【2019年・上半期ベストアルバム】

【2019年・上半期ベストアルバム】

 

・2019年上半期に発表されたアルバムの個人的ベスト20です。

 

・評価基準はこちらです。

 

http://closedeyevisuals.hatenablog.com/entry/2014/12/30/012322

 

個人的に特に「肌に合う」「繰り返し興味深く聴き込める」ものを優先して選んでいます。

個人的に相性が良くなくあまり頻繁に接することはできないと判断した場合は、圧倒的にクオリティが高く誰もが認める名盤と思われるものであっても順位が低めになることがあります。以下のランキングは「作品の凄さ(のうち個人的に把握できたもの)」かける「個人的相性」の多寡を比べ並べたものと考えてくださると幸いです。

 

・これはあくまで自分の考えなのですが、人様に見せるべく公開するベスト記事では、あまり多くの作品を挙げるべきではないと思っています。自分がそういう記事を読む場合、30枚も50枚も(具体的な記述なしで)「順不同」で並べられてもどれに注目すればいいのか迷いますし、たとえ順位付けされていたとしても、そんなに多くの枚数に手を出すのも面倒ですから、せいぜい上位5~10枚くらいにしか目が留まりません。

 

(この場合でいえば「11~30位はそんなに面白くないんだな」と思ってしまうことさえあり得ます。)

 

たとえば一年に500枚くらい聴き通した上で「出色の作品30枚でその年を総括する」のならそれでもいいのですが、「自分はこんなに聴いている」という主張をしたいのならともかく、「どうしても聴いてほしい傑作をお知らせする」お薦め目的で書くならば、思い切って絞り込んだ少数精鋭を提示するほうが、読む側に伝わり印象に残りやすくなると思うのです。

 

以下の20枚は、そういう意図のもとで選ばれた傑作です。選ぶ方によっては「ベスト1」になる可能性も高いものばかりですし、機会があればぜひ聴いてみられることをお勧めいたします。もちろんここに入っていない傑作も多数存在します。他の方のベスト記事とあわせて参考にして頂けると幸いです。

 

・いずれのアルバムも20回以上聴き通しています。

 

 

 

 

[上半期best20]

 

 

第20位:・・・・・・・・・『Points』

 

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いわゆる楽曲派アイドルポップスの一つの到達点。冒頭の「しづかの海」はMY BLOODY VALENTINELoveless』収録曲と大槻ケンヂ「GURU」を融合させたような至高の名曲だし、中盤のインスト2曲も[UNDERWORLDデトロイトテクノ]とか[あぶらだこDREAM THEATER仄かにグラインドコア風味]という感じの特殊IDM路線が実に良い。そうした各々微妙に異なる展開速度の楽曲が並ぶことでアルバム全体に不思議な時間感覚が生まれているのも興味深く、唯一無二の居心地のある一枚になっています。MASSCREカバーやpan sonicオマージュ(本作のジャケットは『vakio』を土台にしたものと思われる)をしつつ爽やかなシューケイザー/エモ/ドリームポップを基本路線とするグループの姿勢が非常に良い形で活かされた最終作。極めて検索しにくい名前(グループ名はdotsとかdotstokyoと呼ばれる)やアルバムタイトルが勿体なくも思えますが、できるだけ多くの人に聴いてみてほしい傑作です。

 

 

詳しくはこちら:

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1113869412749041664?s=21

 

 

第19位:HOWLING SYCAMORE『Seven Pathways to Annihilation』

 

