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【2016年・上半期ベストアルバム】(未完成)

【2016年・上半期ベストアルバム】(未完成)



・2016年1〜6月に発表されたアルバムの個人的ベスト20です。

・評価基準はこちらです。
個人的に特に「肌に合う」「繰り返し興味深く聴き込める」ものを優先して選んでいます。

・これはあくまで自分の考えなのですが、ひとさまに見せるべく公開するベスト記事では、あまり多くの作品を挙げるべきではないと思っています。自分がそういう記事を読む場合、30枚も50枚も(具体的な記述なしで)「順不同」で並べられてもどれに注目すればいいのか迷いますし、たとえ順位付けされていたとしても、そんなに多くの枚数に手を出すのも面倒ですから、せいぜい上位5〜10枚くらいにしか目が留まりません。
(この場合でいえば「11〜30位はそんなに面白くないんだな」と思ってしまうことさえあり得ます。)
たとえば一年に500枚くらい聴き通した上で「出色の作品30枚でその年を総括する」のならそれでもいいのですが、「自分はこんなに聴いている」という主張をしたいのならともかく、「どうしても聴いてほしい傑作をお知らせする」お薦め目的で書くならば、思い切って絞り込んだ少数精鋭を提示するほうが、読む側に伝わり印象に残りやすくなると思うのです。
以下の20枚は、そういう意図のもとで選ばれた傑作です。選ぶ方によっては「ベスト1」になる可能性も高いものばかりですし、機会があればぜひ聴いてみられることをお勧めいたします。もちろんここに入っていない傑作も多数存在します。他の方のベスト記事とあわせて参考にして頂けると幸いです。

・ランキングは暫定です。1ヶ月ほどかけて細かく練りましたが、今後の聴き込み次第で入れ替わる可能性も高いです。

・説明部分が未完成のまま放置していたら9月末になってしまったので、残りは年末の「年間ベストアルバム」記事(30枚を予定)に先送りすることにしました。不完全な内容で申し訳ありませんが、何かのお役に立てれば幸いです。



上半期Best20



第20位入江陽SF

SF

SF


“若手”を代表するシンガーソングライター/映画音楽家・入江陽(いりえよう)セルフプロデュースによる3rdアルバム。全ての歌詞を自身で書き、7人の音楽家と共同で作編曲しています。

私はこの人のことを前作『仕事』が発売された頃に知り、評判の高さを知りつつもなんとなく音源を聴かずにいたのですが、今年4月の京都公演でたまたま観てたちまち感銘を受けることになりました。
ツチヤニボンド・ムーズムズとの対バン:感想はこちら
この時はソロピアノの弾き語り(数曲で中川裕貴が特殊奏法のチェロで参加)で、ジャズ〜歌謡曲をフリー/アンビエント音楽的な“気の長い”時間感覚で引き伸ばしていくスタイルだったのですが、全編でフィーチャーされる歌が圧倒的に素晴らしく、個性的で卓越した味わいに深く酔わされることになりました。スガシカオ槇原敬之の良い部分だけを綺麗に融合させたような歌声で、柔らかく塩辛い声質をもってミックスヴォイス〜ファルセットを完璧な力加減で繋げ通す。中高域を滑らかに飛翔するフレージングの技術は完璧で、これほど“これは何でも歌えるだろう”と思わせてくれる人はそういるものではありません。その上この人にはそういう技術をひけらかすようなところが全くなく、聴き手に抵抗感を抱かせず染み入る表現力を勝ち得ているのでした。
他人に何かを評価してもらうための最も大事な条件に「自画自賛をしない」というものがあります。これは「自意識を押し出さない」「聞く耳を持たない姿を見せない」とも言い換えられるもので、入江陽にはこうした「技術に溺れるいやらしさ」や「聴き手を不必要に驚かせ感情を揺さぶる様子」が全くないのでした。
そうした歌の見事さに加え、MCにおける“韜晦しながら柔らかく煙に巻いていく”ようなユーモアも、微妙にねじくれた美しさに満ちた作編曲も、上記の“自意識を押し出しすぎない”絶妙なバランス感覚を示してくれるもので、終始余計なことを考えさせず楽しませてくれる内容になっていたと思います。これは、いわゆる音楽通の間でハイプ気味に持ち上げられているような気がしてなんとなく距離を取っていた自分の偏見を良い意味で覆してくれるもので、既発のスタジオ音源もぜひ聴いてみようと思う機会になったのでした。

そうしてまず聴いたのがこの3rdアルバム『SF』です。評判通り確かに非常に良い内容で、この人を評する際によく用いられる「ネオソウル歌謡」(※ネオソウル:D'Angeloなどに代表される「ヒップホップを通過したソウルミュージック」)を土台に、様々な音楽要素が個性的な按配で巧みに溶かし込まれています。ブラジル音楽と80年代ニューウェーヴのエッセンスを衝突させずにすっきりまとめたような音遣い感覚は淡白だけど実に味わい深いですし(ブラックミュージックがベースになっているわりにブルース的な引っ掛かりが強くないのはやはり“歌謡曲”だからということでしょうか)、そうした音遣いを巧みに捻ったリズム構造でほどよく刺激的に仕上げる作編曲も見事です。その上で素晴らしいのが先述のような卓越した歌唱表現力で、鼻歌で聞かせても問題なく映えるような“よく立った”歌メロを、どこまでも魅力的にカタチにしてくれています。どこか“やさしくいやがらせする”感じのある飄々とした歌詞は、以上のような音楽の性格を過不足なく示すものと言えるでしょう。

アルバムの流れはやや“一方通行”(最後の曲から最初の曲に繋げた時に少し違和感がある)という気もしますし、作編曲的にも更に良くなる余地はあるだろうという気もしますが、十分楽しんで聴き込める一枚になっていると思います。
他にない奇妙な味わいを聴きやすく親しみやすいカタチで示してしまう、優れた“歌モノ”の傑作です。


参考:入江陽による「無人島アルバム」10選



第19位BELLRING少女ハートBeyond

BEYOND

BEYOND


現代アイドルシーンを代表する実力派グループの3rdフルアルバム。それまでの持ち味を活かしつつ新境地を開拓した傑作で、他では聴けない凄まじい個性が一層魅力的に示されています。

