プログレッシヴ・アンダーグラウンド・メタルのめくるめく世界【プログレッシヴ・デスメタル篇】(解説部分更新中)

こちらの記事
の詳説です。

参考資料はこちら:
(英語インタビューなどは抄訳付き)


プログレッシヴ・デスメタル

ATHEIST
CYNIC
MESHUGGAH
OBLIVEON
DISHARMONIC ORCHESTRA
GORGUTS
SADIST
EXTOLLENGSELMANTRIC
MARTYR
CAPHARNAUM
GOJIRA
DECAPITATED
AKERCOCKE
ANTEDILUVIAN

(解説を書いたものについては名前を太字にしています。)


ATHEIST(アメリカ)

Unquestionable Presence

Unquestionable Presence


(1st『Piece of Time』フル音源)'89

(2nd『Unquestionable Presence』フル音源)'91

(3rd『Elements』フル音源)'93

(4th『Jupiter』フル音源)'10

伝統的なヘヴィ・メタルのシーンが生み出した究極の音楽的成果。「プログレッシヴ・デスメタル」創成期を代表する名バンドであり、NWOBHM系メタルの最高進化形のひとつです。80年代メタルの旨みを色濃く残す数少ないテクニカル・メタル・バンドで、名声の大きさの割に、その持ち味を直接受け継いだものは殆ど存在しません。その意味では、BLIND ILLUSIONなどと並ぶ“時代のミッシング・リンク”と言えるバンドなのです。

ATHEISTの音楽的バックグラウンドを詳細に分析するのは難しいです。1st『Piece of Time』再発盤のライナーノートでリーダーのKelly Shaeferが述べているように、成り立ちの基本は確かに「RUSH+SLAYER+MERCYFUL FATE」なのですが、それも「そう言われてみれば確かにそうだ」というくらいの話で、「その3バンドを単純に足せばこうなる」レベルを遥かに超えています。実際の出音は「モードジャズ化したNWOBHM寄りスラッシュメタルを超一流のジャズロックプレイヤーが演奏している」感じ。上記3バンドのエッセンスを完全に消化吸収した上で、独自のセンスで全く別のものに進化させてしまった感があります。
(ジャズの歴史を知っている方には時間軸を混乱させるような話で恐縮ですが、WATCHTOWERをJohn Coltrane『Giant Steps』で例えるならば、このATHEISTはMiles Davisの『Kind of Blue』という感じです。音遣いの質についてだけ言うと。)
そういう意味で、このATHEISTは、WATCHTOWER以降の「伝統的メタルの影響をあまり受けていないプレイヤーがたまたまメタルサウンドを利用している」バンド(=現代テクニカルメタルの主流)とは一線を画す、言ってみれば“昔気質”なバンドなのです。したがって、ATHEISTの音楽性の芯をつかむためには、NWOBHM周辺(もしくはそれに通じる日本の歌謡曲など)のエッセンスを“体で理解”する必要があります。圧倒的に優れた演奏表現力もあって「上手いもの好き」な人ならば専門ジャンルを問わずに楽しめるバンドなのですが、味の芯を嚙み分け納得するためには、やはり伝統的なメタルについての経験値が必要になると思うのです。上の例え(Miles - Coltrane)のようにジャズ方面から吟味するのも面白いですが、伝統的なメタルを知った上でそこからの差異を分析していくほうが、この独特の音楽性を理解する助けになるのではないかと思います。

とはいえ、そういう「音楽性の成り立ち」などいちいち考えなくても楽しめる最高の音楽でもあるのです。各メンバーの演奏表現力はいずれもシーンのトップクラス。圧倒的な技術を完全に“道具”として使い、プリミティブなスラッシュメタル〜ハードコアバンドと同等以上のアツイ勢いを生み出すアンサンブルは圧巻です。
特に凄まじいのがボーカルとドラムスです。Kelly Shaefer(素晴らしいギタリストでもあったのですが腕の腱炎・手根管症候群によりそちらはリタイア)の“吐き捨て”(非デスヴォイスの歪み声)ボーカルは、MESHUGGAHのJensやVOIVODのSnakeをも上回る響きと個性を備えており、硬軟織り交ぜた緩急表現も絶品です。そしてSteve Flynnのドラムス。Sean Reinert(CYNIC / ex. DEATH)やGene Hoglan(ex. DEATH, DARK ANGEL, etc.)などと並ぶ最強のジャズ・ロック型メタルドラマーで、豊かなフレーズ・パターンと勢いの表現では右に出る者のいない達人です。特に2nd『Unquestionable Presence』(邦題:比類なき存在)での演奏は、膨大な手数と繊細な表現力を信じ難いレベルで両立したもので、あらゆる音楽ジャンルにおける一つの究極を示しています。後の4thアルバムやGNOSTICで聴ける“超高速で小気味よく張り付く”タッチ(「空中に舞う無数の羽の上を“一歩一歩深く踏み込みながら”滑らかに飛び移る」感じの質感)も唯一無二で、技術水準の高まり続ける現代のテクニカル・メタル・シーンにあっても、替えのきかない実力を示し続けています。
このバンドの歴史をみる際に一つのトピックになるのがベーシストの変遷です。初代ベーシストだったRoger Pattersonは、卓越した演奏表現力と驚異的なフレージングセンス(2ndの再発盤に収録されたプリプロ音源を聴くとよくわかります)により多くの名曲を生み出した中心人物だったのですが、1stの発表後にツアーバスの事故で逝去。その後任として加入したのがCYNICに在籍していたTony Choyで(CYNICでは'90年と'91年のデモに参加)、シーン屈指の天才だったRogerの代わりを見事に勤め上げています。Tonyは解散前の最終作である3rdにも参加し、2ndでは前面に出さなかった豊かな素養(ジャズ〜ブラジル音楽など)で作編曲の深化に貢献。復活後の第1作目である4thには参加しませんでしたが、その後再び加入し、2015年3月時点ではまだ在籍しているようです。

ATHEISTの生み出した4枚のアルバムは全てがシーンを代表する名作です。
1stは直線的なスラッシュメタルに近いスタイルで、MERCYFUL FATE〜SLAYER色がやや強めなためか、どこか北欧の初期ブラックメタルに通じる雰囲気を漂わせています。
2ndは「プログレデス」最高の名盤に挙げられることもある大傑作で、極めて個性的なフレーズをあまりコード付けしないまま放り出した(モーダルな)作編曲と常軌を逸した演奏表現力がこの上なく素晴らしい一枚です。
続く3rdアルバムではそれまでの“剥き出し”感あるフレーズが程よくコード付けされており、作編曲の完成度ではベストと言えるかもしれません。前作で一時脱退したSteve Flynnの後任も地味ながら優れたドラマーで、バンドの強烈な勢いにほどよい落ち着きを加えています。
'94年に解散→'06年の復活を経て発表された4thでは、3rdで提示されたまとまりある作編曲が2ndに近い勢いある形で仕上げられており、KellyとSteveの達人技を若手の優れたプレイヤー2人が見事に支えています。過去の3枚と比べると芳しい評価は得られませんでしたが、ATHEISTのカタログの中に置いてもなんら遜色ない逸品で、聴く価値は高いです。

ATHEISTは、当初の活動('88〜'94)においては自身の音楽性を完成しきることができませんでしたが、それでも後続に大きな影響を与えています。DEATHの4th『Human』('91)に収められた名インスト「Cosmic Sea」はATHEISTの「Piece of Time」(1stの1曲目)などを意識した感じがありますし(そうでなければ当時のSF映画の音楽からともに影響を受けたというところでしょうか)、ATHEISTの「Fire」(3rdの8曲目)などは、直接の影響関係はないかもしれませんが、WATCHTOWERの2ndと初期のMESHUGGAHをともに連想させるような音遣いを持っています。作品そのものの魅力においても、伝統的なヘヴィ・メタルとそこから分断された「テクニカルメタル」との間をつなぐ歴史的“ミッシング・リンク”としても、他に比するもののない奥行きを備えたバンドなのです。
10年ほど前の(「プログレデス」ファンの中ですら十分に認知されていなかった)状況に比べると、現在はだいぶ再評価が進んできているように思います。しかしまだまだ不十分。この素晴らしいバンドがもっと広く聴かれることを、心から願う次第です。



CYNIC(アメリカ)

