【2022年・上半期ベストアルバム】

【2022年・上半期ベストアルバム】

 

・2022年上半期に発表されたアルバム(上半期に聴き逃したもの含む)の個人的ベスト20選(順位なし)です。

 

・評価基準はこちらです。

 

http://closedeyevisuals.hatenablog.com/entry/2014/12/30/012322

 

個人的に特に「肌に合う」「繰り返し興味深く聴き込める」ものを優先して選んでいます。

個人的に相性が良くなくあまり頻繁に接することはできないと判断した場合は、圧倒的にクオリティが高く誰もが認める名盤と思われるものであっても順位が低めになることがあります。「作品の凄さ(のうち個人的に把握できたもの)」×「個人的相性」の多寡から選ばれた作品のリストと考えてくださると幸いです。

 

・これはあくまで自分の考えなのですが、他の誰かに見せるべく公開するベスト記事では、あまり多くの作品を挙げるべきではないと思っています。自分がそういう記事を読む場合、30枚も50枚も(具体的な記述なしで)「順不同」で並べられてもどれに注目すればいいのか迷いますし、たとえ順位付けされていたとしても、そんなに多くの枚数に手を出すのも面倒ですから、せいぜい上位5~10枚くらいにしか目が留まりません。

(この場合でいえば「11~30位はそんなに面白くないんだな」と思ってしまうことさえあり得ます。)

 

たとえば一年に500枚くらい聴き通した上で「出色の作品30枚でその年を総括する」のならそれでもいいのですが、「自分はこんなに聴いている」という主張をしたいのならともかく、「どうしても聴いてほしい傑作をお知らせする」お薦め目的で書くならば、思い切って絞り込んだ少数精鋭を提示するほうが、読む側に伝わり印象に残りやすくなると思うのです。

 

以下の20作は、そういう意図のもとで選ばれた傑作です。選ぶ方によっては「ベスト1」になる可能性も高いものばかりですし、機会があればぜひ聴いてみられることをお勧めいたします。もちろんここに入っていない傑作も多数存在します。他の方のベスト記事とあわせて参考にして頂けると幸いです。

 

・いずれの作品も10回以上聴き通しています。

 

 

 

[上半期20](アルファベット音順)

 

 

Angelique KidjoIbrahim MaaloufQueen of Sheba

 

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 アンジェリーク・キジョーはベナン共和国(西アフリカ、公用語はフランス語)を代表するシンガー/ソングライター、イブラヒム・マーロフはレバノン出身でパリ育ちのトランペッター。本作の基本的な音楽性は、ユッスー・ンドゥールセネガル出身)あたりにも通じる西アフリカならではの超絶アフロポップなのだが、そこにイブラヒムの特殊仕様トランペット(アラブ音階の微分音を扱えるように開発されたとのこと)が非常に良い味を加えている。アルバムのコンセプトである『シバの女王』の国について、その所在地はエチオピア(東アフリカ)と南アラビアの二説あり、両地域は深い繋がりがあるようで、これはアンジェリークとイブラヒムの関係性になぞらえたものでもあるのだろう。

 という蘊蓄を並べるとなにやら難しい作品に見えるかもしれないが、音楽それ自体は非常に聴きやすい。例えば1曲目「Ahan」は5拍子、6曲目「Ife」は7拍子だが、各パートのアクセントのずらし方がとにかく格好良く、個性的な作り込みとわかりやすい勢いに何も考えず浸れてしまう。アフロポップならではのたくましくまろやかな鳴り(その最たるものがアンジェリークのボーカル)は絶品、完璧な身体能力をそのまま音にしたようなリズムアンサンブルもたまらない。その上で、メロディもコードも美しい捻りに満ちている。ほどよいスパイスの効いた特濃ミルクのような音楽で、コクがあるのに喉越し滑らかで全然しつこくない。ロック的な感覚でも楽しめる傑作である。

 

 

 

Boris:W

 

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 梅雨の時期によく合う天上のドローンロック。シューゲイザーというかアンビエントに接近した作風で、音像は雲の動きのように気長で掴みどころがないように見えるが、各曲の展開はよく整理されており、歌ものとしても優れた仕上がりになっている。