自分がBELLRING少女ハート(べるりんしょうじょはーと:略称ベルハー)に興味を持ったきっかけはこの記事でした。
もともと「楽曲派アイドルファンが最も推すグループのひとつ」という話は聞いていながらも聴かずにいたところ、この記事で紹介されていた超絶的特殊パッケージ(CDを据え付けるプレートがブックレットからバンジージャンプ風に垂れ下がる仕様:上記記事の写真をぜひご覧ください)に興味を持ち、過去作は再発されずにプレミアがついているという状況にも後押しされ、試聴もせずにこの新譜『Beyond』を買ったのでした。

そうして聴いた『Beyond』は、個人的には近年稀にみる衝撃的な傑作でした。60年代後半〜70年代初頭の英国ロックや日本の歌謡曲のエッセンスをダシの部分に備えた「インダストリアルテクノ+北欧ゴシックメタル」という趣のトラックは非常に強力で、複雑な味わいをすっきり聴かせてしまう作編曲も“冷たく潤う”サウンドの雰囲気表現力も抜群に素晴らしい。そしてそれ以上にボーカルが凄すぎるのです。“ハードコア化したSHAGGS”という趣の下手声の活かし方は天才的で、他では聴けない味と説得力に満ちています。

メンバーの歌い方は“やる気を感じさせないハードコアパンク”という感じで、音程やリズムのブレも強烈なのですが、それを小綺麗に整えず意図的に活かす“下手残し(ピッチを修正せず粗を残して味とする手法)”の度合いが常識を遥かに超えており、しかも全編に渡って完璧に成功しているのです。特に微分音アンサンブルの味は唯一無二。こうした歌はカルトな脱力感に満ちていて、制作側もそういう味を意図的に演出しているようなのですが(「※楽曲にお聞き苦しい箇所がございますが、演出、または歌唱力に起因するもので製品には一切問題ございません」という表記あり)、歌声そのものからは作為的でいやらしい自意識が殆ど感じられません。そればかりか、陰を伴いながら爽やかに突き進んでいく高機能なトラックもあってか、(こんな音楽性なのに)全体としては意外なくらい“アングラな感じ”がないのです。本当に驚異的な味を持つ音楽だと思います。
この異様な(しかも完成度が異常に高い)下手声アンサンブルの味わいは、例えるなら初期MOTHERS AND INVENTION(フランク・ザッパのバンド)やCAPTAIN BEEFHEART、RED CRAYOLAあたりのファンにも強くアピールするのではないかと思います。一方トラックはクラブミュージックのコアなファンにも訴求しそうなクオリティがある。実に面白い成り立ちです。
この作品を初めて聴いたとき、私は「自分の常識で対応できる音楽性を、自分の辞書には載っていないやり方で処理された」ような衝撃を与えられてしまいました。しかもその未知の味わいは、アルバムを聴き通していくうちにしっかり染み入りこびりつく説得力を持っている。そういう「回路」を開発する力が凄いという点でも傑作と言えるでしょう。
このBELLRING少女ハートにしろゆるめるモ!にしろ3776にしろ、ひねくれた味わいを極めて高度な成り立ちで親しみ深く表現してしまう超一流のアヴァン・ポップが「いわゆるアイドル」の領域に少なからず転がっているのをみると、このカテゴリを掘らないのは音楽ファンとして損だ、ということを改めて痛感させられてしまうのでした。

この『Beyond』に感銘を受けてBELLRING少女ハートに興味を持った自分は、3/23(『Beyond』を初めて聴いてから10日後)に渋谷WWWで開催されたゆるめるモ!との対バンを観に行き、そこで更なる衝撃を受けることになります。この日はゆるめるモ!も極めて素晴らしく、病欠なしのフル(6名)編成で完全に持ち味を発揮するステージは文句なしに感動的だったのですが、その後すぐに(インターバルを4分しかおかずに)現れたBELLRING少女ハートは、ゆるめるモ!が前座としては反則的なレベルに引き上げたボルテージをそのまま引き継ぎ高める超絶的なパフォーマンスをやってのけたのでした。曲もパフォーマンスも強すぎる。『アストロ球団』を90年代少年マガジンの絵でやるような、圧巻のライヴでした。

BELLRING少女ハートのステージを観ていて最も唸らされたのは、「そこまでやる必要がどこにあるのか」という位なりふり構わぬ異常な運動量があるのに、まったく切羽詰まった感じがしないことでした。エクストリームなのに和やか。個人的に、こんなライヴ体験は初めてでしたね。
生の歌唱表現力も非常に興味深いものでした。『Beyond』を聴いた時は「これは巧みな“下手残し”による編集の産物なのだろう」と思いましたが、生で聴くと、そうした“下手残し”の編集は、加工して無理矢理そうしているのではなく、メンバーの強力な持ち味を損なわず再現しようとしたものなのだということがよく分かるのです。当日出演していたメンバーのうち“音感が本当にヤバい”のは2人ほどで、かなり上手いのも2人はいます。そして、その前者のヤバさも“味わい深く映えるヤバさ”で、音の外れ方が安定・完成されていて非常に魅力的なのです。その上で、生の複数人アンサンブル全体の仕上がりがまた見事で、スタジオ音源の味が一層魅力的に示されるのでした。
そして、そうした個性的なボーカルアンサンブルに加え、繰り出される曲の数々がどれも非常に強力なのです。(初めて聴く曲も多かったですが全て興味深く聴けました。)音はもちろん動き(フォーメーションなど)も圧倒的に素晴らしく、パフォーマーとして〈特定の方向性において〉完璧。このような“エクストリームなのに和やか”な圧巻のパフォーマンスは、好みの分かれるところもあるでしょうが、どんな相手も理屈抜きに惹き込める魅力に満ちていると思います。「自分がここ2年で観た約300組の中でも上位20には入る」とさえ感じさせるステージは、本当に見事なものでした。

これに前後して1stフル『Bed Hed』と2ndフル『Undo The Union』を入手し聴き始めたのですが、やはり本当に素晴らしい作品で、自分はこのユニットの音楽的引き出し・作編曲能力・歌唱表現力にすっかり魅了されてしまいました。なんといっても「真摯だけどユーモラス」なのが良いですね。気持ちを最短距離でぶつけるような衒いのない姿勢を貫きながらも、暑苦しさとか自意識のアクのようなものは全くない。個性的なユーモア感覚でバランスを取り続け、常に絶妙の力加減を保つ感じを、小難しい印象を一切漂わせない飄々とした姿勢でやり抜いてしまうのです。このような味わい一つとってみても、他では聴けない超一流の音楽なのではないかと思います。

ここではあまり触れませんでしたが、1stや2ndはcali≠gari筋肉少女帯のファンにも強くお勧めできる傑作です。機会があればぜひ体験してみてほしいグループですね。