Focus

Focus


(1st『Focus』フル音源:本編は36分ほど)'93

(2nd『Traced in Air』フル音源)'08

(3rd『Kindly Bent to Free Us』フル音源)'14



MESHUGGAH(スウェーデン

Nothing (Bonus Dvd)

Nothing (Bonus Dvd)


(EP『None』フル音源(5曲)+ライヴ音源プレイリスト)'94

(2nd『Destroy Erace Improve』フル音源)'95

(Fredrik Thordendal『Sol Niger Within』フル音源:本編は約43分)'97

(4th『Nothing』フル音源プレイリスト)'02('06 remix/remaster)

(7th『Koloss』フル音源プレイリスト)'12



OBLIVEON(カナダ)

Carnivore Mothermouth

Carnivore Mothermouth


(1st『From This Day Forward』フル音源)'90

(2nd『Nemesis』フル音源)'93

(3rd『Cybervoid』から1曲目)'96

(4th『Carnivore Mothermouth』から6曲目)'97

'87年結成、'02年に一度解散。優れたバンドの多すぎるカナダのシーンにおいても屈指の実力者で、個性的な音楽の魅力はVOIVODやMARTYR、GORGUTSにも劣りません。レコード会社から十分なサポートを得られずに苦しみ続けたバンドで、「テクニカルスラッシュ」「プログレデス」の中でも最上級に位置すべき作品を残したのにもかかわらず、現在に至るまで無名であり続けています。こうした系統の音楽性が広く認知されるようになった今でこそ、再評価されなければならないバンドだと思います。

OBLIVEONの音楽性を一言で説明するのは殆ど不可能です。「DBCやSEPULTURAのような微妙にハードコアがかったスラッシュメタルを、欧州クラシックの楽理を援用しつつ暗くスペーシーな感じに仕上げた」ような感じはありますし、後のバンドでいうならMARTYRやVEKTORなどは似た要素を持っているのですが、独特の暗黒浮遊感を伴う音遣いはここでしか聴けないもので、リードフレーズもコードワークも代替不可能な旨みに満ちています。演奏も雰囲気表現力も素晴らしく、“指が回る”という意味でのテクニックはそこまで圧倒的でないものの、他では聴けないトーンと独特の“冷たく飄々とした空気感”が魅力的。こればかりは実際に聴いていただかないと何とも言えません。

OBLIVEONが発表した4枚のアルバムは、全てが「テクニカルスラッシュ」「プログレデス」シーンを代表すべき傑作です。

1st『From This Day Forward』('90年発表)は最もスラッシュメタル色の強い1枚で、先述の「DBCやSEPULTURAのような微妙にハードコアがかった」質感が前面に出ています。それを極めて個性的なコードワーク&リードフレーズで装飾した作編曲は見事の一言で、淡々としたテンションを保ちながら勢いよく突っ走る演奏も独特の雰囲気に満ちています。

2nd『Nemesis』('93年発表)は1stのメカニカルな質感を強めた作品で、変拍子を効果的に絡めつつ淡々と押し続ける語り口もあって、冷たく燃え上がる雰囲気が更に熟成されています。また、他では聴けない音色のリードギターがより前面に押し出されるようになり、天才的なフレージング・センスで蠱惑的な魅力を醸し出しています。このバンドの作品の中では最も認知度の高い作品で、アメリカのインスト・プログレッシヴメタルバンドCANVAS SOLARISのドラマーHunter Ginnなどは、「“テクニカル・メタルってどんなもの?”と聞かれたら『Nemesis』のような音だと答える」という発言を残しています。
(Jeff Wagner「Mean Deviation:Four Decades of Progressive Heavy Metal」2010年刊より)
当時所属していたレーベルActive Records(イギリス)はこの作品のリリース直後に破産。その後バンドが自費出版した分も即完売したため、Prodiskレーベルが'07年に再発するまでは、この作品が公式に広く売られることはありませんでした。最も認知度の高い作品ですらこの有様。レコード会社に恵まれなかったこのバンドの苦労が伺われます。

続く3rd『Cybervoid』('95年7月録音完了・翌年4月に発表:カナダとフランス以外では発売されず)はこれまでの音楽性をさらに成熟させつつ整った構成にまとめあげた傑作で、全編が強力なギターフレーズで埋め尽くされています。リフも見事なものばかりですが、それ以上にリードギターが素晴らしい。独特の暗黒浮遊感と美しく印象的な“かたち”が魅力的なものばかりで、「テクニカルスラッシュ」「プログレデス」枠で語られるあらゆる作品の中でも最上級に位置すべき名フレーズを聴くことができます。また、このアルバムでは強力な専任ボーカリストが加わっていて(前作まではベーシストが兼任していて格好良い“吐き捨て”型の歌唱を披露している)、アンサンブル全体の完成度を高めています。

現時点での最終作4th『Carnivore Mothermouth』('99年)は、前作・前々作において少しずつ増えてきていたインダストリアル・メタル色が前面に押し出された作品で、KILLING JOKEやMINISTRY、FEAR FACTORYを意識したような曲が多くを占めています。これまでの作品において“看板”になっていた魅力的なリードギターは大胆にカットされ、多彩なリフと強力なボーカルをコンパクトに聴かせる“歌モノ”メインの作風に変化。こうした大幅な転身もあって、昔からのファンには問題作扱いされることがあるようです。しかしこれは素晴らしい作品で、独特の高度な音遣い感覚を巧みに整理したリフはどれも見事な仕上がりです。凄まじい作り込みをすっきり聴かせてしまうアレンジも驚異的で、ドラムスのフレーズ構成&演奏、そして“柔らかく尖った”ボーカルが、唯一無二の魅力を生み出しています。独特の暗黒浮遊感に妙な明るさが加わった雰囲気や、メタルにはあまり例のない“高域に焦点をおいた”音作り(ベースやバスドラよりもシンバルやボーカルに注目することでアンサンブルの魅力が見えるようになる作り)など、少し慣れが要る箇所もありますが、アルバムの完成度としては本作がベストでしょう。個人的には最高傑作だと思っています。
この4thアルバムは高度な音楽性と“わかりやすさ”を最高度に両立した大傑作だったのですが、そもそもまともな流通を得られなかったこともあり、やはり十分な評価を得ることができませんでした。こうした苦労もあってかバンドは'02年に解散。15年に渡る活動にひとたび終止符を打つことになりました。

なお、OBLIVEON解散後、ギターのPierre Rémillard(2nd以降の録音・ミキシングを担当)はスタジオ・エンジニアとしてのキャリアを本格化。活動範囲はカナダのメタルシーンに限られるようですが、当地の優れたバンドの傑作の多くに関わっています。
(CRYPTOPSYの2nd〜4th、GORGUTSの3rd〜5th、MARTYRの2nd・3rd、VOIVODの13th『Target Earth』など。)
陰ながらこのジャンルに大きく貢献し続ける重要人物であり、「テクニカルスラッシュ」「プログレデス」のファンであれば、名前を知らなかったとしても関連作を聴いたことはあるのではないかと思います。

本活動時は不遇をかこつカルトバンドに留まってしまっていたOBLIVEONですが、なんと2014年に再結成し、現在(2015年)も活動中とのことです。こうした系統の音楽性が広く認知されるようになった今ならば、そして、作品に触れてもらえる機会さえ得られれば、多くのファンを獲得することも夢ではないはずです。
今からでも遅くありません。この素晴らしいバンドが正当に評価されることを願います。



DISHARMONIC ORCHESTRA(オーストリア

Ahead

Ahead


(1st『Expositionsprophylaxe』フル音源プレイリスト)'90

(2nd『Not to Be Undimensional Conscious』フル音源プレイリスト)'92

(3rd『Pleasuredome』フル音源)'94



GORGUTS(カナダ)

Colored Sands

Colored Sands


(3rd『Obscura』フル音源)'98

(5th『Colored Sands』フル音源)'13

カナダを代表する最強のデスメタルバンド。いわゆる「テクニカルデスメタル」「ブルータルデスメタル」の代表格と言われることもありますが、音楽的な出自は別のところにあり、そうしたスタイルを参考にしたことはないようです。初期デスメタルのシーンに深く入れ込みつつ、現代音楽寄りクラシック音楽にも大きな影響を受け、そのふたつを独自のやり方で融合。それにより生まれた5枚のアルバムはシーン屈指の傑作ばかりで、個性的で著しく高度な音楽性により、同時代以降のバンドに大きな影響を与え続けています。

