2014年・年間ベストアルバム【Best 20】についての短評

【2014年・年間ベストアルバム】


[Best20](2014.12.31暫定版)
についての短評です。


第20位:IRMER / LIEBEZEIT『Flut』

Flut

Flut


 Hans Joachim Iremler(ex.FAUST)とJaki Liebezit(ex.CAN)によるオルガン+ドラムス編成。CAN『Future Days』に通じる、“高地の上空を光化学スモッグが漂う”ような、ぼんやりと気に障る感覚が、高いテンションで表現されています。 
音進行がわりとはっきりしているわりに掴み所のない音楽なのですが、演奏・出音はさすがに強力で、それに触れているだけでも楽しめます。そして、そうやって何度も聴いているうちに妙に離れ難くなり、気がついたら何度も再生してしまう。
不思議に心に残る作品で、とても興味深く聴き込めます。


第19位:FKA Twigs『LP1』

LP1

LP1


この年最もハイプな扱いをされたアルバムだと思われますが、そういう“流行りもの”ということを外してみても、とても優れた作品だと思います。
気楽にすっきり聴き通せてしまうのに、「一度聴けば満足」と思わせない「何かが気になる」後口が、絶妙に微妙に残る。優れた成り立ちをしたアルバムですね。



BUCK-TICKをちゃんと聴いたのは初めてですが、これほど(少なくともスタジオ録音において)演奏の良いバンドだとは思っていませんでした。
スタジアムロック的な「ほどよい硬さを残すドタバタ感」があり、滑らかにたわみつつ崩れない。ありそうでない絶妙なバランスを極めていると思います。
個人的に、「手数とキレを両立し完璧に整った」ものよりも「重く不器用にヨレる、“汗をかく”“ロックな”」グルーヴがどうしても欲しくなる時があります。
(ブルデスよりも初期デス、というような話です。)
BUCK-TICKは、実はこの点においてかなり理想に近いのかもしれないと思えます。
収録曲に「明らかに突き抜けた」格をもつものは少ない気もしますが、たとえばベース(演奏の柱で常に素晴らしい)のフレーズを聴いているだけでも楽しく聴き通せてしまうというくらい、全てのパートに美味しい仕掛けが満載のアレンジになっていると思います。つい何度も聴いてしまえるアルバムです。


第17位:MANES『Be All End All』

Be All End All

Be All End All


ノルウェーの元ブラックメタルバンド。知名度は低いですが、1991年から活動している、当地のシーンを代表するバンドのひとつです。
デモ期と1stフルでは初期ARCTURUSやLIMBONIC ARTに通じるシンフォブラックをやっていましたが、その後電子音楽にシフトし、今に至ります。
ULVERなど並べて「脱ブラックをしたバンドの好例」と扱われることが多いのですが、アンビエントな方面に行っているULVERとは違い、MANESはトリップホップ〜エレクトロポップ寄りの、歌モノに留まるスタイルを続けています。音進行にもブラックメタルからの流れがはっきり感じられます。
そうした路線での傑作『How The World Came to An End』(2007)発表後に一度分裂。kkoagulaa(ゴアトランスに通じる不穏なアンビエント)やLETHE(重苦しいトリップホップ)、MANII(初期に通じるシンフォブラック)を経て活動再開したのでした。
それらのサイドプロジェクトを経て発表された7年振りの新譜『Be All End All』は、MANES関連の最高傑作と言っていいでしょう。淡々とした音進行なのに確実に印象に残り、沈みがちなテンションなのに気分を揺さぶりすぎない。暗いのに聴きもたれしないバランスは、本当に見事です。
 演奏もプロダクションも最高の仕上がりで、一流のプレイヤーが歌伴に徹することにより生まれる素晴らしい表現力を堪能することができます。ボーカルは『How The World〜』時の人+もう一人で、発声は強力ではないですが、確かな個性があり、「バンドの顔」としての存在感は十分です。
バンドの知名度(というか、メタルシーンからも電子音楽のシーンからも外れたところにいるニッチな立ち位置)もあってか、いまのところ殆ど言及されていないようなのですが、それが本当にもったいなく思える傑作です。
機会があればぜひ聴いていただきたいものです。これからの季節にも合いますし。
 

