某大学アカペラサークル・バンドクリニック(2013.6.20.)概略(「発声と呼吸」入門編)

以下は、2013年6月に某大学アカペラサークルで行った講義のレジュメです。
そのサークルの部員専用ページ(サークルスクエア)に書いたものなのですが、人目につかないところに放置しておくのが少し勿体ない内容なので、こちらのブログにも載せておこうと思います。
文章に拙いところはありますが、内容はわりと充実したものだと思います。歌などで伸び悩んでいる方には、何かしらのお役に立てる点が多いはずです。
(そう言えるのは「これを10年前の自分が読んだら喜んだろうな」と思えるからです)

この稿は
・前説(流れの概略)
・講義で渡した参考音源の説明
・講義内容のまとめ(発声・歌い回し)
という構成になっています。
手っ取り早く実利を得たい方は、最後の「まとめ」をご覧ください。


【前説】

2013.6/20(木)
バンドクリニック予定
(18:30~20:30)

講義(実演・音源併用)

バンドクリニック
(発声指導、アンサンブルの改良など)

を2セット(各50~60分)
行う予定です。


初心者から上級者まで、どんな方にとっても役に立つことを保証いたします。

練習のやり方がわからなかったり壁にぶち当たっていたりする方に特におすすめです。
個人での参加も歓迎します。

以下の説明は少々長くまどろっこしいものになっていますが、当日は小難しいことは言わず、

シンプルに体験→体で実感→成長

という流れでいきます。

どうぞお気軽にご参加ください(^^ゞ


〈内容〉

①響きと発声、表現力

音楽における表現力とは、
つまるところ

音色(声質、響き)の豊かさと変化の幅

です。

響きの豊かさがもたらす心地よさと、そのバリエーションが生む色彩の広がりが、聴き手に深く伝わる力を生み出します。

音程やリズムはもちろん正確であるべきですが、それらがいくらできていても、響きが貧弱で単調であれば、「棒読みでつまらない」印象になってしまいます。
それに気付かなければ、いくらテクニカルで凄い技をビシバシキメたとしても、聴いてる人は興醒めしてしまう、ということになりがちです。

表現力を出すために必要なこととして「声に感情をこめる」ということがよく言われます。
これはすなわち、「感情の変化(ゆらぎ)を響きの変化で表現する」ということです。
どれだけ頭の中が感情で一杯になっていても、それが声に反映されていなければ、他人に伝わることはありません。
自分の出している声の音質が自分の感情を十分に表しているのか考え、納得できるものにしていく。
それができれば表現力が自然に高まります。

また、バンド全体のサウンドの印象は、各人の響きを足し合わせたもので決まります。
響きが豊かな人が集まれば全体のサウンドは豊かになり、響きの貧弱な人が集まれば全体の印象は貧弱になります。
声質に特徴があり個性の異なる人が集まった場合でも、響きが豊かであれば各人の音によくまざりあう共通部分ができるので、うまくとけあい、複雑なニュアンスをもつ素晴らしいサウンドが生まれます。
響きが貧弱な人が集まった場合、そもそも響きのバリエーションができにくいので、似通った声質が揃ってしまうことになり、全体のサウンドも色合いが乏しくつまらないものになりがちです。
(そういう意味で、バンド全体のサウンドを決めるのは、リードよりもむしろコーラスやベースです)

ジャズやゴスペルなどの複雑なハーモニーを練習するのもいいことですが、発声や響きの意識をおろそかにしていては、「巧くて凄い、でも心には響かない」ものにしかなりえません。
単純なドミソの和音を素晴らしい響きで輝かせる方が遥かに人の心をうつのです。


以上のように、響き(音質)についての意識がなければ、表現力にどうしても限界が生まれてしまいます。
しかし、逆に言えば、自分やまわりの人が出している音がどんな状態にあるのか、どう違うのか、という「音質についての意識」を持つことができれば、それは一番大事なポイントを押さえたということになります。
そこに向かって効率よく近づいていけるので、すぐに飛躍的に成長することができるわけです。

今回は、音質を比較吟味する方法(評価の基準となる要素)を説明した上で、
自分の声の音質をコントロールするための具体的な方法を解説します。

例えば、

・胴体の根元の筋肉を下に引っ張って支えることができれば、声質の低域が豊かになる
(重く安定感のある音質になる)

