2015.3.3 KISS&ももいろクローバーZ @ 東京ドーム:無骨で可愛らしいスーパーヒーローによる、アーティスト性とショーマンシップの最高の両立

とても楽しいライヴでした。そしてそれだけでなく、KISSとももクロの共通点など、見ていて気付かされることの多い機会でもありました。そうした諸々の話を、ライヴレポートも兼ねてまとめておきたいと思います。

(KISS・ももクロの兼ファンとしての感想です。)

今回のライヴは、KISS側の意向により「携帯・スマートフォンであれば静止画撮影OK(プロ機材・デジカメ・タブレットは不可)」だったので、私も幾つか写真を撮ってきました。(iPhone5sを使用)
距離・逆光が厳しく、微妙なものしか撮れませんでしたが、参考程度にはなるかと思います。あわせてご覧ください。



【ライヴレポート】

19:22〜21:10。素晴らしいライヴでした。堅実で味わい深い演奏と、非常に聴き取りやすいMCを挟みながら滑らかに繋ぐ構成力は、他のバンドにはなかなか真似できないものでしょう。約100分の長さが短く感じられる、大変楽しいライヴでした。行って良かったです。


まずは音響の話から。今回私はアリーナC9の10列目(全体のほぼ中央・少し前方)で観ていました。ステージ左右のスピーカーに対しうまく中央に位置できていて、サウンドバランスに関しては最も良い位置だったのではないかと思います。 

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これがスタンドの方になると、距離が遠いことによる遅れや反響などによって、音響はかなり厳しいことになっていたのではないかと思います。
(帰り道で「音が潰れていて全然わからなかった」という会話を聞きました。)

MCでポール・スタンレーが「上を向いて歩こう」を歌った際、アフタービートで入る客の手拍子が、(アリーナから聴くと)スタンド側のが「4分音符の3連×2つ分」遅れて聴こえる、という感じ。
距離がある上に反響がキツく、音を申し分なく楽しめる場所はやはり限られたのではないかと思います。

 私のいた位置では、ドラムス・ベース ・ギターの音が全てバランス良く分離して聴こえ、ボーカルは(メロディラインはわかるものの)ややぼやけている、という感じでした。
曲ごとに演じ分けるグルーヴ表現のうまさも、トミー・セイヤーの素晴らしいリードギターも、申し分ない形で聴けたと思います。


今回のKISS、演奏はとても良かったです。ボーカルは「問題はないだろう」という位しかわからなかったので詳しい吟味は避けますが、楽器パートの表情豊かなアンサンブルは実に見事でした。テンポの速さ遅さに応じてグルーヴ作りを変える手腕が実に巧みで、「バンドとしての」実力を感じさせてくれました。

 個人的に特に好感を持ったのは「Parasite」「God of Thunder」の2曲ですね。前者の切れ味鋭く丁寧にカッティングするリフワークは痺れるほど格好良く、後者のゆっくり歩を進める重いグルーヴも実に良い。速くやっても遅くやっても“旨い”アンサンブルは本当に見事でした。

そのサウンドの目玉になるのがトミー・セイヤーの素晴らしいリードギターです。美しい鳴りと丁寧でテクニカルなフレージングが実に見事で、オープニングの「Detroit Rock City」から最後まで、アンサンブルの“顔”として全体を引き締めていたと思います。文句無しに良かったです。


そして、KISSといえばパフォーマンスの格好良さ。以上のような演奏の旨みがあるからこそ、派手で外連味のある仕掛けが活きるのです。まともに撮れてなくて恐縮ですが、写真は「War Machine」での火吹き直後、松明を床に刺すシーンです。 

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こちらは同じくジーン・シモンズによる「God of Thunder」。血吐きベースソロから、ワイヤーにつかまり天井近くのお立ち台に着地。そこで歌いつつ、ソロパートで暗転しているうちにステージに降りてくるという、なんとも無茶な進行です。 