第16位:K. Michelle『Anybody Wanna Buy A Heart?』

Anybody Wanna Buy a Heart

Anybody Wanna Buy a Heart


この人のことは殆ど存じ上げないのですが、聴いてみて驚きました。本当に素晴らしい作品です。プロダクションも音進行もあまり斬新なものではなく、一聴した時点では地味な印象を抱いてしまうのですが、聴き進めるうちにどんどん惹き込まれていきます。
(プロフィール:http://t.co/kTVuVlcq4p
本人のボーカルは、いかにもR&B系の熱唱タイプという感じなのですが、ハイを効かせてパワフルに押す場面が多いのに、なりふりかまわない勢い一辺倒にはなりません。切実な表現衝動と、いたわりや思いやりのようなものが優れたかたちで両立されています。単に「圧倒的にうまい」だけではありません。
このような“柔らかく尖った”質感と懐の深さが素晴らしく、優れた作編曲ともあいまって、アルバムを通してじわじわ暖めるように酔わせてくれるのです。
パッとしないプロダクションからかモノトーンな印象がありますが、それも雰囲気表現に良いかたちで貢献していると思えます。
作編曲もアルバムの構成もとても良く、ボーカルをはじめ演奏も素晴らしい。何も知らず(アマゾンのレビューだけで)なんとなく買ってみましたが、本当に良い作品でした。
(アマゾンのレビューから連想されるほど「暗い」ものではありません)。
とても良い出会いをさせていただけました。


第15位:THE NOVEMBERS『Rhapsody in beauty』

Rhapsody in beauty

Rhapsody in beauty


英国ロックとJ-POPそれぞれの“歌謡曲的な”引っ掛かり感覚(独自に“潤い”を加え熟成されたブルース感覚)が、素晴らしいバランス感覚のもと、類を見ない練度で融合されています。
RADIOHEADやMBVなどを連想させる所も確かにありますが、個人的にはこちらの方が良いと思えます。
演奏〜アンサンブルには少し荒削りな部分もありますが(特にリズム処理)、どのパートも良い音を出していますし、プロダクションの表現力も相当のものです。
なによりボーカルが素晴らしい。響きは非常に良いですし、V系から妙な“格好つけ”を取り除いたような端正な歌い回しも、実に魅力的です。
少しタイプは異なりますが、ULVERのKristoffer Rygg(Garm)のような、(他のパートや曲の質を問わず)「とにかくこの声を聴いていたい」と思わせてくれる魅力が感じられます。こう思えるボーカリストは個人的にはごく稀です。それを聴けるだけでも価値のある作品と感じます。
アルバムの構成としては、個人的には、珍しい「尻上がり」の作品だと感じます。はじめに“ツカミ”を持ってきてインパクト勝負する作品が多いなか、これほど後半に向けてうまく盛り上がっていくアルバムはなかなかないと思います。
スト2曲、特に最後の10曲目は名曲だと思います。
傑作ですね。


第14位:MOODYMANNMoodymann

MOODYMANN

MOODYMANN


ファンク・ディスコ〜ハウス・テクノといった様々な黒人音楽のグルーヴを巧みに作りわけ、75分の長尺を快適なペース配分で浸らせきってしまう。内容も構成も極上のアルバムです。
ドラムマシンの硬さと柔らかく吸いつくタッチを両立する音作りは最高。むしろ生演奏では味わえない良さがありますね。
個人的に、黒人音楽の完璧に洗練されたリズム処理・グルーヴには、「整体感覚」のようなものを感じます。
“ヨレ”のあるロックなどの方が自然に肌に合うけれども、そうしたものを聴きすぎるとそちらに引きずられ、凝りが生じてしまう。
黒人音楽は、そういう凝りをうまくときほぐしてくれるのです。
MOODYMANNの新譜(セルフタイトル)も、こうした「整体感覚」を最高のかたちで提供してくれます。その上で、バスドラの鳴りなどはロックに近い質感がある。
FUNKADELICを再編集したトラックが示すように、ブラック・ロック寄りの要素も強いようですし。
とても楽しめる作品です。


第13位:森は生きている『グッド・ナイト』

グッド・ナイト

グッド・ナイト


「豊かな音楽的知識と偏執的な編集作業により、膨大な情報を呑み込みやすいかたちにすっきりまとめてしまっている」凄まじい仕上がりについては、下のsign magazineなどで詳しく紹介されています。実際これは素晴らしい作品です。