・鼻の根元から首の後ろ側にかけてリラックスし、空気の通る空間を作れば、高域への抜けが良くなり、クリアな響きが生まれる
(声質が明るくなり広がりが生まれる)

など。

これを解剖学的に説明すれば、それぞれ

・横隔膜呼吸(いわゆる腹式呼吸だが実際は背筋も重要なのでこう言う方が正確)により、横隔膜が十分に下げられ、そこから上の共鳴腔(音が響いて増幅される体内の空間)を脱力しやすくなる
(特に底の方)
→響く空間が広がり、響きが豊かになる

喉頭蓋(気管の入口にあるフタ)を開いたり、鼻腔と口腔の連結部分を広げたりすることにより、空気が通り抜けやすくなり、響く空間が広がって、頭部方面の共鳴効果が高くなる

ということになりますが、
今回はこういう小難しい話は極力排し、具体的な方法だけを並べて、みなさんに実際に体験し手応えを得ていただくようにします。

質疑応答で疑問をいただければ、理論的・解剖学的裏付けについても随時説明します)

なお、
以上のような具体的方法で豊かな響きを生み出せるようになれば、自分の声を聞き取りやすくなり、バンドで声を出していても自分の声の場所をつかみやすくなるので、結果的に音程やリズムをつかみやすくなります。

発声をよくすることで、他の技術も自然に成長するわけで、これこそがうまくなるための近道なのだと言えます。
音とりで苦労しているような方にも特におすすめいたします。


②リズムと音程の処理、フレージングの方法

①での説明をもとに、メロディ(フレーズ)を歌う「歌い回しの技術(フレージング)」について、具体的に説明します。

・歌詞を読み込む
・単語・文節ごとに声質を(微妙に/または大きく)変えていく
・フレーズのひとまとまりを意識する
・てきとうに流して歌いとおしてしまうのではなく、一音一音を手前から順に、しっかり踏みしめるように歌いつないでいく
・リズムカウントの方法
・1拍目を意識する
James Brown The One(ワン理論) で調べてみましょう)
・分割ビート(4や3で割る)
(ex.全ての音符を3で割る意識で演奏した時に出る感覚が「スウィング」)
・ビートの流れに合わせて音を切る
・ビートの流れに合わせて息を吸う/ブレス(息継ぎ)の音を入れる
・ビートの流れに合わせて音質を変化させる

などなど。

当日具体的にお話しします。


時間が限られていますのでポイントだけを並べることになってしまいますが、
そのぶん理屈抜きの手応えが得られることを保証いたします。

もしご好評をいただければ、機会を改めテーマを絞って掘り下げることもできます。


講義+バンドクリニックが終わった後は、場所さえとれれば、終電の時間(23時くらい)まで個別対応することができます。
お気軽にお声掛けください。

みなさまの力になりたく思います。
よろしくお願い致します。


【参考音源について】


バンドクリニックで使用した音源の内容です。
退出時あわてていて配布できなかったので、参加者の方は部長さんほかから受け取ってください。

詳細な解説および講義録(話せなかったこと含む)は後日書き上げる予定です。
申し訳ありません、少々お待ちください。


〈音源曲目〉

①MASTERS OF REALITY: She Got Me (When She Got Her Dress On)

DIABLO SWING ORCHESTRA:A Tapdancer's Dilemma

③Youssou N'Dour:Sinebar

④Marvin Gay:What's Going On

THE BEATLES:Strawberry Fields Forever [Monoral]

Miles Davis:Nefertiti

Sam Cooke And The Soul Stirrers:Must Jesus Bear This Cross Alone?

Sam Cooke:A Change Is Gonna Come

美空ひばり with 原信夫とシャープ&フラッツ:虹の彼方

美輪明宏ヨイトマケの唄

ちあきなおみ:朝日のあたる家(朝日楼)

KING CRIMSON:Walking On Air

聖飢魔Ⅱ:Winner!(2010英語ver.)