 本作を聴いていて特に印象的に思えるのがBorisの“ドローンぢから”である。これは特に「Drowning by Numbers」に顕著なのだが、セッション参加したTOKIEのベースはファンク的にキレが良く休符の処理も鋭いのに、Borisの3人が靄のように漂い続けているからか、聴き手を“踊らせる”類のノリは全く出ていない(これはプロデューサーのシュガー吉永によるBuffalo Daughterと比べてみるとわかりやすい)。そして、本作においてはそれが正解だという説得力にも溢れているのである。こうした特性は他の作品でも常に示されているが、先述のような歌もの構成と組み合わさった形で楽しめるものは多くないし、“上空にいるからこその明るさと空気の薄さ”みたいな音像(これはCAN『Future Days』の光化学スモッグ感などに通じるものでもあるかも)は、そうした配合を活かす舞台として至適なものに感じられる。所在のわからない異物感に微妙にイライラさせられながら深く落ち着くような居心地がたまらない傑作である。

 

 

 

Brad Mehldau:Jacob's Ladder

 

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現代ジャズシーンを代表するピアニストの最新作。自身をこの世界に導いたプログレッシヴロックを主題としたアルバムで、2020年4月から2021年1月にかけてリモートで制作が行われた。

本作では、これまでのカバー作品同様、原曲のフレーズを引用しつつ大幅な再構築がなされているのだが、その解釈が本当に素晴らしい。例えばGentle Giant「Cogs in Cogs」は、このバンドが隠し味としてきたアフロポリリズムバロック音楽の要素を抽出し組曲化する創意が見事だし、Rush「Tom Sawyer」は原曲の7拍子を7×7+6拍子に拡張しつつ冴えたソロを乗せる構成が美しい。アルバムの流れも完璧で、主題がキリスト教の音楽としても、ジャズ〜プログレ〜メタルの繋がりを解き明かしてみせる音楽批評としても、超一級の完成度を示す傑作だと思う。マーク・ジュリアナのドラムスもニール・パートやビル・ブルーフォードの強化版という趣で最高。ネタ扱いでなく評価されるべき優れた作品である。 

 

 

 

caroline:caroline

 

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 Gastr del Solとタージ・マハル旅行団を近年のロンドン周辺シーンの感覚で統合発展したような音楽で、印象的なメインリフと後景で変化し続ける豊かなレイヤーの絡みが素晴らしい。この手の音楽性に慣れていない人でも抵抗なく聴きはじめられるだろうキャッチーさと、時間を忘れてのめり込めるアンビエント〜ドローン感覚が見事に両立されていて、ずっと快適に聴き流せてしまえるし、その上でつい思い出して聴きたくなる。末永く付き合っていけるだろう極上のアルバム。

 

 

 

DIR EN GREYPhalaris

 

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こちらの記事で詳説した。これほど暗く複雑に渦巻いているのに聴きやすい音楽は滅多にないし、バンドのそういう持ち味が徹底的に強化されることで初めて可能になったアルバムなのだと思う。

 

 

 

The Ephemeron Loop:Psychonautic Escapism

 

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 シューゲイザーやダークアンビエントethereal、ノイズやグラインドコアブレイクコアやダブテクノのようなクラブミュージック方面から地下水脈を辿って様々なサブジャンルに至る音楽性の豊かさ、膨大で無節操な折衷性みたいなことが第一印象としてはわかりやすく、過剰で荒削りというふうに見えるのも尤もなのだが、そのようなイメージに反してソングライティングは非常に優れており、そういう構築/統合的な在り方こそが得難い持ち味になっているアルバムなのだと思う。8曲80分の長尺を意外なくらい負担なく聴き通せてしまえる理由はそのあたりにもあるのでは。

 自分の得意分野に絡めていうと、5曲目「Trench Through Pink Death」は不協和音デスメタルをインダストリアルブラックメタル経由で上記のサブジャンル群に接続したような大曲で、展開構成の見事さもあわせ、メタル側の歴史からみても特筆すべき優れた楽曲だと思う。エクストリームなものがいける人は全員聴いてみてほしい傑作である。