第18位VIRUSMemento Collider

MEMENTO COLLIDER

MEMENTO COLLIDER


ノルウェーのシーンを代表する奇才Carl-Michael Eide(通称Czral)のリーダー・バンド、実に4年ぶりの新譜です。(フルアルバムとしては5年ぶり・4th。)従来のスタイルを引き継ぎつつ定型から脱した傑作で、以前から持っていた複雑な持ち味を“他の何物にも似ていない”形で提示することに初めて成功したと言える作品です。これまでの作品にうまく馴染めなかった人にはぜひ聴いてみてほしい一枚です。

VIRUSは「VOIVOD+TALKING HEADS」と形容されることの多いバンドで、〈VOIVODのKING CRIMSON(いわゆる第3期:『太陽と戦慄』〜『レッド』期)的要素+ニューウェーヴ〜ノーウェーヴ的要素+ジャズ〉をノルウェーの初期ブラックメタル的な感覚で料理する、というような音遣いを一貫して追及し続けてきました。〈ひたすらコード/アルペジオをかき鳴らすギターとよく動きコードをかき乱すベース、そしてテクニカルながらタイトで余計なことをしないドラムス〉という組み合わせのアンサンブルは「FRICTIONやSONIC YOUTHブラックメタル化した」ような趣きもあり、メタルよりもいわゆるオルタナのファンにアピールするところが多いのではないかと思います。

こうした音楽性は、様々な映画(Andreï Tarkovsky、Federico Fellini、Peter Greenway『コックと泥棒、その妻と愛人』、David Lynchなど)に強く影響を受けたものでもあるようです。上記のような瞬発力あふれる演奏スタイルが、重く停滞するアンビエントな空気感のもとで展開されることで生まれる雰囲気は、前身バンドVED BUENS ENDE…で表現されていた“無自覚の毒性”を抽出し精製したものであり、社交的に洗練された殺人的ユーモア感覚を漂わせることもあって、さながら「精製された呪詛」というような趣きすら漂わせます。こうした雰囲気作りに大きく貢献しているのが先述のVOIVOD〜第3期KING CRIMSON的な音遣いで、VIRUSはそのような要素に強くこだわる作曲スタイルを長く貫いてきました。音楽的バックグラウンドは広く豊かで、他にできることは沢山あるのに、“瘴気をまとった黒い霧で相手のノド元に噛みつく”ような歪んだ切れ味を求めるあまり、KC的な音遣いに固執してしまう。そして、こうした音遣いを軸において肉付けしていく方式から外れられないために、“他にできること”を加えられる余地も大きく制限されてしまう。このようなスタイルのもとで出来ることをやり尽くしたのが『Carheart』(1st:2003)・『The Black Flux』(2nd:2008)・『The Agent That Shapes The Desert』(3rd:2011)といった傑作で、VIRUSはその後(新曲+過去の未発表曲を収録した2012年のEP『Oblivion Clock』をはさんで)長い沈黙状態に入ります。本作『Memento Collider』はそうした長いインターバルを経て発表されたアルバムなのです。

本作では、先述のようなVOIVOD〜KC的音遣いを引き継ぎつつ、「それをどうしてもメインに据えなければならない!」というこだわりが非常に良い意味で薄れているように思われます。それまでは前面に出ていなかったニューウェーヴ〜ノーウェーヴ〜現代音楽的な要素、そしてジャズ〜ブルース的な音遣い感覚が、VOIVOD〜KC的な音遣いと均等なバランスのもとで溶かし合わされ、それぞれの文脈から切り離されたかたちで、独自の混沌とした融合体として示されている。奇妙なギター・アルペジオによく動くベースが絡むことで生まれるコード感は、一定の瞑い色合いを保ちながら複雑に表情を変えていき、いつまでも飽きずに見つめ続けることができてしまいます。そうした音進行を淡々と反復する“気の長い”時間感覚も実に堂に入ったもので、「1stや2ndの時のようなあからさまな殺気/怨念が薄まり、独特の飄々とした力加減のもとに安定している」という感じの力加減もあって、アルバム全体を通しての居心地を(このバンドの音楽性としては稀なくらい)ほどよくゆったりしたものにしてくれています。曲の並びまとまりも申し分なく素晴らしい。作編曲も演奏感覚もそれまでの作品から想像もできないくらい見事に“一皮剥けた”アルバムで、5曲目最後に客演しているDaniel Mongrain(VOIVOD / MARTYR)の極上のギターソロを含め、全ての要素がうまく機能している傑作だと思います。

個人的には、このバンドの作品を3回連続で聴き通してもモタれないという経験は初めてでした。それまでの作品に感じていた「ある部分では強く惹きつけられるが生理的に合わない部分もあり、あまりしつこくは聴けない」という感覚のうち「生理的に合わない部分」が一気に解きほぐされ、日常的に聴き続けても大丈夫になったという感じです。自分のような「KING CRIMSON的音遣いが無防備に引用されている音楽(一時期のVOIVODやDOOMなど)に対する抵抗感がどうしても消えない」者でも楽しめる作品ですし、比較的広い層にオススメできる(ようになった)傑作なのではないかと思います。機会があれば聴いてみてほしい一枚です。



第17位:UNBELTIPO『Un Bon Trouble』

Un Bon Trouble(美味なる騒動)

Un Bon Trouble(美味なる騒動)


(未)



第16位VEKTORTerminal Redux

Terminal Redux

Terminal Redux


新世代スラッシュメタルを代表する実力派バンドの3rdアルバム。前作から5年のインターバルを経て発表された初のコンセプト・アルバム(RUSH『Hemispheres』にインスパイアされたキグナス白鳥座)帝国のエピソード:2nd最後の曲と連続する物語)で、音楽・歌詞の両面において驚異的に充実した傑作になっています。

