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某大学アカペラサークル「Summer Live 2015」第一次オーディションの音源審査について

かつて所属していた大学アカペラサークルが、7月頭に全体ライヴを開催します。その第一次オーディション(20バンド)について、このたび音源のみでの審査を頼まれまして、先ほど結果を送信してまいりました。


以下は、その審査にあたっての評価基準について書いたものです。

先方から与えられた4項目「ハーモニー」「リズム」「表現・ダイナミクス」「オリジナリティ」、そして審査員独自の評価項目ひとつについての内容。

書き上げてみると、これが意外に個人的な音楽観一般を網羅したものになっていると気付きます。自分としては興味深く読めるものですし、せっかくまとまった量になりましたので、ここに載せておこうと思います。

何かの参考や反面教師などになれば幸いです。

(昨年冬に書いたものhttp://closedeyevisuals.hatenablog.com/entry/2014/11/12/003727の修正版です。)





「Summer Live 2015 第一次オーディション」審査基準

(以下は、講評とともに、必ず各バンドに配布してください。)


【各項目の内容と評価基準】


「独自評価項目」だけでなく、与えられた4項目についても、個人的な解釈にもとづき内容を振り分けています。

ここでは、それについて簡単に説明いたします。


基本的には、「バンド全体の力」をみています。

うまいメンバーがいれば魅力は当然増しますが、アンサンブル全体をうまくまとめることができなければ、そうしたメンバーを活かすことはできません。逆にいえば、看板になるようなメンバーがいなくても、全体としての仕上がりが見事なら、他では出せない素晴らしい味が生まれます。

今回は、このような観点から、「アンサンブル全体を審査」しています。

従って、たとえば「他のパートがダメでもリードがうまいから点が高くなる」「全体のまとまりは素晴らしいけどリードがパッとしないから点が低くなる」ようなことは、まずありません。ご了承ください。



(1)〈技術・体裁〉


個人的好みを完全に排除して、演奏の完成度をパラメタ的に評価しています。



①ハーモニー


・「この曲」ができているか


楽譜どおりの和音がつくれているか。

一部メンバーの音程が完璧であっても、どこかのパートが致命的にズレていれば、全体としての和音は崩壊します。そういう場合の評点は必然的に辛くなります。

また、複雑な和音に挑戦して崩れ気味になっている箇所などは容赦なく減点しますし、簡単な和音であっても綺麗に仕上げられている場合は評価が高くなります。

バンドによっては「もっと簡単な曲をやれば完璧に仕上げられる」だろうケースも見受けられますが、それはやっている曲の完成度とは関係ありません。

ほとんどのお客さんはバンドやメンバーの事情など鑑みてはくれないので、「難しい曲をやっているから少しくらいできていなくても構わない」という言い訳は通じません。



②リズム


・グルーヴ(一体感)


全メンバーの足並み(ビート感)が揃っているかどうか。

(「縦が合う」という状態を、音の入りや語尾の処理なども含めた「響きのコントロール」のレベルで突き詰めて表現すると、一般にいう「グルーヴ」感が生まれます。)

一部が巧くても、全体が合っていなければ減点されています。

リズムキープ(BPMの維持)は、必ずしも厳密にできている必要はありません。

ビートが均一に保てていてもフレーズの間につながりがなければリズムアンサンブルはぶつ切りになりますし、ビートを随時変化させていても、それが曲や場面に合っていれば、アンサンブルとしての完成度は上がります。

以上のような観点のもと、一体感のある流れがあるか否かを評価しています。


・「止まらずつなげる」ことができているか


具体的には、

「フレーズとフレーズの間につながりを持たせることができているか」

「小節線で意識を切らずに、1曲通して音をつなげ続けることができているか」

ということなどをみています。

上記「グルーヴ」をつくり続けることができているか否かが評価対象となります。



(2)〈解釈・アイデア


曲の全体および細部を吟味し、それをもとにどういう音を出し構成していくか、という「考え」の緻密さ及び達成度をみています。

そうした「考え」のないものは陰影のない単調なものになり、聴き手にとっては面白くありません。

飽きさせず惹き込むために重要な要素です。



③-1 表現


・フレージング(ミクロの視点)