(参考:sign magazineのレビュー:http://t.co/vsuon9g8kE

メンバーの対談や「大事な5枚」を読むと、60年代の音楽とかフリージャズ〜アヴァン方面の嗜好がよく語られていますが、個人的な知識から観測すると、初期SOFT MACHINEマルコス・ヴァーリ、初期PINK FLOYDなどが連想されます。まあそれだけ豊かな音楽だということでしょう。
TORTOISE『Millions Now Living Will Never Die』についての評論に
「〈不思議な質感〉と書いたのは、音楽の浮遊感は、あたかもそこが無重力空間のように、彼らが引用した音楽的要素が、ジャズなり、進歩的なロックなりという従来の文脈から切り離されて、音の響きとして一元化されていることで、進歩的な音楽に付き物のウンチクというものがまったくなく、ポカリスエットなど、アルカリ飲料水を初めて飲んだ時の、あの感じがしたのだった。」
(中山義雄:「200CDプログレッシヴ・ロック」(立風書房、2001)への寄稿文)
というものがあります。
これは、森は生きているというバンドにもそのまま当てはまりますね。

先述のような、60年代ロック、フリージャズ方面、電化マイルス〜初期ソフツまわり、ブラジル音楽やフォークなどの要素が、独自の感覚でエッセンスのレベルから溶け合わされ、森は生きているというバンドにしか出せない独自の“引っ掛かり感覚”に熟成されて提示されている。実に見事な作品です。
殆どの“音響派”が逆立ちしても敵わないような圧倒的高品質の音響表現力が発揮されている上に、歌メロだけを追っていっても労せず聴き通しきれてしまうというような、ポップ・ソングとしての優れた成り立ちをも勝ち得ている。
聴き通しやすく聴き込みがいのある、極めて優れたアルバムだと思います。


第12位:灰野敬二『The Greatest Hits of The Music』

THE GREATEST HITS OF THE MUSIC

THE GREATEST HITS OF THE MUSIC


これは本当に凄い作品です。世界中の音楽を縦横無尽に混合した極めて複雑なmix作品なのですが、小難しく衒学的な所は一切ありません。一聴するだけで酔わされる理屈抜きの効き目がある。堪りません。
膨大な情報量が、混沌としたかたちのまま不思議とすっきりまとめられていて、何が起こっているか把握できなくてもじわじわ酔わされていくような、即効性の心地よい酩酊感があるのです。
極めて雑多な要素からなる各曲が、確かに、何かしらの共通したセンス・引っ掛かり感覚によって貫かれています。
一枚通しての流れまとまりの良さは見事ですし、その上で、即効性の魅力と、しつこい聴き込みに耐えうる奥深い構造が両立されている。凄過ぎます。

参考として、
灰野敬二のmix作品、それについてのインタビュー記事も挙げておきます。

昨年の(第1弾)

今回の(第2弾)

どちらも本当に面白い。内容はもちろん語り口がとても良いです。
この人は、「非常に厳格な『音』へのこだわりをもとに実験的な前進を続ける野心的な音楽家」とか「一般的にはノイズ・実験音楽および現代音楽の系譜で語られる」など、過剰に神秘的なイメージ付けをされて“アングラ界の大物”的な持ち上げられ方をされてますが、素の人柄は全然違いますね。
こうしたインタビューや『ドキュメント灰野敬二』(傑作)にも捉えられているように、灰野敬二という人には、等身大の親しみやすさがあります。
堅苦しくなく、馴れ馴れしくもない。絶妙の距離感をもつ、肩肘張らない気安さがあって、それは先述のような「大物」感とは、良い意味で大きく異なります。
なんというか、「落ち着いた無邪気さ」とでも言えそうな、成熟しながらも頭でっかちにならない感じ。
灰野さんのそういう人柄は、この『ザ・グレイテスト・ヒッツ・オブ・ザ・ミュージック』にもとてもよく表れていると思います。
世界中の超一流の音楽が、灰野敬二ならではのフィルターを通され、複雑に絡み合い、得体の知れないかたちに強化されている。そして、その編集センスが、この人の独特で味わい深い人柄を表現してもいる。
イヤホンなどでじっくり聴くと、掛け合わされた様々なトラックをわりかしはっきり聴き分けることができ、加工操作の妙にさらに打ちのめされることができます。
凄まじいエネルギーが淡々と流れていく独特のテンションも興味深い。実に聴き込みがいのあるアルバムですね。


