で、最後を飾る完全アンビエントなトラック(メタル要素ゼロ)も含めアルバムの構成は完璧。楽曲構成には明確な展開があり慣れれば意外とわかりやすい魅力に満ちている作品だし、Portalに馴染めない場合はこちらから入ってみるのも良いのではないかと思われる。

 

 

 

Gigan:Multi-Dimensional Fractal-Sorcery And Super Sience(2013)

 

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 Gigan(名前の由来は東宝映画『地球攻撃命令 ゴジラ対ガイガン』)は、Gorguts『Obscura』の影響から出発して優れたオリジナリティを確立したものとしてはUlcerateなどと並び最初の世代とみていいバンドだろう。これは個人的な反省も兼ねての話なのだが、こちらの記事でまとめたように、初期デスメタルの混沌とした表現力を愛するリスナーはテクニカルデスメタルの技術点至上主義的な無味乾燥さを嫌う傾向があるし、テクニカルデスメタルやブルータルデスメタルの側からすると初期デスメタルの精神に訴えかけるドロドロした歪みを好まないきらいがある。『Obscura』リリース当時の反応に否定的なものが多かったというのは、ガワはテクデス/ブルデス的だったのに芯の部分では表現志向が強く、両方の要素を徹底的に突き詰めた音楽性がリスナーの許容範囲を超えていたというのが大きいのかもしれない。自分は完全に初期デスメタル派で、メカニカルで無味乾燥なテクデス/ブルデスは(それだからこその気楽な心地よさがあることも承知しつつも)あまり面白く聴けない傾向がいまだに残っているのだが、そういう立場でもGiganのようなバンドには2010年頃の出現当時から惹かれていた。本作3rdフルはバンドのオリジナリティが自分のようなタイプのリスナーにもわかるくらい明確に確立された傑作で、『Obscura』の複雑なコード感をいわゆるSci-fiメタル方面に発展させた音進行感覚が素晴らしい魅力を発揮している。リーダーであるEric Hersemannは『Obscura』を崇拝する一方でマイルス・デイビス(70年前後のいわゆる電化マイルス期)やチャールズ・ミンガス、Captain BeyondやRush、フランク・ザッパやPrimusなどから影響を受けているとのことで、それを踏まえて本作を聴くと、奇怪で楽しげなノリやコード進行は確かにPrimusに通じる部分が多く、他のデスメタルにはない味わい深い個性になっているように感じられる。宇宙的なテーマや演出はTimeghoulやVektorを想起させはするがそれらとは別の文脈から登場したバンドであり、いわゆる“コズミックデスメタル”と比較することはできるもののやはり区別して吟味されるべき音楽なのだと思う。このように、テクデス的なスタイルの良いところのみを抽出(というかつまらなくないテクデスのみを下敷きに発展)しそれを土台にオリジナルを構築する世代が出現すると、それをさらに発展させ独自の興味深い個性を確立できる後続も自然と増えていく。そうした流れを示す存在としても重要なバンドである。

 

 

 

Kayo Dot:Hubardo(2013)

 

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 Kayo Dotはmaudlin of the Wellがさらなる音楽的拡散を意図し発展的解散・改名したことにより誕生したバンドで、メタル的な要素も残しつついかなる領域にも接続する音楽性は、このジャンルから発生したあらゆる音楽の中でも最も魅力的な豊かさを湛えている。現在も在籍する唯一のオリジナルメンバーであるToby Driverは、Tiamatの知る人ぞ知る傑作『Wildhoney』をはじめとする欧州ゴシックメタルやUlverの脱ジャンル的活動に魅了されて音楽活動を始め、マサチューセッツ州ボストンを拠点としたmaudlin of the Wellでは様々なポストロック~インディーロックと交錯する特殊メタルの傑作群を発表。2003年にKayo Dotに移行してからはニューヨークを拠点とし、当地の越境的ミュージシャンとの交流を通してメタルに留まらない異形の作品を生み出し続けてきた。本作『Hubardo』はそのひとまずの集大成と言えるアルバムで、motW以来となるデスメタル的なエッジと室内楽ジャズオーケストラ的な管弦アレンジを融合する作編曲が最高の仕上がりをみせている。10分超の大曲も4つ含む全100分の長尺を難なく聴かせきるアルバム全体の構成は完璧で、巨大で奇怪な印象に満ちているのに吞み込みづらさは全くない。本稿のタイトルに掲げた“不協和音エクストリームメタル”を最も体現する不世出の傑作である。

 Kayo DotやToby Driver関連作品(Vauraやソロなど音楽的な振り幅は無尽蔵)を聴いていて考えさせられることの一つに「新しい音楽をプログレッシヴと呼ぶのはそろそろやめようぜ」というものがある。この記事Azusaの項でもふれたように、既存のフォームを打ち破ろうとする姿勢を指していう「プログレッシヴ」と、そうした音楽に影響を受けたバンド群が確立した定型的音楽スタイルを指していう「プログレッシヴ」とは、字面は同じでも意味合いは異なり、革新と保守という立ち位置について言えば真逆とすら言える違いがある(しかも後者は保守なのにもかかわらず革新のイメージを利用しているきらいがある)。“プログレッシヴメタル(プログメタル)”や“プログレッシヴデスメタル(プログデス)”という言葉も、特定の音楽性を明確に指し示すのでそれを語るにあたっては重要だが、一見それ風に見えるけれども実は別の文脈から出てきている音楽(例えばGorgutsの系譜は“プログメタル”や“プログデス”に含まれないはず)を括るのは筋違いだし、30年近く前に生み出されたそうした言葉を用いて新しい音楽を語るのも、規格外に豊かなものを古く漏れの多い概念に押し込むようなことであり適切な姿勢ではないだろう。大事なのは批評言語の更新または創出であり、それにあたっては様々な要素を一般論に括らず丁寧に精読していく姿勢が必要になる(Kayo Dotのような豊かすぎる音楽に対しては特に)。本稿がそれにあたっての見取り図や足掛かりになれば幸いである。

 

 

 

Morbus Chron:Sweven(2014)

 

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 2010年代の初期デスメタルリバイバルにおける記念碑的傑作である。90年代前半までのいわゆる初期デスメタルが多分に備えていた混沌とした表現力を愛するファンはこれ以前も根強く存在し、テクニカルデスメタル~ブルータルデスメタル~スラミングデスメタルといった技術&過激志向が一段落する2000年代中盤には初期デスメタルならではの生々しく豊かな滋味に再び注目が集まり始めていたのだが、リバイバル参照元を超えるオリジナリティを獲得するバンドは稀で、ムーブメントとしてのパンチというか、注目する価値があると説得するだけの存在感は今一つだったようにも思われる。それが2010年代に入ると、初期デスメタルの様々なスタイルを参照しつつ独自の配合で組み合わせることにより新たな個性を生み出してしまう優れたバンドが明らかに増えてきた。Morbus Chronはその代表格で、最終作となった本作2ndフルでは過去の歴史的名盤群に勝るとも劣らない神秘的な深みが具現化されている。Autopsyのようなドゥームデスからスピードメタル~NWOBHMを経由してブラックメタルに接続するようなスタイルは既存の様々な要素をモザイク状につなぎ合わせたような仕上がりだが、起伏が多く唐突な展開が散見されるもののぎこちなさは不思議となく、「夢」を意味するアルバムタイトルに非常によく合っている(というかこういう解釈をすることで初めて理解の糸口が得られるタイプの作品なのだと思う)。ジャンルの歴史が回顧的に想起されそこから新たなものが生まれてくる瞬間を捉えた本作は、そうした音楽構造が示す批評性の面でも、そうしたことを意識しなくても心に深く染み入る只ならぬ雰囲気表現力の面でも、文字通りの“歴史的”名盤なのだと言える。

なお、Voivod的な成分を含みインナースペース的な音響表現をしていることもあってか“コズミックデスメタル”に通じる印象もある本作だが、TimeghoulやNocturnus、ObliveonやVektorのような系譜とはおそらく別のところにある作品で、その枠に括るのは不適切な気もする。しかし、本作に影響を受けたと思われるバンドがコズミックデスメタル的な音楽性を志向し、それがそのスタイル名で形容される展開が少なからず生じているのをみると、そういう細かい分類にこだわるのは些末で野暮なことにも思える。現代デスメタルシーンを考えるにあたっての重要作品の一つというくらいに考えておくのがいいのかもしれない。

 

 

 

Dodheimsgard:A Umbra Omega(2015)

 