キリンジ:the echo

⑮JOURNEY:Mother,Father

⑯ULVER:Magic Hollow

OPETH:Isolation Years


〈とりあえず一言〉

①止まらないビート・1音1音踏みしめながら貼りつくようにつながるドラムスのタッチ(音色)

②響き自体が3連に割れてつながる

③各パートが異なるフレーズを弾きながらも同じビートの流れによって付かず離れず絡みあっている・究極のアフリカンアンサンブル(ラフさを残しながら見事に一体化)

④芯のある柔らかな音色・完璧に整理されたリズム処理が生み出す密着感(ソフト&タイト)

⑤全てのパートに施されたエフェクトの変化推移・美しいドラッグ感覚

⑥4拍子(3連)16小節でひとまとまりのフレーズ(トランペット&サックス)がループ・それを軸にして絡んでいく自由なドラムス&ベース&ピアノ

⑦2人の素晴らしい声質の比較:
先攻(Paul Foster…芯不明瞭、柔らかくボリュームがある)
後攻(Sam Cooke…芯を完璧に捉えたクリアかつシャープな音質、必要十分な響きなので厚くはしていない)

⑧完成された発声&正確な音程&リズム・ほぼ理想的に整ったフレージング

⑨単語~文節単位で声質を変えていく・バッキングのビートを大雑把に外しながらも1音1音しっかり踏みしめていくのでアンサンブル全体としては崩れない

⑩大きく声質を変え続けても、その変化や適用が的確であれば、破綻しないばかりか表現力が増す

⑪歌詞の世界を読み込む・そこに自分を託しその世界に生きる

⑫バッキングの表現力:コーラスやベースにできること、その大事さ

⑬力まず最小限の力で歌うことで高音が出しやすくなる・響きの豊かさも保てる

⑭7拍子:ループの1単位が小節の長さや拍子(リズムの周期)を決める、ミックス(裏声ぎりぎりの地声:ぎりぎりというのは音域のことではなく力加減・出し方)ボイス/ミドル(声帯をフルにではなく一部だけ使うことで高音を地声で出しやすくする)ボイス

⑮完璧なヘッド(声帯の端しか使わずに地声を維持する、ミドルの発展型でさらに高音が出しやすい)ボイス、長くのばす音符をどう表現するか

⑯バッキングサウンドの音響による表現力・PAの使い方の試行錯誤

⑰バッキングサウンドの演奏による表現力(特にサビのギター):裏方でないとできない素晴らしい役割、5拍子&4拍子


【講義内容のまとめ】


《響きと発声》

・脱力して体の中の空間(共鳴腔)を広くとれればとれるほど響きは豊かになる。
逆に、必要以上の緊張を加えると体内の空間がせばまるので、響くスペースが減り、響きが乏しくなる。

・声帯そのものが音を出すのではなく、声帯の間を通る空気が声帯の振動により音を生み出す。
従って、ノド~声帯に強引に力をかけても、音量や響きは殆ど大きくならない。
必要最小限の力に抑えて緊張を排除し、滑らかに使い分けられるようにすべき。

・声帯に圧力をかけすぎないようにするためにも、出す息の量はほどほどに抑える。
圧力をかけると緊張が生まれ響く空間がせばまるので、労力のわりには十分な音量や響きが得られない。
適量の息を出してたっぷりゆったり響かせる方が、豊かで広がりのある響きを生み出せる。

・体の下(胴体根元など)にある筋肉を使えれば、響きが深くなり(低域が充実し)安定感が生まれる。
体の上(頭の方)にある筋肉を使えれば、響きの高域が充実し抜けが良くなる。

・まずは、体の根元の筋肉(背・腹・側部など全周)を
「真下に下げる」
(水平方向には締めない/できれば広げる)
ことにより‘ささえ’を作ることからはじめる。
(ノドや胸など他の場所には一切力を入れない
:体の根元だけに力を入れればOKということを知る)
その際、
×胴体の根元からみて上の方(胸など)から押し下げる
のではなく、
◯胴体の根元をその下(地面)の方からつかんで引っ張るイメージでやる。こうすることで、‘ささえ’になっている部位から上の筋肉を無駄に意識しなくてよくなるので、自然に脱力できるようになる。

・この動作は横隔膜呼吸のための筋肉を十分に機能させる
だけでなく、
喉頭(声帯のある空間)を引き下げて安定させる
効果もある。
これをやりながら息を深く吸いきった上で、
母音の形・響き(音質)を意識しながら声を出す。
「い」「え」「あ」「お」「う」(出しやすい順)の全てを十分に深い響きで出せるように練習する。
なお、息を吸った後・音を出す直前に、これから出すフレーズの頭の母音(例えば「I am~」なら[ai]の「a」、「さらば~」なら[sa]の「あ」)のノドの形を準備した上で声を出すと、余計な緊張をかけずに済むので、良い響きを出しやすくなる。