GORGUTSの音楽的バックグラウンドは、リーダーであるLuc Lemayのインタビュー記事(2013.7.13:http://steelforbrains.com/post/55691852677/gorguts)で非常にはっきり表明されています。「何歳の頃にどんなものから影響を受けたか」ということをとても具体的に語ってくれている興味深い内容なので、ファンの方はぜひ読まれることをおすすめします。
少々長くなりますが、GORGUTSの音楽(それ単体を聴いているだけでは成り立ちを読み解きづらい)を理解するための最高の資料と言えるものなので、重要だと思われる部分をかいつまんでまとめておきたいと思います。

・父親はカントリーミュージックを演奏しており、自分も2年生の時にアコースティックギターを与えられてギター教室に通っていたりした。しかし、それにはあまりのめり込めず、ピアノで音楽の構造を解析したりすることの方に惹きつけられていた。
・同世代の多くの子供達と同様「Star Wars」の大ファンで、同作のサウンドトラックや、John Williams(アメリカを代表する映画音楽家)の作品などを愛好していた。
・8年生(日本の高校2年生に相当)のとき観た「Amadeus」に衝撃を受け、Mozartに興味を持った。学校はキリスト教系で、先生を通してMozartのBoxセットや、Paul Abraham Dukasの「The Sorcerer's Apprentice」など、大量のレコードを借りた。
・メタルに関しては、IRON MAIDEN『Maiden:Live in Japan』収録の「Running Free」、VAN HALEN『1984』、旧い友人(Frank)達が演奏していたMETALLICA「Jump in The Fire」、それと同時期に発表された『Master of Puppets』、DIO『Last in Line』というような感じでのめり込んで行った。
・こうしたことにより、クラシック音楽とメタル(VOIVOD『War And Pain』('84)やIRON MAIDEN『Powerslave』('84)など)の双方を好む嗜好が出来上がっていった。
・8年生のある日(たしか11月)、別の市に住む大学生の友達に会いに行ったところ不在で、その時出会ったあるバンドの人々にリハーサルルームを見せてもらうことになった(バンドの本格的な機材を見たのはその時が初めて)。その時、POSSESSEDやCELTIC FROSTの話になり、DEATH『Scream Bloody Gore』('87年発表)のテープを「POSSESSEDの『Seven Churches』は好き?俺はこれ嫌いだから5ドルで譲ってやるよ」と言われ、即購入した。帰り道にウォークマンでそれを聴いたとき、人生が変わった。「自分もChuckのように歌ったりギターを弾いたりしたい!」と思った。それを機に自室で作曲を始めたのだが、その時点ではエレクトリックギターは持っていなかった。
・9年生の時にはエレクトリックギターを購入。文通やテープトレード(デモテープの郵送交換)も開始した。この頃SEPULTURA『Beneath The Remains』やOBITUARY『Slowly We Rot』を発見したし、ENTOMBEDのUffeなど、欧州アンダーグラウンドの構成員とも既に文通をしていた。
・「Slayer Magazine」(スウェーデン人Metalionが編集するこの世界を代表するファンジンで、北欧アンダーグラウンドシーンの紹介に大きく貢献)のフライヤーをもらったことをきっかけに、自分の録音していた2曲(「Calamitous Mortification」と「Haematological Allergy」)を「GORGUTSというバンドのテープを入手したから聴いてみてくれ」と書き添えてそこに送った。自分の音源のレビューが載った最初のメディアはそれで、これが「アンダーグラウンドに本当に足を踏み入れた瞬間」だったのだと思う。
・7年生の時には、Stephane Provencher(ドラムス:ともにGORGUTSを結成)やSteve Cloutier(ベース:3rdや4thで共演)などとも知り合いになっていた。「Slayer Magazine」の存在を教えてくれた友人Frankは彼らと3ピースのバンドを組んでいて、自分はそこに加入したかったが「3人組だから」ということで認められず、自分のバンドを組むことにした。StephanがFrankのバンドを脱退した後、'89年夏(高校卒業・17歳の時)に一緒にGORGUTSを結成することになる。
・こうした活動と並行して、クラシック音楽も学んでいた。6年生の時にピアノのレッスンを始め、2nd発表直前(21歳)にはバイオリンも学び始めた。その時、ShostakovichやProkofievのようなロシアの作曲家を知ることになる。これにはDEATHの1stと同じくらい衝撃を受けた。
その後Penderecki(「クラシック音楽におけるデスメタルのようなもの」)を知り、深くのめり込むようになる。
バンドがモントリオールに活動拠点を移した'95年にはビオラを1年学び、音楽学校に入って作曲を修めることになる。
・自分はヘヴィ・ミュージックにおいて“美学”を表現している。デスメタルというスタイルは、PendereckiやShostakovichをメタルの世界で演っているようなものだ。IRON MAIDENなども独自の美学のある非常に素晴らしいものなのだが(絵画におけるルネサンス期に例える)、その形では自分のやりたいことは表現できない。実際、『Colored Sands』はクラシック音楽的に書かれている。
・Pendereckiには完全5度(パワーコード)の少ない暗い雰囲気(マイナー寄りの音遣い)がある。デスメタルもそれに通じる音楽スタイルで、自分が惹かれる理由はそこにあると考える。デスメタルクリシェにとらわれない実験精神と美学に満ちたジャンルであり、自分はそれを愛する。

以上を読むだけでGORGUTSの音楽的な成り立ちはあらかた掴めるのではないかと思います。
・DEATH、POSSESSED、CELTIC FROST、SEPULTURA、OBITUARYなど
(全てCELTIC FROSTラインで語れるバンドで、“無調に通じるルート進行感”を持っています)
・PendereckiやShostakovich
(20世紀を代表するクラシック音楽家で、無調の技法を通過しつつそれに留まらない個性的な世界を描きました)
という2つの方向性を、双方に共通する音遣い感覚をベースに融合させ、デスメタルの音作り&演奏スタイルで表現してしまう。GORGUTSの音楽性は非常に複雑で、その作品は簡単には読み解けないものばかりなのですが、上のようなキーワードを知ったうえで聴くと、その方向性はむしろ非常に明快で、ブレずに探求し続けられているものだということがわかります。5枚のスタジオアルバムは、この2つの方向性が次第に前者寄りから後者寄りになっていく過程を描いたものとして、それぞれとても興味深く聴くことができるものなのです。

このバンドの作品の中で最も有名なのは3rd『Obscura』('98年発表)でしょう。前作までの「初期DEATHを高度な楽理で肉付けした」ようなスタイルから一気に複雑化した作品で、難解なフレーズ・コード遣いと入り組んだリズム構成は、(少なくともメタルの世界では)このバンドでしか聴けないものになっています。しかし、そこに“無闇に複雑にしようとした”“こけおどししてるだけで中身がない”“考えオチな感じ”は全くなく、奇怪なアレンジの全編に表現上の必然性を伴っています。演奏も実に凄まじく、クラシック音楽の厳格なスタイルに影響を受けたと思しき音色&響きのコントロールなどは完璧という他ありません。速いパートでも遅いパートでも繊細な表現力を発揮する演奏が、緻密な音響処理によって絶妙な分離感をもちながら溶け合わされているのです。他に類を見ない音楽性のために暫くはとっつきづらく思えるかもしれませんが、あらゆる点において最高級の仕上がりになっている大傑作なので、ぜひ聴いてみることをおすすめします。
(長く廃盤でしたが、'15年4月にめでたく再発されました。)
実はこの3rd、作編曲は'93年(2ndの発表直後)に全て完了していたようで(デモ音源集『…And Then Comes Lividity / Demo Anthology』で聴くことができます)、レコード会社の判断で'98年まで発表が延期されることになっていた「時代の先を行きすぎていた」作品でもあります。これが'93年に無事発表されていたらシーンの流れはどのくらい変わっただろうか…と考えさせられてしまう話ではありますが、'98年の時点でもジャンルの常識を圧倒的に超越していたわけで、早く発表されたところで「カルト名盤」としての位置付けはあまり変わらなかったのかもしれないとも思えます。現在の“アヴァンギャルドな”「テクニカルデスメタル」「ブルータルデスメタル」に大きな影響を及ぼしている作品ですし(GIGANやULCERATE、ブラックメタル寄りですがDEATHSPELL OMEGAなどもよく比較されます)、シーンの最先端にある音楽性と比べてもなお先を行っている強力な内容です。そういう観点からも興味深いのではないかと思います。
この後に発表された4th『From Wisdom to Hate』('01)ではカナダのメタルシーンを代表する(Lucに迫る)天才Daniel Mongrain(MARTYR、VOIVOD / ex.CRYPTOPSY)が参加しており、こちらも音楽学校でしっかり学んだ高度な楽理により、GORGUTSの強力な音楽性にうまく異なる味を加えています。3rdをコンパクトにしたような仕上がりもあって、とても興味深く聴ける内容。こちらもおすすめできる作品です。