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 Dodheimsgardはノルウェー以降のブラックメタルの発展史を単独で体現するバンドである。そもそもノルウェーブラックメタルシーン(それ以前のスラッシュメタル近傍のブラックメタル=1st Wave of Black Metalと区別するために2nd Wave of Black Metalと呼ばれる)というのは、たまたまメタルを主題としているだけで音楽的には何でもありの豊かな領域で、このジャンルを立ち上げた筆頭バンドMayhemが1987年に発表した公式初作品『Deathcrush』冒頭にはコンラッド・シュニッツラー(Tangerine Dreamなどで知られるジャーマンロック~電子音楽の代表的音楽家)の音源が使われていたり、黎明期の最重要バンドというかソロユニットの一つBurzumはそのままミニマル音楽に接続する作品群を発表していたりと、ジャンル越境的な志向を持った天才達が“他人と被ったら負け”精神のもと鎬を削っていた。ULVERはその最大の好例だし、このジャンルの一般的なイメージを示すプリミティヴブラックメタルにしても、後続がそれを模倣し厳格に守る対象としたためにワンパターンな印象ができてしまっただけで、Darkthroneが雛形を作りだした時点ではそれまでにない斬新な音楽スタイルだったのである。Ved Buens Ende...でギターを担当するVicotnikも同シーンの筆頭的天才として語られるべき奇才で、様々な楽器を使いこなす演奏表現力と卓越した作編曲能力をもってカルトな傑作を発表し続けてきた。

DodheimsgardはそのVicotnikが率いるバンドで、各作品に参加したミュージシャンの豪華な一覧ノルウェーシーンにおける梁山泊のようでもある。1995年の1stフル『Kronet till konge』はDarkthroneの名盤3部作(1992~1994年)を模倣せず発展させるようなプリミティヴブラックメタルの傑作、1996年の2ndフル『Monumental Possession』はノルウェー以降のブラックメタルに1st Wave Black Metal的なスラッシュメタルを掛け合わせたブラックスラッシュの傑作(そのスタイルの誕生を告げるAura Noirの名盤1stフル『Black Thrash Attack』と同年発表)。そこからシンフォニックブラックメタルに接近した1998年の名作EP『Satanic Art』に続く1999年の3rdフル『666 International』はブラックメタル史を代表するカルト名盤で、アヴァンギャルド方面のブラックメタルを代表する名人のみで構成されたメンバーがインダストリアル~トリップホップ領域にも闖入する音楽的実験の限りを尽くしている。その路線を拡張しつつ少し焦点を見失った感もある2007年の4thフル『Supervillain Outcast』を経て長い沈黙ののち発表したのが2015年の本作5thフル『A Umbra Omega』であり、ここではVed Buens Ende...やVirus(リーダーのCarl-Michaelは『666 International』で極上のドラムスを披露している)に通じる“アヴァンギャルドブラックメタル”系統のコード感覚がそのオリジネーターにしか成し得ない形で高度に発展されている。冒頭曲を除けば全曲が10分を超える6曲67分の長さを難なく聴かせきるアルバム全体の構成は見事の一言で、変則的な展開の一つ一つに異様な説得力がある。聴いた者からは軒並み高い評価を得ている本作は“不協和音デスメタル”周辺のミュージシャンがインタビューで名前を挙げることも多く、カルトな立ち位置の作品ではあるが現代のシーンへの影響力は少なくないように思われる。マニア以外には上記のような広がりが意外と知られていないブラックメタルというジャンルを理解するにあたっても必須の存在だし、今後この人脈から生まれるだろう傑作の数々に備えるためにも、ぜひ聴いてみてほしいバンドである。

 

 

 

Plebeian Grandstand:False High, True Lows(2016)

 

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 不協和音を用いた表現を追求するエクストリームメタルの流れにおいて重要なトピックの一つに、ハードコアとブラックメタルの影響関係がある。Mayhemの歴史的名盤『De Mysteriis Dom Sathanas』(1994年)収録の名曲「Freezing Moon」の執拗な半音上下往復パートに顕著な、ブルース的な反復(解決せずに行きつ戻りつする展開)が欧州スラッシュメタルとジャーマンロック~現代音楽などを通過することで確立されたミニマル感覚は、メタルとハードコアの音進行傾向の結節点として以降の音楽全域に絶大な影響を与えた。アンダーグラウンドメタルのマニアとして知られるサーストン・ムーア(Sonic Youth)はMayhemのパーカーを愛用する写真があるようにこのジャンルの紹介に熱心で、そこ経由でアメリカのアンダーグラウンド〜インディシーンにおけるブラックメタルの注目度が高まったというのもあるだろう。Convergeが2001年の歴史的名盤『Jane Doe』の頃からブラックメタルの要素を大きく取り込んでいく流れをみてもわかるように、ハードコアの楽曲構造や衝動重視の演奏表現とブラックメタルとは音楽的に非常に相性が良く、思想的な面では水と油でシーン的な交流は活発ではなかったと思われるが(National Socialist Black MetalとAnti-fascist Hardcoreの対比など)、録音作品を通しての影響関係は水面下でかなり密に構築されてきたのではないかと思われる。ここで重要なのがハードコアからブラックメタルへの影響で、Converge系統のカオティックな不協和音の感覚はそれ以前のブラックメタルにはなかったのが、ブラックメタル要素を取り込んだハードコア作品における達成を逆輸入する形で、新たにブラックメタル側にも流入するようになった印象がある。Deathspell Omegaはそうした展開における最重要バンドの一つで、2000年代には上記のような配合を成し遂げたブラックメタル関連バンドが急増した。こうした交流(というよりも盗み合いという方が近いかも)が2010年代以降のAlcestやDeafheavenのような越境的影響関係を隠さないバンドの出現を準備した面もあっただろう。メタルの枠内を見ているだけでは現代メタルシーンの実情はつかめないということをよく示す話だと思う。

 Plebeian Grandstandはフランス出身のバンドで、ハードコアシーンに所属しながらもブラックメタルの要素を積極的に取り込む活動を続けてきた。本作3rdフルはその傾向が一気に高まった傑作で、「Deathspell Omegaをカオティックハードコア化した感じ」と言われるような感触も確かにあるのだが(Spotifyのプレイリスト「Deathspell Omega Like but Not Nazis」に入れられていたりもする)、音進行の微細な配合や演奏感覚はやはり異なるし、その上で優れた個性を確立している。一般的にはほぼ無名だが、“不協和音デスメタル”のバンドがインタビューで名前を挙げることが多く、地下シーンではかなりの影響力を持っていることが窺われる。それも頷ける強力な作品だし(終盤にハイライトが続く構成が素晴らしい)、聴いておく価値は非常に高いと思われる。

 

 

 

Chthe'ilist『Le dernier crépuscule』2016

 

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 Demilichの項でふれた「素材としてそこに様々なものを付け加えやすい音楽性」「単旋律のリフに肉付けするコードの質によって様々に異なる表情を描くことができる“素材としての自由度”」を最もよく体現するバンドの一つ。現時点で唯一のフルアルバムである本作はDemilichをDisincarnate経由で中期Emperor(2nd~3rdあたり)と融合したような音楽性で、リフまわりの変拍子やストップ&ゴーの入れ方は笑えるくらいDemilichそのものなのだが、その並びやコード付けから生じる総合的な音進行感覚は明確に異なり、参照元の魅力を格段にわかりやすく引き出している点においてこちらの方が好きだと感じる人も(面倒くさいマニアの中にも)多いのではないかと思われる。初期デスメタルの理想を体現する2010年代屈指の傑作である。

 本作に関連して注目しておきたいのが現代デスメタルシーンにおける兼任バンドの多さである。Chthe'ilist のリーダーであるPhillippe Tougasはフューネラルドゥーム寄りバンドAtramentusも運営(2020年発表の1stフル『Stygian』は同年屈指の傑作)、Zealtoryの名盤『The Charnal Expanse』(2013)に貢献しFunebrarumやVoidceremonyにも参加するなど、現代デスメタル周辺シーンを代表するバンドの多くに関与し、個性的な傑作を連発している。Metal Archivesの兼任バンド一覧ページを漁るだけでも興味深い作品が大量に見つかり、その豊かさに驚かされつつさらなる深みにはまっていくことができる。シーンを網羅的に把握するにあたってはまずこうしたキーパーソン(Phillippe以外にも多数存在)を探し出すのが良いのではないかと思う。

 ちなみに、本作の末尾を飾る「Tales of the Majora Mythos Part Ⅰ」は『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』を題材にしている模様。そもそもDemilichという名前の由来が『ダンジョンズ&ドラゴンズ』であり(ルールブックにあった単語を採用したとのこと:『Nespithe』20周年記念盤ブックレットのインタビューより)、Tomb Moldをはじめとする多くのバンドが『Dark Souls』シリーズにインスパイアされているという話を聞くと、非日常的な世界観表現を重視するデスメタルのような音楽において、ダークファンタジー方面のゲームが重要な主題になっているという傾向は確かにあるのではないかと思える。コズミックデスメタルの流行もそれと切り離して語れるものではない気もするし、ゲームとエクストリームメタルの両方に精通した識者の話を伺いたいところである。

 

 

 

Imperial Triumphant:Vile Luxury(2018)

 