 

 

 

 

藤井風:Love All Serve All

 

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 こちらこちらで詳説した。正直言ってサウンドプロダクションはもっと良くできたのではないかとも思うのだが、作編曲や演奏は文句なしに見事。一見普通な顔をしていながら実はかなりイレギュラーな構造の(だからこそ“見た目は普通”なことが重要な効果を生んでいる)音楽だ、ということに気付けたのは上の記事ふたつを書くにあたり繰り返し聴かざるを得なかったからで、そういう外的な要請にさらされた結果まんまと好きにさせられてしまう、というのも良い経験になったと思う。化けていく過程を捉えたような作品だが、その上で全体の流れまとまりもとてもいい。非常に優れたアルバムである。

 それにしても、リラックスした聴き心地の良さと異常なテクニカルさをこれほど完璧に両立するボーカルは滅多にない。超絶的な技術とそれに溺れない人柄のなせる業なのだろう。

 

 

 

High Castle Teleorkestra:The Egg That Never Opened

 

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 このバンドの音楽性を一言でいうならば、フランク・ザッパのビッグバンド寄り作品とThe Beach Boysを混ぜて東欧あたりのフォーク/トラッドを注入し、変則的なリズムトリックとメタルリフを大量に加えたら、Mr. Bungleを人当たりよくした感じの美しい化け物が生まれた、というところだろう。High Castle TeleorkestraはTim Smolens(Estradasphere、I.S.S.)とChris Bogen(Doc Booger)の2名により結成された遠隔レコーディングバンドで、他のメンバーは、元EstradasphereのDave MurrayとTimb Harris、元Mr. BungleのBar Mckinnon、そしてFarmers MarketのリーダーであるStian Carstensen。いずれも(非常にニッチな)界隈では知る人ぞ知る名人ばかり。本作もそちら方面のプログレッシヴロックやジャズロックに連なる音楽性なのだが、上記のような作り込みの奥行きが段違いに凄い上に、歌ものとしてのポップさも素晴らしい。どの曲も印象的なリードメロディで埋め尽くされていることに加え、The Beach Boysの薫り高いハーモニーを完全に消化し発展させた多声アレンジがとにかく魅力的。「Diagnosing Johnny」はそれこそThe Beach Boysの名曲群に勝るとも劣らない出来栄えだし、「The Days of Blue Jeans Were Gone」の異常なリズム構成(基本的には4拍子と思われるのだがアクセントのずらし方がイレギュラーすぎる)など、バッキングを聴き込む楽しみにも溢れている。その上で、7拍子のキメがBPM300から加速する「Mutual Hazard」など、異常な馬力を軽快に聴かせる場面も多い。メンバーの関連バンドを知っている状態でたまたま検索で発見する以外に知る方法がないのが難点だが、高度で複雑なわりに音楽的な敷居は低く、この手のスタイルに馴染みのない人も惹き込む訴求力に満ちていると思う。最近のblack midiが好きな方には特におすすめ。ぜひ聴いてみてほしい。

 

 

 

Manuel Linhares:Suspenso

 

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 ポルトガル出身のシンガー/ソングライターなのだが、ブラジル音楽の精髄(MPBやミナスものなど様々)を集めたような音楽性で、その上で確かにブラジル出身ではこうならないだろうという捻りが効いている。弾き語りでも問題なく惹き込める楽曲骨格の強さはマルコス・ヴァーリあたりにも通じるし、それをビッグバンド化したアレンジの見事さは、ジャズや南米音楽の大作曲家たちに勝るとも劣らない。アントニオ・ロウレイロがプロデュースで関わった作品は傑作が多すぎるが、本作はその中でも屈指の出来栄えなのではないかと思われる。アルバムとしての構成も完璧。7月16日現在でBandcamp購入者が25人しかいない(2月頭に自分が買った時は一桁台だった)のが信じられない、歴史的名盤扱いされてもいいくらい素晴らしい作品である。