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元EPHEL DUATHのギター(ベースも兼任)+BLOTTED SCIENCEのドラムス+元WATCHTOWERのボーカルによる2ndフルアルバム。セルフタイトルの前作はアヴァンギャルドブラックメタル+スピードメタルという感じのありそうでなかった音楽性で、全く話題にならなかったもののプログレッシヴなメタルの歴史に残る傑作だったと個人的には考えているのですが、それから意外に順調なペースで発表された本作はその前作を上回る優れた内容になっていると思います。スピードメタル的な勢いを残しつつ複雑に整えられた作編曲は難解な一方で前作のような生硬さが一切なく、Kevin Hufnagel(GORGUTSやVAURAなどにも参加しメタル~現代ジャズ領域を横断する達人)やマーティ・フリードマン(元MEGADETHで有名だがWATCHTOWER / BLOTTED SCIENCEのロン・ジャーゾンベクを自身の日本公演のサポートに呼ぶなどテクニカルメタル方面とのつながりも維持している)達に個性的なソロをとらせてDavide自身は艶やかなバッキングに徹する姿勢も完全に良い方向に機能。前作からの変化をたとえるなら「CORONERの3rdに対する5th」「REALMの1stに対する2nd」という感じもしますが、それら以上に良い形で進化を成功させていると思います。相変わらず全く知られていないのが非常に勿体ない傑作。ぜひ聴いてみてほしいです。

 

 

前作については昨年の上半期ベストでまとまったレビューを書きました:

 http://closedeyevisuals.hatenablog.com/entry/2018/07/06/163342

 

 

 

第18位:細野晴臣『Hochono House』

 

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近年海外からの再評価(インディーロック/ポップス方面からの熱い注目など)もめざましいレジェンドが近年のポップミュージックの刺激的な音響に触発されつつ1stアルバム(1973年作)収録曲を逆順でリメイクした1枚。そうした音響(サブスクリプションサービスにおけるラウドネス処理に適した無音・超低音処理など)に完全対応しつつ独自のものを生み出してしまったサウンドプロダクションも素晴らしいですが、そうした音作りの凄さよりも歌モノとしての楽曲強度や細野晴臣という人自身の演奏表現力ひいては人間的魅力そのものが際立つ不思議な作品になっていると思います。オリジナル版に勝るとも劣らない、時代を超える大傑作だと思います。

 

 

詳しくはこちら:

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1105029896277880834?s=21

 

 

 

第17位:BARONESS『Gold & Grey』

 

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BARONESSの音楽性はプログレッシヴスラッジメタルなどと呼ばれますが、そのアウトプットの仕方は作品ごとに大きく異なります。1st『The Red Album』(2007)と4th『Purple』(2015)がそうした呼称のよく似合う逞しく神秘的な曲調が並べられた作品になった一方で、2枚組となった3rd『Yellow & Green』(2012)はメタルとかハードロックというよりはむしろブリティッシュフォークをプログレッシヴロックやミニマル音楽のフィルターを通して変容させたような穏やかな歌モノ揃いのアルバムとなり、音楽的バックグラウンドはもともと非常に広く豊かだということが示されていました。2nd『Blue Record』(2009)はそうした豊かな音楽性をうまく整理することができずアルバム全体としてはやや均整を欠いた仕上がりになってしまっていたと個人的には思うのですが、5thフルとなった本作『Gold & Grey』(1枚組扱いですがタイトルや構成を考えれば2枚組を意識してそう)ではその2nd的な路線が非常に良い形で成功しているように感じられます。本作の印象を一言でまとめれば[Solange『When I Get Home』とBLACK SABBATH『Vol.4』の間にあるようなアルバム]で、ミニマル/アンビエント寄りの単曲やOPETHあたりに通じる神秘的なコード遣いなど過去作では前面に出てきていなかった要素を抽出発展させつつ、隣接する各曲間では微妙な溝があるのにアルバム全体としては不思議と整った輪郭が描かれる、という難しい構成を見事に築き上げています。ある場面ではポストパンクやエモの薫りが漂い、また別の場面ではTHIN LIZZYやブリティッシュフォーク的な叙情が立ち上る、そしてそれらに通低する味わいにより異なる音楽性の並びに不思議な統一感が与えられている、というように。ストーナーロック版ロジャー・ウォーターズPINK FLOYD)という趣のボーカルも非常に良い味を出していると思います。BARONESSはインディーロックとメタルの間を繋ぐような音楽性を最も早く体現するバンドの一つとしてALCESTやDEAFHEAVENなどと並びこちら方面の代表格であり続けていましたが、4年ぶりのこの新譜はそうした領域における屈指の傑作になっていると思います。繰り返し聴き込み吟味したいと思わされる不思議な魅力に満ちたアルバムです。