VEKTORはバンドロゴや1st『Black Future』のアートワークもあってかVOIVOD(ヘヴィ・メタルの歴史を代表する“プログレッシヴ”な名バンド)と比較される機会が非常に多いですが、音楽スタイルをそのまま真似しようとしたことはないようです。2012年のインタビューでは、好きなVOIVODのアルバムとして、中心人物David DiSanto(ギター&ボーカル担当:全楽曲の基本形を一人で構築)が『Nothingface』までの全作品、ベースのFrank Chinが『Killing Technology』『Dimension Hatröss』を挙げてはいますが、同時に
ブラックメタルから70年代のプログレッシヴロックまで幅広いものから影響を受けている」
「基本となるスラッシュメタルのスタイルはDESTRUCTIONから影響を受けていて、そこにEMPERORやABSU(ブラックメタル)、PINK FLOYDやRUSH(いわゆるプログレ)の要素を混ぜようとしている」
とも言っています。
また、別のインタビューではNOFX(メロディック・ハードコアパンクの草分け的存在)への愛情が語られ、VEKTORの曲にもそうした要素があることが示されています。
(どれもDavidの発言:Frankは主な影響源としてIRON MAIDEN、HAWKWIND、MÖTORHEAD、WATCHTOWER、ニール・ヤングを挙げています。)
実際VOIVOD的な要素は1stの時点から希薄で、こうした多様な要素を巧みに溶かし合わせることで生まれる個性的な音遣い感覚が優れた持ち味になっていました。ひねりがあるわりに淡々と流れていく音進行やリズム構造の背景には、先述のようなプログレッシヴロック、そしてノルウェー以降のブラックメタル(初期METALLICAのような長尺スラッシュや70年代ジャーマンロックがともに持つ“気の長い時間感覚”を両者から吸収・融合した音楽)を通過して初めて得られるようなセンスがあり、時に10分を超える長大な構成をダレることなく聴かせてしまいます。このような作編曲の構成力は作品を重ねるにつれどんどん成長していき、今回の新譜3rdでは「アルバム全体として」非常に良い形を描く見事な流れまとまりが出来ているのです。71分もの長さを過不足なく心地よく浸らせる仕上がりは完璧と言っていいでしょう。一枚モノとしての完成度は極めて高いです。

本作の音楽性を強引にまとめるなら
「初期OBLIVEONや後期SACRIFICEのようなカナダ産テクニカル/プログレッシヴスラッシュメタルに、ULVER『Nattens Madrigal』を混ぜて、METALLICA『Master of Puppets』的な大曲構成を施した」
というところでしょうか。カナダの優れたバンドに通じる暗黒浮遊感と、ULVERからいわゆるポスト/シューゲイザーブラックメタルに連なるアンビバレントな激情感覚が絶妙に融合され、70年代の英国ロックに通じる“過剰にエモーショナルにならない”エピックな湿り気のもと渋く仕上げられています。そうした音遣い感覚はほとんど完全にこのバンド独自の味を確立していて、「比較対象を考えたときまずこのバンド自身の名前が挙がる」何かの亜流でない“唯一無二性”をもつものになっており、聴き続けていると「この味を提供してくれるものは他にないから離れがたくなる」感覚を与えてくれるのです。先述のような構成力と卓越した演奏表現力・サウンドプロダクションもそこに大きく貢献していて、70分を超える長さを気軽に何度も聴きたいと思わせる快適な居心地を生んでいると思います。あらゆる面において本当に優れた作品です。

本作『Terminal Redux』は、後に「ヘヴィ・メタルの世界における歴史的名盤」と言われうる傑作でしょう。個性的でキャッチーなフレーズが連発され、嫌みなくテクニカルな演奏が生理的な爽快感をもたらしてくれて、優れた構成力により長丁場を苦もなく没入させてくれる。歌詞〜コンセプトも含め独自の雰囲気表現力を持っていて、他にない深い味わいをもたらし続けてくれる。理屈抜きに楽しめ、理屈ありきの楽しみにも満ちている。非常に広い層に引っ掛かる魅力を持った傑作だと思いますし、普段メタルを聴かない方も機会があれば触れてみることをお勧めします。クラシック音楽が好きな方などは特に楽しめると思いますよ。


参考:
David DiSanto(ギター・ボーカル)インタビュー(2016.5.10)
David DiSantoインタビュー(2016.5.20)(日本語訳付)
David DiSantoとFrank Chin(ベース)のインタビュー付き紹介記事(2012)
David DiSantoインタビュー(2016.2.16)



第15位David Bowie

Blackstar

Blackstar


デヴィッド・ボウイの遺作。肝臓がん治療(判明したのは前作『The Next Day』発表後で闘病期間は18ヶ月とのこと)の寛解期に制作されたアルバムで、亡くなる2日前、今年の1月8日(69歳の誕生日)に発表されました。このような経緯を知った上で聴くと、確かにそうしたことに際しての思いが滲み出ているように思えるのですが、それはあくまで一部の要素に過ぎません。そうした仄暗く不穏な雰囲気に貫かれながらも、独特の柔らかさ、飄々としたユーモア感覚(実に英国的なバランス感覚)を常に伴い、過剰に重たい感じを出すことが全くない。「遺作だからどうのこうの」という言い訳が一切要らない、それでいて最高に格好良い遺作になっていると思います。英国紳士にしか作れない類の傑作です。

このアルバムに関する背景・解釈については、下記の2記事が極めて優れた内容になっているので、そちらを参照して下さるのが良いと思います。

対談:冨田恵一・柳樂光隆

簡単に言えば「新世代ジャズ」(ヒップホップの“揺れる”“訛る”微細なリズム処理感覚を超絶技巧を用いて意識的にコントロールしようとするジャズの新潮流)の代表的な達人ばかりを揃えて作られたアルバムなのですが、そうしたジャズ方面の音楽性をそのまま持ち込んでいる部分は殆どありません。ボウイが辿ってきた(または導いてきた)ニューウェーヴ周縁の要素にゴシカルな雰囲気を導入しつつ、独特の深い味わいをすっきり呑み込ませる個性的なポップミュージックに仕上げている、という趣の作品で、影響源や比較対象を挙げるのが難しい“摑みどころがない”面も確かにあるのですが、繰り返し聴くことでそうした味わいに対応する“回路”を確実に獲得することもできるようになっています。独特の仄暗く生暖かい雰囲気を保ちながら、過剰に浮いたり沈んだりすることなく、一定の水準付近をフラットに揺れていく…というような優れたバランス感覚は、どんな気分の時にも肌に合い、暑苦しくなく“日常に寄り添ってくれる”ものだと思います。(その点、個人的にはMESHUGGAHなどと同じ感覚で重宝しています。)非常に完成度が高く、しかも居心地が良いアルバム。遺作云々は横に置いた上で聴き込まれるべき傑作です。