 

 

 

Messa:Close

 

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 Messaはイタリア出身のバンドで、2016年の1stフルと2018年の2ndフルではドローン/アンビエント成分も含むフォーク寄りの楽曲が多かった。この2022年3rdフルではプレ・フューネラルドゥーム的なエッジを加え、60年代ジャズ的な音進行や鳴りも取り込んだ上で、Opethあたりに通じるメロディアスな長尺展開を描くスタイルに変化している。エピックメタルとゴシックメタルの美味しいところを抽出融合した音楽性は、Death SSとTribulationを自然に融合したような仕上がりで、Chelsea WolfeとPink Floydを足したらこうなるのではないかというメロウなパートも素晴らしい。暗く潤っていながらも悲壮感や絶望感に溺れすぎない雰囲気が絶品だし、うるさいロックに慣れていない人でも抵抗なくハマれるのではないだろうか。今年のメタルを代表する傑作の一つだと思う。

 

 

 

Meshuggah:Immutable

 

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 6年ぶりのリリースとなった9thフル。Meshuggahの音楽性はこんな感じの長尺4拍子擬似ポリリズム(言葉本来の意味での「ポリリズム」ではない)+不協和音で、そこの部分は1998年3rd『Chaosphere』から変わらず引き継がれているのだが、その上で楽曲全体の構成や時間感覚をどうするかはアルバムごとに少なからず変化してきている。具体的には、2008年6th『obZen』から16小節周期のリフが増え(例えば「Lethargica」は開幕の0〜36秒が1周期)、その長周期化傾向は2012年7th『Koloss』と2016年8th『The Violent Sleep of Reason』でさらに発展。特に8thフルは、数種類のリフの反復ではなく、曲の場面によってフレーズ構成がどんどん変わっていく(従って他作品に比べ格段に覚えにくい)交響曲的な構成になっており、その上で全編印象的に仕上げられていて聴くぶんにはあまり問題ないのが凄いのではあるが、バンドの方向性としては少なからず迷走している印象もあった。創設メンバーの一人で長くリーダー的存在と目されてきたFredrik Thordendalの関与が7thフルから一気に減り、8thフル以降はリードギターでしか参加していない(その後のツアーでも代役を立てていた)理由はこうした音楽性の変化にもあったのではないだろうか。路線としてはある意味行くところまで行った後の展開として、最新9thフルがどうなるかということに注目が集まっていたのである(上記のような理解はほとんどされていなかっただろうけれども)。

 そうして発表された9thフルは、7thフル以降の長周期化傾向を完璧に洗練された形に整理・再構築したものになっている。例えば、冒頭を飾る「Broken Cog」のイントロリフの拍構成は以下の通りである。

〈7+15〉×8+〈7+9〉=192=〈3×4〉×16 (単位は16分音符というか3連符)

3連符の4 拍子系16小節に綺麗に収まるこの構成は、最初はスネアドラムが入っていないこともあって〈7+15〉のパーツを把握するのは容易で、繰り返し聴いていくうちにこのパーツの長さ感覚がインストールされる。スネアが入ってからもそれが引き継がれるため、回転径の異なる複数の歯車が絡む様子を、(少なくとも過去作に比べれば格段に)容易に楽しみ理解できるようになっているのである。本作の収録曲は全編こんな感じによく解きほぐされており、その上で特有の不協和音遣いは過去最大に刷新されている。これは、7thフルの頃から作曲のメインを担当するようになってきたMarten(今回は13曲中8曲、他はDick単体またはDickとTomasの共作)によるところが大きいのだろうし、コンセプトを引き継ぎつつある意味では別のバンドに変貌したことをよく示しているのではないかと思う。

 自分はMeshuggahを20年前から聴き続けているが、個人的にはこの変化は十分アリである。13曲66分という尺(1時間越えは初めて)はちょっと長めで、1〜2曲削った方が構成が締まってより良かった気もするけれども、程よく間伸びした時間の流れは先述の長周期リフ構成によく合っているし(このバンドならではのアンビエントな居心地が明確なフレーズ展開のもとでうまく示されている)、その上で、2005年5th『Catch 33』から本格駆使されてきた8弦ギターサウンドの集大成と言えるプロダクションも素晴らしい。もちろん演奏は常に最高。過去作同様、数十年単位で無限に繰り返し聴き続けられるアルバムになっていると思う。