 

 

 

 

 

第16位:MORRIE『光る曠野』

 

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いわゆるヴィジュアル系の領域における神にして日本のアンダーグラウンドシーンを代表する奇才の一人によるソロ名義新譜。同名義の前作『HARD CORE REVERIE』(2014)とCREATURE CREATUREの最新作『DEATH IS A FLOWER』(2017)の中間にあるような作品で、Boris(本作最終曲にも参加)を経由してV系とポストロック/ポストメタルを繋ぐポジションに位置しつつ孤高の音楽性をさらに鍛え上げた傑作です。ゴシックロックとフュージョンプログレッシヴロックを介して融合させるようなコード感覚はいわゆるプログレブラックの代表格(IHSHANやENSLAVEDなど)の上位互換とすら言える蠱惑的魅力がありますし、Z.O.A.の黒木真司をはじめとした達人を従えるバンドとしての演奏表現力も驚異的に素晴らしい。個人的にはアルバムの構成がやや生硬いのが気になってしまうためこの順位としましたが(特にソロ前作の輪郭の整い方との比較で)、これで全く問題ないと思う方もいるでしょうし、安価とはいえないCD(サブスク配信はおろかDL販売すらない)を買って聴く価値は十二分にあると思います。傑作であることは間違いないです。

 

 

詳しくはこちら:

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1107219870855249922?s=21

 

 

第15位:VAURA『Sables』

 

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メタルシーンに属しつつニューウェーヴ~ポストパンクや現代ジャズなどへ自在に越境する達人4名によるバンドが6年ぶりに発表した新譜。前2作はDEAFHEAVENの爽やかさを損なわずアヴァンギャルド方面に大きく寄せたような特異な音楽性でしたが、この3rdフルでは「ブラックメタルのコード進行をJAPAN『Tin Drum』(ポストパンク的な音楽形式のもと無調寄りの音遣いを耽美的な歌モノで魅力的に聴かせた歴史的名バンド)のスタイルに落とし込む」ことで異形のポップスを生み出してしまっています。メタルの領域内ではあまり注目されなさそうな音楽性ですが、ニューヨークの音楽シーンの凄さやメタルという音楽カテゴリの面白さを示す最高の好例の一つだと思います。あらゆるジャンルの音楽ファンに聴いて(そして首をかしげて)みてほしい傑作です。

 

 

参加メンバーの関連作や本作の具体的な音楽性については下記連続ツイートで詳しく触れました:

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1123200964112994304?s=21

 

 

第14位:ももいろクローバーZ『MOMOIRO CLOVER Z』

 

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ももクロは初期から「全ての楽曲で異なる音楽ジャンルを試みる」「一つ一つの楽曲の中で複数の音楽ジャンルを滑らかに接続する」活動を続けてきましたが、それが最も強力かつ不可解な形で達成されたのが本作(4人体制になってから初めてのアルバム)だと思います。現行ポップミュージックの音響基準に完全対応しつつ全曲で異なる音楽性を追求したアルバムで、一枚通しての謎のまとまり感や居心地は似た作品が見当たらない。The 1975やBRING ME THE HORIZONの近作に通じる無節操に豊かな作品で、彼女たちの声(そしてその源となる人間性)がなければ成立しなかっただろう傑作です。

 

 

詳しくはこちら:

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1134115350008614913?s=21

 

 

 

第13位:O Terno『〈atrás/alén〉』

 

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近年のブラジル音楽に不案内な自分は本作を他の何かにうまくなぞらえて語ることができないので、音楽スタイルの形容についてはディスクユニオンのよくまとまっているレビュー