第11位:Mac Demarco『Salad Days』

Salad Days

Salad Days


オルタナ・フォークとか脱力ボンクラ系SSWとか言われますが、個人的には「ジョン・レノンピーター・アイヴァースのあいだを絶妙についた」最高のアシッドフォークだと考えています。
天然なサイケ感覚に溢れながらも作編曲は絶妙に洗練されていて、演奏も極上に個性的。
実にはまる一枚です。
「世間に馴染めない苛立ちを漂わせながらも、それに捉われず飄々としてもいる」、
神経質な感じと脱力感とがナチュラルに両立されているような佇まいが、落ち着いた親しみやすい雰囲気とともに活きている。
個人的にとても好感が持てます。
5曲目「Goodbye Weekend」イントロのヨレるスライド風ギターなど、あやしい微分音を非常にうまく活かしているのも素晴らしい。奇妙で洗練された作編曲の構造も、それをうまくねじ曲げる演奏も、本当に見事です。
ピーター・アイヴァースの名盤に匹敵する出来だと思いますね。


第10位:Peter Hammill『…all that might have been…』

All That Might Have Been

All That Might Have Been


昨年の日本公演で限定発売されたCD-R『Work in Progress』を下敷きにしたアンビエント・ポップス。弾き語り主体のソロライヴからは連想し難い、複雑かつ緻密な音響処理が施された作品で、個別に完成された10曲を解体し混ぜ合わせた、全21トラックのトータルアルバムです。
 英国ロック(プログレ)〜フォークの進化系としても聴けるのですが、個人的には、ULVER『Perdition City』やTHE 3RD & THE MORTAL『In This Room』など、ロックを出自に電子音楽方面を開拓する、ノルウェー産バンドの傑作を連想させられます。
この人はここ数年毎年来日していて、必ず新宿Pit Innで公演するのですが、本作の下敷きになった『Work in Progress』には、その近くに位置する歌舞伎町を彷徨った時の体験が色濃く反映されているとのことです。渋く鎮静しながら漂う感覚は、確かにそれに通じるものがあります。
複雑で奥行きのある構造もあって、うまくときほぐして解釈するのは難しいアルバムなのですが、全体の流れまとまりは非常に良いですし、ハミル本人の演奏もさすがに素晴らしい。
(唯一無二のボーカルは勿論、ギターや鍵盤なども一流です。)
聴き返しをさそう「素敵な謎」に満ちた作品だと思います。


第9位:Fennesz『Bécs』

Becs

Becs


とにかく奥深く繊細な電子音響に圧倒されます。底冷えする冬の朝、湖の上に広がる薄靄が、そっと吐きだす白い息のように微かな温もりを漂わせている。というふうなイメージが浮かぶくらい、極めて饒舌な音響表現がなされています。リードメロディなども非常に印象的で、ある種歌モノとしても楽しめます。
とても感傷的ではあるけれど感情的ではない、よく潤っているけれどもべたべたしない湿度感覚も好ましいです。43分の長さを「気がついたら聴き通せてしまえている」構成力・時間感覚も見事。何度でも快適に聴けるアルバムですね。
これからの季節にもこの上なく合う一枚だと思います。


第8位:Meshell Ndegeocello『Comet, Come To Me』


プログレッシヴなブラックミュージック」というものを考えるなら、個人的にはまずこの人が連想されます。
多くの黒人音楽で良くも悪くも芯の部分から外せないブルースの煮こごりが、フォーク〜ポストロック的な潤いをもってとてもうまくときほぐされている。ありそうでない路線を極めているのです。
この新譜では、レゲエ〜ダブ的な要素が、大傑作『Comfort Woman』(個人的には全ての黒人音楽の中で最も好きな一枚です)の深く柔らかい音響とはまた異なる、やや固く押し出しのある輪郭で活かされています。馴れ馴れしくならずそっと潤してくれる、少し冷たい水のような感覚があります。
この人はベースの超絶技巧で有名ですが、個人的には、ボーカルの方に得難い魅力を感じます。力みすぎずさらりと呟くようなこの歌い方
(生で観るとわかりますが、技術的制約からこうしているのではなく、あえてこれを目指している感じです。実力はあります)
でしか生まれない表現力が見事なのです。
ブラックミュージックの“濃く、水気が少ない”反復メインの曲構成(特にブルースやファンクなど)が苦手な方には、ぜひこのミシェル・ンデゲオチェロを聴いてみることをお勧めします。
プリンスやディアンジェロと並べても全く見劣りしない、素晴らしい音楽性と演奏技術の持ち主です。