この後GORGUTSは'05年に一度解散し、Lucは、ギターのSteeve Hurdleが主導するバンドNEGATIVAに参加することになります。しかし、Steeveの即興多めのスタイルに満足できず(先のインタビューで「自分は緻密に構築された作編曲が好き」と言っています)、また、Steeveが持ちかけた「そろそろGORGUTSも20周年。ファンのために新しいレコードを作ってそれを祝わないか?」という話に乗せられたこともあって、一気に再結成を実現させることになります。
(「自分も参加したい」と言っていたSteeveは加入させませんでしたが、良い友人関係を保っていたようです。Steeveはその後'12年に(手術後の合併症で)亡くなりました。)

そして'13年に発表されたのが5th『Colored Sands』です。これまでの高度な音楽性がより解きほぐされた形でまとめられた大傑作で、達人揃いのメンバー(DYSRHYTHMIAやORIGINなどにも所属)による演奏も、緻密でダイナミクス豊かな音響処理も、ともに最高の仕上がり。個人的にはこのバンドの最高傑作だと思います。
('14年11月の来日公演も信じられないくらい凄いパフォーマンスをしてくれました。その時のライヴレポートはこちら:https://twitter.com/meshupecialshi1/status/531071229864595456
このアルバムの製作時、LucはOPETHやSteven Wilson関連作(PORCUPINE TREE『The Incident』)などにハマっていたようで、アルバムのデモ演奏を聴いた友人の指摘なども合わせて、“長いスパンで展開していく時間感覚”“静と動の双方を生かした緩急表現”に意識的に取り組んでいたようです。『Colored Sands』ではそうした試みが見事に活かされており(音遣いなどの要素に関しては先の2者にはっきりした影響は受けていない:そもそも楽理などの知識ではLucの方が遥かに上でしょう)、ゆったりした緊張感をもって約63分の長尺を聴かせきる構成が出来ています。難解で抽象的な雰囲気にとても快適に浸らせてしまえるという点でも出色の作品であり、本稿で扱う全ての作品の中でも、「入門編」として特におすすめできる一枚です。ぜひ聴いてみることをおすすめします。

以上のように、GORGUTSは、作編曲・演奏表現・音響処理(スタジオ・ライヴともに)の全てにおいて最高レベルと言える凄いバンドです。作品そのものの魅力においても、このシーンの最先端をいく“エクストリームな”バンドへの影響力という点においても、比類なき存在感を誇る実力者でもあります。多少難解なところはありますが、聴いてみる価値は高いと思います。



SADIST(イタリア)

ハイエナ

ハイエナ


(1st『Above The Light』フル音源)'93

(2nd『Tribe』フル音源)'96

(3rd『Crust』フル音源プレイリスト)'97

(4th『Lego』から「A Tender Fable」)'00

(5th『Sadist』フル音源)'07

(6th『Season in Silence』フル音源)'10

(Tommy Talamanca『Na Zapad』フル音源)'13

(7th『Hyaena』から1曲目「The Lonely Mountain」)'15

'90年結成。デスメタルに本格的にキーボード/シンセサイザーを導入した最初のバンドの一つと言われます。しかし、作編曲や演奏のスタイルは一般的な「デスメタル」「シンフォニックメタル」と大きく異なるもので、他では聴けない高度で独創的な作品を生み続けています。カルトで神秘的な雰囲気はイタリア特有の空気感に満ちており、そうした味わいを口当たりよく吞み込ませてしまう音楽センスは驚異的。この稿で扱う他の「プログレデス」バンドと比べても見劣りしない実力の持ち主です。

SADISTは「イタリアを代表するB級スラッシュメタルバンドNECRODEATHのリーダーPeso(ドラマー)によって結成されたバンド」と紹介されることが多いですが、音楽的なリーダーはギタリスト/キーボーディストTommy Talamancaの方です。10歳でクラシックギターを学び始め、15歳の時にエレクトリックギターに転向する一方でピアノも学び始めたというTommyは、まず70年代プログレッシヴ・ロックEL&PEmerson, Lake & Palmer)、YES、GOBLINなど)やRUSHなどに影響を受け、その後80年代後期のスラッシュメタルデスメタル(特に重要なのはSLAYERとANNIHILATORとのこと)に感化されたと言います。そうした音楽の要素を深く汲み取りつつ、“歌モノ”を重視するイタリア音楽の流儀、そして地中海(欧州〜中近東の中継地点)ならではの雑多な民族音楽のエッセンスを組み合わせ、奇妙でキャッチーな曲を生み出してしまう。こうした作編曲のセンスは「いろんなものから影響を受けながらも安易に真似をせず独自のものをイチから築き上げる」姿勢に支えられたもので、同じようなバックグラウンドを持つバンドとも異なる“他では聴けない”強い個性を勝ち得ているのです。現在までに発表した7枚のフルアルバムは(評価が分かれるものもありますが)全てが“このバンドにしか作れない”傑作で、一聴の価値があるものばかりです。

1st『Above The Light』('93年発表)は、いわゆる「プログレッシヴ・デスメタル」創成期を代表するカルトな名盤の一つです。音楽性を一言でいえば「初期DEATH+GOBLINやEL&P」というところでしょうか。クラシカルなリードフレーズ(YngwieなどのいわゆるネオクラシカルHR/HMとはメロディもコード進行も質が異なる)を積極的に繰り出すギター&キーボードはTommyが一人で弾き分けているもので(ライヴでも今に至るまで「2つを同時に演奏している」ようです)、強烈な主張をし合いながらもどちらかが浮いてしまうことがありません。多様なリードフレーズを活かすためのアレンジがよく練られており(後の作品と比べると“崩れた”印象はありますが)、いわゆるメロディックデスメタルの「派手なメロディばかりでバッキングはつまらない」所を嫌うデスメタルファンもそんなに抵抗なく楽しめるのではないかと思います。
また、このアルバムで特徴的なのがPesoによるドラムスで、スラッシュメタルブラックメタル的に暴れる“崩壊型”のフレージングにより、音楽全体に雑で威勢のよい印象を加えています。これは上品で整ったものを好む人からすると食いづらい要素なのですが、神秘的で強力な音楽性に良い意味での猥雑さを付加することができていて、アルバムの独特の雰囲気作りに大きく貢献しているのではないかと思います。この時代のこのシーンからしか生まれなかった個性的な傑作で、当時の空気感を味わうために聴いてみる価値も高い作品と言えます。

2nd『Tribe』('96年発表)は、バンド全員が集まって作曲したという1stとは異なり、Tommyが全曲を作ってそれを全員でアレンジするという方針が取られた作品です。19世紀後半のクラシック音楽に通じるコードワークが主だった1stに対し、この2ndでは地中海音楽や20世紀初頭のクラシック音楽バルトークストラヴィンスキーなど)に通じる複雑な音遣いが全面的に導入されており、しかもそうした要素を印象的なリードフレーズにより耳当たりよく提示することができています。展開の多い曲構成を勢いよく形にするテクニカルな演奏も好ましく、「中期DEATH〜CYNICをSEPTIC FLESHと混ぜ合わせた」ような感じになるところもあります。その上で全曲が他では聴けない味を持っていて、優れた個性に満ちたアルバムになっているのではないかと思います。このバンドを代表する傑作であり、いわゆるプログレデスの歴史においても屈指の名作の一つです。インパクトと聴き飽きなさを併せ持った作品で、聴いてみる価値は非常に高いです。