https://diskunion.net/portal/ct/detail/XAT-1245711560

などを参照していただくのがいいと思います。そういう状態で聴いて(ブラジル音楽の作編曲の高度さを知りつつ好みとしてはアメリカ音楽のブルース的引っ掛かりを好むこともあってかうまくのめり込みきれない)自分がまず興味深く感じたのは本作の不思議な居心地でした。最初はゆったりした時間の流れ方が少しかったるく思えたりもしましたが、その上で地味ながら滋味深いというか、隙間がありながらも終始身が詰まっている“常に美味しい”感じにどんどん納得させられていくのです。どこかTHE BEATLES「Sun King」(『Abby Road』後半メドレー序盤の最も穏やかな小曲)に通じる「eu vou」などはその好例で、この独特の微かに変な居心地や絶妙な湯加減は得意ジャンルを越えて楽しませてしまう力があると思います。そしてアルバム全体の上記のような流れのペースを「これはこういうもんだ」と把握した上で聴くと理屈抜きに効く度合いが段違いに増すわけで、「音楽は繰り返し聴かないとわからない時間芸術だ」ということを体感的にとてもよく示してくれる一枚になっていると納得させられるのです。実際アルバム全体の流れまとまりは完璧に良く、坂本慎太郎とデヴェンドラ・バンハートがナレーションを務める7曲目「volta e meia」を真ん中に据える構成も見事にキマっていると感じます。そして本作はアレンジやサウンドプロダクションの作り込みも一見薄いようでいて非常に緻密で、何も考えずに聴き流せてしまうシンプルさと意識して聴き込むほどに新しいものが見えてくる奥行きとが実に鮮やかに両立されています。涼しい顔をしているけれども滅茶苦茶構築的な音楽。末永く付き合いじっくり理解を深めていきたいと思わせてくれる傑作です。

 

 

 

 

第12位:Dos MonosDos City』

 

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一言で言えばジャジーオールドスクール寄りヒップホップということになるのでしょうが、サン・ラやセロニアス・モンクといったフリー寄りジャズ(あくまで“寄り”であって完全な滅茶苦茶でないのがミソかも)とかCAPTAIN BEEFHEARTを4拍子系にまとめたようなトラックは奇怪ながら超聴きやすく、何重にも意味を重ねクレバーにいちびるラップ/リリックにも同様の混沌とした理屈抜きの格好良さがあります。超複雑なことをやりながらも常に上質のユーモア感覚があり、ぶっ飛んだ勢いがあるけれどもチャーミング、という感じの在り方は(フランク・ザッパというよりも)X-LEGGED SALLYやSamla Mammas Mannaに通じるものがあるように思います。ヒップホップ方面のリスナー(海外も含む)には既に熱狂的に歓迎されていますが、普段そうしたものを聴かないプログレッシヴロック方面の音楽ファンもぜひ聴いてみてほしい傑作です。

 

 

自分が最初に聴いたときの反応など:

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1108384430895198209?s=21

 

 

 

第11位:Billie Eilish『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』

 

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今のポップシーンを代表するスターとしての評価が早くも確立された感もあるビリー・アイリッシュですが、それは本人のキャラクターはもちろん本作をはじめとする音楽作品の圧倒的な強度があってこそのものだと思います。超低音と無音を異常なバランスで磨き抜いた(サブスクで有利なタイプの)サウンドデザインが雰囲気表現上の必然性とここまで完璧に結びついた作品は滅多にないですし、そこに完璧に対応する単調なようでいて極めて表情豊かなささやき声は非常に優れた技術&コントロールセンス(感覚だけでなく美意識も)の賜物でしょう。そして本作はそうしたある意味イレギュラーな要素を抜きにしてもとにかく曲が“普通に”良い。シンプルに強い歌メロとそこに厚塗りしすぎないアレンジのさじ加減がともに絶妙で、本作のような過剰な音響に慣れていない人も初見で引き込む卓越したポップさを勝ち得ています。流行ものだから聴かないというのは非常に勿体ない傑作。来日公演が実現したら必ず行きたいです。

 

 

詳しくはこちら:

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1111345274494943233?s=21

 

 

 

 

 

 

第10位:THE NOVEMBERS『Angels』

 

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もともと素晴らしい作品を作り続けていたバンドがさらに数段突き抜けた大傑作。曲単位で設定されたテーマ

(例えば3曲目「Everything」では「tears for fears的なリズムアプローチにL`Arc~en~Cielのピアノリフをオマージュしてユーミン的なソングライティングを当て込んだ」

https://twitter.com/the_novembers/status/1141344816787103746?s=21

とのこと)