第7位:Leonard Cohen『Popular Problems』

Popular Problems

Popular Problems


これはもう死ぬほど素晴らしいアルバムです。本人のボーカルはもちろん、押し引きを心得た歌伴の演奏表現力は最高というほかありません。わかりやすくかつ奥深い作編曲も見事。
ポピュラー・ミュージックとして理想的な仕上がりと言っていいです。
低音で呟くようなコーエンのボーカルは、80歳という年齢もあってか、筋肉があまり滑らかに動かないのだろう生硬い所もあるのですが、さりげなく表情豊かなトーンコントロールが素晴らしく、リズム処理やフレージングも実に巧い。バックトラックがほぼ打ち込みの曲でもそれ(打ち込みの音作り)を不自然に感じさせません。
去年の4月、NHKホールでバート・バカラックを観たときに、若手の技巧派リードボーカル(男女各1名)では「フーン」程度にしか感じなかったのに、バカラック本人がピアノで弾き語る「Alfie」では涙が止まらなかったのを思い出します。
コーエンのボーカルにも、それに通じる何かを感じます。
(それにしても、70歳を越えて現役の大物というのは、信じ難いくらい素晴らしい境地に達するものですね。
セシル・テイラーウェイン・ショーター、マーシャル・アレンやボブ・ディラン、デヴィッド・アレンや先述のバート・バカラックなど、私が最近観れた方は、どなたもかけがえのない感動を与えてくれました。)
ブルース〜ゴスペル〜カントリー〜ジャズといった豊かな要素を巧みに煮込み、わかりやすく咀嚼しやすいかたちに仕上げてしまっている作編曲も見事です。36分という尺もちょうどよく、何度でも気軽に聴き返せます。
ポップミュージックの理想を極める作品。出会えたことに感謝します。


第6位:SWANS『To Be Kind』

To Be Kind [帯解説・歌詞対訳 / 2CD + 1DVD / 国内盤] (TRCP158~160)

To Be Kind [帯解説・歌詞対訳 / 2CD + 1DVD / 国内盤] (TRCP158~160)


とにかく圧倒的な作品です。2枚組計121分、1トラック34分の曲もある長尺の構成なのですが、それを全く緩まず、締まりすぎもせず、負担なく聴かせきってしまう。長いスパンで展開する流れをもたせる“時間感覚”が超絶的に堂に入っているのです。それに支えられた演奏表現力はもう異常です。
音楽性としては、暗く危険なフォークとかポストパンク〜ノーウェーブなどを高度にまとめあげた、アメリカ音楽の地下水脈をドブさらいするようなものなのですが、プログレ的に「知的」で「整然とした」印象は前面に出ず、複雑な奥行きがあるのにどこか「アタマの悪い」気取りない佇まいになっています。
気取りのない外面で、底冷えするような人の悪さ
(万一怒らせてしまったら、正面から怒りをぶつけてくるのでなく、涼しい顔でとんでもなく残忍な根回しを仕掛けてきそうなヤバさ)
を装い、巧みに隠しているという感じ。圧倒的な演奏・音作りにより、危険な人間的深みが存分に表現されているのです。
 全10曲約2時間という長尺ながら、とてもバランスよく構成されているアルバムで、慣れてきて全体を俯瞰できるようになると、その“かたち”のよさに感心させられます。イヤホンで聴くと音作りの深さにも痺れさせられます。
TOOLなどが好きな方にもお勧めします。
(正直こっちの方が凄いです)


第5位:D'Angelo & THE VANGUARD『Black Messiah』

Black Messiah

Black Messiah


ディアンジェロのこの名盤については、bmrのインタビュー全訳が最高の資料になっています。興味をお持ちの方はぜひご一読ください。
BEATLESの凄さについて本人が語っているところなどは、とても大事なトピックです。


ディアンジェロ本人の発言を略しつつ引用)
ビートルズに影響を受けなかったヤツなんていないだろう。彼らが凄いのは、面白くエキセントリックなアイデアを、シンプルなポップ・フォーマットに収める達人だったってことだ。彼らはそれに一番長けていたのさ。彼らは最高だった。」

ディアンジェロの新たな名盤『Black Messiah』でも、先に森は生きているのところでも書いたことと同様の、
“膨大な情報をすっきり飲み込めるかたちに洗練する”見事な作編曲がなされています。
そして、このアルバムは演奏が本当に凄い。黒人音楽の完璧に整ったリズム感覚をベースに、そこから“ヨレる”“訛る”ロック的なグルーヴ表現が、極めて意識的に演じ分けられています。
「スタジオにこもり、バンドと共に、黒人音楽の名盤を1日1枚完全コピーし研究した」という作業が、素晴らしい成果を生んでいるのです。
そういう“ヨレ”“訛り”は、作編曲のフレーズ構成においても独特のかたちであらわれていると感じます。
たとえば、基本的にはオーソドックスで美しいラインを押さえるベース・フレーズは、よく聴くとどこか所々で妙な“ズラし”を加えていて、アクセントを定まらせない印象を与えています。
などなど、曲もアルバムも完璧に滑らかに構成されているのですが、よく聴くと絶妙に変。聴きやすく、聴き込むといくらでも味が出てくる成り立ちの、本当に滋味深い作品だと思います。
どこかプリンスの「Adore」を連想させる最終曲「Another Life」の美しさなどは絶品。お薦めです。