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 Imperial Triumphantはニューヨークを拠点に活動するテクニカルなブラックメタル出身バンドで、初期は19世紀クラシック音楽の和声感覚を複雑な曲構成のもとで繰り広げるタイプの比較的オーソドックスな音楽をやっていた。そこから大きな路線変更がなされたのが2015年の2ndフル『Abyssal Gods』で、創設者/リーダーであるZachary Ilya Ezrin(Cal Artsで作曲の学位を得たクラシック音楽寄りプレイヤー)、2012年に加入したKenny Grohowski(New Schoolでジャズ・パフォーマンスの学位を得たドラマー、ジョン・ゾーン人脈のキーパーソン)、そして2015年に加入したSteve Blanco(Suny Purchaseでジャズ・パフォーマンスの学位を得たベーシスト、ジャズ方面ではむしろピアニストとして有名)というトリオ編成になったことで楽曲構造が大幅に複雑化。それをうけて制作された本作3rdフル『Vile Luxury』は、Gorguts系統の現代音楽寄りデスメタルを40~60年代ジャズ(プレモダンからモーダル/コーダルまで)のコード感とブラックメタル+ジャズ的な演奏表現で悪魔改造したような音楽性で、入り組んだ展開をすっきり聴かせる驚異的な構成力もあって様々なメタル系メディアの年間ベストに選出されることになった。メンバーが特に影響を受けたというジャズのアルバムは、マイルス・デイビス『Nefertiti』、ジョン・コルトレーン『Interstellar Space』、セロニアス・モンク『Monk`s Dream』、デューク・エリントン『Money Jungle』、ベン・モンダー『Hydra』で、確かにこの5枚の和声感覚や静謐かつハードコアなアンサンブル表現、そして複雑な変拍子遣い(例えば「Lower World」はそのまま『Hydra』に通じる)を足し合わせれば『Vile Luxury』になると言ってしまえる感もある。壮大ながら柔らかい肌触りもあるシンフォニックなサウンド金管プレイヤー5名やYoshiko Ohara(Bloody Panda)のような現地の優れたミュージシャンを多数招いたからこそ実現できたものでもあり、KralliceのColin Marstonによる素晴らしい音作りなどもあわせ、NYという地域の特性が様々な面において反映されたものだと言える。事実、バンド自身にとってもNYは音楽表現における主要なテーマであるようで、2020年に発表された4thフル『Alphaville』に関するインタビューでの質問「『Vile LuxuryはNYへのオマージュだったが『Alphaville』はそのテーマの延長線上にあるものか』と問われたIlyaは、「ある意味ではね。我々はNYのバンドだし、曲の多くはNYの街をテーマにしている。自分が知っていることを書くのが一番だと思うし、ここは自分の人生の中で一番の故郷なんだ」と答えているし、別のインタビューでも、「Imperial Triumphantの音楽はNYの活気と威厳からどれほどのインスピレーションを得ているのか」と訊かれて、「活気と威厳、そしてその下にある不潔さと腐敗からインスピレーションを得ている。観光客でも認識できる刺激的な二面性があり、我々はそれを自分達の音楽に可能な限り反映させようと試みている」と答えている。このシーンにおける現代メタル-ジャズ間越境の象徴ともいえる立ち位置にいるバンドなのである。

 なお、Imperial Triumphantの前任ベーシストErik Malaveは現Pyrrhon(Seputusにも所属)、前任ドラマーのAlex Cohenも2015年までPyrrhonに在籍し卓越した演奏表現力を披露していた。Kenny GrohowskiはImperial Triumphantでの活動の傍らPyrrhonのライヴドラマーを務めていたこともあるし、人脈的繋がりはかなり密接なものがある。NYのシーンは今後メタルシーン全体に無視できない影響(特にジャンル外との越境的交流傾向)を生んでいくだろうし、Kayo Dotなどもあわせ、このあたりのバンドに注目しておく価値は非常に高いのではないかと思われる。

 

 

 

Inter Arma:Sulphur English(2019)

 

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 本稿に挙げたバンドはいずれも唯一無二の個性を確立しているものばかりで、こうした「1バンド1ジャンル」的な様相を見ていると、よく言われる「メタルは様式美に縛られた音楽でいつまでも同じようなことを繰り返している」という定説は実情を全く反映していないようにも思えてくる(“様式美”にもいろいろあり時代によって変遷していくのだということはこの記事でも詳説した)。しかし、それはアンダーグラウンドな世界の話であり、こちらのインタビューでも述べられているように、保守的で変化を好まない気風はいまだに多くの部分に残っている。Inter Armaはそうした風潮に真っ向から対立するバンドで、別項でふれたNYシーンなどとはまた異なる方向性での越境的発展を積極的に繰り返している。2020年発表のカバーアルバム『Garbers Days Revisited』には、Ministry、ニール・ヤング、Cro-Mags、Nine Inch Nails、Husker Du、Venom、Tom Petty & The Heatbreakers、プリンスの楽曲が収められており、ブルースやカントリー、ファンク~ブラックロック、ハードコアとスラッシュメタル、それらと隣接するインダストリアルメタルといったジャンル的振り幅は、このバンドの複雑な音楽的広がりをとてもよく説明してくれているようにも思われる。2019年の4thフル『Sulphur English』はMorbid AngelとNeurosisを混ぜてエピックメタル経由でPink FloydやCSN&Y(Crosby, Stills, Nash & Young)に接続するような音楽性で、所々で顔を出すGorguts的コード感にアメリカ音楽の豊かなエッセンスが加わったような出音は極上の滋味に満ちている。Sleep『Dopesmoker』あたりに通じるマッシヴなロックグルーヴも素晴らしく、他の多くの“不協和音デスメタル”では得られない手応えを与えてくれるように思う。メタルを音楽史に位置付けなおしつつ発展させる系譜の急先鋒としても重要なバンドの一つである。

 

詳しくはこちら

 

 

 

Tomb Mold:Planetary Clairvoyance(2019)

 

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 Morbus Chronの項でもふれたように、2010年代に入ると、初期デスメタルの様々なスタイルを参照しつつ独自の配合で組み合わせることで新たな個性を生み出してしまうバンドが明らかに増えてきた。ジャンルのマニアとしての博識を備え、参照対象の特性を深く理解しそれらの美点や自分達自身との違いを把握しているために、この程度の使い方では新たな味わいは出せないという厳しい基準が備わり、それを超えるための入念な練り込みを通して独自の音楽性を確立することが可能になる。Tomb Moldはその点において現代メタルシーンを代表する存在であり、2015年の結成当時からこのジャンルの歴史に残る傑作を連発してきた。このバンドが凄いのはハイコンテクストさとキャッチーさの両立が極めて見事なところで、様々な名盤を聴き込んだ経験と文脈把握がなければ読み込めない部分が多い一方で、そういった知識がなくても直感的に楽しめる訴求力にも満ちている。2017年1stフル『Primordial Malignity』はPestilenceやBolt Thrower、2018年2ndフル『Manor of Infinite Forms』はDemilichやAutopsyにも通じるスタイルというように比較対象を挙げることは難しくないが、全てのフレーズが高度に捻り解きほぐされ、何かの亜流といった次元を遥かに超えた個性を身につけている。2019年の3rdフル『Planetary Clairvoyance』はそうした蓄積を踏まえつつ新たな味わいを確立した大傑作で、DemigodやRippikouluのようなフィンランド型ドゥームデスを土台としつつ、TimeghoulやVektor、Morbus Chronといった先達とはまた異なる“コズミックデスメタル”的な世界観表現を達成。各楽曲の構成はもちろん全体の流れも一続きの物語のように美しくまとまっており、各リフの強力さ(ミクロ)の面でもトータルアルバムとしての完成度(マクロ)の面でもデスメタル史上最高傑作の一つなのではないかとすら言える。くぐもり気味の音質は個人的にはそこまでツボではないが(そういう音質自体はデスメタルによくあるので問題ではないのだがくぐもり方の質がやや合っていない気もする)、微妙に細部が聴き取りにくいために繰り返し取り組みたい気にさせる絶妙な仕上がりも含め、これはこれでうまく機能しているように思う。初期デスメタルリバイバルの最高到達点の一つとしてぜひ聴いてみてほしいアルバムである。

 それにしても、ここまで見てきて改めて実感させられるのがカナダシーンの凄さである。Voivod、Obliveon、Gorguts、Martyr、Mitochondrion、Chthe`ilist、Tomb Moldという名前の並びはメタルの歴史全体を見回しても屈指のラインナップなのに、デスメタルの中心地としてよく語られるアメリカや北欧に比べ、カナダは地域単位では注目される機会が少なかったように思う。本稿で体系的に示したように先鋭的なメタルの系譜において非常に重要な役割を果たしてきたシーンだし、正当な評価を得る機会が増えてほしいものである。

 

 

 

Titan to Tachyons:Cactides(2020)

 