のもとで元ネタとは別のエクストリームなポップソングを生み出してしまう手管が本当に素晴らしく、単にコンセプト作りや設計がクレバーというだけでなくそれらに頼りきらず縛られない自由な閃きや化学反応が生じているように思います。全9曲36分という簡潔な構成も絶妙で、何度でも気軽に聴き通せてしまい更にリピートしたくなる聴き味はこのアルバムデザインあってこそのものでしょう。NINE INCH NAILSBUCK-TICK、JAPANらの代表作に並ぶと言っていい一枚で、海外のゴシックロックには出せないV系~歌謡ロック由来と思しき柔らかさもたまらない。個人的にはコード進行の傾向が生理的な好みから微妙にずれる(もっと落ち着くものを求めてしまう)ために順位としてはこのくらいにせざるを得ませんでしたが、日本からしか生まれないタイプの世界的大傑作であることは間違いないです。

 

 

詳しくはこちら:

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1105493099738886144?s=21

 

 

 

 

 

第9位:Tyler, The Creator『IGOR』

 

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ヒップホップ~ソウルミュージック史上の歴史的名盤という評価が早くも固まりつつある傑作。「初回はアルバム全体を徹底的に集中して聴き通せ、携帯をチェックしながらとかテレビを観ながらとかはダメだ、それ以降は好きにしてくれ」と本人が言うとおり全体の構成は文句なしに素晴らしく、輪郭を綺麗に磨き抜かれてはいないごつごつした感じこそが唯一無二のまとまり感に繋がっている印象もあります。山下達郎「Fragile」を引用した(サンプリングではなく自ら演奏しなおした)「GONE GONE / THANK YOU」ばかりが注目されますが全体的に非常に興味深い音楽性で、仄かにブラジル風味のある系統の70年代ソウル(スティーヴィー・ワンダーリオン・ウェア)にクラウトロックや初期SOFT MACHINEのような朦朧とした酩酊感覚が加わった趣もあるし、68~71年頃のプログレッシヴな英米ソフトロック(または73~75年頃のMPB)のリズム的な足腰を超強化した感じもあります。そしてそうした例えができる一方で音作りや和声進行には独特のクセがあり、豪華な客演陣の音をほとんど誰かわからないくらい変調させる(それにより作品全体の統一感を増す)処理なども含め、他では聴けない素敵な謎に満ちた一枚になっていると思います。非常に聴きやすく汲めども尽きせぬ深みもあるという点でも理想的な、異形で美しいポップミュージックの大傑作です。

 

 

詳しくはこちら:

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1129337479230705664?s=21

 

 

第8位:Suchmos『THE ANYMAL』

 

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「STAY TUNE」などのシティポップ寄りビートミュージック曲で人気を集めたバンドがそうした路線を鮮やかに捨てた挑戦作。これが本当に素晴らしい内容で、60年代末あたりのハードロック/プログレッシヴロックリバイバルとも言えるスタイルなのですが、当時はありえなかった(離れたシーンを現代から俯瞰したからこそ一緒の視野に入れられる)要素の組み合わせがこのバンドならではの渋く爽やかな音遣い感覚のもとで美味しくまとめられています。PINK FLOYDやTHE BANDといったブルースベースのロックをソウルミュージックがかった神奈川のセンスで昇華した感じの一枚で、クラウトロック(10分におよぶ大曲「Indigo Blues」でのASH RA TEMPLEからCANを経由してPINK FLOYDに繋がるような神秘的展開など)や陳信輝~SPEED, GLUE & SHINKIなど70年代日本のニューロックの混沌を損なわず極上の歌モノにまとめた趣も。同じメンバーで続けてきたロックバンドにしか生み出せない“クセのあるまとまり”的珍味に満ちたアンサンブルも素晴らしい。過去作に惹かれたファンにとってはビートミュージック要素(コード感などに注目しなくても楽々ノレるわかりやすい取っ掛かり)をほとんど排除した本作はキツイという意見も多いようですが、ライヴを観る限りでは本作の曲は過去曲と違和感なく並んでいましたし、時間をかけて受容されていくタイプの作品なのではないかと思います。個人的好みからすれば最高の音楽。このバンドに対し「しょせん流行ものでは」的なイメージのある人こそ聴いてみてほしい大傑作です。