続く3rd『Crust』('97年発表)は、初期からのドラマーPesoと前作のみに参加したシンガー&ベーシストが脱退し、一時的に抜けていたオリジナルベーシストAndyが復帰した作品です。選任ボーカリストとして加入したTrevorはエクストリームメタルの歴史全体をみてもトップクラスの実力者で、個性的で豊かな響きと巧みなトーンコントロールにより、音楽の“顔”としての圧倒的な存在感と表現力を発揮しています。そうした人材を得たことで、作編曲も必然的に「歌を活かす」ものになり、「魅力的なリードフレーズを大量に投入しながら曲全体としてはコンパクトで聴き通しやすい」洗練された仕上がりになっているのです。音遣いは前作を引き継ぎつつさらに深化しており、「シンフォニックなインダストリアルメタル」というようなスタイルの上で「CYNICをファンタジー系RPGの劇伴に仕立て上げた」ような印象もあります。他では聴けない怪しく魅力的な音進行を気軽に楽しめる「歌」作りは見事の一言で、アルバムとしての構成は多少そっけない部分もありますが、極めて聴きやすく“伝わりやすい”傑作なのではないかと思います。入門編に最も適した一枚です。

3rdから3年の間をおいて発表された4th『Lego』('00年)は、バンド自身も認める「問題作」です。前作までのアグレッシヴなエクストリームメタル路線から一転、「ゴシカルなディスコ風味のあるインダストリアルメタル」という感じのスタイルに変化した一枚で、メロディアスな歌(いわゆるクリーン・ボーカル)を前面に押し出す4分位の「歌モノ」が15曲収められています。楽器のソロパートなどで複雑に展開するパートをばっさりカットし、ミステリアスで攻撃的な印象も引っ込めたこの作品は、それまでのファンからは強く批難され、一般的な音楽ファンの注目を集めることもできないという「中庸路線をとってどちらにも引っ掛からない」ものになってしまいました。レビューや評価も悪いものばかりで、バンド内の雰囲気は険悪になっていたようです。それをうけた話し合いの結果、バンドは活動休止を決定。長く沈黙することになりました。
しかし個人的には、この作品自体は決して悪いものではないと思います。それまでの作品にあったような雰囲気を求めると肩透かしを食うというだけで、各曲のフレーズはそれまで以上に冴えています。「同じ地中海出身のSEPTIC FLESH(ギリシャ)にディスコ〜インダストリアルメタル風味をつけてコンパクトにまとめた」感じの曲は全て良い仕上がりで、約60分あるアルバム全体の流れはやや平坦になってしまっているものの、他では聴けない優れた歌モノの魅力に浸ることができるのです。慣れさえすればいくらでも楽しんで聴き込める作品で、個人的にはSADISTのカタログ中でも上位(3〜4番目くらい)に入る傑作だと思っています。他の作品に感銘を受けた方はぜひ聴いてみてほしい作品です。

問題作『Lego』に伴う7年の活動休止を挟んで発表された5th『Sadist』('07年)は、自身の名を冠したタイトル通り、バンドメンバーも誇りに思う仕上がりの作品です。「はじめの3枚の良いところを集約した内容にしたかった」という発言通りの音楽性なのですが、2ndあたりの音進行を独自に熟成させたような音遣い感覚が優れた“仮想の民族音楽”を生んでいて、他では聴けないこのバンド特有の味わい(“ダシ”の感覚)が改めて確立されています。このアルバムはリズム構成も強力で、過去の4枚にはなかった複合拍子を滑らかに繋げるアレンジが見事です。そしてそれを形にする演奏も素晴らしい。前作で加入したドラマーAlessioとオリジナルのベーシストAndyはともにこのジャンルを代表する名人で、“無駄撃ちせず隙間を活かす”多彩なフレージングがどこまでも興味深いですし、ボーカルのTrevorは先述のような圧倒的な表現力を、奇妙な“字余り”を伴う独特の譜割のもとで個性的に提示してくれます。Tommyのギターはその3人と比べると技術的には冴えない感じがありますが、きっちりカッティングしきらず滑らかにぬめりまとわりつくタッチは他にありそうでない味を持っていて、優れたフレーズを面白く聴かせてくれるのです。こうした演奏を美味しく聴かせるサウンドプロダクションも極上の仕上がりで、全ての要素が申し分なく優れたアルバムになっていると思います。個人的にはちょっと“際立ったリードフレーズが少ない”淡白な印象も受けますが、完成度の高さでは全作品中一・二を争う傑作です。イタリアのプログレ/劇伴音楽を代表するバンドGOBLINのClaudio Simonettiによる「Sadist」(1st収録曲)アレンジも良い仕上がりで、アルバムの末尾を神秘的に締めくくっています。

続く復帰第2作『Season in Silence』(6th:'10年発表)は、他では聴けないSADISTの個性が真の意味で確立され始めた作品と言えるでしょう。キャリアの総括と言える自信作『Sadist』で一つの区切りをつけ、それまでに手を出していなかった新たな領域に踏み出したような印象のある一枚で、過去作の暗くミステリアスなイメージに縛られない音遣いが豊かに開発されているのです。アルバムのコンセプトは「冬の寒さにまつわる様々な感情・雰囲気」で、それが(北欧のような“元々寒い”場所でない)イタリアならではの光度感覚(光と影のコントラストがはっきりしていて両者が鮮明という感じ)や空気感のもと、「雪原の上で白昼夢をみる」ような独特の世界観が描かれています。従来の“仮想の民族音楽”的な音遣いは影響源の特定がさらに難しいものになり、他のバンドに容易に真似できない個性が強力に確立されています。一つ一つのフレーズの“切れ味”(インパクト)と“切れ込みの深さ”(手応え・聴き飽きなさ)はともに過去最高で、卓越した演奏とあわせて終始興味深く聴き入ることができます。アルバムの流れは多少生硬く、滑らかな流れを損なっているように思えてしまう並びもあるのですが、全体の構成バランスは悪くなく、繰り返し聴き込み楽しめる内容になっていると思います。同年に発表されたCYNICの2ndなどと並べても見劣りしない傑作です。

SADIST名義の作品ではないですが、リーダーTommy Talamancaのソロアルバム『Na Zapad』('13年発表)も並べて語るべき傑作です。「ここ15〜16年の間にSADIST用に書いたけれどもメタル度が少なくて採用しなかったもの」を主体にして作られたアルバムで、SADISTの“仮想の民族音楽”的な音遣い感覚が、より豊かな広がりをもって柔らかく表現されています。ドラムス以外の全楽曲(ギターやベース、ブズーキなどの弦楽器、キーボードやタブラほか)をTommy一人で演奏し6ヶ月ほどの期間をかけて(他の音楽活動や仕事の合間に)製作したというこのアルバムは、「ギタリストのインスト作品」にありがちな「無駄に弾きまくりたがるテクニカル志向」とは無縁の、口ずさめるくらい印象的なメロディに満ちた「歌モノ」になっています。Pat Metheny風の音色やフラメンコを独自に解釈したような音進行が冴える場面もある各曲は興味深いものばかりで、全体の構成も非常に整っており、豊かな音楽性を快適に楽しめる一枚と言えます。SADISTの傑作群と並べても見劣りしない充実作で、機会があればぜひ聴いてみてほしいアルバムです。

このソロアルバムを挟んで5年ぶりに発表された7th『Hyaena』('15年)は、25年にわたるSADISTの活動が最高の形で結実した大傑作です。2〜3年の時間をかけて丁寧にアレンジされたという各曲はその全てが超強力なフレーズに満ちていて、複合拍子を連発する複雑なリズム構成
(例えば4曲目「The Devil Riding The Evil Steed」における〈18+11拍子→8拍子→5拍子→6拍子→4拍子→7+8拍子→…〉など)
も、慣れて俯瞰できるようになると「これがベストの形なんだ」とわかります。全ての曲が独自のロジックで鍛え上げられた“美しい畸形”で、繰り返し聴き込むほどに深い
納得感が得られるのです。アルバム全体の構成も“一線を越えて”完璧で、異なる風景を描く各曲が申し分なく優れたバランスで並べられ、一枚を通して美しい均整を描いていきます。前作で確立された独自の音遣い感覚もさらに成熟されたものになっていて、他では聴けない個性を快適に聴き込むことができます。もちろん演奏も見事の一言。特有の“ファンタジックで薄気味悪い”雰囲気を魅力的に描き出してくれています。
このアルバムは正直言って過去作とは“ものが違う”大傑作で、いわゆるプログレデスの歴史においても屈指の出来栄えを誇る作品なのではないかと思います。海外サイトなどでは悪い評価も見られますが、気にせず聴いてみてほしい素晴らしい作品です。