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 Titan to Tachyons はOrbweaverやGiganといった“不協和音デスメタル”的バンドに参加してきたギタリストSally Gatesが結成したインストゥルメンタルの“avant-rock/jazz metal”バンドで、ドラムス担当のKenny Grohowski(Imperial Triumphant)およびベース担当のMatt Hollenberg(Cleric)からなる。KennyとMattジョン・ゾーン楽曲を本人から委託され演奏する直系バンドSimulacrumのメンバーでもあるわけで、Titan to Tachyonsはニューヨークのジャズ~メタル越境シーンをジャズ寄りに体現する存在といえる。本作は2020年に発表された1stフルで、音楽性を一言でまとめるなら、GorgutsやEphel Duathのような現代音楽寄り和声感覚をもつエクストリームメタルの語彙を用いてKing Crimsonの『Starless And Bibile Black』と『The ConstruKction of Light』の間にあるような渋く複雑なアンサンブルを繰り広げる、という感じだろうか。楽曲構成は作曲と即興のミックスで、Sallyが全曲をギターで作曲した上で他の2名が各自のパートを追加、そこからさらにスタジオでのジャムセッションでアイデアを拡張していったとのこと。その結果、細部まで緻密に書き込まれた作り込みと勢いある閃きが自然に両立され、異形ながら艶やかな構造美が生み出されている。ドラムスのフレーズや各楽器のサウンドプロダクションは明らかにメタル寄りだが、全体的な聴感はむしろ現代ジャズに近く、メタルを全く聴かないそちら方面のリスナーにも訴求する仕上がりになっていると思われる。3名がそれぞれ関与してきたエクストリームメタルの技法が随所で駆使されているのに音作りを柔らかめにすればラウンジジャズとしても通用するような落ち着きぶりがなんとも不気味で(『ツイン・ピークス』シリーズに強くインスパイアされているとのこと)、そうした力加減が得難い個性にも繋がっている。直接的な関係はなさそうではあるがEphel Duath『Through My Dog`s Eyes』の発展版としても聴ける非常に興味深い音楽。傑作だと思う。

 

 

 

ここから先は今年発表のアルバム。いずれも驚異的な作品だが、現時点では聴き込みが足りない(各々10回以上聴き通してはいるが時間経過の面で十分でない)ことも鑑みて紹介コメントは簡潔なものに留めておく。

 

 

 

Ad Nauseam:Imperative Imperceptible Impulse(2021)

 

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 イタリア出身。本作は5年ぶりのリリースとなる2ndフルアルバムで、ストラヴィンスキーやペンデレツキのような現代音楽寄り作曲家、アンダーグラウンドメタルの名バンド群、その他多岐に渡る影響を消化した上で、GorgutsやUlcerateを参照しつつその先の世界を切り拓くような高度な音楽性を構築している。なにより驚異的なのは音響で、スティーヴ・アルビニを崇拝し理想の環境を作り上げるために自前のスタジオを建てたという蓄積のもと、イコライザーやコンプレッサーを殆ど使わない録音作業を膨大な時間をかけて完遂したという。爆音と過剰な手数を伴うデスメタルスタイルでそうした手法を成功させるというのはとても信じ難い(つまり演奏技術からして常軌を逸するレベルで凄いという)ことだが、本作の異様な音の良さを聴くと確かに納得させられるものがある。同様の音楽性を志向するミュージシャンの間では既に高い評価を得つつある(インタビューで名前が挙がることが少なくない)し、稀有の傑作としての定評がこれから固まっていくのではないかと思われる。

 

 

 

Siderean:Last on Void`s Horizon(2021)

 

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 スロベニアSci-FiメタルバンドTeleportが改名し遂に完成させた(本来は2019年後半リリース予定だった)1stフルアルバム。Teleportの頃はVektorやVoivodあたりのプログレッシヴなスラッシュメタルをGorguts的な無調寄りデスメタルと組み合わせるスタイルを追求していたが、本作ではDodheimsgardやEphel Duathに通じるアヴァンギャルドブラックメタル的な音進行が大幅に増加。スラッシュメタルならではの軽く切れ味の良い質感を保ちつつ複雑なリフをキャッチーに聴かせる音楽性は、VirusとVektorを理想的な形で融合するような趣もあるし、Howling Sycamoreあたりと並走する意外と稀なスタイルでもある。6曲40分のアルバム構成も見事な傑作である。

 

 

 

Seputus:Phantom Indigo(2021)

 

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 Seputusは3人全員がPyrrhonのメンバーだが(そちらのリーダーと目されるDylan DiLellaのみ不在)、テクニカルデスメタル形式を土台にしながらもPyrrhonとは大きく異なる音楽性を志向している。神経学者オリバー・サックスの著書『Hallucinations』(邦題:見てしまう人びと 幻覚の脳科学)を主題に5年かけて作り上げられたという本作2ndフルは、Gorguts『Colored Sands』あたりの不協和音デスメタルDeftones経由でNeurosisに繋げたような音楽性で、何回聴いてもぼやけた印象が残る(“焦点が合わない具合”が安定して保たれる感じの)特殊な音響構築のもと、驚異的に優れた作編曲と演奏表現で走り抜ける作品になっている。この手のスタイルにしては不思議な明るさが嫌味なく伴う音楽性は代替不可能な魅力に満ちており、“不協和音デスメタル”の系譜のもと新たな世界を切り拓く姿勢が素晴らしい。個人的にはPyrrhonよりもこちらの方が好き。今年を代表する傑作の一つだと思う。

 

 

 

Emptiness:vide(2021)

 

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 ベルギーのブラックメタル出身バンド、活動23年目の6thフルアルバム。元々はアヴァンギャルドブラックメタル的な音楽性だったのだが、2014年のインタビューで「最近の好み」としてLustmord、MGMT、コナン・モカシン、ワーグナー、Beach House、ジャック・ブレル、デヴィッド・リンチ的なもの、Portisheadなどを挙げているように、メタルの定型的なスタイルからためらいなく離れる志向を早い時期から示していた。まだメタル要素をだいぶ残していた2017年の5thフル『Not for Music』から4年ぶりに発表された本作は、ポータブルレコーダーを持ち歩きながら様々な場所(森の中や街頭、屋根裏など)で録ったという音源をスタジオ録音部分と組み合わせて作られた(メタル要素はほとんどなくむしろポストパンクに近い)作品で、様々に揺らぐ距離感や残響の具合が交錯し焦点を合わせづらい音響が複雑な和声感覚と不可思議な相性をみせている。楽曲や演奏の印象を雑にたとえるならば「スコット・ウォーカーシド・バレットとベン・フロストをPortishead経由で融合したような暗黒ポップス」という感じだが、総合的なオリジナリティと特殊で特別な雰囲気(アブノーマルだが共感させる訴求力も濃厚に持ち合わせている)は他に比すべきものがない。DodheimsgardやVirus、Fleuretyなどの代表作に比肩する一枚であり、本稿でまとめた系譜から生まれつつそこから躊躇いなく飛び立つものでもある。どちらかと言えばメタルを知らない人にこそ聴いてみてほしい、奇怪なポップスの大傑作である。

 

 

【2021年・上半期ベストアルバム】

【2021年・上半期ベストアルバム】

 

・2021年上半期に発表されたアルバムの個人的ベスト20(順位なし)です。

 

・評価基準はこちらです。

 

http://closedeyevisuals.hatenablog.com/entry/2014/12/30/012322

 

個人的に特に「肌に合う」「繰り返し興味深く聴き込める」ものを優先して選んでいます。

個人的に相性が良くなくあまり頻繁に接することはできないと判断した場合は、圧倒的にクオリティが高く誰もが認める名盤と思われるものであっても順位が低めになることがあります。「作品の凄さ(のうち個人的に把握できたもの)」×「個人的相性」の多寡から選ばれた作品のリストと考えてくださると幸いです。

 

・これはあくまで自分の考えなのですが、他の誰かに見せるべく公開するベスト記事では、あまり多くの作品を挙げるべきではないと思っています。自分がそういう記事を読む場合、30枚も50枚も(具体的な記述なしで)「順不同」で並べられてもどれに注目すればいいのか迷いますし、たとえ順位付けされていたとしても、そんなに多くの枚数に手を出すのも面倒ですから、せいぜい上位5~10枚くらいにしか目が留まりません。

(この場合でいえば「11~30位はそんなに面白くないんだな」と思ってしまうことさえあり得ます。)

 

たとえば一年に500枚くらい聴き通した上で「出色の作品30枚でその年を総括する」のならそれでもいいのですが、「自分はこんなに聴いている」という主張をしたいのならともかく、「どうしても聴いてほしい傑作をお知らせする」お薦め目的で書くならば、思い切って絞り込んだ少数精鋭を提示するほうが、読む側に伝わり印象に残りやすくなると思うのです。

 

以下の20枚は、そういう意図のもとで選ばれた傑作です。選ぶ方によっては「ベスト1」になる可能性も高いものばかりですし、機会があればぜひ聴いてみられることをお勧めいたします。もちろんここに入っていない傑作も多数存在します。他の方のベスト記事とあわせて参考にして頂けると幸いです。

 

・いずれのアルバムも10回以上聴き通しています。

 

 

 

[上半期best20](アルファベット音順)

 

 

black midi:Cavalcade

 