・まず脱力。
脱力してから緊張を加えるのは簡単だが、
(声を出しているとき)緊張した状態から脱力するのは難しい。

・歌っている間、上方向にではなく、
胴体の根元から真下に抜けていく(息も音も)
というイメージをもつ。
力の方向のイメージを下方向に一本化することにより、
歌っている間に力をかける方向がブレて響きが不安定に変化するという問題を回避できる。

・全身のいろんな場所を使いながら、どこの筋肉をどう使えば声質がどう変化するかみていく。また、そうして経験値をためていく。
他の人の声についても常に意識し吟味する。

・経験値がたまれば、声を聴いただけでどこの筋肉がどう機能しているか/していないかわかるようになる。(自分・他人のを問わず)
自分の声から自分の体の状態を診断し、調整していく。 


《歌い回し》

・歌い出しの1音(フレーズの頭・休符直後の1音など、「無音状態から出す音」すべて)の音程を「一発で当てる」つもりで出す。「適当に出してから合わせる」のは避ける。
そうすることにより、フレーズ全体の音程が格段に綺麗に整うようになるし、自然に「1音1音歌いつなぐ」感覚ができるので、丁寧にビートを踏みしめることができるようになる。

・「The One」(1拍子感覚)
:1拍目をとにかくしっかり意識する。
(1拍目を意識せず裏打ち(2拍目など)だけ意識すると足場が不安定になりぴったりキマらない)
1拍目(今の拍)~2拍目(次の拍)のつなぎをとにかく丁寧に意識し、それを1曲通してずっと続けていく。
休符など音の出ないところでもカウントをやめない。


・ミクロとマクロの意識

〈1〉基幹ビート、分割ビート、小節

ビート(拍)は音楽の構成単位や座標軸のようなもので、これを意識することで音の流れが格段に整理される。

「(1小節目)1234,2234,3234,4234,
(2小節目)1234,2234...」
というように、
基幹ビート(4分音符)に対し、
・分割ビート(8分や16分音符、3連符など)(ミクロ)の単位
・小節(4拍子なら4分音符×4の長さ)(マクロ)の単位
を同時に意識する。
分割ビートの細かい単位に響きの変化を合わせることができれば、アンサンブルの歯車がより精密な目で噛み合うようになる。
小節の単位が把握できていれば、曲のなかでいま自分達がどこにいるかをより意識的に把握できるようになるので、フレーズの全体像や曲の場面展開についての意識が明確になる。

〈2〉歌い回し(フレージング)

フレーズひとまとまり(音楽表現上ここからここまではつながったものとみるべきメロディの形)の全体像(マクロ)を意識した上で、その1音1音(ミクロ)を丁寧に踏みしめつなげていく。

マクロの意識により自分がこれから進む場所のあたりがつき(ポジショニングができ)、ミクロの意識の徹底によりフレーズの形が美しく整えられる。

・ビートの流れをつかみ、その1つ1つに手前から順に(飛ばさず)丁寧に音を合わせ絡めていくことにより、フレーズが自然にビートの流れを反映したものになっていく。
すなわち、しっかり「リズムにのっている」印象が生まれる。
「どう次につなげるか」ということをひたすら考える。
それがリズムにのるための最大の近道。


・バンドで歌うとき、合わせるのはフレーズではなくビート。
相手のフレーズ1音1音に合わせようとすると、その間隔は(ビートの流れに比べ)不均等になりがちなので、こちらのビートの流れもどうしてもヨレていってしまう。
相手のフレーズ(相手の発言)そのものにでなく、そのフレーズから読みとれるビートの流れ(相手の考え)に合わせるのが大事。
一本のビートの流れをバンドの全員で共有し、それを軸(共通の単位)とすることで、アンサンブルの一体感が格段に増す。

・ビートの共有ができた上で、各人の響きの入り/切り/変化の絡め方・組み合わせを研究することで、グルーヴ(アンサンブル全体の、リズムと響き両方からなる、質感・一体感)の幅が広がり、表現力が格段に豊かになる。