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これはポール・スタンレーによるケーブルアクション。Paulコールを要求し煽ってから、ステージ右側の花道から吊り下げケーブルで飛び、アリーナ中央の出島(PA卓の上)に着地します。そこで「Love Gun」をフルで歌うわけです。 

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このケーブルアクション、安全ベルトなどを付けてないんですよね。ギターを背負いつつ、簡単に足をかけるだけで数十メートル以上の距離を飛んでいく。
度胸はもちろん、演者とスタッフの間に相当の信頼関係がないとできない仕事です。 

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出島に着地して「Love Gun」をやった後は、「Black Diamond」のイントロを弾き語り、再びケーブル(写真左側)に吊り下がってメインステージに戻っていく。このあたりの進行は実に滑らかで、手間取るようなことは一切ありません。 

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こういうパフォーマンスだけでなく、KISSのライヴは全ての面において卓越したショーマンシップに貫かれています。特に素晴らしいのがMCです。開演から3曲続けて演奏した後は1曲毎にMCを入れるのですが、それが実に丁寧で面白く、そしてチャーミング。英語がわからない人も楽しめるはずです。

ポール・スタンレーのMCはとにかくゆっくりで聴き取りやすく、聞き手に理解力を要求しません。それでいて、「客をナメている」素振りを見せることもない。
非常に丁寧なのに、「ゆっくり喋ってやってる」のではなく「自分は誰に対してもこうやって喋るものだ」と感じさせる自然さがあります。

MCだけでなくショウの全編に感じられることなのですが、KISSというバンドは「腰は低いが低すぎない」のです。細部まで行き届いた気配りをし尽くしながら、程よい“乱暴さ”を残し、客に媚びた様子を見せません。
子供が見ても楽しめるくらいのわかりやすさで「荒々しくグラマラスなロック」のイメージを提示しつつ、「お子様向け」というふうなナメた感じは毛ほども匂わせない。
「いかにもロックスター」というような“俺様”感を希釈したかたちで残し、可愛らしく親しみやすい雰囲気と両立しているさまは、「遊園地のスーパーヒーロー」といった趣があります。
絶妙な距離感を持ったコミュニケーション能力は、達人の域にあると言えますね。

凄いのはそれだけではありません。そうした(丁寧でゆったりした)演出を多用しながらも、ショウ全体の流れが全くダレないのです。演奏で押していく所とMCで休憩していく所の緩急構成が抜群によく、約100分の長さを疲れさせず過ごさせてしまう。
このホスピタリティと展開力は、他のバンドには真似できない強力な長所です。

ポール・スタンレーのMCで個人的に一番感心させられたのが「Tokyo」の発音です。殆どの外タレはこれを「トキオー」と言うのですが、KISSは「トウキョウ」。
「アリガトゴザイマス」がちゃんと「ありがとうございます」に聞こえる言い回しもそうですが、本当に気遣いが見事なんですよね。

「自分が子供の頃は日本のことを全然知らなかったけど、全米1位のこの曲には心を震わされた」と言って「上を向いて歩こう」を日本語詞で歌い、「79年に日本で1位を取らせて貰ったこの曲を歌いたい」という紹介から「I Was Made for Lovin' You」に繋げる構成も流石です。

KISSのライヴは、以上のような「おもてなし」精神の塊です。要求されるレベル以上に客を満足させることが最良のビジネス手法だということを知り尽くし、手を抜かず実践している。そしてそれが自らの表現意欲と完全に結びついている。アーティスト・ビジネスマンという二つの自我が完璧に両立されているのです。

そういう意味において、KISSというバンドは最高のプロフェッショナルなのです。
今回客演したももクロも、そういう「おもてなし精神」を持ち「アーティスト性とショーマンシップを両立」しているわけですが、KISSほど強力で自然な形では出来ていない。学ぶ事が多かったのではないかと思います。