超絶技巧を駆使しながらそれを全くひけらかさない(意識して聴かないと「凄い」と思わせないながらも代替不可能な味わいを常に発揮する)楽器陣は最高峰の“歌伴”と言えますし、圧倒的な存在感と卓越した音色表現力でそれらを引き締めるボウイのボーカルも、音楽全体の“顔”として完璧だと思います。楽曲も味わい深いものばかり。約10分かけてじわじわ暖まる1曲目「Blackstar」はラヴェルボレロ」やMiles Davis『Sketches of Spain』、SOFT MACHINE『3rd』などに通じながらも全く別のものに仕上がっていますし、3曲目「Lazarus」はSLINT『Spiderland』を想起させる仄暗い空気感が素晴らしい。ジャズ的な音遣いがゴシカルな雰囲気のもとで活用されている2・4・5曲目は、VIRUSやSHINING(ともにノルウェー)といったアヴァンギャルドなジャズ寄りロックバンドに通じます。そうした“新機軸”を全編に渡って披露しながらも、最後の「I Can't Givd Everything Away」では自身の過去作におけるフレーズや音色(ロバート・フリップ風リードギターなど)を嫌味なく取り込み、さりげなく“歴史の総括”のようなこともしてみせる。遺作という印象からだけ捉えるのは勿体ない、聴けば聴くほど味が出てくる豊かなアルバムです。

気軽に聴き流すこともじっくり聴き込むこともでき、何度聴き返しても飽きることがない。本作『★』(Blackstar)は、それを可能にする“素敵な謎”に満ちた傑作です。上記に比較対象として挙げたような音楽(またはそういうコード/フレーズの感覚)に慣れていないと取っ付き辛く感じるかもしれませんが、それは最初だけで、繰り返し接するうちにどんどん惹き込まれていきます。純粋に優れた一枚のアルバムとして、ぜひ手にとってみてほしい作品です。



第14位ULVERATGCLVLSSCAP

Atgclvlsscap

Atgclvlsscap


ノルウェーを代表する音楽集団の13thフルアルバム。作品ごとにスタイルを変え続ける音楽性(「ULVERみたいな音を出すヤツはいない。ULVER自身ですらその例に漏れない」(“No one sounds like ULVER. Not even ULVER.”)というコメント by PERIPHERYのギタリストMark Holcomb がしっくりくるもの)をきれいに総括しつつ新たな境地に踏み出した作品で、このバンドの入門篇としても良い内容なのではないかと思います。プログレッシヴロックやポストロックのファンには特に聴いてみてほしい傑作です。

ULVERはノルウェーの初期ブラックメタルを代表するバンドで、シーンを先導する強力なバンドが出揃った時期(1993年)に革新的な傑作を発表して注目を浴びました。1st『Bergtatt』(1995年)は北欧フォーク〜トラッドとメロディアスなブラックメタルスタイルを融合した大傑作で、現在一つのトレンドをなしているポスト/シューゲイザーブラックメタルと言われるバンド(ALCESTやDEAFHEAVENなど)を先取りする優しく激しい音楽性により、ブラックメタルという音楽の持つイメージ(吹雪が荒れ狂うような陰鬱で攻撃的なスタイル)を拡張しつつ、SLINTのような初期ポストロックに通じる豊かな音遣い感覚を生み出しています。続く2nd『Kveldssanger』(1996年)でメタルはおろかロック色すら一切ないアコースティック・フォークをやった後に発表された3rd『Nattens Madrigal』(1997年)は90年代のアンダーグラウンド音楽を代表する歴史的傑作で、2ndの極めてメロディアスな音楽性が、緻密な対位法的アレンジを施された上で、極悪にこもったハーシュ・ノイズにまみれる“プリミティヴ・ブラックメタル”スタイルのもと表現されています。高域以外が極端に痩せた凶悪なサウンドプロダクションと絶叫一本槍の激しいボーカル(このスタイルを取るのはこのバンドでは本作のみ)で攻撃的な印象を前面に出してはいますが、作編曲や演奏は高度に洗練されており、1stや2ndで表現された豊かな音遣い感覚がさらに熟成されているのです。インパクトも深みも超一流と言えるこのアルバムは世界中のエクストリームメタル/ハードコアパンクに絶大な影響を与えており、少なくともメタルシーンにおいては、いまだにこのバンドの代表作とみなされ続けています。

以上の「初期3部作」の印象が強すぎるためにいつまでも“メタル扱い”されているULVERですが、「メタル要素がある」とはっきり言える作品は3枚しかありません。1st・3rdに続くその最後の1枚が4th『Themes from William Blake's The Marriage of Heaven And Hell』(1998)です。「英国ゴシックメタルとインダストリアルメタルとトリップホップを足して北欧ブラックメタルの音遣い感覚で料理した」趣の本作では、2枚組の全編に渡ってスタイルの異なる曲調が無節操に並べられ、その上で素晴らしい統一感をもってまとめ上げられています。比較対象としてはNINE INCH NAILSPORTISHEADMASSIVE ATTACKPARADISE LOSTなどが挙げられますが、そうしたものに勝るとも劣らない存在感を発揮しつつ完全に独自の味を確立しており、ここでしか得られない旨みにどっぷり浸ることができるのです。即効性も奥行きも素晴らしいですし、上に挙げたようなバンドを好む方はぜひ聴いてみるべき傑作だと思います。

このような音楽性のシフトを導いたのは中心人物Kristoffer Rygg(通称Garm)の嗜好の変化によるところが大きいのでしょうが(コアなエクストリームメタルファンだった彼は、90年代末にはCOILやAUTECHRE、NURSE WITH WOUNDといったアヴァンギャルドなノイズ〜電子音楽にのめり込んでいきます)、それを支え音作りの主幹を担うTore Ylwizakerの存在も大きかったのではないかと思います。4thはこのToreと3rdまでの腕利き楽器陣がともに在籍した唯一のアルバムであり、上記のような音楽性(豊かな曲想と逞しいフィジカルの両立)はそうした“狭間の時期”だからこそ生まれたものだったのだと言えそうです。