 

 

 

MWWB:The Harvest

 

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こちらで詳説した。ゴシックロック〜ゴシックメタルリバイバルとしての文脈面でもオリジナリティの面でも素晴らしいアルバムで、重心の低いマッシヴなハードロックサウンドを介してシューゲイザーにも繋がっている(そちら方面のファンにも歓迎されている)のも興味深い。傑作だと思う。

 

 

 

OMSB:ALONE

 

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 リリックも良いのだが、それ以上に曲や演奏(ラップ&ビートの出音)に惹かれる。個人的に、ヒップホップを聴いていると「格好良いんだけどリフ(ループするフレーズ)の強さは実はそうでもないのでは」というか(これはラップを映えさせるために必要な“一歩引いたアレンジ”でもあることはわかっているんだけれども)、「曲の良さ」の具合をヒップホップ的な水準に合わせて強引に納得していることもあるのではないか、と思ってしまうことも少なからずあるのだが(そこは一般的なポップミュージックと価値観というか快感原則が異なるのだということはわかる)、本作は文句なしに曲もリフも良く、そういう余計な配慮抜きで楽しめる(今年リリースのアルバムではbilly woods『Aethiopes』なども同様の感銘を与えてくれた)。アルバム全体の構成も素晴らしく、気分の浮き沈みが大きすぎないなだらかな流れまとまりもあってか、何度でも繰り返し聴きたくなってしまう。サブスク配信だけにせずロスレスのDL販売もしてほしいものである。

 

 

 

大石晴子:脈光

 

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こちらで詳説した。独特な時間の流れ方が素晴らしい音楽で、歌詞を読みながら聴くと曲展開や演奏の特殊な妙味が引き立ち、それらの表現力に焦点を合わせやすくなる。その意味で、変則的な形をしてはいるが優れたポップミュージックであり、世代を問わず多くの人に訴求する作品になっているのではないかと思う。最後の「発音」にはキリンジアンモナイトの歌」やマイルス・ディヴィス「In a silent way」あたりに通じるゆったりした時間の流れがあり(こういう居心地が曲ごとに異なるのに、それらが並ぶことでアルバム全体としての輪郭が綺麗に整うのがまた面白いところだと思う)、個人的には特に惹かれる。広く聴かれるべき傑作である。

 

 

 

The Smile:A Light for Attracting Attention

 

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 国内盤CDのライナーノーツを担当した。バンドの成り立ちや参加ミュージシャンの豊かな人脈はできればそちらを参照いただくとして、作品の持ち味としては、どうしても引き合いに出されてしまうRadioheadと比べ、あらゆる面において良い意味で“だだ漏れ”になっている音楽だと思う。アルバムコンセプトとかシーンにおける戦略・見られ方みたいな対策をほとんど打つ必要がない“よくわからない新規バンドのデビュー作”という立場を謳歌できているからか、快活な勢い(「You Will Never Work in Television Again」など)も底意地の悪い尖り方(冒頭を飾る「The Same」の冷たく陰険な雰囲気など)もかつてなくストレートに滲み出ているし、そういう気分は収録曲のバリエーションの豊かさに反映され、雑多で収拾がつかないようでいて不思議とまとまりの良いアルバム構成に繋がっている。昨今のシーンにおける立ち位置という点では、ジャズやクラシックの優れたプレイヤーによるラージアンサンブルに巧みな編集を施した音響構築がとにかく見事で、安価な機材で良いサウンドを作れる現代においても金をかけなければ実現できない類のプロダクション、という意味でも意義深い作品だと思う。変則的な構造をしていることもあって解釈や位置付けの難しい音楽だが、そこに取り組む価値はあるし、そんな小賢しいことを考えなくても深く楽しめる傑作である。