 

 

詳しくはこちら

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1110577415447695360?s=21

 

 

 

 

第7位:FLYING LOTUS『Flamagra』

 

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いわゆるブラックミュージックにおけるプログレッシヴ・ロック的感覚/構造の受容という点において一つの最高到達点と言えるアルバム。FLYING LOTUSは以前からGENTLE GIANTやSOFT MACHINE、CANなどをよく聴いていると発言しており、FINAL FANTASY Ⅶなどのゲームサントラもあわせブルース的引っ掛かりの少ない音楽からも積極的に影響を受けてきたようですが(親族であるジョン・コルトレーンアリス・コルトレーンのようないわゆるスピリチュアルジャズ~フリージャズ方面の音が同様にブルース的引っ掛かりから距離を置くものだったというのもその下地になっていた面もあったかも)、本作においてはそちら方面のアイデアや構築美が楽曲単位でもアルバム単位でも過去最高の形でうまく活用されています。最先端のビートミュージックで培われた知見でカンタベリープログレや近現代クラシック(ストラヴィンスキーあたり)を転生させたような趣も。よく編集し抜かれた一本の映画のような構成力があり(デヴィッド・リンチがナレーションを務める13曲目「Fire Is Coming」を挟む前半後半はともに約32分という凝りよう)、それでいて過剰な解決感もなく繰り返し聴き続けられる。マッシヴなボリューム感を気軽に呑み込ませてしまうクールで熱い大傑作です。

 

 

詳しくはこちら:

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1131575850405548036?s=21

 

 

 

 

 

 

第6位:WASTE OF SPACE ORCHESTRA『Syntheosis』

 

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フィンランドの地下メタルシーンを代表する(知る人ぞ知る)名バンドORANSSI PAZUZUとDARK BUDDHA RISINGの合体バンドによる1stフルアルバムで、後者のラフな混沌を前者のタイトな構成力でまとめる感じの方向性が完全に奏功。同郷のCIRCLEやUNHOLYといった何でもありバンドの気風を最高の形で継承発展する大傑作です。作編曲・演奏・サウンドプロダクション全てが著しく優れたアルバムで、4曲目「Journey to the Center of Mass」における29拍子ベースリフ&3拍子系の上物フレーズ(29拍と30拍の絡みで1周期ごとに1拍絡むポイントがズレる)のような仕掛けを全く小難しく感じさせず[集中しつつ忘我に至る]的感覚の源としてしまうのがまた見事。カルトでマニアックな内容ながら道筋の滑らかさキャッチーさはポストメタル方面の作品の中でもトップクラス。エクストリームメタルの歴史における金字塔になりうる一枚です。

 

 

 

本作については下記の連続ツイートに背景も含め詳しく書きました:

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1115571744855560192?s=21

 

 

 

第5位:Moodymann『Sinner / KDJ-48』

 

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2018年に発表される予定だったものの権利関係の問題(サンプリング使用許可についてか)からお蔵入りになり地元での手売りのみとなっていたと言われるアルバムの一般流通版?少数販売されたLP版は5曲、その後Bandcamp

https://moodymann.bandcamp.com/album/sinner-kdj-48-2

でDL販売されたバージョンは9曲(クレジットは7曲だがDLするとさらに2曲ついてくる)となっています。内容は当然のごとく最高で、出音の美しさは名盤揃いの過去作をも上回ると言っていいと思います。