ULVERはこの後しばらく様々なスタイルの電子音楽を追求していくことになります。EP『Metamorphosis』(暗いエレクトロニカという感じで比較的凡庸な仕上がりだが、CDケース内に「最早ブラックメタルではないからそれを期待しても失望するだけ。我々はこれからも予測できない存在であり続ける」という声明あり)を経て発表された5th『Perdition City』は“架空の映画のサウンドトラック”的な作品で、4thをアンビエントエレクトロニカに寄せたような音楽性のもと、アルバム一枚を通して明確な物語を描いていく構成が出来ています。フィールドレコーディング(アパートの5階にあるToreの部屋の窓からマイクを突き出し、夜の街の音を録ったとのこと)も効果的に活用されている本作はKristofferとToreの2名だけで作られており、現在にまで至る音楽製作の体制がこの2作で確立されることになりました。
電子音楽期のULVERは所属シーンの問題もあって触れられる機会が極めて少ないですが(初期3部作ばかりが語られるため、23年の歴史のなかでメタルをやっていた時期は5年に過ぎないのに、メタルシーン以外で言及されることは殆どない)、発表された作品はどれも優れたものばかりです。実際の映画のサウンドトラックとして製作された『Lyckantropen Themes』(6th・2002年)と『Svidd Neger』(7th・2003)は単体でも楽しめるアンビエント〜テクノの傑作ですし、それに続いて発表されたEP『A Quick Fix of Melancholy』も、前2作の時間/空間感覚を引き継ぎつつ印象的なフレーズを軸に据えた構成が見事で、何度でも繰り返し聴きたくなる魅力があります。そうした傑作群の中でもひときわ素晴らしいのが『Teachings in Silence』(インスタレーション用音源として製作され2001年と2002年に分けて発表された2つのEPを一つにまとめたもの)でしょう。アンビエントグリッチ寄りの電子音楽に最も接近した時期の作品なのですが、バンド自身が最大の影響源として挙げるCOILの「ミクロのフレーズに異常にこだわる」音響表現力が見事に引き継がれていて、淡々とした展開にいつまでも浸れてしまいます。(COILの名作『Angelic Conversation』と『Black Antlers』の間にある音楽性を北欧トラッド〜クラシックの洗練された構成力で整理したという趣もあります。)明確な泣きメロを含む最後の「Not Saved」はその中では異色のトラックですが、素晴らしい仕上がりもあって、ファンからは名曲と評価されています。

こうして何年ものあいだ電子音楽にこだわり続けていたULVERですが、2005年の8th『Blood Inside』からは“歌モノ”のスタイルが全面的に復活しています。様々な電子音楽を通して培われた音響/時間感覚を、過去作よりもさらに熟成された北欧ゴシック的音遣い感覚と組み合わせ、唯一無二の個性と深い味わいを誇るKristofferのボーカルで引き締める…というスタイルは完璧で、一見地味なようでいて「聴きやすく、何度聴き返しても飽きない」渋く奇妙なポップミュージックの傑作になっているのです。インダストリアルメタル的な硬い音作りも魅力的で、メタルファンに非メタル期の作品を一枚だけお薦めするのならこれがベストなのではないかと思います。
これに続いて発表された9th『Shadows Inside』(2007年)では、前作のインダストリアルメタル的音響は完全に排除され、FenneszSIGUR RÓSのような柔らかく雄大な音響が主になっています。黄昏の光に北欧の大自然が包まれ、次第に闇に溶けていく…という趣の雰囲気描写は素晴らしく、同じ路線でこれを上回るものは殆どないのではないかとすら思えます。アンビエントながら印象的な歌モノとしても成り立っている作編曲も好ましく、BLACK SABBATH「Solitude」のカバーも自然に収まり見事な表現力を示しています。バンド自身も代表作として誇るアルバムで、ここ10年に渡る電子音楽路線の一つの完成形を示した傑作と言えます。

その9thで一つの区切りをつけたということなのか、以降のULVERは過去の様々な音楽を参照しつつ新境地を開拓する傾向を強めていきます。2011年の10th『Wars of The Roses』では80年代ニューウェーヴや90年代に至るインダストリアルもののような英国ゴシック音楽のエッセンスが強まり(「Norwegian Gothic」なんてそのものズバリの曲名もある)、COILメンバーとの共演も実現しています。
(Ian JohnstoneとStephan Throwerが最後のアンビエント/ポエトリーリーディングに参加:中心人物John BalanceとPeter Christophersonは亡くなった後)
また、マルチプレイヤーDaniel O'Sullivanが正式加入し楽器の演奏水準が上昇したということもあってか、バンドのアンサンブルは生のダイナミズムを大幅に増すことになりました。Kristofferの素晴らしいボーカルも十分にフィーチャーされ、他では聴けない個性的な味わいがとても聴きやすい形で提供されている本作は、バンドの新たな黄金期の幕開けを告げるものになっています。
翌年に発表された11th『Childhood's End』は60年代末〜70年代前半のサイケデリックロックのカバー集で、アメリカ〜英国のブルース/フォーク的な音遣い感覚が大幅に導入されています。
(北欧から英国に接近した10thの“南下傾向”の延長線上にあるとも言えるのかもしれません。)
その結果は実に素晴らしく、『Shadows of The Sun』などでとりわけ印象的だった美しくも冷たく厳しい雰囲気が、アメリカ〜英国的な程よく大雑把な空気感でときほぐされ、“特有の湿り気を残しつつ深刻になりすぎない”絶妙なバランス感覚を生んでいます。こうした仕上がりは、作品の内容自体がバンドの歴史における新境地になっているというだけでなく、どうしても暗く沈み込む方向にこだわりがちだったバンドの“気の持ちよう”にある種の突破口を設けたという意味でも、とても得難く重要なものだったのではないかと思います。ULVERの歴史において最も“コンパクトに洗練された歌モノ”に徹しており、素晴らしいボーカルを思う存分楽しめる…という意味でも貴重な傑作です。
その11th発表前に行われた同作のお披露目ライヴは録音され、『Live at Roadburn』(2013年)として発表されています。同作収録の歌モノから16曲中10曲を演奏し、最後に70年代ジャーマンロック風の長尺インプロヴィゼーション(「CANに捧げる」とのクレジットあり)をやって締める構成は、11thと最新13thをそのまま繋ぐものとみることもでき、非常に興味深いです。

翌2013年に発表された12th『Messe Ⅰ.Ⅹ-Ⅵ.Ⅹ』は、ULVERが作曲した楽曲にアレンジを施して室内楽オーケストラが演奏したのち、そこにULVER側がポストプロダクションを加えて電子音楽化した作品で、Alvo Part(アルヴォ・ペルトミニマリズム/古楽寄りスタイル)やJohn Travener(ジョン・タヴナーメシアンシュトックハウゼンに並ぶ神秘主義)といった作曲家に大きな影響を受けているといいます。これが極めて素晴らしい作品で、生演奏の繊細なダイナミクスが電子音響処理により一層緻密に強化されているだけでなく、生演奏単独でも電子音響単独でも成し得ない複雑で表情豊かな音色表現が生み出されていて、約45分の長さを興味深く浸り通すことができてしまうのです。作編曲だけとってみても実に見事で、5部からなるアルバム全体の構成は文句なしに素晴らしい。少し冷たい水の中に無心で漂うような居心地も好ましく、微妙な異物感を伴いながら潤いを与えてくれるような肌触りもあって、永遠に流し浸り続けていたいような気分にさせられてしまいます。仄暗く生温い音遣い感覚は確かに10th〜11thの流れに連なるものですし、あらゆる意味でこのバンドにしか作れない大傑作なのではないかと思います。個人的にはULVERの最高傑作なのではないかと思っています。