第4位:mats/morgan『[schack tati]』

[SCHACK TATI] [シャック・タチ]

[SCHACK TATI] [シャック・タチ]

  • アーティスト: Mats / Morgan,マッツ/モルガン
  • 出版社/メーカー: DUレーベル(原盤:Cuneiform Records/US)
  • 発売日: 2014/05/28
  • メディア: CD
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このアルバム、聴き始めの頃は「相変わらず上手いな」と思いつつも、正直ピンとこない部分もありました。均一にまとめあげた音作りが、演奏のダイナミクスを損なってしまっていたように思えたのです。
しかし、生で聴くことで、全ての印象が変わりました。
ライヴを観る前は、浮遊感のあるリードフレーズばかりが耳につく「面白いけど掴み所がない」印象が強かったのですが、生の信じられないくらい美しい響きを聴き、音色の使い分けを理解することで、アルバムに収録された音の聴き分けができるようになり、演奏やアレンジの良さが一気に見えてきたのです。

このアルバムの良さを伝えるのは難しいです。複雑ながら非常にポップな音楽で、誰でも気軽に聴ける親しみやすさもあると思うのですが、ツボを掴むきっかけを得るのはなかなか難しいと思うのです。この手の音進行に予め慣れ親しんでいた自分も、生で体験するまではうまく「回路」を掴めませんでしたし。
しかし、勿論「ツボをつかめないとつまらない」ことはありません。一度入り込めれば「良い」が「気絶しそうになるくらい良い」に変わる、というだけの話で、何も知らずに聴いても楽しめる作品だと思います。
ザッパとかレコメンとかフュージョンとかいう領域を完全に超越した音遣いは最高の一言です。


第3位:MORRIE『Hard Core Reverie』

HARD CORE REVERIE

HARD CORE REVERIE


HMV通販:こちらは特典音源付です)

これは超絶的な名盤です。メタルとかV系云々に留まらず、ゴシックロックとかブラックメタルというような音楽における、エポックメイキングと言える傑作です。
演奏も作編曲も素晴らしく、アルバムの構成は完璧。一つの方向性を極めた“引っ掛かり感覚”を、最高に快適な環境で楽しむことができます。
ノルウェー方面のブラックメタルにおける「薄口ながら確実にこびりつく」引っ掛かり感覚と、日本の歌謡ロックにおいて(ブルースの濁りを薄めつつ)熟成されてきた感覚とが、その間のこの上なく絶妙なポイントをついて融合されているのです。この方向性でこれ程の練度を持った作品は滅多にありません。
そうした「引っ掛かり感覚」(言い換えれば「ダシ」のようなもの)を活かした楽曲は、どれも素晴らしくよく立ったキラーフレーズをもつものばかりで、一枚通しての配置も完璧。
各曲〜アルバム全体の堂に入った時間感覚も素晴らしく、どこまでも快適にくつろぎ浸ることができます。
演奏やプロダクションも見事です。
DEAD ENDでの重めな音作り・キー低めの歌メロとは対照的に、ここでは軽くキレのある音作りと、複雑に“アウト”しながら高域を漂う歌メロが志向されていて、音楽全体の上品な暗黒浮遊感が、絶妙なかたちで増強されています。
 このアルバムを聴くと、一昨年の7月にDEAD ENDを観た時のことを思い出します。人間離れした美形をもって神秘的な雰囲気を漂わせながら、京都弁の「はんなり」という表現がそのまま当てはまる、気取りなく親しみやすい物腰も備えている。
そういう生の佇まい、底知れない人間的存在感が、素晴らしい作編曲と申し分なく巧い演奏によって、この上なく良好なかたちで表現されているのです。
これは広く聴かれなければならない傑作だと思いますね。
昨年末の時点ではオフィシャルHPとHMV通販でしか買えなかったのですが、無事一般流通も開始されました。
ぜひ手にとってみてください。


第2位:赤い公園『猛烈リトミック

猛烈リトミック(初回限定盤)(DVD付)

猛烈リトミック(初回限定盤)(DVD付)