自分がいわゆるブラックミュージックに感じる最大の魅力の一つに「整体感覚」というものがあります。無駄な力みのないしなやかな脱力状態から一音一音が最短距離で響きの芯を打ち抜き、しかもそれらが整ったビート座標軸の上に綺麗に並び繋がっていく。ロックなどの良くも悪くも不均一にヨレたリズム処理では得られない整然とした流れがあり、それを聴いていると身体の凝りのようなものが滑らかにほぐされ姿勢が正される。これは基本的にはソウルミュージックなどのスムースな密着感を伴う生演奏(「出音からビートの流れが生まれる」ようなアンサンブル)でこそ得られる聴き味で、ヒップホップなど(「定型的なビートの流れがまずあり出音はそこに絡まず横目で見つつ併走する」感じの手順・関係性)では得にくい感覚です。Moodymannが凄いのは打ち込み主体のハウスで最高級の整体感覚を生み出してしまえることで、キックの4つ打ちを聴くだけでもその驚異的な精度は即座に把握できるはずです。そのキックに限らず一音一音が徹底的に磨き抜かれ、それでいてそこには神経質な感じが一切みられず(STEELY DANなどとはその点対照的)、聴く分にはその整った均整の美しさを何も考えずひたすら心地よく愛でることができる。精密動作性Sなのに楽天的という感じの、隅々まで心地よい上に意識的に聴き込んでも面白い音楽です。構造把握に関して言うと、一聴して凄さがわかりつい耳が向くキック四つ打ちよりもそれ以外(ハイハットなど)に注目する方がアンサンブルの輪郭をうまく掴め適切なポジションから観測できるようになると感じます。LP版の締まった5曲構成もDL版の広がりのある9曲構成もともに良い。気分に合った方で何度でも繰り返し浸りたくなる素晴らしいアルバムです。

 

 

 

 

第4位:Sunn O)))『Life Metal』

 

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ハードロックからブラックメタルに至るHR/HM全領域や日本のノイズ~アヴァンギャルドシーン(根っこを辿っていけば現代音楽などにも繋がる)などの膨大な音楽的背景をヘヴィなギタードローンに落とし込むユニットの最新作。自分は前作『Kannon』(2015)などで前面に出ていた湿ったコード進行(フューネラルドゥーム的なやつ)があまり好みではなく、そういうこともあってか過去作にはあまりハマれなかったのですが、本作はそういう悲観的な雰囲気からとても良い感じに距離を置いてくれていて(完全に捨て去っているわけではないのが絶妙)素直に惹き込まれることができました。どことなくCELTIC FROST『Monotheist』あたりに通じる艶やかなモノトーン感は非常に魅力的ですし、スティーヴ・アルビニ録音ということもあってかNEUROSISに仄かに通じる感じも好ましい。鳴らしたギター音が膨らみ減衰していくのを放置観察しそれに合わせて次の音を出しているような独特のリズムコントロールは定型ビートというよりは楽器の特性や演者の呼吸間隔から流れを生み出しているような趣もあり、個人的にはどことなくフリップ&イーノ『No Pussyfooting』を連想させられたりもします。SLEEP『Dopesmoker』とEARTH『2』の良いところ取りのようなサウンドで曲自体も魅力的というある意味完全無欠の音楽。Bandcampでは24bit 96kHzのハイレゾ音源でDLできてしまうのでそちらのフルスベック音質で堪能することをお勧めします。心地よすぎる爆音浴アルバムです。

 

 

 

詳しくはこちら:

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1125751740270166017?s=21

 

 

 

第3位:black midi『Schlagenheim』

 

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新人バンド(2017年結成)ながらライヴの凄さ(単独やダモ鈴木との長尺セッションなど)もあってか音源発表前から各所で極めて高い評価を受けていましたが、満を持して発表されたこのデビューアルバムはそうした下馬評を数段上回る驚異的な内容になりました。[NOMEANSNOと70年代GENESISを掛け合わせたようなハイエナジーかつ超繊細な演奏、全盛期GENTLE GIANTと初期SWANSをCAPTAIN BEEFHEART経由で融合したような異常に豊かな作編曲。SLINTの歴史的名盤『Spiderland』にも並ぶような化け物級傑作]とか[MAHAVISHNU ORCHESTRAとDEAD KENNEDYSの共通点をBLACK SABBATHTHIS HEATで補強し連結した]みたいにいかようにも例えられる混沌とした音楽性で、膨大なバックグラウンドを溶かし合わせ簡潔に提示する複雑かつキャッチーな楽曲、異常な馬力を無駄に振り回さず繊細な緩急の設計に駆使してしまえる演奏コントロール能力など、キッズにも訴求するキャッチーさとマニアをぶっ飛ばす奥行きが理想的な按配で両立されているように思います。ピーター・ガブリエルやチャールズ・ヘイワードのような“プログレとパンクを普通に繋ぐ”名人たちと似たものが感じられるのも興味深い。そして以上のようなことを踏まえた上で個人的には何より音進行などの味わいそのものが生理的に好み。長く付き合っていけそうな傑作です。