2016年に発表された新譜『ATGCLVLSSCAP』は、以上のような流れをかなり意識的に総括するものになりました。2014年2月に行われた欧州ツアー12箇所の音源を加工して作られた本作では、常連サポートメンバーを含むライヴバンドとしての実力と個性が存分に発揮されています。
(ちなみに、アルバムタイトルは12星座(Aries・Taurus・Gemini・Cancer・Leo・Virgo・Libra・Scorpio・Sagittarius・Capricorn・Aquarius・Pisces)の頭文字を並べたもののようです)
音楽性を過去作と比べるならば、『Shadows of The Sun』『Wars of The Roses』『Childhood's End』の音楽性を完璧に溶け合わせ、いわゆるアトモスフェリック・スラッジに通じる迫力ある演奏で形にしていく、という感じでしょうか。SIGUR RÓSROVOを70年代ロックに寄せたような程よく粗いアンサンブルと、打楽器の音をほとんど入れずに淡々と漂う北欧アンビエントのパートとが、全く違和感なく並べられ、ジャスト80分の長さをまったく過剰に思わせない滑らかな流れを作り出していきます。それぞれの曲は即興で生み出された部分を相当多く含んでいるはずなのですが、曲の展開・構成は過不足なくよく整理されたものばかりで、余計なことを考えず快適に浸り通すことができてしまうのです。
(1曲目「England's Hidden」(COILやNURSE WITH WOUND関連音源/書籍の名前でもある)は12thの「Glamour Box」を、3曲目「Moody Stix」は『A Quick Fix of Melancholy』の「Doom Sticks」を、10曲目「Nowhere」は5th最後の同曲をライヴでリアレンジしたものですが、他の曲はこのツアー用に準備された素材を現場で展開し構築した“即興作曲”だと思われます)
このような仕上がりは、ライヴならではの閃きや豊かな演奏表現力と、スタジオでのポストプロダクションを含む優れた整理能力を見事に両立するもので、バンドの音楽的引き出しをあらゆる面において申し分なく示しています。こうした成り立ちはたとえばCAN『Tago Mago』やKING CRIMSON『Starless And Bibleblack』に通じるものですし、音響や雰囲気だけみれば最近のANATHEMAやFenneszを連想させる部分も多いです。10thで掘り下げられた“ノルウェー+英国”的な音遣いに、11thあたりで探求されたアメリカのサイケやジャーマンロックの要素が混ぜ合わされ、非常に豊かで複雑な味を構築している。こういう意味においても、これまでの活動全歴の集大成と言える一枚なのではないかと思います。
70年代ジャーマンロックやシンフォニックなポストロック、いわゆるジャムバンドやネオプログレアンビエントやドローンなど、“気の長い時間感覚”を持つダイナミックな音楽が好きな方なら抵抗なくハマれる傑作です。

過去作については新譜の補足説明として簡単に触れるだけにするつもりだったのですが、まとまった量を書いてしまいました。とても個性的で優れたバンドなので、興味をお持ち頂けた作品がもしあれば、そこを入口にいろいろ聴いてくださるのがいいと思います。間違いなく楽しめるはずです。



第13位Ché-SHIZU火の環

火の環 hi no tamaki

火の環 hi no tamaki


日本を代表する即興音楽家のひとり向井知惠(二胡・歌唱その他)によるロックバンド「シェシズ」が17年ぶりに発表したフルアルバム。2007年にオリジナル編成に戻った後に初めて製作された音源でもあり、同メンバーによるレコーディングは実に30年ぶりになります。これが実に素晴らしい作品で、このバンドにしかできない「歌心あるフリーミュージック」が、印象的なフレーズと混沌とした即興部分の両方を強化されたかたちで示されています。本稿で選んだ20枚の中では最も摑みどころがない一枚かもしれませんが、繰り返し聴くことにより対応するための“回路”が確実に開発されハマっていくアルバムでもあるので、機会があればぜひ聴いてみてほしいものです。

このアルバムに関しては、製作を担当した宮本隆さん(名ブログ「満月に聴く音楽」主催)による素晴らしいライナーノーツが公開されているので(下記リンク集の一番下)、シェシズの過去作品を聴いたことのある方はまずそちらを読むことをお勧めします。

宮本隆による製作記
宮本隆によるライナーノーツ

このバンドの音源を全く聴いたことのない方に乱暴に説明しますと、シェシズは「VELVET UNDERGROUNDや初期AMON DÜÜLを日本〜アジア大陸の歌謡曲にどっぷり漬け込んだ」ようなバンドで、非常に印象的な歌メロと自在に拡散する即興パート(ジャズ色の希薄なフリーミュージックという感じ)を両立する音楽性を長く磨き続けてきました。日本/世界のアンダーグラウンドシーンを代表する名盤『約束はできない』(1st・1984年発表)では上記のようなスタイルが歌謡曲成分多めに示され、フリーに展開する場面も多かったのですが(二胡やボーカルの音程がヨレる箇所も非常に良い味を出しています)、1994年の『A JOURNEY』や1999年の『瞬きの星』では欧州寄りの(クラシック〜欧州トラッド的な)音遣いが増えて“湿り気の質”が変わり、フリーに展開する場面も依然として多いものの比較的整理されるなど、「構築するさなかの様子を見せる」というよりも「構築した後の姿を見せる」ような傾向が微妙に増えてきていたように思います。
ディスコグラフィ上はその『瞬きの星』に続く作品となる本作『火の環(ひのたまき)』では、1st『約束はできない』のアジア大陸的歌謡曲感覚と以降のヨーロッパ大陸的な音遣いの間をいく味わいが生み出されていて、フリーに展開する場面も1stと同等以上に多くなっています。過去作品よりも格段に成長した(それでいて妙なヨレは巧みに残されている)演奏陣は「歌メロを魅力的に“歌う”」ことと「音楽的必然性を保ちながら無茶苦茶に暴れる」ことの両立を自然に成し遂げていて、アルバム全編に渡って「わけのわからないことをやり続けているのになんだかとても耳に残る」不思議な聴き味を生んでいるのです。先に挙げたVELVET UNDERGROUNDやAMON DÜÜL、そしてKING CRIMSON「暗黒の世界」(曲の方)やGASTR DEL SOLのような抽象的なインタープレイが、特濃の歌謡曲的エッセンスにどっぷり漬け込まれ、“しっかりスープが絡みついた”状態で提供され続ける。約68分に及ぶ長尺のアルバムですが、こうした味わいの感覚に慣れれば長さを気にせず何度でも聴き続けられるようになります。始まりも終わりもそっけなく、全体の構成も果たしてこれでいいのかよくわからない仕上がりなのですが、そういう感じさえも“ならでは”の味に思えてくるから不思議です。奇妙な魅力に満ちた傑作です。