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 プレスリリースで名前を挙げられていることもあってかKing Crimsonを引き合いに出して語られることが多いようだが、こちらのインタビュー(質問作成と本文構成および注釈を私が担当)でも述べられているように、本人達はKCの存在感と活動姿勢に惚れ込んではいるもののそのスタイルを直接的になぞる様子は全くないし、そもそもKC自体が「プログレッシヴ・ロック」の枠を越えてメタル・ハードコア・ポストロック・マスロックなど極めて広い領域に決定的な影響を与えてきた(それこそThe BeatlesBlack Sabbathにも勝るとも劣らない)永遠の定番・基礎教養的な存在なわけで、King Crimsonとblack midiを並べて語るのは「無意味」とまでは言えないが「だからどうした」というところに留まりがちなことだと思われる。その上であえて比較するならば、ここまでKCの影響を受けているにもかかわらず直接的に似ている部分が殆どないことや、一部でなく全ての時期のKCを網羅し全く異なる形に変容させていることが凄いわけであって、「KCは好きだがその特徴的な要素をそのまま引用し自身の個性を損なっている音楽(非常に多い)は苦手」という自分のような聴き手が抵抗感なくハマれる理由はそのあたりにもあるように思う。膨大な音楽情報を消化吸収し混沌や勢いを損なわず再構成する手管は過去作とは段違いで、即興主体から作曲主体に切り替えた活動方針が最高の成果に繋がった作品。サウスロンドンのシーンとか現行ポップミュージックの傾向うんぬんを反映したものと見るよりは(そういう解釈も無駄ではないだろうが)、凄いバンドが独自の路線を突っ走った結果たまたまこんな姿になってしまった異形の音楽であり、これが周囲に影響を及ぼして潮流を生んでいく、影響関係を分析するのならそちらの方を追うのが有意義なのでは、という気がする強烈な一枚。そういう意味においても紛れもない傑作なのだと思う。

 

 

 

 

Cassandra Jenkins:An Overview on Phenomenal Nature

 

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 「アンビエントフォークとチェンバーポップを融合させたような音楽性」と形容されることが多いようだが、聴いてみると確かにそういう味わいもあるものの「両極のイレギュラーなものを足したら結構普通になった」感じの仕上がりだし、その2つのジャンル用語から連想される儚くつかみどころのない印象とは異なるどっしりした質感の方が耳を惹く。そして、そうしたある種のふてぶてしさも伴う出音(リズムアンサンブルが地味ながら素晴らしい)こそが本作の一つの肝で、瞑想的ではあるが浮世離れはしておらず、大きな喪失が依然として影を落としているけれども前を向いて歩き出せるようにはなっている、という感じの状態や力加減をとてもよく具現化しているように思う。声をかけて無理に元気を出させようとするのではなく、多くを語らず傍に寄り添い痛みを分かち合ってくれるようなほどよい距離感があり、それが何より好ましい。そうした居心地が一枚を通して絶妙に表現されていて、何度でも繰り返し聴き続けることができてしまうしリピートするほどに滋味が増す。本当に良いアルバムだと思う。

 

制作背景や音楽性の具体的な説明としてはこの日本語レビューが素晴らしい:

Cassandra Jenkins : An Overview on Phenomenal Nature | TURN (turntokyo.com)

 

 

 

 

Cerebral Rot:Excretion of Mortality

 

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 アメリカ・ワシントン州シアトル出身バンドの2ndフル。デスメタル史上屈指の傑作といえる素晴らしいアルバムである。2019年の1stフルではフィンランドの“テクニカルデスメタル”寄りバンド(Bolt Throwerの系譜:AdramelechやDemigodあたり)に近い比較的クリーンな音作りと起伏の大きいリフを志向していたが、本作ではAutopsyや初期Carcassからフィンランドのドゥーム寄りデスメタルに至るラインに大きく接近。デモ期DisgraceとDemilichとをDisincarnate経由で接続するような路線をシンプルながらオリジナリティ溢れるリフで構築する音楽性は最高の仕上がりとなった。特に見事なのがサウンドプロダクションで、デモ音源的な生々しい艶やかさと正式音源ならではの整ったマスタリングをこの上ないバランスで両立する音響はこのジャンルの一つの究極なのではないだろうか。アルバムジャケットは確かに酷い。しかし、それを差し引いたうえでも個人的には「これをこの記事から外すのは自分を偽ることになる」と認めざるを得ないくらい素晴らしい音源だし、グロテスクな印象を備えつつデスメタル的な基準からすればファンシーな感じもある画風は独特の親しみやすさがある音楽性を絶妙に表現しているわけで、やはり入れるべきだという結論に達することとなった。近年のOSDM(Old School Death Metal=初期デスメタルリバイバルが生み出した最高到達点のひとつであり、名盤扱いされるようになること間違いなしの傑作。マニアックな音楽性ではあるが理屈抜きの旨みと取っつきやすさを備えてもいるし、デスメタル入門的にでも聴いてみてほしい作品である。

 

 

 

 

Claire Rousay:a softer focus

 

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 明確な構成をもつクラシカルな作編曲と生活音のサンプリングを混ぜた音楽なのだが、その双方がともに絶妙に“遠い”ところにあって自然に一体化し、配合比率が変わり続けるのを気付かせないくらい滑らかに推移していく。駅のアナウンス、車のクラクション、遠くで花火が弾ける音、水のせせらぎというか水流に包まれるような響きなど、採用される具象音は多彩だが、その一部にドラムス演奏(を変調させたもの)を忍ばせているような箇所も散見され、こうした音色の数々はいずれもある種の打楽器音として等価に扱われているようにも思われる。衣擦れのようにさりげない異物感を伴う音の流れは全編を通して極上で、気付いたら聴き終えてしまっているような流麗さと必要最低限の絶妙な引っ掛かりがスムーズに両立されている。何も考えず快適に聴き通せるのに聴き飽きないのは何故なのか知りたくなり、それを考えるために各音色を意識的にみつめるようになるとさらに味が増す、という循環も好ましい。薄靄がかった虹色のような情景も素晴らしいアルバム。傑作だと思う。

 

 

 

 

Danny Elfman:Big Mess

 

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 自分が本作を聴いていて想起するのはWaltari(のデスメタル交響曲『Yeah! Yeah! Die! Die!』)やSepticflesh、JG Thirlwell & Simon Steensland、SwansやPrimusあたりで、本人がインタビューで言及しているとおりToolを直接的に連想させるリフも随所にある(「Native Intelligence」ラスト10秒から次曲への流れなど)。というように、一言でいえば「古今東西のヘヴィロック語彙をオーケストラ編曲もできる映画音楽家ニューウェーブ出身)が緻密に組み上げた歪な組曲」的な音楽性で、スタイルとして新しいかというと特にそんなことはない内容ではある。本作を特別なものにしているのは何より演奏の素晴らしさで、卓越したサポートメンバー(Nine Inch NailsやGuns N` Rosesなどにも参加した歴戦の名手揃い)による“鋼鉄のゴム鞠が機敏に跳ね回る”的な質感は他に比すべきものがない。このバンドサウンドはメタルとハードコアの良いところのみを掛け合わせたような(結果的にそのいずれとも異なる)グルーヴを確立していて、そこに異様にキレの良いオーケストラ(これもロックとの共演ものでは稀な出来栄え)を加えたアンサンブルは唯一無二の美味といえる。そのうえ本人によるリードボーカルも素晴らしく、たとえば「In Time」で微妙にフラット気味な微分音程がこの上なくうまくハマり完全に“正解”になっているところなどはなかなか真似できない技なのではないだろうか。ダークとか黙示録的みたいな惹句が連発されているが実はユーモラスで楽しい(そしてそれこそが勢いや凄みにつながっている)様子も含め、生演奏による代替不可能な表現力に満ちた傑作。2部構成72分の長さを難なく聴かせてしまう素晴らしいアルバムである。

 

 

 

 

Diego Schissi Quinteto:Te

 

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 まず印象的なのが冒頭の「Árbol」。ティグラン・ハマシアンなどに連なるピアノdjentとマイルス・デイヴィス「Nefertiti」をタンゴ経由で接続したようなスタイルで、ドラムレスとは思えないヘヴィなサウンドが素晴らしい(打楽器音は楽器ボディを叩いてカホンのように扱っているものだと思われるが、それもスティーヴ・ライヒパット・メセニーのハンドクラップのような捻りの効いた絡みになっていて一筋縄ではいかない)。こうした重い鳴りはメタルファンなども一発で耳を惹かれるだろう大変シャープなものだが、その上でアコースティック楽器でなければ難しい風通しの良さとクリアな芯を兼ね備えた響きにもなっており、ある意味「ジャンル外からきた理想のメタルサウンド」と言えるものでもある。以降の曲では先述のようなdjent形式は出てこないもののこうした響きの魅力は全編で発揮されており、アントニオ・ロウレイロやレコメン系プログレッシヴロックに通じる複雑な和声感覚は出自であるタンゴを(その傾向や嗜好的なものはおそらく活かしつつ)大きく逸脱し発展させている。本作はPescado Rabiosoの1973年作『Artaud』収録曲「Por」の歌詞に含まれる単語を全19曲のタイトルに採用したトータルアルバムで、各曲の音楽性はそれぞれ異なるが全体としての流れまとまりは申し分なく良い。タンゴの歌謡曲的音進行やそれに対応するメロウさの質が好みでない人も積極的に楽しめる内容だと思う。掛け値なしの傑作である。