フレーズ(メロディ)ひとかたまりがどこからどこまでか判断し、それを表情をつけて歌うことができているか否か。楽譜の解釈・自分の声のコントロールの両方がどれだけできているかということをみています。

たとえばスピーチをする際は、文節やアクセントの位置に気をつけたり、ひといき間をおく箇所を考えたりする、というような“細部の解きほぐし”が重要で、これができていると聴き手に伝わる力が格段に増します。

音楽においてもこうした細部の解釈は大変重要になります。


・トーンコントロール


音色(声の響き)を随時変化させ、その場に応じた色彩を提示することができているか否か。これができていれば、曲全体の表情がとても豊かになります。

逆に、これができていないと、曲全体の表情が均一で単調になり、「飽きさせる」ものになってしまいます。

なお、「原曲のイメージに合っているか否か」は問題ではありません。全員の解釈やその方向性さえ一致されていれば、それが原曲からかけ離れているものでもあっても、独自の説得力ある着地点に到達することができるものです。

ここでは、以上のような観点から、「トーンコントロールによる表情の描きわけ」や「バンド全体でうまく音色を合わせることができているか」をみています。


・サウンドバランス


パート間の基本的な音量バランスはもちろん、リード交換がある場合はそれらのつなぎがうまくいっているか(前後の流れを無視して一人だけ大声を出しすぎていないかetc.)など、効果的なやり方で整った“かたち”に仕上げることができているかを、音量や響きの目立ち方の観点から評価しています。


③-2 ダイナミクス


・構成力(マクロの視点)


:曲全体を俯瞰した構成がなされているか、そしてそれがうまく機能しているかどうかをみています。

ただ単に音量の大小をつけていればいいということはありません。

たとえば演劇において、ストーリーにおいて見せ場となる「おいしいセリフ」を言う場合、前後の脈絡を無視していきなり大声で叫んでしまうのは得策ではありません。大声で言いたいのであっても、その場の雰囲気やそこまでの展開が許す範囲内に留めなければなりませんし、そもそも見せ場だからといって大声を出す必要もありません。静かに余韻を残すような言い方のほうが観る者の印象に残りうることもありますし、刺激を与えたい場合でも、あえて押し殺すように“控えめに、しかし強く”言うやり方もあります。また、その「見せ場」を活かすためにそこに至る部分を丁寧に作り込む、というのも大切です。「見せ場」そのものよりもそうした“伏線”の処理の方が重要になる場合もあります。

曲の構成においても、そうした意識や考えが重要になります。全体の流れをうまく作りつなげていくために、各場合に合った力加減(音量・響きの質や厚みetc.)を考え、アンサンブル全体としてそれを形にできるように、実際の練習におけるすり合わせを繰り返さなければなりません。

こうした意味においての構成・構成力こそが、バンド表現において最も重要な要素なのだと言えます。

(①②③を仕上げた上でそれを活かし映えさせるための要素です)

ここではその出来映えを評価しています。

なお、「はっきりした強弱の変化があるか否か」は問題ではありません。曲や場面によっては、あまり大きな強弱をつけず、しかし淡々とした流れの中で微細な変化をつける、という方法のほうが向いている場面もあります。(均一なテンション・雰囲気の中で感情が高まりしぼんでいく、というような感じ。)今回の審査音源の中でも、そうしたやり方で素晴らしい成果を生み出しているものが幾つかあります。



(3)〈印象点〉


ひとことで言えば「刺さる」力です。初めて聴くお客さんを惹き込んでしまう要素や力について評価しています。

これはかなり感覚的な要素なので、私の個人的な嗜好(音楽性についてではなく、「どういうものが人を惹きつけるのか」という、持論のようなもの)も排除せずみています。

(完全に「客観的な」評価というものは不可能ですし、一個人の徹底的に「主観的な」考えをつきつめた方がむしろある種の一般性を獲得する場面も多くあります。

これは音楽をやる全ての方に心においてほしいことでもあります。まず完全に「自分(達)を納得させる」ことができるやり方でないと、他人を十分納得させることはできないものです。まず自分(達)の好みこそを優先し、その上でそれを受け入れられうる形に整える、ということが大事です。)