何かと話題になっていたももクロのゲスト出演は、蓋を開けてみればアンコールの2曲(「夢の浮世に咲いてみな」「Rock and Roll All Nite」)のみ。MCの喋りはおろか定番の「Z」ポーズさえありませんでしたが、その分“アイドル要素”が前面に出ず、パフォーマンスの良さがストレートに映えたのではないかと思います。

アイドルノリに慣れると忘れがちですが、「私たち!いま会えるアイドル、週末ヒロイン・ももいろクローバー・ゼ〜ット!」というような自己紹介は、初めて聞く人には気恥ずかしく感じられると思うんですよね。
KISSの可愛らしくも無骨な雰囲気とより深く合わせる意味でも、外したのは正解だったと思います。

特に、今回ももクロがカバーした「Rock and Roll All Nite」は、KISSライヴの大トリを務める一つの最重要曲であり、ヘタに出しゃばるとKISSアーミーの気持ちを思いっきり逆撫でする危険性が高いわけです。
今回は、最も巧いやり方でそれを回避できたのだと思います。

ただ、そういう「なんとか無事済んでよかった」という心配が余計な気遣いと思えるくらい、「KISSとももクロには共通点が多い」ことを実感させられる場面も多かったです。無骨で勢いあるエネルギーと、柔らかく懐の深い可愛らしさとが、齟齬を生むことなく自然に両立されている。そのバランスは勿論それぞれ異なりますが、相性は非常に良い。ステージに一緒に立っても全く違和感ありませんでした。

アンコールでの共演はわちゃわちゃした華やかさが実に楽しいものでした。イントロの振り付けから空気をつかみ、初見の観客をも有無を言わさず惹き込んでいく力量は見事。KISSと並んでも格負けする感じが全くありませんでしたし、そういう存在感を嫌味なく自然に示してしまえる舞台度胸や親しみやすさは(それをあえて強調していないので当たり前のもののように見過ごしがちですが)相当凄いものなのだと思います。技術的にはまだまだ成長の余地がありますが、「人間としてのでかさ・懐の深さ」という点で、稀有のスーパースターになりつつあることを実感させてくれました。

個人的に特に印象に残った場面は、最後の最後、定番のギター破壊パートで、ステージ中央に並んだももクロちゃんの前でポールがギターを回し、それに合わせて大縄跳びのように5人がジャンプしていた所。実に微笑ましかったです。


改めて今回の共演を振り返ってみると、ももクロと本格的にコラボするならもっと他にもできることがあったとも考えられますが、あくまでKISSのショウをベースにした観せ方という点では、今回のやり方がベストだったのではないかと思います。個人的には隅から隅まで楽しめました。非常に良いライヴだったと思います。 

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などなど、長々書き連ねてきましたが、KISS・ももクロ・観客の全てにとって、得るものの多いライヴだったのではないかと思います。
KISS、また何度でも来てほしいですね。
本当に楽しかったです。 

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なお、今回の公演では、ステージ上スクリーン用の撮影に加え、ステージ奥からもプロ仕様のカメラで撮っていました。
「映像作品として発売する」という発言はありませんでしたが、商売を考えれば当然その計画はあるでしょう。
(商売に聡いジーン・シモンズ社長がそれを考えていないはずがない。KISS・ももクロ双方のファンに売り込めるはずですし。)
ライヴ作品としての発売がなかったとしても、舞台裏ドキュメントとして何か作るのは間違いないはず。
期待していいと思います。


【セットリスト】

01. Detroit Rock City
02. Creatures of the Night
03. Psycho Circus
04. Parasite
05. Shout It out Loud
06. War Machine(アウトロでジーンが火吹き)
07. Do You Love Me
08. Deuce
09. Hell or Hallelujah(トミーのギターソロ→ギターヘッドから花火砲)
10. I Love it Loud
11. Lick It Up(ドラムス・ギター2人の台がせり上がる)
12. God of Thunder(血吐きベースソロ→ワイヤー上昇)
13. 上を向いて歩こう(日本語詞・1番のサビ前まで)
14. I Was Made for Lovin' You
15. Love Gun(ケーブルで出島に飛行)
16. Black Diamond(ケーブルで出島からメインステージに飛行)