 

 

詳しくはこちら:

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1141735775563730944?s=21

 

 

第2位:Devin Townsend『Empath』

 

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様々なプロジェクト形態で異常に多様な音楽性を追求してきた天才/奇才デヴィン・タウンゼンドの集大成的大傑作。一言で形容するなら[ニューエイジメタル版フランク・ザッパ]という感じの音楽で、超絶テクニカル&クリーンな音像に完璧な表現的必然性を持たつつそういうのに付きものなスピリチュアルな臭みを一切漂わせないという困難なバランスを極めています。豊かすぎる音楽性も含めジェイコブ・コリアーに通じる感じもありますが、個人的にはデヴィンの本作の方がさらに上だと思います。74分もあるのに何度も続けて聴きたくなるアルバム全体の構成は理想的。海外ではサブスクはおろか公式YouTubeチャンネルでもフル公開されているようなのに日本ではそれができずフィジカルでも国内盤が出ていないこともあって非常に聴かれづらい、というのが勿体なさすぎるアルバム。少しでも興味を持たれた方はぜひ輸入版CDなり海外サイトのDL販売などで聴いてみてください。絶対に損しないはずです。

本作に関しては過去作も全て聴き込んだ上で改めて詳しい記事を書きたいと考えています。

 

 

参考:

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1120330767853162496?s=21

 

 

第1位:Solange『When I Get Home』

 

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早くも歴史的名盤との定評が固まりつつある稀代の大傑作。アルバムの構成についていうと、短い楽曲の単位で切り分けてみると(印象的なフレーズばかりからなるものの)単体では成立しにくそうな抽象的なものばかりになっているのですが、一作全体としては非常に優れた流れまとまりがあり、無限リピートに耐える強度や奥行きが備わっています。これは場面転換を繰り返すDJセットの構成やその上での大局的な時間感覚の反映という面もありそうですが、その上で、このところ完全に定着したサブスクリプションサービスでの聴かれ方に対応しつつ芸術的欲求を満たすために編み出された在り方という感じもします。曲単位の再生回数に応じて収入が得られるという方式に対応するために[アルバムを途中で止めると歯切れが悪いから聴き通してしまう、途中で止められても再生数がカウントされるからそのぶん収入が得られる]という最近増えてきた形態の最高の好例というか。これは[短編集でなく長編としてのアルバム]を新たな形で再構築するような傾向で、[各楽曲がアルバムという括りなしでも成立する(単曲=短編と言える)作品]から[各楽曲がアルバムという括りなしでは成立し難い(単曲=長編の一部とみるべき)作品]にシフトしてきているようにみえるわけです。それは上で触れたFLYING LOTUS『Flamagra』にも言えることで、今後もしばらくはこうした形態を試みるアーティストが増えていくのではないかと思います。

こうしたことを踏まえた上で音楽性についても触れたいところですが、全編非常にキャッチーで親しみやすい(神秘的ながら等身大の強さ可愛らしさもある)楽曲&演奏が終始素晴らしいということはよくわかるものの、他の何かで容易になぞらえてしまえる領域を遥かに超えた個性的な楽曲構造など、現時点(50回程度は聴き通しています)ではなかなかうまく解きほぐしきれないというのが偽らざるところです。個人的にはMESHUGGAH並にどんな気分の時でも飽きずに繰り返し聴き続けられるアルバムになっていますし、じっくり読み込んだ上で改めて詳しい記事を書いてみたいと思います。

 

 

 

参考:

https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1101489863092666369?s=21