こちらの記事
の詳説です。
【ルーツ(直接的なもの)】
Allan Holdsworth(イギリス)
- アーティスト: Allan Holdsworth
- 出版社/メーカー: Cream
- 発売日: 2007/05/08
- メディア: CD
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(『i.o.u.』フル音源)'82
CHICK COREA ELEKTRIC BAND(アメリカ)
- アーティスト: チック・コリア・エレクトリック・バンド,チック・コリア,ジョン・パティトゥッチ,デイヴ・ウェックル,カルロス・リオス,スコット・ヘンダーソン
- 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
- 発売日: 2011/06/22
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(1st『The Chick Corea Elektric Band』フル音源プレイリスト)'86
THE BRECKER BROTHERS(アメリカ)
- アーティスト: Brecker Brothers
- 出版社/メーカー: Sony/Bmg Int'l
- 発売日: 2008/02/16
- メディア: CD
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(『Heavy Metal Be-Bop』フル音源プレイリスト)'78
WEATHER REPORT(アメリカ)
- アーティスト: Weather Report
- 出版社/メーカー: Sbme Special Mkts.
- 発売日: 2008/03/01
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(『Heavy Weather』フル音源)'77
RUSH(カナダ)
- アーティスト: RUSH
- 出版社/メーカー: MUSICSTORE
- 発売日: 2015/06/08
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(8th『Permanent Waves』フル音源)'80
(9th『Moving Pictures』フル音源プレイリスト)'81
あらゆるジャンルにおいてカナダを代表するバンドのひとつであり、いわゆるプログレ・ハード(プログレ寄りハードロック)の代表格とされるバンドでもあります。複雑なアイデアをすっきり聴かせてしまう作編曲と卓越した演奏力、そして味わい深い歌詞。商業的成果と音楽的影響力を高いレベルで両立した、極めて稀な存在です。
後続に最も大きな影響を与えたのが独特の“キャッチーな変拍子”でしょう。7拍子や5拍子をストレートに反復して突き進むだけでなく、「8+7」「5+6」「6+7」というような「A+A'」タイプの複合拍子も多用する。そして、その構成が実に滑らかなのです。ただ単に変拍子(4拍子や3拍子以外の拍子)を使っているというだけでなく、その枠内でのアクセント移動など、“引っ掛かり”“繋がり”の作り方が非常にうまい。フレーズの音進行も印象的なものばかりなのですが、その上でこうした巧みなリズムアレンジが“フック”になり、聴き手の耳に残る力を大きく増しています。そして、それをかたちにする各メンバーの演奏も素晴らしい。特にドラムスのNeil Peartによる“硬く打ち抜く”響きは絶品で、キレよく小気味よいタッチやパターン豊かなフレージングもあわせ、最高の生理的快感を与えてくれます。こうした演奏が巧みなリズムアレンジの上で反復されることにより得られる手応えは、他に替えようのない極上の珍味と言えます。代表曲として名高い「YYZ」(『Moving Pictures』3曲目)のイントロなどは、世界一格好良い5(10)拍子パートのひとつです。
また、RUSHは、以上のようなリズム構成に加え、音遣いの面でも多くのバンドに影響を与えています。たとえば『Permanent Waves』の最後を飾る組曲「Natural Sience」。冒頭の“静かな水のなかでまどろむ”感覚や、そこに陰がさして“ぼんやりした不安感に包まれる”ような音遣い感覚は、WATCHTOWERやSIEGES EVENといったテクニカル・スラッシュメタルの強豪にかなりはっきり受け継がれています。(後者は特に大きな影響を受けています。)後期DEATHのフレーズなどにもRUSHの影が感じられる箇所があり(6th『Symbolic』1曲目のアウトロなど)、こうしたテクニカルなバンドの成り立ちを解析するにあたっては、外して考えることのできない存在だと言えます。
加えて、このバンドは作詞の面でも大きな影響を与えています。Neil Peartの歌詞はダブル・トリプルミーニングをも多用した興味深いもので、知的な内容を親しみやすく提示する手管の面でも高い評価を得ています。MESHUGGAHの歌詞を主に担当するTomas Haakeは影響源の筆頭に挙げていますし、テクニカルスラッシュ〜プログレデスなどのバンドが哲学方面の話題を歌詞に用いることが多いのも、RUSH(Neil Peart)からの影響が非常に大きいのではないかと思われます。
以上のように、音楽的にも歌詞の面でも、このジャンルを考える際には外すことのできない偉大なバンドと言えます。また、そんなことを考えなくても単純に楽しめてしまう素晴らしい“ポップ・アクト”でもあります。変拍子への対応力を気軽に身につけるための素材としても最適なので、ぜひ聴いてみることをおすすめします。
KING CRIMSON(イギリス)
Starless & Bible Black: 30th Anniversary Edition
- アーティスト: King Crimson
- 出版社/メーカー: Discipline Us
- 発売日: 2005/07/19
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(『Starless And Bibleblack』から「Lament」)'74