SADISTのメンバーはNadir Musicという会社を運営しており、TommyはNadirの支配人としてプロデューサー・エンジニアを、Trevorはライヴプロモーターと広報を担当しているようです。メンバー全員が「音楽だけで食えている」ようで(AndyとAlessioについては具体的な活動をつかめませんでしたが、スタジオミュージシャンとしても食いっぱぐれのない超絶技巧の持ち主ですし、そちらで活動しているのでしょう)、そういうところもバンド本体に良い影響を与えているのではないかと思われます。
興味深い活動をしているわりにあまり注目されてこなかったバンドですが、大傑作『Hyaena』を出して再び活発なライヴツアーも行うようですし(SADISTは元々イタリア国外の欧州を精力的にツアーし続けてきたバンドです)、これを機に正当な評価を得てほしいものです。



EXTOLLENGSELMANTRICノルウェー

Blueprint

Blueprint


(EXTOLの2nd『Undeceived』フル音源プレイリスト)'01

(EXTOLの4th『The Blueprint Dives』フル音源プレイリスト)'05

(LENGSELの2nd『The Kiss, The Hope』1曲目)'06

(MANTRIC『The Descent』フル音源プレイリスト)'10

(5th『Extol』フル音源プレイリスト)'13

'93年結成、'07年に一度解散。「プログレッシヴ・デスメタル」の枠で語られるバンドですが、構成員のバックグラウンドはそうしたもの一般のそれとは大きく異なります。ハードコアやブラックミュージックの音遣い感覚をクラシカルなコードワークで発展させた音楽性はありそうでないもので、優れた演奏表現力とあわせて唯一無二の境地に達しています。広く注目されるべきバンドです。

EXTOLは現時点で5枚のフルアルバムを発表していますが、構成メンバーの人脈は大きく3つに分かれます。具体的にはこちらのサイト
が詳しいのですが、加入・脱退の流れが少々入り組んでいるので、ここで簡単にまとめておきたいと思います。

EXTOLの構成メンバーは以下の3組に分けることができます。

《1:創設期からのメンバー》
David Husvik(ドラムス)
Peter Espevoll(ボーカル)
Christer Espevoll(ギター)

《2:初期と現在の音楽的リーダー》
Ole Borud(ドラムス以外)

《3:LENGSEL人脈》
Tor Magne Glidje(ベース→ギター)
John Robert Mjåland(ベース)
Ole Halvard Sveen(ギター)

こちらのインタビュー(2003年・Christer Espevoll:http://www.metal-rules.com/interviews/Extol-Dec2003.htm)などによると、メンバー構成は以下のように変遷していったようです。
(ここは読み流していただいて大丈夫です。)

・David HusvikとChrister Espevollにより'93年に結成。
・'94年にPeter Espevoll(Christerの2歳下の弟)がフロントマンとして参加。その後Eystein Holm(ベース)が参加し、直後の'94年春に初ライヴを行う。
・'95年にEmil Nikolaisen(ギター)が参加。
・'96年にはコンピ用に3曲を録音、スウェーデンストックホルムで公演。その数ヶ月後、Emilが脱退し、かわりにOle Borudが加入する。
・'97年夏に1st『Burial』を録音し、その後Endtime Productionsと契約して、アメリカでライヴを行い、アメリカと日本でのアルバム発売契約を結ぶ。
・'98年にはHolmが脱退、かわりにTor Magne Gridjeが加入する。
・'99年12月に2nd『Undeceived』を録音した数ヶ月後、Ole Borudが脱退し、Torがギターに転向、John Robert Mjålandがベースとして加入。その後Torは一度脱退する。
・'02年にはEndtime Productionsとの契約が満了、Century Mediaとの契約を結ぶ。
・'03年にはOle Borudが復帰。3rd『Synergy』を発表する。
・'04年にはOle BorudとChrister Espevollが脱退。Torが復帰し、Ole Halvard Sveenがギターとして加入する。(LENGSELの3人が揃う。)このメンバーで'05年に5th『The Blueprint Dives』を発表する。
・'06年にはPeterが結婚し、EXTOLの活動がほぼ停止する。その間LENGSELはスタジオ活動に入り、2nd『The Kiss, The Hope』を製作する。
・'07年にはDavid HusvikとPeter Espevoll(創設期からのメンバー)が個人的な事情によりEXTOLを脱退。ただ、その頃LENGSELの3人はEXTOLとしての新曲を楽しんで製作しており、脱退した2人とともにデモ音源も数曲録音していた。残された3人はその素材を受け継ぎ、バンド名をMANTRICに変更した上で音楽性を引き継ぐことを決意。Kim Akerholdt(ドラムス)とAnders Lidel(キーボード)を加入させ、'10年に1st『The Descent』を発表する。
・'12年にはDavid Husvik・Peter Espevoll・Ole Borudの3人でEXTOLが再結成。翌'13年には5th『Extol』を発表する。Peterは持病である耳鳴りもあってステージ上の爆音に耐えられなくなっており、そのためライヴをすることは難しいのだが、レコーディング・ユニットとしては継続している模様。

作品ごとのメンバー構成でみると、
1st:《1・2》
2nd〜3rd:《1》+《2から3へ徐々に主導権が推移》
4th:《1・3》
5th:《1・2》(Christer Espevollは不参加)
というふうに編成が変わっていったことになります。
こうした変遷がありながらEXTOLの作品群は共通する音楽的特徴を持ち続けているのですが、それぞれの仕上がりはメンバーの編成に対応して変化しています。基本的には《2》または《3》のメンバーが作曲の主軸となり、《1》も加えてアレンジを作り込むというかたちで作編曲が完成されるため、《2》《3》のどちらが在籍しているかによって作品の傾向が変わってくるのです。

《2》Ole Borudは音楽一家に育ち、ゴスペル・コーラスグループに所属していたこともある超絶マルチミュージシャンで、うるさめのメタルに通じながらも、そのバックグラウンドは70年代付近のプログレやジャズ、STEELY DANStevie Wonderのような高度なAOR〜ソウルミュージックなど多岐に渡ります。
一方、《3》LENGSEL人脈はブラックメタル〜ハードコアパンク寄りの嗜好を持っており、Ole Borudに比べ北欧のアンダーグラウンドシーンにより深く入り込んだ活動をしているようです。
従って、《2》が主軸になった1st・2nd・5thと《3》が主軸になった4thは音楽性の毛色がかなり異なります。前者は複合拍子を多用する入り組んだ展開が目立つ“いわゆるプログレメタル”寄りのスタイル。対して後者は、変拍子を用いながらもわりかしストレートに整理された構成で突き進む“激情ハードコア”寄りのスタイルになっているのです。3rdはその両者の間に位置するスタイルで、入り組んだリズム構成を残しながらも勢いよく突っ走る、スラッシュメタル的な質感が前面に出ています。

バンドとして影響を受けたとされるのは、各種インタビューで言及されたものを並べると、
・BELIEVER、TOURNIQUET(初期)、MORTIFICATION(初期)、SEVENTH ANGELなどのクリスチャン・メタルバンド
ノルウェー自体がキリスト教国ということもあり、EXTOLは全メンバーがクリスチャンで、そのことを公表しています)
・KING'S X(バンド自身は否定しましたが、初期はクリスチャンロックと言われていました)
・RUSH、GENESIS、YES、古い教会音楽(讃歌)、ジャズ(Chris Potterなど)、初期デスメタル(DEATHやPESTILENCEなど)、GALACTIC COWBOYS、MESHUGGAH
など。こうしたものの要素を巧みに消化した音遣い感覚は独自の高度なもので、特に“ハードコアのルート進行感をジャズ的なコードワークで料理した”“MESHUGGAHの音遣いをノルウェー流に解釈した”ような音進行は、同郷のIHSAHNやENSLAVEDにも通じる素晴らしい味を持っています。このような音遣い感覚をベースに上記のような変遷をみせていった作品はどれも素晴らしい傑作で、LENGSEL・MANTRICの諸作も含め全て聴き込む価値があります。

そうした関連作の中から何か聴いてみるのであれば、はじめに挙げた5枚のうちのどれかが良いのではないかと思います。

EXTOLの2nd『Undeceived』('00年発表)はバンドの代表作といわれることも多い傑作で、複雑ながらとても印象的なメロディが北欧の仄暗い空気感を絶妙に伝えてくれる逸品です。まどろっこしい複合拍子(7+8など)を多用しながらも強力な勢いが損なわれていない演奏も見事で、この点では後期DEATHに通じる“気迫”が感じられます。PAIN OF SALVATIONのような文学的深みのある雰囲気を好む方や、いわゆるメロディックデスメタルのようなわかりやすい音進行を好む方にもアピールする部分が多いのではないかと思います。(いわゆるメロデスのような“ワンパターンでつまらない”ものではないです。)上に挙げた5枚の中では最もメタル色の強い作品なので、ハードコアに慣れていない方などはここから入るのが良いかもしれません。