 

 

 

SukeraSono:【終末百合音声】イルミラージュ・ソーダ〜終わる世界と夏の夢〜【CV:奥野香耶

 

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 「冗談抜きで日本のアンビエントエレクトロニカで一番良いです」「英国には『Everywhere at the End of Time』があり、日本には『イルミラージュ・ソーダ』がある」というこれ以上あるか級の絶賛を見てDLsiteで購入。実際その通りの素晴らしい作品である。声の表現も音の鳴らし方も基本的にはASMRの流儀に則ったものなのだが、それらの絡みで4次元的な時間・空間感覚を鮮明に描き出すサウンドアートが凄すぎる。日常の何気ない会話の裏で不穏に鳴り響く極小のドローンまたはグリッチ、効果的に差し込まれる無音処理など、音響構築は緻密の極みで、イヤホン/ヘッドホンをつけて静かなところで聴かなければ仕掛けの1%も見えないし、繰り返し聴いて細部を把握するほどに手応えが増していく。声の表現力もそうしたサウンドに勝るとも劣らないくらい素晴らしく、一言一言の音色の描き分け、そこから嫌味なく醸し出される複雑なニュアンスの描写も、長い無言を至適な間として保たせる語りのペースもたまらない。それらを活かす脚本も見事で、序盤のほのぼのとした雰囲気を踏まえつつ安直に済ませない展開がおそろしい。『少女終末旅行』や『十三機兵防衛圏』などが好きな方は(少し趣は異なるが)ぜひ聴いてみてほしい。

 なお、上記DLsite掲載のトラックリストはDLデータとは異なっていて、実際は、1〜7が本編「記録音声」、8〜13がMerzbowを爽やかにしたようなハーシュ/グリッチノイズ、14〜16が特典音声となっている。本編(旋律や和声を伴う楽曲としても楽しめる音楽的なつくりなので、「ボイスドラマみたいなのは苦手なんだよな」という方でも大丈夫)とノイズパートを併せて聴くことでより深く味わえるようになるし、それぞれ単体でどれほど繰り返し聴いても飽きない。「知る人ぞ知る名作」で済まされるのは勿体ない、稀代の傑作である。

 

 

 

Trauma Bond:Winter's Light

 

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 完璧に整ったパワーバイオレンスにグラインドコア的な瞬発力を加え、Neurosisにも通じるマッシヴな大河グルーヴにダブテクノを混ぜてアンビエントへ接続した上で、普通なら50分を超えるだろう全体の尺を20分余に圧縮したようなアルバム。この「圧縮」というのがキモで、全くダレずに聴き通せるのにどこか腑に落ちない印象がつきまとい、それでいて出音は異常に良いのでつい繰り返し聴き通させられてしまう。これは、ハードコアならではの短距離走反復構成とアンビエント/ドローン的な気の長さとがシームレスに併置されている上で、後者の展開がフレーズの特性的にも記憶に残りにくい(それはアンビエントを成功させるために必要な条件でもあるだろう)、というのが大きいように思われる。以上のような“フレーズの立ち方の違い”や異なる時間感覚を、例えばMeshuggahのように一体化させるのではなく、そのまま並べて各々のグラデーションを表現するということ、そしてそれを約20分の短い尺の中でやり逃げ的に達成してしまっている、ということには是非もあるだろうが、Bandcamp掲載の公式説明によればEPでなくアルバム扱いとのことなので、これは自覚的な構成なのだろう。グラインドコアパートの高速BPMに耳というか体感速度が慣らされることでアンビエントパートの茫漠とした時間の流れを適切なペースで吟味できない、という状態に強制的に仕向けられるようなつくりの(従って、うまく吟味するためにはトラック単位で抜き出して聴き込んでみる方がいいのかもしれない)特殊なアルバムだが、それだけに興味は尽きず、現時点で30回以上聴き通してしまっている。ハードコアとノイズを併置するこの手のエクストリームメタル作品は近年だいぶ増えてきた印象があり、直近でもCandyやKnollが素晴らしいアルバムを出していたが、演奏や不協和音のタイプもあわせ、個人的にはこのTrauma Bondの方が気に入っている。今後の活動も楽しみな傑作である。