(『Starless And Bibleblack』から「Fracture」)'74
いわゆる「プログレッシヴ・ロック」を代表する名バンド。'69年に発表された1stアルバム『In The Court of The Crimson King』はロック史全体を代表する大傑作です。英国流に希釈受容されたブルース感覚を下味に、雑多な要素(クラシック音楽、欧州フォーク・トラッド、ジャズからやや離れたフリー音楽など)を高度に統合。それまでのロックには稀だった(インプロの垂れ流しではなくしっかり構築された)長尺の構成と、曖昧ながら強い訴求力を持つモーダルな音遣い感覚により、多くの音楽家に絶大な影響を与えました。
このような「黒人音楽に留まらない豊かなバックグラウンドを」「しっかりした楽理の知識や演奏技術を用いて」「独自の形で構築する」姿勢は、同時代の様々なバンドとあわせて「プログレッシヴ・ロック」と呼ばれ、世界各地のシーンに受け継がれています。クラシック〜現代音楽やジャズはもちろん、各地の民俗音楽のような(イギリス・アメリカなどメインストリームでは用いられることが少なかった)“辺縁の”要素を巧みに用いるバンドを数多く輩出。無数の傑作が生み出される契機になったのです。特にドイツ・イタリア・フランス・日本のシーンは個性的な傑作の宝庫で、そのうち一つの地域に的を絞って作品を掘り続けるマニアも多数存在します。
こうした「プログレ」の動きは70年代中期に一度勢いを失うのですが、80年代頭の「ニューウェーブ」の動きとともに新たな境地を開拓したり、「RIO(Rock In Opposition)」('78年〜)やそれに連なるアヴァンギャルド・ポップス(いわゆる「レコメン(Recommended Records)」系)の流れを生むなど、その“先進的な”姿勢は様々な形で受け継がれています。
本稿で扱うバンドも、基本的には、こういう姿勢を表す意味での「プログレッシヴ」という表現が相応しいものばかりです。「ヘヴィ・メタル=ワンパターンで変化のない音楽」という偏見のために注目の機会を得られないけれども、「プログレ本流」とされるもの以上に優れている。本稿は、そうした優れたバンドを紹介し、広く評価されるきっかけを作りたい、という願いをもって書かれています。「プログレ本流」や「現代ジャズ」のシーンにおいてもこうしたバンドに影響されている音楽家は存在しますし(MESHUGGAHに惚れ込み共演まで求めたTigran Hamasyanなど)、双方のシーンをより深く理解するためにも必要な情報なのではないかと思います。
以上のようなことを踏まえた上でKING CRIMSONの話に戻ります。
KING CRIMSONというのは、「プログレ」の外からはかなり都合よく名前を出されるバンドで、「プログレっぽい」と判断された音楽(変拍子を多用する長尺の曲など)を評価する際に「KING CRIMSONやPINK FLOYDの影響を受けている」と安易に言われることがとても多いです。
(「プログレといえばその2バンド」というイメージがあって、実際聴いてみるとその2バンドの要素なんて全くないのに、なんとなく(“箔付け”のために)知ったかぶりで名前を出してしまう。)
しかし、KING CRIMSONの影響というのは非常にわかりやすく現れるもので、全期にわたって聴き込み消化している希少なバンド(OPETHや人間椅子など)を除けば、大きな影響を受けているか否かは「特定の音進行の有無」を見るだけで即座に判定できてしまいます。
その「特定の音進行」がはっきり現れているのが冒頭に挙げた2曲。'73年〜'74年の(一般的には最強のラインナップと言われる)“第3期”の傑作『Starless And Bibleblack』に収録された「Lament」と「Fracture」です。この2曲において確立された独特のフレーズ・ルート進行は、VOIVODやDOOM(日本)のような名バンドに非常に明確に受け継がれており、そこからさらに影響を受けたバンドを通して、アンダーグラウンド・シーンの広範囲に行き渡っています。テクニカルな初期デスメタルからいわゆるカオティック・ハードコアまで、上記のような音進行は様々に形を変えながら受け継がれ続けているため、KING CRIMSONそのものを聴いたことがなくてもその影響を受けているバンドも存在するほどです。本稿においてはこの流れにあるバンドをあまり扱っていませんが(この音進行は“主張”が強すぎるため、よほどうまく使わないと音楽全体の個性を損なってしまう)、「エクストリームな」地下音楽を聴き進めていけば頻繁に出会う要素なので、上の2曲だけでも聴いておくことは決して損にならないはずです。
(なお、「レコメン系」と言われる方面の「プログレ本流」のバンドにもKING CRIMSONから大きな影響を受けているものが存在します。X-LEGGED SALLYなどが好例です。)
この2曲以外に影響力の大きいものを挙げるなら、『Larks' Tongues in Aspic』('73年)収録の「Larks' Tongues in Aspic Part.2」や『Red』('74年)収録の全曲あたりでしょうか。どれも“第3期”の作品で、この3枚のアルバムは「プログレ」史上においても最高クラスの傑作と名高いものばかりです。Robert Frippの暴力的で儚いギターなど、メタルやハードコアに慣れた耳でも衝撃を受ける名演が満載ですし、激しい音楽が好きな方であれば抵抗なく聴き入ることができるのではないかと思います。
KING CRIMSONの作品は、80年代以降のものについては「プログレ」ファンからはあまり評価されない傾向があるのですが、『Discipline』('81年発表)に始まり今に至るスタイルも、DON CABALLEROなどに端を発する“Math Rock”方面のポストロックや、TOOL(KING CRIMSONをゲストに招いたツアーを敢行)のような強力なバンドなどに、広く大きな影響を与えています。本稿の流れからは外れるのでここでは述べませんが、活動の全期を追う価値のある重要なバンドです。興味をお持ちの方はぜひ聴かれることをおすすめします。