④オリジナリティ


・代替不可能性


主に演奏表現力の個性(他では聴けない何か)の大小についてみています。審査員独自評価項目⑤の「訴求力」は“わかりやすさ”(即効性)をみていますが、ここでは“味わい深さ”(聴き飽きなさ)をみています。リードの特徴的な歌い回しとか、アンサンブル全体のグルーヴ(響きとリズムの一体感)およびその変化のさせ方、勢いや落ち着きのある雰囲気作りなど、表現力や解釈力のうちの「結果の面白さ」を評価しています。

(③ダイナミクス・表現のところでは、その「結果」を出すための工夫や技術力についてみています。)


アレンジについては、よほど気の利いたものでなければ勘案していません。楽譜をもとに音を出すにあたっての「結果の面白さ」を重視・評価しています。



⑤訴求力(審査員独自評価項目)


・わかりやすさ


:「わかりやすい」=「簡単」「単純」ではありません。

音楽性が複雑であっても、よく解きほぐされた明晰な論理的構成の上にそれをおいていくことができれば、音楽にあまり興味のない人にも抵抗なく楽しませてしまうことができます。そうした意味での「わかりやすさ」、言い換えれば「語り口のうまさ」「説明のうまさ」のようなものはとても重要です。

スピーチをする際は、自分の意見をうまく伝えるために、聴き手にできるだけ労力をかけないようなかたちに原稿を洗練させておく。これと同様に、編曲(アレンジ)も、無闇に情報を詰め込むのではなく、聴き手に伝わりやすいかたちに整理・構成しておくべきです。

こうした観点から、聴き手に「わかりやすく伝わる」曲・アレンジを用意できているかをみています。

「誰もが知っている曲を選ぶ」というのは、そうした意味において実は大事なことです。(「誰も知らない曲」であっても、初見で惹き込める作編曲がなされていればそれに十分対抗できます。)

POPであるというのは、とても大事なことなのです。


・思い入れ


:「この曲でこういうことをやりたい」という気持ち・やる気・情熱が、トーンコントロールや種々の力加減の操作を通して、音に十分現れているか否か。

ここまで挙げてきた各要素は、こうした「思い入れ」「気持ち」をうまく伝えるための道具に過ぎません。

(心・技・体でいうなら技・体の部分)

聴き手の心に届くためには、こちらの心を示さなければならない。

一番大事な要素としてみています。




【点数の基準について】


おおまかにこんな感じでつけています。


〈9.0〜10.0〉

素晴らしい。お金とれるレベルです。


〈8.0〜8.5〉

優れた仕上がり。余計なことを考えさせず惹き込める。


〈6.5〜7.5〉

悪くない。無難に仕上がっているだけでなく、何かしらの付加価値がある。


〈6.0〉

形にはなっている。無料ライヴなら文句を言われるべきでない。


〈4.0〜5.5〉

弱点がある。無闇に練習するよりも、自分の音源をよく聴いて問題点を洗い出したほうがいい。

気付きがあればすぐに改善できるレベルだが、このまま本番に出るのは望ましくない。


〈0.0〜3.5〉

今回の出場は難しい。基本から丁寧にチェックしていくべき。



【評価方法】


全音源の評点を出すにあたって、スピーカーで2回、イヤホン(Etymotic Research ER-4)で4回、20曲を通して聴いています。これだけの数を続けて流していると、聴いているうちにどうしても評価基準がブレてくるので、番号通りに聴くだけでなく、適宜順番をシャッフルして評価しています。

スタジオ録音(各パートの定位がキレイに分かれている)とワンマイク録音(全パートがひとつにまとまるダンゴ状なサウンドになっている)とでは、前者の方が明らかに訴求力の強い音質になっています。したがって、何度も聴くことにより(録音におさめられる前の)もとの声質・響きを分析・吟味して、こうした録音の違いによるバイアスをできるだけ排除するように努めました。

各音源の講評については、そこからさらに複数回聴いて(個別にリピートして)書いています。




とりあえず以上です。各音源についての評価は、個別の講評としてまとめています。

今回あまり良い点の付かなかったバンドも、適切な練習方法に気付いたり、雰囲気や力加減の表現についてのヴィジョンをまとめたりすることができれば、短期間で一気に飛躍する可能性が十分にあると思います。

講評には、そのためのアドバイスも簡単に加えております。

わからないことや納得のいかないことがあれば、私の方までご連絡ください。できるかぎりお応えします。


お疲れ様でした。