このアルバムは、私のような立場の人間にとっては理想的な作品です。
誰からも目につくメジャーな場所に最高の作品がある。
大学の音楽サークルでまわりに対し「少し掘れば素晴らしい音楽は沢山ある、お願いだから色々聴いてくれ」と思っていたような人間からすれば、本当に願ってもないことなのです。
60〜70年代の音楽シーンには、「一番売れているものを買えば一番良いものが手に入る」理想的な状況がありました。誰からも目につく所に極上のものがあるから、音楽に興味のなかった天才も取り込まれ、素晴らしいものが生まれる土壌が育つ。
豊かなポップ・シーンが、良い循環を生んでいたのです。
このアルバムは、メンバーが言っているように、優れたプロデューサーからメンバーが学んだ成果を示す「教材(=リトミック)」である一方で、ポップ・ミュージックの聴き手(特に、大学の音楽サークルになんとなく入っていて自分からは掘り下げないような人達)のための最高の「教材」でもあるのです。
このアルバムについては、こういう「教える者としての立場」から思うところが多いので、機会を改めてまとまった記事を仕上げたいと思っています。というわけで、ここではこのくらいにしておこうと思うのですが、一点、このアルバムの完成度の高さについてだけ書いておきたいと思います。

このアルバム、各所のレビューを見ると「いろんなことをやり過ぎてまとまりがない」という評価を見かけることが多いです。
個人的にはそんなこと全くないと思うんですよね。
勢いのある場面と落ち着き気味の場面とのバランスが絶妙で、緩急構成のきいた全体のかたちが極めて美しいと思うのです。
大体4〜5個のブロックに分かれるアルバムの構成には明晰な論理性が感じられますし、その上で極めて感覚的な、曖昧なニュアンスを多分に含むものにもなっている。
「名曲揃いなのに、聴き通すとアルバム全体としての印象が勝つ」ような所は、フランク・ザッパの『One Size Fits All』などに通じるものがあります。
音楽性や作編曲も素晴らしいです。ある種の「J-ROCK」によくあるポストロック〜マスコア風の音遣いをしている箇所でも、安易にスタイルを引用する「マネキン買い」的な似合わなさを感じさせず、きちんと消化・吸収された上で、独自の高度なものに昇華されています。
曲や場面毎にグルーヴを描き分けている演奏表現も見事です。
そして、それにも関連することですが、ダイナミクス(音量・音色変化)の豊かな音作りが本当に見事ですね。
数年前のロック〜ポップスの音作りには本当に音圧至上主義が蔓延していて(メタルで言えばアンディ・スニープの関わった作品が好例)、演奏の表情や奥行きが見事に殺されていたものです。
本作においてはそういう問題が殆どありません。
そう、これも「大学の音楽サークルで感じるもどかしさ」を解消してくれる部分なのです。ダイナミクスのない音楽を聴いて育った人は、音楽における緩急変化の重要性というものを知らないため、ずっと同じような音量・音色で演奏していることを疑問に思わない。
(歌を教えるときに特に気になる部分です。)
6曲目「私」や7曲目「ドライフラワー」などでは、そういう大きなダイナミクスが、非常に“音楽的な”説得力のあるかたちで示されています。「音量を上げずに響きを増やす」ような手法もしっかり使いこなされている。これからこれを聴いて育つ人達にとっての素晴らしい「教材」になると思います。
2曲目「絶対的な関係」は、クラスト・コア的な音色で勢いよく殴りかかるイントロから、クラシカルなオブリガードを絡めて妙な柔らかさを醸しだすパートにつなぎ、多くを語らず走り抜ける短い曲なのですが(約100秒)、全体に微妙に“焦点をぼやけさせる”エフェクトがかかっていて、無軌道な勢いにどこか滑稽で親しみやすい感じが加わっています。
いくつもあがっているインタビューを見ると、メンバーの作曲や演奏をうまく料理し引き上げるプロデュースの見事さがよく語られています。このような音作りの効果ひとつとってみても、そういう手管の巧みさがよくわかります。バンドはもちろん、プロデューサーの貢献も素晴らしい作品なのです。
などなど、作品単体の魅力においても「教材」としての力についても、本当に素晴らしい作品です。
加えて個人的には、「今のJ-POPシーンは本当に面白い」という確信を与えてくれた作品でもあります。
(この「専門ジャンルからポップシーンへの橋渡し」についても機会を改め語りたいです。)