 

 

 

 

Eli Keszler:Icons

 

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 最初の一音から理屈抜きに惹き込まれる音響的快楽に満ちた一枚で、淡く輝く光に包まれながら夢うつつになる感じがたまらない。乳白色の霧で眼鏡が曇るような湿度の高い空気感は熱帯雨林を連想させるが(ロックダウン中のマンハッタンやそれ以前の日本でのフィールドレコーディングが駆使されているという話からはだいぶ離れた印象)風通しは不思議と良く、ミストシャワーを浴びているような涼しさがある。ぼやけた音像とは対照的に作編曲は複雑で、ドラムンベース~EDMをトロピカリズモ化したような「The Accident」などアクティブに攻める場面も少なくないのだが、全体としてはリラックスした鎮静効果のほうが勝る感じで、そこに微かな苛立ちを滲ませる兼ね合いが代替不可能な個性になっているように思う。薫り高い媚薬にさりげなく煽動されるような没入感が素晴らしいアルバム。

 

 

 

 

Emptiness:Vide

 

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 ベルギーのブラックメタル出身バンド、活動23年目の6thフルアルバム。いちおうメタル領域から出てきたバンドではあるのだが、2014年のインタビューで「最近の好み」としてLustmord、MGMT、コナン・モカシン、ワーグナー、Beach House、ジャック・ブレル、デヴィッド・リンチ的なもの、Portisheadなどを挙げているように、メタルの定型的なスタイルからためらいなく離れる志向を早い時期から示していた。まだメタル要素をだいぶはっきり残していた2017年の5thフル『Not for Music』から4年ぶりに発表された本作はポータブルレコーダーを持ち歩きながら様々な場所(森の中や街頭、屋根裏など)で録ったという音源を組み合わせて作られた(メタル要素はほぼなくむしろポストパンクに近い)アルバムで、様々な距離感および残響の具合が交錯し焦点を合わせづらい音響が複雑な和声感覚と不可思議な相性をみせている。楽曲や演奏の印象を雑にたとえるならば「スコット・ウォーカーシド・バレットとベン・フロストをPortishead経由で融合したような暗黒ポップス」という感じだが、総合的なオリジナリティと特殊な雰囲気(アブノーマルだが共感させる訴求力も濃厚に持ち合わせている)は他に比すべきものがない。DodheimsgardやVirus、Fleuretyなどの代表作にも並ぶ一枚であり、どちらかと言えばメタルを知らない人にこそ聴いてみてほしい奇怪なポップスの傑作である。

 

 

 

 

Flanafi with Ape School:The Knees Starts to Go

 

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 ネオソウルとアンビエントを両極において見るならば前者寄りだった1stフルと後者寄りだった2ndフルを経て、Ape Schoolとの共作となる本作(実質的に3rdフル?)はその2作の中間後者寄りになっていると思う。その上でフレーズの冴えは抜群で、ミシェル・ンデゲオチェロと00年代King Crimsonを同時に想起させるスペーシーな「gjuijar」など、独自の心象表現と理屈抜きの訴求力を高度に両立した素晴らしいポップソングを全編で堪能することができる。1曲目「Family, Friends」(冒頭は11+8+9+10+5拍フレーズで以降の変奏は音程変化は似ているものの拍構成が細かく異なる)をはじめリズム展開はさらに変則的になっているが、これは変拍子で聴き手を振り回そうとしているというよりも歌詞に合わせて拍を構成したらこんな感じになったとみるほうがしっくりくる。その意味においてflanafiの音楽はいわゆる戦前ブルースに通じる部分が多く、それを豊かな音楽語彙を用いて発展させることによりこのような異形の美が生まれたということなのかもしれない。過去作にも多用されていたSly & The Family Stone『Fresh』的リズムボックス路線をさらに緻密に組み上げたApe Schoolの仕事も素晴らしい。アルバムとしての輪郭が少し歪に感じられるところも含め文句なしに充実した一枚。flanafi関連ではベストと言っていい傑作だと思う。

 

flanafiの過去作についてはこちらで詳説した:

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1336354874808659971?s=20

 

 

 

 

GhastlyMercurial Passages

 

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 フィンランドデスメタルバンドによる3rdフルアルバム。バンドということになってはいるが実質的には一人多重録音ユニットで、ボーカルとリードギター以外の全パートを中心人物が担当している。そのおかげもあってかアンサンブル全体のまとまりは極上で(一人のクセが全パートで一貫するため個性が高純度で発露する)、特に本作においてはパート間の響きの干渉がうまくいっていることもあってか「とにかくサウンドが心地よいからそのためだけに聴きたくなる」魅力が生まれている。GorementやPestilenceに通じる和声感覚を発展させ激しくないデスメタルならではのビート感覚で煮込んだような音楽性はそうカテゴライズしてみると(ニッチではあるが)そこまで珍しいものではないもののようにも思えるが、細かく聴きほぐしていくと他のどこにもない固有の魅力に満ちていることが明らかになっていく。Morbus Chron『Sweven』やTiamat『Wildhoney』といった(カルトながら決定的な影響を及ぼした)歴史的名盤にも通じる変性意識メタルの傑作。具体的に何が良いのかうまく説明するのが難しく、それをうまく掴むためにも聴き返す、というふうにしてつい延々リピートしてしまえる素晴らしい作品である。

 

 

 

 

Hiatus Kaiyote:Mood Valiant

 

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 Hiatus Kaiyoteを紹介する際に多用されるジャンル用語に「ネオソウル」というものがあるが、個人的にはこれがどうもよくわからない。ディアンジェロから大きな影響を受けてはいるようだし、ジャンルとしてのイメージが固まってからの「ネオソウル」に特徴的なコード感を採用している楽曲も確かにあるけれども、そうした定型に回収される場面は殆どないし、全体としてはそこから逸脱する部分の方が多い。そうした在り方に通じることとして本作関連で興味深いのが「ブラジリアンフュージョン色がない」こと。「Get Sun」「Stone or Lavender」に参加したアルトゥール・ヴェロカイをはじめ、エルメート・パスコアールやオス・チンコアスなどブラジル音楽を参照している部分も多いのだが、そうした先達をそのままなぞるようなことはなく、自身のフィルターを通して完全に独自なものに変換・昇華してしまえている。亜流感やそれがもたらす不純物に敏感に反応してしまう自分のような聴き手が安心して没入できる理由はこのあたりにもあるのではないかと思う。

 フルアルバムとしては実に6年ぶりのリリースとなる本作の仕上がりは最高の一言。前2作も名作というべき極上の内容だったが、この3rdアルバムではその混沌とした滋味を損なわないまま輪郭を整える作編曲が隅々まで行き届いており、振り回されすぎずに快適に聴き入ることができるようになっている。前作で多用されていた戦前ブルース的な字余り拍構成(ネイ・パームの2017年ソロ作ではさらに剝き出しの形で頻出)は殆どなくなり、5連符を用いる「Rose Water」でも4拍子の滑らかな流れに難なくノることができる…という変化は別ジャンルで例えるなら変拍子多用のプログレッシヴメタルがMeshuggah的洗練(凄まじいアクセント移動を多用するが大局的には全て4拍子系に収まる)を成し遂げたようなものと言えるかも。とにかく全曲の全フレーズがキャッチーで、優れた(しかし異形ではある)ポップソングのみが無駄のない構成で美しい起伏を描く曲順構成も完璧。様々な困難を乗り越え時間をかけただけの甲斐はある、名盤と呼ばれるべき素晴らしいアルバムだと思う。

 本作のひとつ特別なところは、宅録的な密室感&親密さと密林的な(入り組んではいるが確かに外に繋がる)広がりが自然に両立されていることだろう。ブラジルでのレコーディングに際してアマゾンに滞在しヴァリアナ族と交流した(本作にはその音声も収録されている)経験もそこに少なからず貢献しているのかもしれない。こうした点においても代替不可能な魅力に満ちた傑作である。

 

 

 

 

平井堅:あなたになりたかった

 

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 収録曲の大半がタイアップ付きの既発曲、というのが信じられないくらい完璧な構成のアルバム。無難な雰囲気で始まりいつの間にかとんでもないところまで連れていかれ、その上で気付いたらまた安全なところに戻されているように感じる、という流れもとんでもなく、その全てが特に奇を衒っている素振りのない自然体なのも凄まじい。J-POP的な賑やかさ水準を備えているからこそ可能になる表現なのだろうし、そしてそれは平井堅の健全かつ退廃的な歌声があって初めて成立するのだと思う。正直言ってこの人には全く興味がなかったし本作も最初は3曲目で止めてしまったくらいなのだが、その後あらためて全曲聴き通してみたらじわじわ印象が変わっていった。個人的にはJ-POP的なものに対する見方が変わる(適切に読み込むポイントを示唆してもらう)きっかけとなった重要な一枚。非常に優れた作品だと思う。