EXTOLの4th『The Blueprint Dives』(もしくは単に『Blueprint』:'06年発表)はバンドの作品中最もハードコア色が強い作品ですが、音進行にそちら方面特有の生硬さはありません。激情ハードコア的な音遣いがEXTOLの3rdまでに連なる滑らかなコードワークで巧みに解きほぐされており、辛口の美しいメロディがストレートに突き刺さる仕上がりになっています。そしてこのアルバムはとにかく演奏・音作りが素晴らしい。繊細な音色変化と硬い肌触りを両立した出音は他に類をみないもので、個人的には、全てのロック関連音楽の中で最高の表現力をもつものの一つだと思います。先述の“MESHUGGAHの音遣い感覚をノルウェー流に解釈した”音進行とハードコア寄りブラックメタルを融合させたようなパートも見事で(最後の2曲など)、音楽的コンセプトと“伝わる力”の両面において稀有の高みに達している作品と言えます。一般的にはあまり高く評価されていないようですが、このバンドの関連作中では最高傑作の一つです。ぜひ聴いてみてほしいアルバムです。

時期的にはこの直後に制作されたLENGSELの2nd『The Kiss, The Hope』(’06年発表)も驚異的な傑作です。「HIS HERO IS GONEやCONVERGEのような激情ハードコア〜カオティックハードコアをアンビエントブラックメタルで料理した」感じの音楽性で、比較的すっきりした進行感があった『Blueprint』と比べ、(アメリカの)ブルース的な“濁った引っ掛かり”が増しています。抽象的で謎に満ちた情景描写が続くアルバムで、少し聴いただけではピンとこないものかもしれませんが、一枚通してのまとまりの良さや独特の鎮静感のある雰囲気は他に類を見ないもので、代替不可能な音楽体験を提供してくれます。極めて知名度が低く、Metal Archivesのレビューなどでもまともな点数が付いていない作品ですが、そんなことは無視してぜひ聴いてみてほしい大傑作です。

EXTOLの『Blueprint』に続く作品として製作されたMANTRICのフルアルバム『The Descent』('10年発表)は、『Blueprint』と『The Kiss, The Hope』の両方に通じる激情ハードコア的なスタイルをベースにしながらも、Allan HoldsworthやCYNICなどに通じる仄かに明るい・暖かい暗黒浮遊感覚が加わった作品で(80年代のハードコアに近づいた感じでしょうか)、先の2作品とはまた異なる豊かな音楽性が興味深い作品です。EXTOL関連作の中では最もメタル色の薄いアルバムですが、ジャズ寄りのプログレデスが好きな方などには、音遣いの面では最もアピールする一枚かもしれません。インタビュー(http://www.metalsucks.net/2010/07/14/exclusive-interview-with-mantrics-ole-halvard-sveen-ex-extol/)でメンバーが答えているように、聴き込むことでどんどん“育つ”作品です。機会があればぜひ聴いてみてほしい傑作です。

現時点('15年)での最新作である5th『EXTOL』は、タイトルが示すように、これまでのEXTOLの音楽性を一通り意識した上で非常によい形でまとめ上げた傑作です。複合拍子(13拍子のメインリフなど)も頻出するのですが、それら全てが過去作に比べ格段に滑らかに用いられており、曲展開が過剰にまどろっこしく感じられるということがありません。ドラムスと歪みボーカル以外のほぼ全パートを担当したOle Borudの演奏も素晴らしく、クリーンボーカルとリードギターの両面で卓越した表現力を発揮してくれています。上に挙げた諸作ほどの“切実な勢い”はありませんが、歌モノとして多くのメタルファン〜ポップ・ミュージックファンに訴えかける力ではこれがベストでしょう。入門編としても最適な傑作だと思います。

以上、EXTOLと関連バンドの人脈・作品について簡単に概説してみました。複雑に変遷するメンバー構成や、一般的なメタルからは少々離れた音楽性もあって、なかなか具体的に語られることのないバンドなのですが、関わったメンバーは素晴らしい才能の持ち主ばかりです。こうした人脈全体に注目が集まり、今後の活動をサポートしてくれる人が増えることを、切に願う次第です。



MARTYR(カナダ)

Feeding the Abscess

Feeding the Abscess


(2nd『Warp Zone』フル音源)'00

(3rd『Feeding The Abscess』フル音源)'06

'94年結成。後期DEATHやCYNICに影響を受けた「プログレッシヴ・デスメタルの第二世代」と言えるバンドで、第一世代のバンドに勝るとも劣らない傑作を残しました。('12年から休止中。)複雑かつ明晰な作編曲により激情を表現する音楽性は圧巻で、メンバー全員が音楽学校で学んだ楽理・技術が完全に“道具”として使いこなされています。音楽的必然性のある“知的に感情的な”作品は多くの「テクニカル・デスメタル」「ブルータル・デスメタル」と一線を画すもので、そうしたバンドが陥りがちな“考えオチ”感や“アスリート的な味気なさ”とは無縁なのです。高度な技術と只ならぬ表現意欲を両立した、稀有の実力者と言えるバンドです。

音楽性を一言でいえば、「後期DEATH〜PESTILENCEのコード感をジャズや近現代クラシック(バルトークなど)で強化した音遣い+WATCHTOWER〜BLOTTED SCIENCEタイプのリズム構成」というところでしょうか。(CYNICとよく比較されますが、音遣いの質は異なると思います。)3枚のスタジオアルバムはそれぞれ仕上がりが異なり、そのいずれにおいても優れた音楽的成果が示されています。メンバーは超一流のプレイヤー揃いで、中心人物であるDaniel(弟・ギター / ボーカル)&Francois(兄・ベース / ボーカル)のMongrain兄弟をはじめ、全てのパートが圧倒的な技術と個性を両立。特にDanielは「プログレッシヴ・デスメタル」「テクニカル・デスメタル」シーン屈指の天才で、現在正式メンバーであるVOIVOD(13th『Target Earth』)だけでなく、GORGUTS(4th『From Wisdom to Hate』)やCRYPTOPSYなど、同郷を代表する優れたバンドの数々に客演しています。そうした達人たちが“教科書通りの手癖”に頼らず発想の限りを尽くす音楽性は本当に凄まじく、他では聴けない興味深い滋味に満ちているのです。

3枚のスタジオアルバムと1枚のライヴアルバムは全て傑作で、どれを聴いても楽しめますが、その中から“入門編”を一枚選ぶのなら、2nd『Warp Zone』が良いのではないかと思います。上記の音楽性をよりジャズ寄りにした感じの仕上がりで、暗くロマンティックなリードフレーズは美しく印象的なものばかり。リズム構成もやさしめで、一つ一つの場面が無理なく印象に残るように整理されています。(CYNICと強引に比較するならこの2ndが一番近いと思います。)「勢いを出すためにクリック(ヘッドホンから聴くカウント:メトロノームのようなもの)を使わず生のビート感を活かす」録音手法が採られており、アンサンブルに微細な“行き違い”が感じられる箇所はありますが、そういうところも含め強烈な攻撃力が生まれていて良いです。
これに関連して、もし手に入るならばぜひ聴いてほしいのが、'01年のライヴアルバム『Extracting The Core』です。1stから3曲・2ndから6曲の計9曲が収録されたライヴ録音作で、スタジオ版を上回る演奏クオリティと完璧にこなれたアンサンブルは驚異的というほかありません。録音も素晴らしく、生の(同じ場所で全員が音を出す)環境でなければ得られない“響きの干渉”が見事に捉えられています。選曲・曲順もとても良く、個人的には1stや2ndを上回る傑作だと思っています。先にスタジオ版を聴く方がいいとは思いますが、曲の“完成形”はむしろこちらのテイクだと言うこともできるので、(youtubeに音源がないので難しいとは思いますが)可能ならばぜひ触れてみてほしい作品です。
最高傑作と言えるのが3rd『Feeding The Abscess』でしょう。コードワークはジャズよりもクラシック寄りになっていて、後期EMPERORにあやしげな暗黒浮遊感を加えたような色合いが出ています。(それが結果的に「MESHUGGAHを正統派デスメタル寄りにした」感じになっているところもあります。)また、リズム構成は一気に複雑になり、WATCHTOWER〜BLOTTED SCIENCEを難解にしたような高速のキメを多用しています。したがって、フレーズをときほぐし展開を把握するにはかなりの聴き込みが必要になるのですが、無駄にこねくり回して“考えオチ”になっているところはなく、“美しい畸形”としての仕上がりが実に見事です。演奏・アンサンブルの出来も本作が一番。他の作品に慣れた上でぜひ聴いてみてほしい作品です。