 

 

 

Voivod:Synchro Anarchy

 

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活動40周年を飾る15thフル。Voivodはメタルとハードコアの歴史において最も重要なバンドの一つで、プログレッシヴロックとパンクを黎明期のスラッシュメタルに融合した唯一無二の音楽性は、“不協和音メタル”“Sci-Fiメタル”と呼ばれる系譜の祖となった。本作は、その土台を築いた天才ギタリストPiggyの没後、2008年に加入したChewy(Daniel Mongrain)込みでの3枚目のアルバムで、前任者の味を引き継ぎつつ新たな次元を切り拓く驚異的な創意が示されている。4thフル『Dimension Hatross』や5thフル『Nothingface』あたりの入り組んだ変拍子を滑らかに発展したリズム構成、不穏な安らぎに満ちたコード進行、ロックに限らず史上屈指といえるバンドアンサンブル、それらを美味しく聴かせる極上のサウンドプロダクションなど、全ての要素が素晴らしい。Piggy在籍時の持ち味を引き継ぎつつ実は過去になかったアイデアも満載で、「Synchro Anarchy」の初期Cynic的ソロや「The World Today」のToxik風ソロなど関連ジャンルの歴史に敬意を示し未来につなぐ仕掛けがたまらないし、「Quest for Nothing」中盤のファンキーなカッティングギターなど、メタルという音楽形式の可能性をさらに切り拓くアイデアも見事。自分はこのバンドのアルバムを全て聴いているが、本作が最高傑作だと思う。ディスク2収録の2018年ライヴも超絶。広く聴かれるべき極上の逸品である。

 

 

 

Whatever The Weather:Whatever The Weather

 

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 氷室の穏やかな空気に包まれるような極上のアンビエントIDM音響(Aphex Twinの『Selected Ambient Works』シリーズから底意地の悪い不穏さを取り除いた感じ)。梅雨のじめじめした暑さに対する清涼剤として大変お世話になった。こういう納涼サウンドはありそうでなかなかないものだし、これからの季節はさらにありがたみを増していくのではないかと思われる。お気に入りバンド3選にCirca Survive・toeハイスイノナサ(いずれもポストハードコア〜マスロック方面の名グループ)を挙げ、本名?のLoraine James名義で『Reflection』というUKガラージIDMの傑作をものにしているだけあって、アンビエントな曲調でも一つ一つのフレーズは印象的で、聴き流しても聴き込んでも楽しい。この手の音楽領域への入門編としても素晴らしいアルバムだと思う。

 

 

 

250:PPONG

 

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 250の日本語読みはイオゴン。ポンチャック(チープなリズムボックスの上で様々な曲を歌い繋いでいく韓国の大衆音楽で、日本で言うなら演歌カセットテープをディスコ化したような感じだろうか)のルーツである「ポン」を探求し、そこから懐かしくも新しいダンス音楽を生み出す新進プロデューサーとのことで、本作がデビューアルバムとなる。そうしたバックグラウンドからそのまま連想される類のオールドスクールな音色も確かに多いのだが、その上で本作はとにかく音がいい。引っ掛かりと鮮度を高次元で両立する音響は現代の欧米のポップミュージックに引けを取らないものだし、そうしたプロダクションにより、暴れ回るアナログシンセの鳴り(これはハードロックの弾きまくりギターソロに通じるものでもあるだろう)をはじめとした演奏(韓国歌謡界の名プレイヤー揃い)が最高の形で映えている。日本では、ポンチャックというとその紹介者である電気グルーヴのイメージが強いと思われるが、そこに通じるユーモラスな佇まいを備えながらもシリアスな情感にも満ちており、それらを仏頂面(アルバムジャケットの感じ)で不可分に接続するような雰囲気は、本作のかけがえのない妙味になっている。どの曲も非常によくできているし、アルバム全体の流れまとまりも素晴らしい。即効性と味わい深さを兼ね備えた傑作である。