 

詳しくはこちら:

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1394614085426106372?s=20

 

 

 

 

Jihye Lee Orchestra:Daring Mind

 

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 音楽とは無縁の家庭に生まれ育ちながら音楽に強く惹かれていたという韓国出身のイ・ジヘイは、高校ではロックに傾倒したのちギター(Guns N`Rosesのスラッシュなどをコピーしていたらしい)に挫折、その後は同徳(トンドク)女子大学校で声楽を修め教職で安定した収入を得ることができていたものの、経済的には満たされながらも音楽的には満足できていなかったために渡米、バークリー音楽大学に入学。その時点ではカウント・ベイシーギル・エヴァンスサド・ジョーンズといったビッグバンドジャズの名音楽家を全く知らなかったとのことだが、その3者の音楽を急速に吸収、数ヶ月後には当校のデューク・エリントン賞を勝ち取ることになる。翌年も同賞を受賞したイはジャズの道を志すことを決意し2016年にはニューヨークに移住。そこから今に至る約5年間の集大成となったのが本作である。『Daring Mind』(“でもやるんだよ精神”みたいなニュアンスだろうか)というアルバムタイトルは、ウェイン・ショーターの2013年の発言「ジャズには“こうあるべき”みたいなことはない。自分にとって“jazz”とは“I dare you(あえてやる)”という意味だ」からきているとのことで、「カウント・ベイシーみたいなビッグバンド曲を書かないでいると時々不安になるけれども、自分は伝統的なタイプのジャズ作曲家ではない。スウィング曲も悪くないけれども、それは自分のやることではないのだ」という思い切りは本作でもよく示されているし、高純度の個性確立につながっていると思う。このアルバムを聴いていて個人的に興味深く感じるのが同系統の音楽との音進行の傾向の違い。上記のような発言をしながらも既存のジャズのセオリーを完全に外しているというわけではないのだが、ゴスペルとビッグバンドジャズの要素を意識的に採用したという「Struggle Gives You Strength」のような曲でも、そうしたコンセプトから連想されやすいアメリカのソウルミュージックとかイギリス・カンタベリーのジャズ~プログレッシヴロックなどとは(通じる景色が全くないわけではないが)根本的な“出汁の感覚”が異なっているように感じられる。12小節のブルースが下敷きになっている「Why is That」も独特な味わいがあるし(どこかモンク的な薫りはある)、ブラジルを想起させる音進行を含む(その点においては本作中では例外的な)「GB」もブラジル音楽そのものやフュージョンに本気で接近しようとする気配は感じられない。そういう意味では「ライオンキングの野菜版みたいなもの」という「Revived Mind」のアジア的な響きが最も地金が出ている部分と言えるのかもしれない。以上のような独自の立ち位置が強靭に鍛え上げられたバンドアンサンブル(個人単位でも全体としての完成度も素晴らしい)によって魅力的に表現される音楽で、あからさまに変で際立つところはないが他と違うことは確かに伝わってくる、という不思議な手応えに惹かれているうちについ聴き通しリピートもしてしまう一枚になっている。とても興味深いアルバムである。

 

イ・ジヘイの活動歴や本作の成り立ちについてはこちらの記事が詳しい:

Jihye Lee: Daring to Lead - JazzTimes

 

 

 

 

君島大空:袖の汀

 

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 匂い立つような情景喚起力のある音楽は、つまるところどんな季節にもよく合うのではないかという気がする。もちろん特定の時期や時間帯にこそ合う音楽も少なからずあって、例えばGenesisの名曲「The Cinema Show」の瑞々しいせせらぎのようなイントロは自分の中では雪融けのイメージと固く結びついているし、Dark Tranquillityの冷たく仄暗い音楽は湿度が下がり少し肌寒くなってきた晩秋にこそ輝きを増すという確信はある。しかしそれは、「The Cinema Show」でいうなら西武新宿線に乗って高田馬場駅に差し掛かり減速する際に差し込む朝の柔らかい光がこの曲のイメージやその時の気分にこの上なくしっくり寄り添ってくれた、という経験を通して刷り込まれたのも大きかったのかもしれないし、こういう思い入れを許す余白は多かれ少なかれどんな音楽にもあるような気もする。そして、その容量が大きかったり間口が広かったりすれば、演者や聴き手の移入を様々なかたちで受けとめ、その時々の気分と情景を融かし合わせる繋ぎの役割を果たしてくれるのだろう。君島大空が本作のリリースに際して4月末の京都で行った紫明会館公演はまさにそんな感じの得難い機会だったが、そうした情景喚起力、いうなれば“一期一会を何度も生み出す力”はこの音源自体にも(卓越したライヴパフォーマンスと比較しても同等以上に)宿っているように思われる。君島の音楽にはもともとフィールドレコーディング性のようなものがあって、生活音などを取り込んで音響の一部として活かす試みが優れた成果をあげてきたのだけれども、そうした感覚を備えた上でアコースティックな編成を選んだ本作の音作りは、そうしたサンプリング音を組み込んでいない箇所でも同様の効果を発揮しやすいというか、聴き手の周囲に漂うその時々の生活音を取り込み音楽の一部としてしまう特性をよく備えているように思われる。遠くを通り過ぎる車の音、イヤホンの外でさえずる鳥の声など、様々な響きが合う音楽だし、そうしたものを引き受ける懐の深さがある作品なのだといえる。もちろんこういう追加要素がなくても楽しめる音楽で、どの曲にも本当に素晴らしい表現力がある。前半も名曲揃いだと思うが個人的には後半の展開が好きで、ギターソロがあまりにも良すぎて何度聴いても声が出そうになる「きさらぎ」、Pink Floyd的な夕闇の浮遊感がたまらない「白い花」、ゆったり噛みしめるような流れから最後の最後にハイライトを持ってくる「銃口」、という構成は最高と言うほかない。夕暮れ(または朝焼け)を情感豊かに描く音楽として様々な季節に寄り添ってくれるだろうし、時間をかけて付き合っていけるのがとてもありがたく思える一枚。稀有の傑作である。

 

 

 

 

L' Rain:Fatigue

 

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 フランク・オーシャンとビョークを混ぜてDirty Projectorsに撹拌させたようなオルタナティヴR&B(ソランジュに通じるものもなくはないと思うがわりと質感が異なるしだいぶポストロック寄りだと感じる:個人的にはなんとなく「森は生きている」を連想する箇所がある)は他の何かに似ているようで安易な比較を退ける個性に満ちており、楽曲の良さに惹かれて快適に聴き通すことができてしまう一方で音だけではなかなか勘所を得にくい印象があるのだが、母の死の後遺症を引きずる状態で制作されたというエピソード(「Blame Me」ではその母からのボイスメールが用いられている)を知った上でフィールドレコーディングを多用する構造を読み込んでみると、これは戻れない郷愁などに様々な角度から向き合っていく音楽なのだなという実感が得られ、何も考えずに聴くと雑で騒々しいだけのインタールードに思える「Love Her」の笑い声から複雑なニュアンスを読み取ることができるようにもなってくる。そうしたことを踏まえてみると、記憶の断片を並べて整った輪郭にまとめたような約30分の(よくわからないが極めて快適に聴き通すことができ何度でもリピートしてしまえる)構成も、思い出に繰り返し接しながら自己の深部に潜り向き合っていく作業を無理なく喚起するために徹底的に練り上げられたものに思える。手が届きそうで届かない、しかし“わかる”ための糸口は確かに遺されている。そういう状態が直接的にも間接的(感情をそのまま表すことはできないがその輪郭を捉えることはできるツールとしての言語と、それに通じる(抽象性を抑え認識しやすいレベルに留めた)ものとしての音楽ジャンル的語法(本作においてはR&B的な楽曲スタイルなど)により描かれる部分)にも表現されていて、その両方があることが大事なのだと実感させてくれる素晴らしい作品。傑作だと思う。

 

 

 

 

Lind:A Hundred Years

 

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 ドイツのプログレッシヴロックバンドSchizofrantikやPanzerballettに参加するドラマーAndy Lindの2ndソロアルバム。これが実に素晴らしい内容で、MeshuggahとDodheimsgardを混ぜてArcturusやHowling Sycamore的な配合で仕上げたコード感(Ram-Zetあたりに通じる箇所も)をdjentの発展版的な緻密なリズム構成とともにまとめたような音楽性になっている。全体のノリとして近いのはX-Legged SallyやSnarky Puppyのような現代ビッグバンドジャズで、ティグラン・ハマシアンやキャメロン・グレイヴスのようなメタル寄りジャズも(ともにMeshuggah影響下ということもあってか)通じる部分が多い。本作が何より好ましいのはとにかく曲が良いことで、上記の比較対象の美味しいところのみを抽出して亜流感ゼロの魅力的なかたちに昇華したような出来栄えの楽曲群はほとんど比肩するもののない境地に達しているように思う。サウンドプロダクションはこの手のプログレッシヴメタル方面にありがちな(言ってしまえば凡庸な)色彩変化に乏しいもので個人的にはあまり好ましくない印象だが、曲と演奏が著しく良いので総合的には積極的に聴きたくなるというところ。80分の長さを曲間なしで繋げとおす組曲構成はやり過ぎ感もあるが、一貫した風合いを保ちながらも曲調は多彩で(ザッパやMr. Bungle、Gentle Giant的になるところも)飽きずに楽しみ通せてしまう。メタルファンよりもむしろジャズやプログレッシヴロックのファンに聴いてほしい傑作である。