こうした(脱力感あふれる)フリーミュージックは「普通の音楽」しか聴かない人に敬遠されがちで、聴きどころを見つけにくいために実際なかなか“入門”しづらいものが多いのですが、シェシズの作品はそうした難しさをかなりうまくクリアしてくれるのではないかと思います。本作『火の環』もその例に洩れぬ傑作です。機会があればぜひ「アルバム一枚通して」聴き流してみてほしいところです。



第12位cali≠gari憧憬、睡蓮と向日葵』(良心盤)

憧憬、睡蓮と向日葵[良心盤(通常盤)]

憧憬、睡蓮と向日葵[良心盤(通常盤)]


(未)

桜井青インタビュー
石井秀仁インタビュー



第11位RADIOHEADA Moon Shaped Pool

A MOON SHAPED POOL

A MOON SHAPED POOL


(未)



第10位Anderson .PaakMalibu

Malibu

Malibu


Dr.Dre『Compton』(2015年発表:Dreの最終アルバムとの声明あり)に同作中最多の6曲でフィーチャーされ注目を浴びた、マルチプレイヤー/音楽プロデューサー:アンダーソン・パーク(パック表記もあり)の2ndアルバムです。これが驚異的に素晴らしい作品で、60年代ファンク/ソウルからハウス/ヒップホップに連なるブラックミュージックの流れが、フュージョン的音遣い感覚を通して滑らかに結合され、それぞれの薫りを漂わせつつ他では聴けない個性的な形に仕上げられています。これからさらに注目されることになるだろう一枚ですし、ここで知ったという方はぜひ聴いてみることをお勧めします。

アンダーソンの複雑な生い立ちやこの作品に関するシーンの話などは以下の記事に詳しいので、興味を持たれた方はそちらをお読みください。

紹介記事:
Pitchforkのインタビュー和訳:

ここで触れられているエピソードでひときわ印象的なのが
Dr.Dreに呼び出され、その場で(別ユニットNxWorriesの)「Suede」を3回Dreに聴かれたのち、新譜『Compton』に入る予定だった「All in The Day's Work」のトラックをいきなり流され、アドリブで歌うことを要求された。そこでのパフォーマンスを気に入られ、結果的に6曲でフィーチャーされることになった」
というものでしょう。ボーカル/ドラムス/キーボードの卓越したマルチプレイヤーであるだけでなく、トラック作りの面でも優れた才能を発揮し、単なるパフォーマーとしてではなく重要な共作者として抜擢されてしまう。本作『Malib』では、アンダーソンのそのような能力が余すことなく発揮され、作編曲/演奏/雰囲気作り全ての面において素晴らしい成果が得られています。

本作においては、SLY AND THE FAMILY STONEのような60〜70年代のファンク/ソウルミュージックと、80年代のトロピカルなハウス、90年代以降のジャジーなヒップホップ〜ネオソウルとが、それらに共通するフュージョン的音遣い感覚(Miles Davis『in a silent way』や初期WEATHER REPORTあたりに連なるタイプのもの:FLYING LOTUSやケンドリック・ラマーの作品でも聴けるこのシーンのトレンド)によって巧みに溶かし合わされた上で、曲によってどれか一つのスタイルを前面に押し出す形で示されています。
(「この曲はファンク、この曲はハウス、この曲はジャジー・ヒップホップ」というふうに)
そのため、それぞれの曲を取り出して比べてみると「結構バラバラなスタイルを集めてるな」という気がするのですが、上記のような音遣いが全ての曲に共通する“ダシ”として存在しているため、続けて聴いた時に違和感を覚えさせてしまうことがありません。アルバムの流れまとまりは完璧で、約60分の長さを完璧に丁度良いものとして浸らせてくれます。ヒップホップ的な硬いアタックを伴うプロダクション&アンダーソン本人による“丸く塩辛い”ハスキーヴォイスはラフで勢いのある印象を生むものですが、それがファンク寄りの控えめなテンポと“くぐもり気味に爽やか”な音遣いと組み合わされることで、全体としては絶妙に“落ち着きすぎないチルアウト感覚”が得られます。元気にいきたい時にもゆったりいきたい場合にもしっくりくる音楽で、午前0時から2時くらいの時間帯に流すとたまらないですね。理屈抜きに心地よい「機能性の高い音楽」としてだけみても良いですし、複雑な生い立ちを親しみ深い雰囲気のもとでさらりと呑み込ませる語り口の見事さなど、「表現力の凄い音楽」としても素晴らしいアルバムです。

以上のような音楽的強度と語り口の見事さは、ブラックミュージックの歴史全体を見渡しても屈指のものなのではないかと思います。ディアンジェロの歴史的名盤『Voodoo』などと並べて賞賛する声もありますが、タイプは異なるものの確かにそれだけの内容を持つ作品と言えます。今年の9月には来日公演も決まっていますし、ぜひこのタイミングで聴いてみてほしい傑作です。



第9位AnohniHopelessness

Hopelessness

Hopelessness


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第8位テニスコーツMusic Exists disc3

Music Exists Disc3

Music Exists Disc3


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第7位SWANSThe Glowing Man

The Glowing Man [2CD+DVD / 特殊パッケージ / 国内盤 ] (TRCP203)

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エレキングのインタビュー
リアルサウンドのインタビュー



第6位大森靖子TOKYO BLACK HOLE

TOKYO BLACK HOLE

TOKYO BLACK HOLE


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第5位KINGWe Are KING

ウィー・アー・キング

ウィー・アー・キング


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第4位No Lie-SenseJapan's Period

JAPAN'S PERIOD

JAPAN'S PERIOD


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第3位Esperanza SpaldingEmily's D+Evolution

Emily's D+Evolution(deluxe)

Emily's D+Evolution(deluxe)


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第1位岡村靖幸幸福

幸福

幸福


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