とりとめなく書き連ねてしまいました。とりあえず以上です。
「ここではこのくらいにしておこうと思う」と言っておきながら長くなってしまいましたが、要するにそのくらい惚れ込ませる作品だということであります。
「腹をくくって売れようとする」姿勢が、作編曲にも演奏・雰囲気表現にも素晴らしい影響を与えている。わかりやすく解きほぐされた語り口と、高度で豊かな音楽的成果とが、この上なく良好なかたちで両立されているのです。本当に理想的な「アルバム」だと思います。
改めて、赤い公園の素晴らしい達成に感謝いたします。
自信をもって
「このアルバムは全員聴け!」
(名サイト『Thrash or Die!』ATHEISTの項におけるコメント)
と言える一枚ですね。


第1位:TRIPTYKON『Melana Chasmata』


これは完全に個人的好みで、他のアルバムと同じようにはお勧めし難いものですね。しかし、掛け値なしに優れた作品です。
HELLHAMMER〜CELTIC FROST〜APOLLYON SUN〜TRIPTYKONというTom G.関連作は(『Cold Lake』なども含め)全て持っていますが、その中でも最高傑作だと思っています。
ブルースやブラックメタルでは、Ⅳ#やⅠ#(マイナースケールの“移動ド”で言えばレ#やラ#)が特に“引っ掛かり”の強い音程としてキメ所で用いられ、それに比べれば他の音程は(Ⅳ(マイナースケールの移動ドでいうレ)を除けば)あまり重視されません。しかしTom G.は、「他の音程」を全てそれぞれの持ち味を活かした形で巧く活用することができるのです。
CELTIC FROSTの作品において「単純なのにやたら個性的」と言われるリフ構成は、こういう巧みな“引っ掛かり感覚”の活用を、自在にトーナル・センター(フレーズのキーのようなもの)を切り替える無調的な感覚のもとで行ったものなわけです。(リフ単体で奥行きあるコード感を連想させる)
TRIPTYKONの1stでは、そういう「フレーズ一本で暗黒浮遊感を醸し出す」コード付けの少ないスタイルから脱し、当時のアングラメタル界で流行っていたフューネラル・ドゥーム〜ブラックメタル寄りのコード感を多用していました。それはそれで良かったのですが、個人的には不満もありました。
そういうはっきりした色付けが、個人的には、この人特有の強力な抽象性を損なうものに思えてしまったのでした。
しかし、4年のブランクを経たこの2ndでは、そういう問題が見事に解消されています。前作で加わったコード感が独自に熟成され、この人にしか出せない深く冥い色気が出ているのです。
そうした音楽性だけでなく、演奏も最高です。Tom G.という人は、ボーカルとギターの両方において超一流の個性をもった素晴らしい出音をかませる天才なのですが、TRIPTYKONはTomのワンマンバンドではありません。他のメンバーも達人揃いで、その上アンサンブルのかみ合いが抜群に見事なのです。
そしてプロダクションも驚異的に良好です。水気を伴う生々しい質感と、メタリックで生硬い手応え(両方ともこの人の出音の大事な旨みでもあります)とが、最高のかたちで両立されています。
個人的にはもう言うことなし。神秘的で仄かに暖かい小曲で締める終わり方も実によく、何度でも聴きたくなります。
しかしその上で、やはり少しお勧めし難いところはあるのです。その大きな理由はアルバムの構成です。後半に遅く重苦しい曲が続くところは、非常に興味深く充実したパーツのみからなる飽きようのない部分なのですが、これはやはり好きでないとダレてしまいますね。そこに慣れるのが難しいと思います。
個人的には、その後半部をおいてもなお惹きこまれ、個人的に大事な「感情を揺さぶりすぎずに手応えを与え続けてくれる」ものでもあるので、繰り返し聴けてしまいます。
各メディアの年間ベストでも順位にばらつきがある作品ですし、積極的にお勧めできませんが、機会があれば聴いて頂きたいものです。



以上、これが私の「2014年・年間ベストアルバム」です。
ツイッターの方でランキングを発表する際、そこに簡単にコメントをつける程度のつもりで書いていたら、結局12時間以上書き続けてしまいました。ブログにまとめる量としては十分なものができたので、簡単に整えてここに載せておきます。
赤い公園のところでふれたように、ものによっては、さらに掘り下げ整理したものを書くつもりです。

この「ベスト20」に入らなかったものも本当に素晴らしい作品ばかりで、好みに合う方であればそれが一生の友となることも十分あると思われます。
そういうもの(「次点」など)の紹介も含め、どなたかのお役に立つことができれば幸いです。