 本作を聴いていて気付かされることに「ドラマーがリーダー作で選ぶ魅力的なスタイルとしてのdjent」というものがある。複雑なアクセント移動を楽曲のクオリティに貢献する“音楽的な”アレンジとして多用でき、そういう意味でのクオリティの追求と作編曲のクオリティ追求の利害が一致しやすい。ドラムソロを入れなくてもテクニック的な見せ場を常に作ることができ、多彩な作り込みとストイックなミニマル演奏を両立させることができる。なるほどそういう価値もあるスタイルなのだなと感心させられたし、そういう納得感を与えるだけの説得力にも満ちた音楽なのだといえる。

 

 

 

 

Loraine James:Reflection

 

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 一言でいえばUKドリル/グライム+オルタナティヴR&Bという感じなのだが、音作りと楽曲がとにかく素晴らしい。細かく切り刻まれたシンバルの流れが点描的な網を形成し8 bitサウンド的シンセと絡む「Self Doubt」、タム~キックが雨だれのように重く躍動する「On The Lake Outside」など、各々の曲が異なる響きを駆使して描き分けられていて、そのすべての鳴りが極上なうえにフレーズやコードの動きも魅力的。「Insecure Behaviour and Fuckery」などはトラック単体でも延々聴かせてしまえる超一流のループものだが、そこにラップを載せる余白の作り方も見事で、ボーカルが入ってきた瞬間に理想的な歌伴に切り替わる。打ち込みだからこそ可能なタイトなアタックとその全てが艶やかに繋がる流麗なフレージングの両立がとにかく好ましく、時間帯やノリを問わずにフロアで活躍する(そしてその迫力を家庭のサウンドシステムでも体感できる)大変優れた内容になっていると思う。仄暗くメロウな雰囲気と親しみやすさを兼ね備えた素晴らしいアルバムである。

 

 

 

 

Parannoul:To See the Next Part of the Dream

 

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 こちらのインタビューによれば、本作の殆ど全てのパートはVST、つまり実楽器でない既製のプラグイン音源を用いて制作されているとのことなのだが、そういう種明かしをされた上で聴いても何も気にならないし、生楽器のラフな演奏よりも遥かに瑞々しく切実な念がこもっているようにさえ聴こえる。細かいニュアンス変化を生みやすい生楽器でなくDAWでこれほど繊細な音色表現を作り込むのはその手間も考えればむしろ数段凄い“演奏”だし、それを実現するだけの強い思い入れにほどよい節度を加え絶妙なバランスを生むための縛りにもなっていると考えれば、このやり方でなければ(そしてそれを貫徹できる意志と技術が伴わなければ)実現できない素晴らしいサウンドなのだと言える。シューゲイザーを土台にポストロック~エモ~激情ハードコア的なものを融合させた音楽性と先述のような節度ある演奏の相性は抜群で、冷静さと情熱をこのような形で両立する音楽は他ではなかなか聴けないだろうと思われる。そして本作はとにかく曲が素晴らしい。「僕の音楽は全くクリエイティヴじゃないよ。僕が特に好きなバンドの要素を組み合わせて、新しい音楽を作っている“ふり”をしているだけ」という発言も、手法としてはその通りなのかもしれないが、結果としては代替不可能な表現力に満ちた作品につながっている。BandcampNYPなのが申し訳なくなるくらい素晴らしいアルバム。

 

 

 

 

Pino Palladino & Blake Mills:Notes with Attachment

 

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 参加メンバーは重要人物揃い。ディアンジェロの歴史的名盤『Voodoo』(2000)でいわゆるネオソウルのグルーヴを殆ど誰にも超えられない形で確立したほか、The Whoジェフ・ベック、アデル、Nine Inch Nailsなど膨大なセッション参加でも知られる名ベーシスト:ピノ・パラディーノ(活動開始は1974年だがソロアルバムは本作が初)。Alabama Shakes『Sound & Color』(2015)や自身の『Mutable Set』(2020)など数々の傑作に関与した、現代ポップミュージックシーンを名実ともに代表するプロデューサー/ギタリスト:ブレイク・ミルズ。この2人を軸に、昨今のジャズ周辺シーンを代表するサックス奏者/プロデューサーであるサム・ゲンデルや、ジャズ領域に限らず世界最高の一人といえるドラマー:クリス・デイヴなど、キャリア的にも実力的にも超一流のプレイヤーが勢ぞろいで、その一覧だけでも歴史的に重要なアルバムと言っていいくらい。その上で内容は期待以上に素晴らしいものになっている。The Beach Boys『Pet Sounds』のインスト曲を発展させたような趣もある冒頭の「Just Wrong」は「デューク・エリントンとJ.ディラを繋げることが狙いのひとつだった」というし、ディアンジェロフェミ・クティとの演奏から生み出されたという「Soundwalk」「Ekuté」、エルメート・パスコアール人脈の音楽がインスピレーション源になった「Man from Molise」など、アメリカと深いかかわりをもつ様々な音楽要素が滑らかに溶かし合わされる(その節操のなさも含め映画のサウンドトラック的でもある)楽曲の数々は、驚異的に素晴らしい演奏や音響もあわせ、この座組でなければ達成不可能な形に仕上げられていると言えるだろう。初めて接した時の印象はわりと地味でもあるが、アレンジの細部やフレーズ単位の動き・音作りなどを意識的に吟味するようになると途端に味が増していく(「Ekuté」の強烈に歪んだサックスは曲調もあいまってどことなくKing Crimson『Earthbound』を連想させるなど)。汲めども尽きせぬ素敵な謎に満ちたアルバムである。

 

参考資料としてはこのあたりが興味深い:

ジャズにとっての、そしてジャズのみならず多くの音楽への示唆ピノ・パラディーノとブレイク・ミルズの邂逅が示すもの | TURN (turntokyo.com)

 

ピノ・パラディーノが追求してきた“遅らせた演奏”のグルーブ 〜THE CHOICE IS YOURS - VOL.136 - サンレコ 〜音楽制作と音響のすべてを届けるメディア (snrec.jp)

 

[INTERVIEW] Pino Palladino & Blake Mills | Monchicon! (jugem.jp)

 

 

 

 

Spellling:The Turning Wheel

 

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 本作を再生開始してまず流れてくるのはフィリーソウル~ソフトロック的なオーケストラサウンド(アルバム全体では総勢31名が関与とのこと)で、この時点では「70年代初頭のポップスをシミュレートしたレアグルーヴ志向なのかな」という程度の印象に留まるのだが、そこに入ってくるボーカルが凄すぎる。ケイト・ブッシュマイケル・ジャクソンが憑依したような元気な歌声は節回し的には芝居がかった感じもあるがふざけている気配は全くなく、少し陰りのある御伽噺的世界観を全力で描き切らんとする饒舌な表現力に満ちている。そのさまは60~70年代のアシッドフォーク的アーティストにそのまま通じるもので、ドラッギーなイメージ作りを狙って奇を衒った音作りをする(その結果“奇の衒い方”のパターンにはまった)poserとは対照的な、自らの表現志向を真摯に突き詰めたらいつの間にか一線を越えてしまった感じ、言葉本来の意味での「サイケデリック」を体現する本物のオーラが濃厚に漂っている。それをふまえて作編曲にも注目してみるとこちらも凄まじく、楽曲単体でも優れた酩酊感を生じうるキャッチーなフレーズの数々や、こけおどしのないチャーミングな曲調に仄かなゴシック感を滲ませる独特の雰囲気表現(「Awaken」などはMercyful Fateのような暗黒歌謡メタルに通じる味わいもある)がボーカルに拮抗する存在感を発揮し続けるのである。“Above”と“Below”の2パートで陰陽を交互に描き聴き手をじわじわ引きずり込んでいく構成も見事で、アルバム全体として稀有の傑作に仕上がっていると思う。black midiの項で述べた「現行ポップミュージックの傾向うんぬんを反映したものというよりは、凄いバンドが独自の路線を突っ走った結果たまたまこんな姿になってしまった異形の音楽であり、これが周囲に影響を及ぼして潮流を生んでいく」という在り方をまた異なる形で体現する一枚なのではないだろうか。こんな作品に前触れなしに出会うことができるわけで、今の音楽は本当に面白いものだなと実感する次第である。