MARTYRは、本稿で扱っている全てのバンドの中でも最高レベルの実力者です。表現力・作編曲・演奏技術の全ての面で一流の音楽。聴く価値は極めて高いと思います。

参考:名HP「Thrash or Die!」の管理人さんによる日本語ファンサイト



CAPHARNAUM(アメリカ)

Fractured

Fractured


(『Fractured』フル音源)'05

MARTYR関連の作品として挙げておきます。アメリカのテクニカルデスメタルデスラッシュ(初期デスメタルではなくメロデス以降の意味での)バンド。'93年に結成した後'99年に一度解散し、'03年に再結成。その後'05年に出した2ndアルバムです。
本作では、Jason Suecofが中心となり、MARTYRのDaniel Mongrainがギターで、TRIVIUMのMatt Heafyがリードボーカルで参加しています。
「MARTYRの2nd『Warp Zone』とDEATHの4th『Human』の中間」という感じの音遣いを切れ味鋭いデスラッシュスタイルに落とし込んだような作品で、暗く神秘的なリードフレーズと高速でしばき倒すドラムスの絡みが実に魅力的。複雑な音進行を極めて爽快に楽しむことができます。NECROPHAGISTにジャズ風味を加えた上で曲を良くしたという感じでしょうか。(さすがにあそこまでテクニカルではありませんが、そんなに見劣りしません。)
MARTYR的な音進行を小難しいことを考えずに楽しみたいという方にはおすすめできる作品です。



GOJIRA(フランス)

From mars to sirius

From mars to sirius


(2nd『The Link』フル音源)'03

(3rd『From Mars to Siriusフル音源)'05

(5th『L'enfant Sauvaga』フル音源)'12

'96年結成('01年に権利関係の問題からGODZILLA→GOJIRAに名義変更)。ハードコア寄りエクストリームメタルとしては現代最強バンドのひとつです。驚異的な演奏表現力と卓越した作編曲能力を併せ持つ実力者集団で、結成以来ずっと同じメンバーで活動できている点でも稀有な存在。思想云々の好き嫌いにとらわれず聴く価値が高いグループです。

GOJIRAの音楽性を非常に簡単にまとめると「MORBID ANGEL+NEUROSISをGroove Metal化したもの」という感じです。
(「Groove Metal」は日本でいう「モダン・ヘヴィネス」のようなスタイルで、PANTERAやSEPULTURAをいわゆるラウドロックに寄せたような、ミドルテンポで細かい刻みを連発するアレンジをハードコアの“跳ねる”質感をもつ演奏形式で形にした、というふうな音です。)
バンドが影響源として挙げているのはSLAYER・SEPULTURA・DEATH・MORBID ANGEL・MESHUGGAH・TOOL・METALLICA・PANTERA・NEUROSISなどで
そうしたものの音遣い感覚を複雑に発展させた高度な音進行を、ギターソロなどの“大きく変化していく”リードフレーズを殆どはさまないリフ・オリエンテッドなアレンジで展開していきます。そうしたスタイルで壮大な世界を描いていく構成力は相当なもので、Devin Townsendなどにも通じる音響もあわせ、いわゆる「ポストメタル」「アトモスフェリック・スラッジ」というようなスタイルにも通じる作風になっています。そちら方面を好む方も強くアピールしうる音楽なのではないかと思います。
そうしたスタイルのバンドと異なるのは、演奏スタイルが(ハードコアの“跳ねる”質感を持ちながらも)ブルータル・デスメタル寄りの激しく速いものだというところでしょうか。どんなに細かい刻みにも繊細なアクセントをつけて滑らかに表現してしまう超絶的なドラムスに、豊かな音色表現力を持ちながらも微妙に歪んだリズム処理をするギター・ベースが絡む。そうしてできるアンサンブルは、さながら「軸の傾いた超電磁嵐が荒れ狂う」ようなもので、長く同じラインナップで継続できている実力者集団でなければ成し得ない“癖のある密着感”が確立されています。これは他のどんな超一流バンドにも真似できない極上の珍味で、GOJIRAの音楽におけるかけがえのない売りのひとつになっていると思います。
このようなアンサンブルに乗るボーカルも非常に強力で、SEPULTURAの各ボーカルをDevin Townsend的な発声で強化したような逞しいエネルギーに満ちています。このラフな感じはメタルというよりやはりハードコア的で、知的で高度な音楽性に良い感じの“青臭さ”を加えていると思います。

そうしたボーカルの印象とも関係する要素なのですが、このバンドの歌詞のテーマはいわゆるニューエイジ思想に色濃く染まったものになっています。
生命の樹エコロジーなど“スピリチュアルな”題材にかぶれてる感が強い:そういえばバンド名の元ネタであるゴジラ自体、ニューエイジ云々の危うさはないものの、そちら方面から好まれ得るテーマを持つ作品でもあります)
シーシェパードなどとの関係もそちら方面への興味から来ているものなのだろうと思われます。
(2010年に「利益をそちらに寄付する」と発表して製作開始したEPは2015年現在も発売されていません。)
個人的には(シーシェパード云々はどうでもいいとしても)そういう過剰に“深刻に考え込む”様子と“無防備にかぶれている”危うい感じとが両立されている雰囲気がどうも苦手で(ボーカルの印象だけでなく音進行などにもそういう感じが出ています)、あまり素直にのめり込むことができないのですが、超絶的に優れた演奏表現力と作編曲のために、そうした雰囲気も唯一無二の味わい深い個性になっていると言うことはできます。波長の合う方はこの上なく楽しめるものにもなり得るのではないかと思います。

GOJIRAの発表した5枚のアルバムはどれも類稀な傑作ですが、その中から代表作を選ぶのであれば、2nd『The Link』('03年発表)か3rd『From Sirius to Mars』('05年発表)になるのではないかと思います。
2ndは上記のような“青臭く危うい”雰囲気があまり出ていなく、MORBID ANGELやMESHUGGAHに通じる要素が濃いめに残る作風になっています。過剰にシリアスな雰囲気を好まない方はこのアルバムから聴くのがベストでしょう。上記2バンドにも遅れをとらない圧倒的な音楽性を、あまり余計なことを考えず、存分に楽しむことができます。
3rdからは上記のような“意識の高い”雰囲気が濃くなっていき、それが苦手な方は多少辛いところがあるかもしれません。しかし、演奏表現力や音遣いに関していえばこのバンドにしか生み出せない卓越した個性を更に確立していき、作品としての深みもどんどん増していきます。その中でも3rdは“一枚モノ”としてベストな完成度をもつ作品で、この路線に踏み入っていくにあたっては、まずはこれを聴いてみるのがいいのではないかと思います。他の作品もまとまりが悪いわけではありません。MORBID ANGELの『F』『G』やブルータルデスメタルが好きな方などは4th『The Way of All Flesh』('08年発表)が一番接しやすいでしょうし、どの作品も聴く価値が高いです。

GOJIRAは(日本に関係のある名前を持ちながら)日本での知名度は低いままでしたが、2015年10月10日に開催されるLoud Park初日にブッキングされ、初来日公演が実現することが決定しています。現存する全てのエクストリーム・ロック・バンドの中でも群を抜いて優れた演奏表現力を持つ実力者集団ですし、生で体験する価値は極めて高いと思われます。音源を聴いてみてそこまで拒否反応が出なかったのであれば、ぜひ観に行かれることをおすすめしたいです。(私も未体験ではありますが)度肝を抜かれることを保証します。



DECAPITATED(ポーランド

Organic Hallucinosis

Organic Hallucinosis


(4th『Organic Hallucinosis』フル音源)'06



AKERCOCKE(イギリス)

Antichrist

Antichrist


(『Antichrist』フル音源)'07



ANTEDILUVIAN(カナダ)

Through the Cervix of Hawwah

Through the Cervix of Hawwah


(1st『Through The Cervix of Hawaah』フル音源)'11