(ステージ上からの写真撮影)

<アンコール>
17. 夢の浮世に咲いてみな(with ももいろクローバーZ
18. Rock and Roll All Nite(with ももいろクローバーZ


本編終了後、ステージ上の幕が左右から閉まったのち、KISS・ももクロ双方のロゴが交互に映し出されるという演出がありました。
(ナタリーの記事などでは「応援合戦」と書いていますが、片方だけでなく両方に対し声援を送っていた方も多かったです。)


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ペンライト使用率は、KISS単独出演時は「全体の1割よりやや少ない」くらい。アンコールの共演時は、全体の数割にまで増えたようです。
アリーナ(KISSのファンクラブや呼び屋UDOの有料会員でなければ取りにくい)では、どちらの時点でも(ゼロではないですが)少なめ。私(2013年の武道館で買ったKISS Tシャツ着用、ももクログッズは装着せず)も、持参はしたものの結局使いませんでした。
ただ、KISSアーミーの方の感想を見ていると、ペンライトに関しては概ね好評な感じですね。確かに客席が非常に華やかになりますし、ステージから見ても嬉しいものだったのではないかと思います。

(同会場におけるポール・マッカートニーの2013年最終公演では、主催側からシークレットで赤(「ポールのトレードマーク」)のペンライトが配布され、アンコールの「Yesterday」で一斉点灯されて、ポールが感極まって泣きそうになる、という話がありました。ももクロのカラフルなペンライトに慣れている身としてはあの赤一色の光景は多少攻撃的に思えたものでしたが、それでも確かに華やかさがあって良かったと思います。)

「真後ろに位置して視界を遮られた」というような実害を被らない限りは、盛り上がりに貢献する良いものとして歓迎されていたように思います。

客入りは
・アリーナは当然満杯
・1階スタンドは、ステージ両脇の7ブロックずつが空席
(ステージからみて左側はその7ブロック目の下半分だけ入っている)
・2階スタンドはほぼ中央付近のみの入りで、全体の上半分が空席
(「上の人は前方席に詰めていい」との指示があったらしいです)
という感じ。公には3万〜3万5千人位の動員だったということです。
「当日券(S席¥12500)で入ってバルコニー席に案内された」という報告もありました。

参考:東京ドームの会場レビュー



【余談】

ライヴ中に写真を撮ったのは今回が初めてなのですが、やはりこれは良くないですね。
マナーとかモラルの問題というよりも、個人的な思い出の点で良くないことがあるように思います。

たとえば「Love Gun」のケーブルアクションでポールが目の前を飛んでいく場面とか、アンコールの幕が開いてステージ中央でももクロちゃん達が空気を作っていく場面など、様々な見せ場を写真で捉えようとすることにより、そういうシーンを“まっさらな目で”“気兼ねなく”観ることができなくなってしまうのです。

携帯カメラの粗い画像を通してステージを見つめ、そして終演後も、自分の撮った写真を見返すことにより、肉眼で見た“解像度の高い”記憶が画素の粗いもので上書きされてしまう。

公式のカメラ(ステージ前とかワイヤー使用のスパイダーカメラなど)では捉えられない位置や角度もありますし、“自分だけのこの瞬間”というのも確かにあるでしょう。しかし、個人的にはやはり、目の前で起こっている(動きのある)出来事は全て肉眼で鮮明に捉え、どうしても写真が欲しければ公式の画像や映像作品で補完するのが良いのではないか、と感じました。
こういう感想を得られたという点でも、自分にとっては得難い経験になりました。とても味わい深いライヴでした。


【参考として】

・コラボレーション・シングル『夢の浮世に咲いてみな』の音楽的分析
・KISSを経由して前後につながるロック〜パンク〜メタルの音楽的系譜
について書き連ねている連続ツイートのリンクです。
今回の共演に関連する話です。よろしければご参照ください。
(後日まとめて別記事にする予定です)